22 / 115
「ハンプティ・ダンプティ」
しおりを挟む作戦当日の朝。隼人は学校の屋上で眼と鼻、耳栓で耳を閉じながら、かつての記憶を巡らせていた。内容は祖父である松阪シライとの修行の時である。
「隼人。もし見えない敵。または自分の目が見えない状態の時、敵からの攻撃にどうやって対処する」
「耳をすまして、周囲の気配を感じる」
「では耳が聞こえないときは?」
「臭いを嗅ぐ」
「臭いが特定できない時は?」
「空気の流れを感じ取る」
「どうやって?」
言葉に詰まった。隼人からはこれ以上、方法が出てこなかった。
「少々、意地悪だったな。ではその感じ取り方。敵の見つけ方を教えよう」
シライの動きに習い、目を閉じて、耳栓をして聞こえないようにする。視覚と聴覚が機能しない今、隼人は舌先に意識を集中させた。
すると舌先が何かを感じ取った。確認のため、ゆっくりと目隠しを取った。結巳がいた。
それも凄まじく冷たい目を作っていた。自分の五感を遮るものを取り除いていく。
「何をしているの?」
「ご覧の通り。鍛錬。お前は?」
「私は屋上の空気を吸いに来たの。というか貴方って熱心過ぎて奇行に走ること多いわよね」
「奇行上等だ。それで強くなれるのなら」
隼人自身、誰かに中傷されようが笑われようが気にしない。自分にとって他人は他人でしかないのだ。
「分かっているわよね? 今日」
「ああ、だからこうしていつもとは鍛錬を行なっているんだ」
今回の作戦は以前とは違い、近くに一般人がいる状態で行われることになる。つまり自分が予想もしなかった事が起こる可能性も否定できないのだ。
「そろそろ授業が始まるわ」
「ああ」
隼人はゆっくりと腰を上げて、教室へと向かった。
夜の九時。隼人は私服姿で結巳を待っていた。目の前にはナイトクラブ、ハンプティ・ダンプティ。
店内から流れる騒々しい音楽と蛍光色の光が店の外にまで漏れていた。
「お待たせ」
「いや、大丈夫だ」
走って来たのか、結巳が少し、額に汗を滲ませてやってきた。私服姿の彼女に新鮮さを感じながらも、目的場所に視線を戻した。
「いくぞ」
扉を開けずとも中からは振動するような音楽とリズムが聞こえる。この扉一枚の向こうに敵がいる。
「身分を証明できるものを」
セキュリティーにあらかじめ用意されていた身分証明書を見せると、すんなりと入ることが出来た。
緊張感を抱きながら隼人がゆっくりと扉を開くと、耳をつんざくような爆音が飛び込んできた。
軽快な音楽と蛍光色の明かりが支配する一室で、多くの若者達がひしめき合い気分のままに踊り狂っていた。
「みんな元気だな」
「ええ」
汗とアルコールの匂いが入り混じり、ホールに充満している。
中心に取り付けられた鉄の棒でバニーガール姿の女性が音楽とともに妖艶なパフォーマンスを披露していた。
クラブは一階と二階に分かれており、上階にも観客が複数おり、皆一様に鳴り響く音楽に身を任せて踊っていた。
脳髄が震えるような音とリズム。それらが隼人の思考に入り込んで来る。ふと結巳の方に目を向けると目を見開いていた。
おそらく眼前に広がる非日常的な光景に圧倒されているのだ。箱入り娘からすればこんな場所は縁がない。
「俺から離れるな。この人の数だとはぐれると探しにくいからな」
「わっ、分かっている」
隼人の言葉でハッと我に返った表情を浮かべた。
オーナー室の中、スーツ姿の男と面を被った白髪の男が監視カメラに目を向けていた。
「ん? あれは」
「どうしたの?」
「敵です。おそらく金剛杵学園の生徒でしょう」
「へえ、なんで分かるの?」
「私の身内ですから」
面をつけた男が静かに映像を見ていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜
金華高乃
ファンタジー
〈異世界帰還後に彼等が初めて会ったのは、地球ではありえない異形のバケモノたち〉
異世界から帰還した四人を待っていたのは、新たな戦争の幕開けだった。
六年前、米原孝弘たち四人の男女は事故で死ぬ運命だったが異世界に転移させられた。
世界を救って欲しいと無茶振りをされた彼等は、世界を救わねばどのみち地球に帰れないと知り、紆余曲折を経て異世界を救い日本へ帰還した。
これからは日常。ハッピーエンドの後日談を迎える……、はずだった。
しかし。
彼等の前に広がっていたのは凄惨な光景。日本は、世界は、異世界からの侵略者と戦争を繰り広げていた。
彼等は故郷を救うことが出来るのか。
血と硝煙。数々の苦難と絶望があろうとも、ハッピーエンドがその先にあると信じて、四人は戦いに身を投じる。
妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜
宮比岩斗
ファンタジー
大学一年の冬に義妹が死んだと連絡を受けた兄がいた。
よく笑い、よく泣き、よく理不尽に怒り、そこにいるだけで存在感を示す義妹であった。その天真爛漫さは親からすると可愛らしく大量の愛情を受けて育った義妹であった。良く言えばノビノビ、悪く言えば増長して、俺に対して強く当たるようになった義妹であった。
そんな義妹が死んでから数か月後、「にーちゃん、ここに来て 愛しの妹より」と頭の悪いメールが届く。それは兄と妹、二人を待ち受けるのは奇々怪々な面々が起こす事件の数々。そして、妹が神に至る物語の幕開けを告げるものであった。
絶対に自ら認めようとしないブラコンとシスコンの二人が、互いを大切に思ったり、意地と意地がぶつかり合ったり、妹がバーチャルアイドルを始めたり、ドルオタの兄を軽蔑したりするファンタジーでオカルトで近未来でVRMMOな学生の物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる