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「暗雲」
しおりを挟む月夜の下、畳の匂いと静けさが漂う日本家屋の一室。『鳥籠』の幹部の面々が静かに腰を下ろしていた。
その中に混ざるようにが鎮座していた。皆、様々な表情を浮かべており、会議の取り締まり人が来るのを待っていた。
擦れるような音とともに一人の人物が入室して来た。黒い鳥の仮面と同色のローブ。『鳥籠』の首領、迦楼羅である。
圧倒的な気迫を覚え、辺りに言いようのない緊張感が張り詰める。
「まずはこれをご覧ください」
迦楼羅が指を鳴らすと近くにあったプロジェクターが起動し始めた。そこにはとある映像が流れ始めた。
そこには自分達の仲間である鎌鼬が三人の人間と激闘を繰り広げて、破れるまでの事の顛末が映し出された映像だった。
「ご覧の通り、分かっていると思いますが鎌鼬がやられました。あまり受け入れたくない事実ですが」
その言葉に周囲の空気がさらに冷たくなった。
「奴が? 一体誰が」
「幹部と聖堂寺のご令嬢。見知らぬ青年だったらしいです。そうですね? 光殿?」
迦楼羅の視線が光に突き刺さる。光はあまりの気迫に少し身震いした。
「ええ、その三人によって我々の仲間は討ち取られました」
「じゃあ何故助けに行かなかったんですか?」
「私は少々、野暮用がございましたので」
幹部の女性からの詰問に対して、光は笑みを浮かべながら応えた。
「鎌鼬が破れたのも驚いたが、問題はこの少年だ」
迦楼羅が銀髪の少年にズームアップをした。
「この少年の一撃で鎌鼬は傷が再生することなく絶命した。幹部クラスの者なら首を落とされない限り死ぬことはない」
「北原ソラシノや幹部共とはまた別の脅威ってやつですか?」
「そうなりますね」
新しい脅威。ただでさえ幹部達には手を焼いていた彼らを嘲笑うようにやってきた銀髪の少年。
未知の驚異の出現は幹部達に緊張感を与えるには十分なものだった。
「光殿はこの少年はご存知ですか?」
「いいえ」
光は被りを振るった。しかし数秒後、ゆっくりと口角を上げた。
「ですが確かめるには絶好の機会があります」
少し騒々しさが漂う教室。担当の星野奏が黒板に文字を書き込んでいく。内容は授業のことではなかった。
「えー今から一ヶ月後に開かれる夏の合宿について説明します」
『合宿』というワードが出た瞬間、他の生徒達から黄色い声が上がった。
「中等部から上がった子は知っていると思うけどこの季節になると中等部、高等部の一年は夏合宿があります。夏の現場というのは非常に過酷です。今回の合宿はそれを模倣したものになっています」
勧められていく話を隼人は一語一句、胸に刻んでいく。彼にはわかるのだ。夏の忌獣討伐の過酷さが。
人間の身体能力を上回る怪物と頭上から照りつく直射日光。何度も熱中症で死にそうになった記憶がある。
奏の説明が終わり、教室を去った後、隼人は一枚の紙を見ていた。『夏の合宿二泊三日』の予定についてだ。
「合宿ねえ」
夏の暑さを利用して対策本部が所有する孤島にて、夏中の現場さながらの訓練を行うそうだ。
「珍しく楽しそうね」
結巳が覗き込むような様子で隼人の目を見てきた。どうやら表情が崩れていたらしい。
「夏中の鍛錬はやったことはあるが、孤島は初めてだからな」
未知の場所で鍛錬を積む。やることは同じとはいえ、隼人は不思議と高揚感を抱いていた。
「聖堂寺は中等部の時に行ったことあるんだよな?」
「ええ。中学一年には中々、堪えたわね」
かつての記憶を思い出したのか、結巳が辛そうな表情を浮かべた。隼人は道場を交えた目を向けながら、『合宿』への思いを馳せていた。
「松阪くん!」
甲高い声とともに白峰揚羽が隼人めがけて飛んできた。タックルと言っても過言ではない勢いだ。
あまりの衝撃で隼人の口かた潰れたカエルのような声が出てきた。
「合宿一緒に回ろう! どうせぼっちでしょ!」
「勝手に決めるな。確かに決まってないけど」
「ほーら、ぼっちじゃん! 意地っ張り! 意固地! 堅物!」
隼人は頬を膨らませる揚羽からこれでもかと雑言を浴びせられた。そして、背後から突き刺さる氷のような目を感じていた。
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