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「テスト勉強」
しおりを挟む静寂な教室の中、松阪隼人は目が血走るような勢いで黒板を睨みつけていた。
理由は担任の星野奏が書いた黒板の内容である。
「えー。カレンダーにも書いてありますが来週の月曜日から中間テストがあります。みなさん頑張ってください」
眼鏡越しに穏やかな笑みを浮かべると周囲の生徒たちが項垂れ始める。中間テスト。学生の大半なら誰もが鬱屈とする行事だ。
赤点が重なれば留年もあり得る。なんとしても阻止しなければならない。
星野奏が退室した後、隼人は教科書に目を向けた。勉学は大切だ。しかし、彼にとってはそれ以上に鍛錬が大事だ。
「よし!」
隼人の脳裏に現状を打開する妙案が浮かんだ。
放課後、隼人は行きつけである校舎の屋上で学問に励んでいた。しかし、それは世間で言う鉛筆を握るなどの勉強の仕方とは違うものだった。
「英単語集の不正解一問につき、腹筋百回。自分で考えたのは良いけど、中々キツイな」
隼人が思いついた妙案。それは勉強に重点を置いた鍛錬である。
常時腹筋をしながら単語帳を目の前において、答えていく。はたから見れば明らかな変人だが、本人は至って真剣だ。
「ああ、クソ!」
英単語を順調に答えていたが、最後の一問で不正解を出した。腹筋を痛めつける勢いで上半身の起伏を繰り返した。
「何しているの」
声のする方に目を向けると眉間に皺を寄せた結巳が立っていた。
「見ての通りお勉強だよ。お前こそ何やってんだよ」
「勉強の息抜きよ」
結巳が指を組んで、頭上で引き伸ばした。同じ態勢を長いこと維持していたのか、関節が鳴る音が聞こえた。
「それにしてもその方法は変よ」
「学業と鍛錬を両立する最高の方法だ」
「分かっていると思うけど特待生は留年すると特待生ではなくなる。つまり任務には参加できなくなる」
「そうだな」
任務に参加出来なくなる。それでは隼人自身がここにいる理由が無くなってしまう。
それだけは何としても避けなければならない。
「必ずテストを乗り切ってみせる!」
隼人はさらに鍛錬と勉強に力を入れた。その度に彼を見る結巳の表情が一段と引きつっていった。
そして、勉学と鍛錬を繰り返してついにテスト当日となった。
普段より一層静まり返った教室。周囲の人間たちの顔からは緊張感がにじみ出ていた。
「それではテストを開始します。初め!」
担任の奏の凜とした合図とともに一斉に紙へと筆跡を走らせる音が聞こえた。
一週間後、学園別のテスト順位表が学校の掲示板に張り出されていた。多くの生徒がひしめき合う中、松阪隼人もその中にいた。
「えーと順位は」
隼人は自分の順位を目にした時、驚いた。予想以上に上だったからだ。
一年の学年一位。聖堂寺結巳。そして二位に松阪隼人がいたのだ。
「マジかよ」
自分が想定していた順位よりも遥かに上だった。二十位以内に入れた良い位の気概で取り組んでいたのは凄まじい高得点だったのだ。
「赤点は免れたみたいね。まあ一位は私だったけど」
結巳が勝ち誇ったような笑みを剥けてきた。
「まあ、これで特待資格の剥奪からは遠ざかっただろう」
隼人は再度掲示板に目を向けた後、踵を返した。
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