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「白峰揚羽」
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隼人は冷や汗を流していた。以前にあった少女に言い寄られているからだ。
「ねー。松阪君。連絡先こーかんしてよー」
「しない」
先ほど転校して来たばかりの白峰揚羽が執拗に連絡先を聞いてくる。その度に隼人は拒絶するという堂々巡りを何度も繰り返しているのだ。
すると突然、背筋がゾグリとした。後ろを振り向くと結巳が立っていた。しかし、隼人を見るその目は獲物を狙う冷血動物そのものだ。
「なんだ?」
「いいえ。ただ随分と仲が良いのね」
「一方的に絡まれているだけだ」
「えー。そんな。この間はあんなに親切に扱ってくれたのにー」
隼人の腕に揚羽が腕を絡ませて来た。周囲に冷たい空気が漂い始める。発生原因はもちろん近くにいる白髪の少女だ。
「随分に親密になったのね。ナイトクラブというのはそんなに早く異性交遊が出来るのね。初耳だわ」
「ぶつかっただけだ」
隼人は結巳の対応に思わず、ため息をついた。ふと時間を確かめようと時計に目を向けた時、休み時間終了まであと少しだった。
「そういえば、次の授業って訓練場だったろ? 行かなきゃまずいんじゃないのか?」
「あっ!」
隼人の警告に結巳が焦ったような表情をした。どうやら目の前の出来事にとらわれるあまり、忘れていたらしい。
隼人達は大急ぎで教室を飛び出した。
訓練場では皆、木刀を手に持って素振りや手合わせを行なっていた。隼人ももれなく一人で木刀を振るっていると、一人の少女がやって来た。
「何の用だ。白峰」
「やだなー。揚羽って呼んでよ。松阪くん。剣の振り方教えてよ」
「断る。他の人間に教われ」
隼人はそっぽを向いて、木刀を振るった。一度、二度あったような人間と慣れ合うつもりはない。
「ふーん。教えてくれないなら、有る事無い事吹聴してやろーっと」
「好きにしろ。俺は一人で構わない」
「それが特待資格の剥奪だったとしても」
彼女の一言で隼人は動きを止めた。揚羽の言う通り、もしそんな戯言でも耳に届けば夢から遠ざかってしまう。それは阻止しなければならない。
「少しだけだぞ」
「やった」
不本意ながら、隼人は揚羽の素振りを手伝うことにした。
「もっと腰に力を入れろ。腕で振るな」
「はーい」
揚羽が戯けたような返事をしながら、木刀を振っている。その間、隼人は何者かに睨みつけられる感覚を抱いていた。
「ねえ、なんで松阪くんは戦闘員を目指しているの?」
「なんだよ。いきなり訓練に集中しろ」
「答えてくれたらちゃんとするから~」
揚羽が駄々をこねるような頼み方をして来た。これ以上、彼女に時間を取られるわけにはいかない。隼人はため息をつきながら、言葉を吐いた。
「忌獣や鳥籠が憎いからだよ」
「なんで?」
「なんでもいいだろ?」
これ以上言う必要はない。忌獣や鳥籠が憎い。この動機なら他の誰にでも当てはまる答え方だ。
「ふーん。もしかして、大切な人でも殺された?」
心臓が大きく跳ねたのを感じた。隼人の素振りの速度が少し乱れてしまった。
「ああ、図星だった? ならごめんね」
「俺を詮索する事はやめろ」
隼人は何事もなかったように再び、訓練に戻った。心に小さな蟠りを抱きながら。
放課後、隼人は屋上に向かって足を運んでいた。今日は空が晴れているので瞑想をするには最適だと思ったのだ。
扉を開けるとそこには先客がいた。
「あ、松阪くん。こんにちは」
「白峰」
「ここの屋上いいね。夕日がとても良く見える」
揚羽が心地よさそうに手を組んで、頭上で伸ばした。
「松阪くんは何をしに来たの?」
「瞑想」
「渋!」
「なあ、なんで俺に絡んで来たんだ?」
「えっ? 何? 嬉しかったの?」
「そうじゃねえよ」
隼人の口から大きなため息が出た。純粋な疑問を茶化された気がしてならなかったのだ。
「うーん。さっきも言ったけどカッコよかったからだよ? それじゃあ駄目?」
「いや」
これ以上、質問しても無駄。隼人はそう解釈して瞑想に取り掛かろうとした。
「だって、事実だもん。あのちゃらんぽらんな場所にあんな真剣な表情している人がいたら気にもなるよ」
揚羽の目が隼人の目を捉えた。その目からは先ほどのおチャラけた雰囲気は一切、感じられない。
「松阪君。何していたかは分からないよ。でもあのナイトクラブに来る人はみんなどこか下心がある人ばかりだからさ。そう言う人ばかり場所であんな目をしている人がいたら気になってさ」
彼女がどう言う人間なのかはよく分からない。この言葉が真実なのかも定かではない。
しかし、今自分に向ける目には嘘はない。根拠はないがそんな確信を抱いていた。
「ねえ、松阪くんは私の事、嫌い?」
夕陽に照らされた彼女は今にも散ってしまいそうなほど、儚げに微笑んだ。
憂いに満ちたその表情は隼人の心を意図せず、揺れ動かした。
「度が過ぎると普通に引く。でも嫌いじゃない」
「そっか」
白峰が白い歯を見せて、笑った。夕日に照らされた彼女の笑顔は鮮やかで眩しく感じた。
