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「堕ちる」
しおりを挟む真っ白な天井と同色の布団。まだ鎌鼬と名乗る前の彼はそこにいた。先天的な病により、長生き出来ない事が告げられた。
毎晩、布団の中で蹲っても肩を震わせて泣いた。
「嫌だ。怖い。死にたくない」
死という名の魔物が心身を支配し、彼の心に過剰な負荷をかけ続ける。
同年代の子供を辛そうな顔で入院して、しばらくすると眩い笑顔で病室を去っていく。彼はそれが妬ましくてならなかった。
「なんで、僕だけ! 僕だけこんな目に合わないといけないんだ! 何も悪い事してないのに!」
彼は拳を丸めて、何度も布団に感情を吐き出した。どうしようもない理不尽に絶望し、嘆いた。
ある晩。何時ものと同じく死の恐怖に怯えていた時の事。病室の窓の近くで誰かが立っていた。嘴がついた黒い仮面の姿をした人物だ。
身の危険を感じた彼はすぐにナースコースに手を伸ばした。
「こんばんは。少年」
酷く落ち着いたその声に彼はナースコールを押そうとする手を離した。
「だっ、誰?」
「私の名前は迦楼羅。君の病を治してあげよう。他の子と同じように、いやそれ以上に動けるようにしてあげよう」
「ほっ、本当に?」
「その代わり、私に力を貸して欲しい」
彼は迦楼羅との契約に応じて、力を授かった。そして、病はすぐに完治して常人以上の肉体を手に入れることが出来た。
彼は迦楼羅に深く感謝した。あの時のおかげで今、生きていられるのだ。
安っぽい慰めの言葉しかかけなかった両親と医者。それとは違い、彼は自分から恐怖を取り除いてくれたのだ。
それから何の悩みも不幸も抱かない連中や対策本部の人間を斬り殺した。
「あの人の邪魔をする奴は躊躇なく殺す」
彼の中では鉄よりも硬い鋼の忠誠心が存在していたのだ。
月夜の下、隼人は路地裏で結巳と庭島で対策本部の救助を待っていた。二人とも先ほどまで行っていた激闘で体力をかなり消費していたのだ。
「幹部。予想以上に強かったな」
「そうね。こんなものがあと数人もいるなんてね」
「気が遠くなるだろ? ははっ」
隼人はため息をついていると、足音が聞こえた。振り向くと周囲から黒服がうつむきながら、ぞろぞろと出ていた。明らかに様子がおかしいのだ。
「こいつら。さっきのやつらか」
背中が不規則に盛り上がったり、下がったりを繰り返している。まるで何かに取り憑かれたような感じだ。
「まさか、宿主?」
「いや、その成り損ないって感じだな」
隼人は震える膝に鞭を打って、刀を握った。しかし、鎌鼬との激闘で体力をかなり消費しており、体が鉛のように重い。
結巳の方を見ると、剣は握っているもののかろうじて気を保っている状態で到底、戦える様子ではない。
「来るなら来い!」
隼人は闘志を込めて、剣を構えた。今の状態では勝てるか分からない。しかし、疲弊している結巳を放っては置けないのだ。
すると隼人は目を疑った。先ほどまで今すぐにも飛びかかってきそうな敵達の首が一斉に跳ね飛んだのだ。
「一体、何が起こった」
眼前で起こった突然の出来事に動揺を隠しきれなかった。しばらくして黒服達が気力を失ったように地面に崩れていく。
その中心に剣を片手に月光に照らされた男がいた。
陶器のように白い肌。儚さを漂わせるような切れ長の目。月光に照らされている事も相待って隼人は彼の事がとても綺麗に見えた。
「来るのが遅せえよ」
庭島が疲弊した様子で文句を垂れていた。
「あ、あの、人は!」
「知っているのか?」
緊張しているのか、隣の結巳が肩と声を震わせていた。
「忌獣対策本部の幹部の一人にして最強の戦闘員。北原ソラシノ」
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