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「松阪綾は憤る」
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「なんで誰もナンパしてこないのよ! 草食系か! どいつもこいつも! ベジタリアンめ!」
松阪綾はナイトクラブ。ハンプティ・ダンプティに来ていた。
友人達に誘われてきたが、一向に殿方からお声がかかる事がなく彼女の顔に僅かだが、青筋を立てていた。
銀髪のボブヘアとキリッとした目つきと端正な顔立ち。端から声をかけずにいられないような容姿だ。誰からも声がかからないことに憤りを覚えて、クラブで提供されるアルコールドリンクを勢いに任せて飲んで行く。
すると足元がふらつき、誰かにぶつかってしまった。
「すみません。ちょっと飲みすぎちゃって」
「いえ、こちらこそ」
綾は謝罪相手の顔を目にした時、息を飲んだ。シルクのように長く白髪と工芸品のように整った中性的な顔。
相手の顔の美しさに固まってしまった。
「どうしましたか。もしかしてどこか強く打ちましたか?」
「ああ、全然へっちゃらです!」
綾は目の前の美しい顔に魅せられて、口調が変になった。
「ここ。人が多いから歩きにくいですよね。気をつけてくださいね」
男性がふんわりとした笑みを浮かべて、立ち去ろうとしていた。その時、綾の脳内にどこからか指令が下った。
この男を逃していけない。そう言っているように聞こえた。
「あっ! あの! 暇ですか? 良かったら話でもしませんか? 少し退屈で」
綾は駄目元で声をかけた。もはや声をかけられないというのはなら、自分から行動に出るしかない。彼女はそう確信したのだ。
「いいですよ」
男性が軽く笑みを浮かべて承諾した。
「それでね。ぜーんぜん。声かけないんですよ! 最近の男は草食系ばっかり! あっ、光さんは別ですよ」
「あはは」
綾は酒が周り、口調が少し乱暴になりながらも光と会話をしていた。
「男といったらうちの弟なんですけど。昔から一つのことに集中しちゃうとそればっかりになっちゃう奴なんですよ」
綾の脳裏に弟の姿が映った。祖父の元で修行を始めた弟は何かに取り憑かれたように打ち込んでいた。
雨の日も風の日も殺意を宿したような目で修行を行う彼を見てそれがとても恐ろしく感じたのだ。
「弟さんのこと、大事に思われているんですね」
「いえ、そういうのじゃ」
綾は酒のせいか顔を紅潮させていた。それを隠すように一気に流し込んだ。
「光さんは兄弟いるんですか?」
「ええ、妹と兄が」
すると光が携帯を見る素振りをした。
「すみません。急用ができてしまいここから出ないと行けなくなりました」
「ああ、いえ! こちらこそお時間取らせてすみませんでした。楽しかったです」
「喜んでいただけて何よりです。それでは」
光が一礼すると踊り狂う人混みの中へと消えた。
「かっこいい人だったなあー」
「ちょっと綾どこ行っていたのよ!」
「本当! 探してんだから!」
「ああ、ごめんごめん。で? いい男は見つかった?」
「全然! 帰ろう!」
友人二人が眉間にしわを寄せて、入口の方に向かっていく。綾も彼女達に後ろについて行った。
途中、凄まじい物音が店の外から聞こえたが気がした。
松阪綾はナイトクラブ。ハンプティ・ダンプティに来ていた。
友人達に誘われてきたが、一向に殿方からお声がかかる事がなく彼女の顔に僅かだが、青筋を立てていた。
銀髪のボブヘアとキリッとした目つきと端正な顔立ち。端から声をかけずにいられないような容姿だ。誰からも声がかからないことに憤りを覚えて、クラブで提供されるアルコールドリンクを勢いに任せて飲んで行く。
すると足元がふらつき、誰かにぶつかってしまった。
「すみません。ちょっと飲みすぎちゃって」
「いえ、こちらこそ」
綾は謝罪相手の顔を目にした時、息を飲んだ。シルクのように長く白髪と工芸品のように整った中性的な顔。
相手の顔の美しさに固まってしまった。
「どうしましたか。もしかしてどこか強く打ちましたか?」
「ああ、全然へっちゃらです!」
綾は目の前の美しい顔に魅せられて、口調が変になった。
「ここ。人が多いから歩きにくいですよね。気をつけてくださいね」
男性がふんわりとした笑みを浮かべて、立ち去ろうとしていた。その時、綾の脳内にどこからか指令が下った。
この男を逃していけない。そう言っているように聞こえた。
「あっ! あの! 暇ですか? 良かったら話でもしませんか? 少し退屈で」
綾は駄目元で声をかけた。もはや声をかけられないというのはなら、自分から行動に出るしかない。彼女はそう確信したのだ。
「いいですよ」
男性が軽く笑みを浮かべて承諾した。
「それでね。ぜーんぜん。声かけないんですよ! 最近の男は草食系ばっかり! あっ、光さんは別ですよ」
「あはは」
綾は酒が周り、口調が少し乱暴になりながらも光と会話をしていた。
「男といったらうちの弟なんですけど。昔から一つのことに集中しちゃうとそればっかりになっちゃう奴なんですよ」
綾の脳裏に弟の姿が映った。祖父の元で修行を始めた弟は何かに取り憑かれたように打ち込んでいた。
雨の日も風の日も殺意を宿したような目で修行を行う彼を見てそれがとても恐ろしく感じたのだ。
「弟さんのこと、大事に思われているんですね」
「いえ、そういうのじゃ」
綾は酒のせいか顔を紅潮させていた。それを隠すように一気に流し込んだ。
「光さんは兄弟いるんですか?」
「ええ、妹と兄が」
すると光が携帯を見る素振りをした。
「すみません。急用ができてしまいここから出ないと行けなくなりました」
「ああ、いえ! こちらこそお時間取らせてすみませんでした。楽しかったです」
「喜んでいただけて何よりです。それでは」
光が一礼すると踊り狂う人混みの中へと消えた。
「かっこいい人だったなあー」
「ちょっと綾どこ行っていたのよ!」
「本当! 探してんだから!」
「ああ、ごめんごめん。で? いい男は見つかった?」
「全然! 帰ろう!」
友人二人が眉間にしわを寄せて、入口の方に向かっていく。綾も彼女達に後ろについて行った。
途中、凄まじい物音が店の外から聞こえたが気がした。
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