「松阪くん。写真撮ろうよ」
「一枚だけな」
揚羽に肩を寄せられて、顔を近づけたと同時に携帯がフラッシュを切った。
「ねー。松阪君。連絡先こーかんしてよー」
「しない」
先ほど転校して来たばかりの白峰揚羽が執拗に連絡先を聞いてくる。その度に隼人は拒絶するという堂々巡りを何度も繰り返しているのだ。
すると突然、背筋がゾグリとした。後ろを振り向くと結巳が立っていた。しかし、隼人を見るその目は獲物を狙う冷血動物そのものだ。
「なんだ?」
「いいえ。ただ随分と仲が良いのね」
「一方的に絡まれているだけだ」
「えー。そんな。この間はあんなに親切に扱ってくれたのにー」
隼人の腕に揚羽が腕を絡ませて来た。周囲に冷たい空気が漂い始める。発生原因はもちろん近くにいる白髪の少女だ。
「随分に親密になったのね。ナイトクラブというのはそんなに早く異性交遊が出来るのね。初耳だわ」
「ぶつかっただけだ」
隼人は結巳の対応に思わず、ため息をついた。ふと時間を確かめようと時計に目を向けた時、休み時間終了まであと少しだった。
「そういえば、次の授業って訓練場だったろ? 行かなきゃまずいんじゃないのか?」
「あっ!」
隼人の警告に結巳が焦ったような表情をした。どうやら目の前の出来事にとらわれるあまり、忘れていたらしい。
隼人達は大急ぎで教室を飛び出した。
訓練場では皆、木刀を手に持って素振りや手合わせを行なっていた。隼人ももれなく一人で木刀を振るっていると、一人の少女がやって来た。
「何の用だ。白峰」
「やだなー。揚羽って呼んでよ。松阪くん。剣の振り方教えてよ」
「断る。他の人間に教われ」
隼人はそっぽを向いて、木刀を振るった。一度、二度あったような人間と慣れ合うつもりはない。
「ふーん。教えてくれないなら、有る事無い事吹聴してやろーっと」
「好きにしろ。俺は一人で構わない」
「それが特待資格の剥奪だったとしても」
彼女の一言で隼人は動きを止めた。揚羽の言う通り、もしそんな戯言でも耳に届けば夢から遠ざかってしまう。それは阻止しなければならない。
「少しだけだぞ」
「やった」
不本意ながら、隼人は揚羽の素振りを手伝うことにした。
「もっと腰に力を入れろ。腕で振るな」
「はーい」
揚羽が戯けたような返事をしながら、木刀を振っている。その間、隼人は何者かに睨みつけられる感覚を抱いていた。
「ねえ、なんで松阪くんは戦闘員を目指しているの?」
「なんだよ。いきなり訓練に集中しろ」
「答えてくれたらちゃんとするから~」
揚羽が駄々をこねるような頼み方をして来た。これ以上、彼女に時間を取られるわけにはいかない。隼人はため息をつきながら、言葉を吐いた。
「忌獣や鳥籠が憎いからだよ」
「なんで?」
「なんでもいいだろ?」
これ以上言う必要はない。忌獣や鳥籠が憎い。この動機なら他の誰にでも当てはまる答え方だ。
「ふーん。もしかして、大切な人でも殺された?」
心臓が大きく跳ねたのを感じた。隼人の素振りの速度が少し乱れてしまった。
「ああ、図星だった? ならごめんね」
「俺を詮索する事はやめろ」
隼人は何事もなかったように再び、訓練に戻った。心に小さな蟠りを抱きながら。
放課後、隼人は屋上に向かって足を運んでいた。今日は空が晴れているので瞑想をするには最適だと思ったのだ。
扉を開けるとそこには先客がいた。
「あ、松阪くん。こんにちは」
「白峰」
「ここの屋上いいね。夕日がとても良く見える」
揚羽が心地よさそうに手を組んで、頭上で伸ばした。
「松阪くんは何をしに来たの?」
「瞑想」
「渋!」
「なあ、なんで俺に絡んで来たんだ?」
「えっ? 何? 嬉しかったの?」
「そうじゃねえよ」
隼人の口から大きなため息が出た。純粋な疑問を茶化された気がしてならなかったのだ。
「うーん。さっきも言ったけどカッコよかったからだよ? それじゃあ駄目?」
「いや」
これ以上、質問しても無駄。隼人はそう解釈して瞑想に取り掛かろうとした。
「だって、事実だもん。あのちゃらんぽらんな場所にあんな真剣な表情している人がいたら気にもなるよ」
揚羽の目が隼人の目を捉えた。その目からは先ほどのおチャラけた雰囲気は一切、感じられない。
「松阪君。何していたかは分からないよ。でもあのナイトクラブに来る人はみんなどこか下心がある人ばかりだからさ。そう言う人ばかり場所であんな目をしている人がいたら気になってさ」
彼女がどう言う人間なのかはよく分からない。この言葉が真実なのかも定かではない。
しかし、今自分に向ける目には嘘はない。根拠はないがそんな確信を抱いていた。
「ねえ、松阪くんは私の事、嫌い?」
夕陽に照らされた彼女は今にも散ってしまいそうなほど、儚げに微笑んだ。
憂いに満ちたその表情は隼人の心を意図せず、揺れ動かした。
「度が過ぎると普通に引く。でも嫌いじゃない」
「そっか」
白峰が白い歯を見せて、笑った。夕日に照らされた彼女の笑顔は鮮やかで眩しく感じた。
「松阪くん。写真撮ろうよ」
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