16 / 115
「テスト勉強」
しおりを挟む静寂な教室の中、松阪隼人は目が血走るような勢いで黒板を睨みつけていた。
理由は担任の星野奏が書いた黒板の内容である。
「えー。カレンダーにも書いてありますが来週の月曜日から中間テストがあります。みなさん頑張ってください」
眼鏡越しに穏やかな笑みを浮かべると周囲の生徒たちが項垂れ始める。中間テスト。学生の大半なら誰もが鬱屈とする行事だ。
赤点が重なれば留年もあり得る。なんとしても阻止しなければならない。
星野奏が退室した後、隼人は教科書に目を向けた。勉学は大切だ。しかし、彼にとってはそれ以上に鍛錬が大事だ。
「よし!」
隼人の脳裏に現状を打開する妙案が浮かんだ。
放課後、隼人は行きつけである校舎の屋上で学問に励んでいた。しかし、それは世間で言う鉛筆を握るなどの勉強の仕方とは違うものだった。
「英単語集の不正解一問につき、腹筋百回。自分で考えたのは良いけど、中々キツイな」
隼人が思いついた妙案。それは勉強に重点を置いた鍛錬である。
常時腹筋をしながら単語帳を目の前において、答えていく。はたから見れば明らかな変人だが、本人は至って真剣だ。
「ああ、クソ!」
英単語を順調に答えていたが、最後の一問で不正解を出した。腹筋を痛めつける勢いで上半身の起伏を繰り返した。
「何しているの」
声のする方に目を向けると眉間に皺を寄せた結巳が立っていた。
「見ての通りお勉強だよ。お前こそ何やってんだよ」
「勉強の息抜きよ」
結巳が指を組んで、頭上で引き伸ばした。同じ態勢を長いこと維持していたのか、関節が鳴る音が聞こえた。
「それにしてもその方法は変よ」
「学業と鍛錬を両立する最高の方法だ」
「分かっていると思うけど特待生は留年すると特待生ではなくなる。つまり任務には参加できなくなる」
「そうだな」
任務に参加出来なくなる。それでは隼人自身がここにいる理由が無くなってしまう。
それだけは何としても避けなければならない。
「必ずテストを乗り切ってみせる!」
隼人はさらに鍛錬と勉強に力を入れた。その度に彼を見る結巳の表情が一段と引きつっていった。
そして、勉学と鍛錬を繰り返してついにテスト当日となった。
普段より一層静まり返った教室。周囲の人間たちの顔からは緊張感がにじみ出ていた。
「それではテストを開始します。初め!」
担任の奏の凜とした合図とともに一斉に紙へと筆跡を走らせる音が聞こえた。
一週間後、学園別のテスト順位表が学校の掲示板に張り出されていた。多くの生徒がひしめき合う中、松阪隼人もその中にいた。
「えーと順位は」
隼人は自分の順位を目にした時、驚いた。予想以上に上だったからだ。
一年の学年一位。聖堂寺結巳。そして二位に松阪隼人がいたのだ。
「マジかよ」
自分が想定していた順位よりも遥かに上だった。二十位以内に入れた良い位の気概で取り組んでいたのは凄まじい高得点だったのだ。
「赤点は免れたみたいね。まあ一位は私だったけど」
結巳が勝ち誇ったような笑みを剥けてきた。
「まあ、これで特待資格の剥奪からは遠ざかっただろう」
隼人は再度掲示板に目を向けた後、踵を返した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる