「黒炎の隼」

蛙鮫

文字の大きさ
上 下
24 / 115

「命を狩る者 鎌鼬」

しおりを挟む
 鳥籠の幹部。厳しい訓練を終えて、現場で活躍する戦闘員達すらもいとも容易く殺害する強敵だ。

 隼人は今、その一人と対峙しているのだ。

「こちら聖堂寺と松阪。幹部と対峙しました。我々も出来るだけ攻防を試みます。直ちに応援を要請します」

「なんだと! 分かった。すぐに向かう」
 結巳が緊張した様子で無線機を通じて、庭島に伝えた。無線機の向こうから庭島の動揺した声が聞こえる。

 正直、勝てるかわからない。しかし、遭遇した以上、見過ごすわけにはいかない。
 
「聖堂寺? ああ、お前が」
 鎌鼬が一人で納得したような表情を浮かべている。

 鎌鼬の攻撃の速度は素早く、それでいて的確な攻撃だった。隼人も対抗出来ているものの、あまり余裕を出せる状況ではない。

「さあて。首でも落とすか!」
 鎌鼬が迫ってきた時、隼人との間に割って入るように何かが降りてきた。庭島だ。

「すまない。二人とも! 受け取れ!」
 庭島が斧状の聖滅具で鎌鼬の大鎌を防いでいた。隼人と結巳は聖滅具を受け取るとすぐさま起動させた。

「さあ、三体一。どう考えてもそちらさんの不利だぜ?」

「どうだろうな!」
 鎌鼬が庭島から離れた時、大鎌を大きく振るった。

 突然、近くにあった外灯の胴が何かに切り落とされた。しかし、隼人は見逃さなかった。

 外灯の光の反射で何かが映ったのだ。一瞬しか見えなかったが光沢を帯びて、鋭利な物体が見えた。

「庭島さん! 刃を下に下げて!」
 隼人は声を張り上げて、庭島に忠告すると庭島が刃を下ろした瞬間、凄まじい勢いで彼が後方へと下がった。

「なんだ! これ!」

「くっ!」
 庭島に危険を伝えた瞬間、隼人の刀身が別の何かを接触した。力を入れると、薄氷を踏んだような音と真っ二つに割れて、消えた。

 この時点で隼人はこの驚異の正体に気がついた。

「さっきの、まさか斬撃か。それも透明の斬撃」
 
「そうだ。これこそが鎌鼬。俺の名の所以。見えない斬撃で命を刈り取る。それが俺の能力だ!」

 鎌鼬が何度も斬撃を飛ばして来た。迫り来る脅威に彼は生命の灯火を燃やした。

「氷壁!」
 結巳が割って入るように隼人と庭島の前に氷の壁を形成した。氷の壁を削り取るようにいくつも斬撃の衝撃が伝わって来た。

「見えないのは非常にやっかいね」

「ああ。さっきは街灯の光があったおかげで位置を理解できた。でも全部、さっきの攻撃で切り倒されている」

 透明の斬撃。無数の見えない斬撃が隼人達の命を刈り取ろうと飛んで来る。

 視界以外の感覚に意識を向けなければ、この戦いに勝ち目はない。

「ほらほらあ! どうした!? ジリ貧か?」

 辺りの街灯やゴミ箱が次々と切り裂かれていく。隼人に出来ることは破損した場所から今、どこに斬撃が通過しているか推測して、奇襲を仕掛ける事だ。

「見えない斬撃。アレを試してみるか」
 隼人は何かを思いついたような表情を浮かべた。

「アレ? 何か策があるのか?」

「はい。一つだけ」
 そういうと隼人は結巳の隣に移動した。氷壁が削られて行く中、隼人は静かに瞳を閉じて、意識を集中する。削れる氷の音。揺れる空気。

「松阪君。何をやっているの?」

「聖堂寺。この壁が破られたら俺の後ろに移動しろ」

「なんで?」

「いいから」

「何やっても無駄だ! 俺の透明の斬撃からは逃れられない!」
 鎌鼬が目を血走らせながら、大鎌を振るった。そして、ついに分厚い氷の影が破られた。

「終わりだ!」
 鎌鼬が何度も大鎌を振るった。隼人は舌で上下の歯の間を強く打った。
 
 暗闇の中、前方に意識を張り巡らしていく。静かに何かが近づいてくるのを感じた。

「そこだ!」
 隼人は勢いよく、聖滅具を振るうと斬撃に直撃した。透明の斬撃はガラス細工のように脆く崩れて、消えた。

「そんな俺の斬撃が! お前何をした!」

反響定位はんきょうていい音と衝撃を感知しただけだ」

 反響定位。動物が音を発して、その反動で対象物の大きさ、距離、方向を確認する能力だ。

 隼人が祖父の元で行った六年間の修行で身につけた能力の一つだ。

 主にイルカやクジラ、コウモリなどがこの方法で狩りや移動の際に使用している。音波なら対象物が透明であっても問題ない。

「いくら透明とはいえども飛行物だからな。衝撃は必ず帰ってくる」

「くっ、そがあ!」
 鎌鼬が何度も大鎌を振り回した。隼人は反響定位で飛んでくる斬撃を数と方向を感知する。

「先に右と足元か!」
 隼人は早々に対処すると戦志を宿した刃を構えて、鎌鼬の元へ距離を詰める。

「クソがああ!」
 刀身を叩きつけたが、大鎌によって防がれてしまった。ガリガリと音を立てて、刃同士を削りあっている。

 相手の必殺技への対策は出来たとしても、実力自体はかなり高い。
「重い!」

「させない!」
 冷気を纏った剣筋の結巳が隣から助太刀してきた。

「邪魔だあ!」
 鎌鼬が声を張り上げながら、巨大な斬撃を飛ばしてきた。あまりの衝撃に隼人と結巳は近くの壁に叩きつけられた。

 背中を叩きつけられた衝撃で隼人はまとも呼吸ができない。

「ま、ずい。い、きっが」

「くたばれ!」
 鋭い鎌が隼人の首を刈り取ろうとした時、鎌鼬の片腕が飛んだ。庭島が隼人を庇ったのだ。

「クッソ! 幹部か!」

「二人とも。息を整えていろ!」
 庭島がそう言って、大斧を振り回して、鎌鼬の元に走っていく。隼人は驚いた。
 庭島が鎌鼬と拮抗しているのだ。

 やはり幹部に選ばれる人間の実力は並の戦闘員とは比較にならないほどの実力がある。

「なんて、速さだ」

 庭島と鎌鼬。互いに巨大な武器を持っているのにも関わらず、まるで小刀を振り回すように軽々しく動かしている。

 そして、ぶつかり合うたびに何度も激しく金属音と火花が散っている。しかし、奴の切り札である透明の斬撃。

 アレを見抜く手段は隼人の反響定位以外にない。早く息を整えて、参戦しなければ庭島が命を落とす可能性がある。

「立て!」
 隼人は自分に言い聞かせて、震える膝で走り始めた。僅かだが庭島が劣勢になっていた。

「お前は終わりだ! 鶏頭!」
 
「させるか!」
 庭島が頭を取られそうな寸前でなんとか攻撃を止めた。

「庭島さんは聖堂寺を連れて、離れてください! あとは俺が片付けます」

「片付けるだあ? 生意気言ってんじゃねえぞ! ガキが!」
 鎌鼬が目を血走らせて、透明の斬撃を次々と放ってきた。その度に隼人は反響定位で位置を感知していく。

 一つ。二つと斬撃を切り裂く。必ず討ち取る。その想いを胸に聖滅具を振るっていく。

「影焔!」
 燃え盛る黒炎が鎌鼬の肉体を斬りつけた。肉を焼く音と凄まじい爆音が周囲に響いた。

「グアアアア!」
 胴体を深く切られた鎌鼬が絶叫して、地面に突っ伏した。隼人の黒炎は細胞組織やV因子を焼き尽くしていく。

 故に再生能力や能力が使えなくなるのだ。傷口を抑えながら隼人と結巳を睨みつける。

「ぜっ、絶対に許さないぞ。おまっ、えらだけは、絶対に」
 絶命寸前の鎌鼬が口から血を垂らしながら、憎悪を孕んだような目を向けてきた。

「せっ、ど、じ」
 その言葉を最後に、鎌鼬が動かなくなった。隼人や結巳、庭島も体力をかなり消費したが何とか勝利を収める事が出来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

序盤で殺される悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう〜主人公がキレてるけど気にしません

そらら
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役貴族に転生した俺。 貴族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な公爵家の令息。 序盤で王国から追放されてしまうざまぁ対象。 だがどうやら前世でプレイしていたスキルが引き継がれているようで、最強な件。 そんで王国の為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインは渡さないぞ!?」 「俺は別に構わないぞ? 王国の為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「すまないが、俺には勝てないぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング40位入り。1300スター、3800フォロワーを達成!

初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全
ファンタジー
 永遠の命を手に入れようとしたゲルマン帝国の皇帝は、地球から傭兵を大量に召喚して生命の森を侵略しようとした。  生命の大樹を護るエルフ族・エント族・ドリアード族が抵抗を試みるも、各地で敗北し徐々に生命の森を侵食されていった。帝国正規軍や傭兵団・冒険者なら撃退できる彼らも、帝国魔導師団が召喚した百を超える勇者団には敵わなかった。  生命の大樹は、傷つき死んでいく森の民を憂(うれ)い、自ら禁忌として封印していた召喚魔術を解放し、異世界の英雄を呼び寄せる決断をした。呼び寄せられた英雄は二度と元の世界に戻ることができなくなるが、ゲルマン皇帝に永遠の命を与える事だけは出来ないと言う思いから、苦渋(くじゅう)の決断だった。  生命の大樹が使う召喚魔術は、人族の召喚魔術とは桁違いの能力を付与した上に、生命の大樹とデュオを組み、経験値や能力だけでなく命すら共有する存在となるのだ。だが何の偶然か、召喚されたのは五十路の冴えないおっさんだった。  しかし冴えないおっさんは、デュオとなった生命の大樹と合体魔法を使い、10万の大軍を瞬殺してしまった。さて、この後何をしようか?

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

幼馴染の婚約者聖女が勇者パーティー追放されたから、俺も一緒に離脱する事にした。

古森きり
ファンタジー
幼馴染の聖女セレーナは前世の記憶を持つ転生者。 それを打ち明けられた時、それはもう驚いた。 だが、俺の想いは変わらない。ずっと君の側で君を守る。 そう約束した数年後、神託通りに異世界から勇者が召喚されてきた。 しかし召喚されてきたニホンジン、ユイ殿はとんでもない我が儘娘。 なんと、婚約者のいる俺に言い寄ってきた。 拒むとなぜかセレーナをパーティーから追放すると言い出したので、俺も我慢の限界を迎え、セレーナを追ってパーティーを出て行く事にした。 「結婚前の独身最後の旅行にしようか」 「ヤダー、もうライズったらぁー!」 魔王? 知らん。 ※ノベルアップ+さんにえげつない読み直しナッシング書き溜め中。 改稿版は小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載予定です。

処理中です...