9 / 115
「宿主」
しおりを挟む月夜の中、隼人は五感を研ぎ澄ませながら、戦闘員達と暗闇の森を進んでいた。いつどこから敵が現れるか分からない。
風で揺れる草木の音と皆の息遣いのみが聞こえる闇の中。隼人は周囲を警戒しつつも内心、闘争心がメラメラと湧いていた。
忌獣を討伐した事で火がついたのだ。もっとたくさん殺してやりたい。彼の中にあるのはそれだけだ。
しばらく進んでいると月明かりに照らされた古びた建物があった。建物の倒壊はしておらず、壁の塗料が雨風で剥がれているぐらいである。
そして、その周りには忌獣が彷徨いている。
「偵察隊の情報によれば、この廃墟が奴らのアジトらしい」
「俺を含めたA班は真正面から敵と交戦。B班はアジトに侵入して、敵を制圧してくれ」
「はい」
庭島の命令に隼人と結巳は頷いた。隼人は結巳と残りの戦闘員達と共にアジトへと向かっていく。
数秒後、銃声音とともに忌獣の雄叫びが森の中に響いた。
「早くいくぞ!」
隼人は結巳達とともにアジトに乗り込んだ。建物の中は閑散としており、いかにも廃墟らしい空気感が漂っていた。
「先人は俺達が見る。お前ら特待生は後方を警戒してくれ」
「了解しました」
戦闘員の指示に従い、隼人と結巳は後方に武器を構えて、警戒心を強めた。外では絶えず、忌獣の鳴き声と銃声が聞こえる。
静かな空気が漂うアジトの廊下を進みながら、隼人は現状について考えを巡らせていた。
「何か妙だ」
「何が」
「静かすぎる。ここまで忌獣がいるなら、森だけじゃなくて施設内にも忍び込ませていてもいいはずだ。ここまで来て忌獣が一体も出ない」
一つの拠点とはいえ、裏から侵入されても誰も来ない。警備があまりにも脆弱するのだ。
「つまり、うまくいきすぎている気がするって事」
「ああ」
単に警備を外側に集中させているだけなのか。もしくは別の存在に任せているのか。
「はは。もし忌獣以外で任せられるとしたらそ」
戦闘員が何かを言い切ろうとした時、言葉が途切れた。彼の腹部を見ると細い布のようなものが貫いていたのだ。
布は廊下の奥から伸びており、何かがこちらに向かってくるのを隼人は感じた。
「がはっ!」
不意に布が抜けて戦闘員が吐血した後、地面に倒れた。他の戦闘員が彼の解放をする中、隼人は暗闇に意識を集中させる。
殺人犯の正体が明らかになった。全身に包帯を巻いた人間がいたのだ。
目と鼻以外を布で包んでいるが、ところどころ露出した逞しい筋肉から彼が男だと理解できた。
包帯の男が隼人の姿をじっと見ると、ケラケラと笑い始めた。
「ふん、見た感じ新入りっぽいな」
「ああ。あんた如き、新入りで十分なんでな」
隼人は相手を挑発するように軽口を叩いた。しかし、隼人はかすかに感じていた。相手から伝わる言葉にしようのない違和感。
「減らず口はそこまでだ!」
包帯の男が先ほどと同じく包帯を突き出してきた。隼人は聖滅具で裁き切りながら、前進していく。
「なっ! このガキ早い!」
「はあ!」
隼人は刀身を叩き付けようとした時、男が何重にも重ねた包帯に防がれた。しかし、勢いが勝ったのか僅かに相手の胸元を斬りつけた。
「いてええ!」
男が大げさに叫び声を上げる。しかし、それと同時に先ほど斬りつけた胸元部分に外傷がじわじわと再生していく。
「さっきの傷が癒えていく! まさか宿主!」
結巳が驚愕したような様子で口にした。隼人はその呼称を祖父から聞いた事があった。忌獣の血液や細胞を宿した人間が『鳥籠』には大勢いて、それらが『宿主』と呼ばれているのだ。
「その通り! 忌獣の細胞が体に適合した事により俺は人間を超越した。偉大なる迦楼羅様に忠義を尽くすためにな!」
男が舌で前歯を舐めながら、悪意に満ちた笑みを浮かべた。
「松阪くん! そいつを殺さないで! 本部で情報を吐き出させるために必要だ!」
「そんなことさせるかよ!お前ら!」
男が空に向かって叫ぶと、近くの森が激しく揺れた。忌獣がこの建物に近づいてきているのだ。
「グギャアアアアアアアアア!」
「ブオオオオオオオオ!」
結巳が辺りに注意すると、森から姿を現した二体の怪物がアジトの窓を突き破り、彼女の前に現れた。
「ここは私が相手をするわ! あなたはその包帯の男を!」
「了解!」
隼人は包帯の男に刀身を向けた。この争いを終わらせるために。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜
SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー
魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。
「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。
<第一章 「誘い」>
粗筋
余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。
「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。
ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー
「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ!
そこで彼らを待ち受けていたものとは……
※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。
※SFジャンルですが殆ど空想科学です。
※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。
※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中
※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。
異世界の剣聖女子
みくもっち
ファンタジー
(時代劇マニアということを除き)ごく普通の女子高生、羽鳴由佳は登校中、異世界に飛ばされる。
その世界に飛ばされた人間【願望者】は、現実世界での願望どうりの姿や能力を発揮させることができた。
ただし万能というわけではない。
心の奥で『こんなことあるわけない』という想いの力も同時に働くために、無限や無敵、不死身といったスキルは発動できない。
また、力を使いこなすにはその世界の住人に広く【認識】される必要がある。
異世界で他の【願望者】や魔物との戦いに巻き込まれながら由佳は剣をふるう。
時代劇の見よう見まね技と認識の力を駆使して。
バトル多め。ギャグあり、シリアスあり、パロディーもりだくさん。
テンポの早い、非テンプレ異世界ファンタジー!
*素敵な表紙イラストは、朱シオさんからです。@akasiosio
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる