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商いの町 イルヤンカ
大商人カネナラダス①
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「一体なんの騒ぎかな。さっきから随分と騒々しい」
ロビーの奥、大きな階段をわざとらしく大きな足音を立てて降りてくる恰幅のいい男が、張り詰めた空気を打ち消すように現れた。マスラを始めとするカウンター内の人間が一斉に頭を深々と下げる。冒険者の中にも何人かは同様に頭を下げて男を迎え入れた。
「旦那様、申し訳ございません。今日登録しに来た中に一人、魔漢が居りましたため少々トラブルが」
「フゥン……魔漢というのは?」
「そこの黒てるてる坊主がそうです」
黒てるてる坊主。男がこちらを見る目は完全に、品定めをする時のそれだった。パン、と手を一つ叩いた瞬間、オレの手はローブの前合わせを自分から開け広げた。
「えっ……えっ……?」
心もとない装備だけを身に付けた身体が衆目に晒される。男は身体を舐めるような視線で上から下までを間近に眺め、淫紋を指先で撫でながら呪文を唱え始めた。淫紋が活性化する時のあの恐ろしい熱感がじわじわと高まっていくのに対し、何も抵抗が出来ない。いつものように諦めから受け入れてしまうといった悪癖によるものではなく、文字通り、自分の意思では指一本動かせないのだ。
「やめて……やだ……ひっ……んん……」
もはやここまでの流れである程度覚悟はしていた事もあり、オレは固く目を瞑って耐えていた。男の手はくすぐるように全身を撫で始め、その刺激に身体が勝手に反応するたびに機嫌良さそうに口の端を吊り上げる。
「……沈黙、解呪」
ラブリエルの呪文で、旦那様と呼ばれた男の声が止んだ。どうやら洗脳の魔法をかけられていたらしい。唐突に身体が自由になり、バランスを崩しそうになったのをヒルトが支える。ラブリエルが男から庇うように間に立ちはだかった。
「……っは……あ、ありがと……」
礼を言いながらラブリエルの顔を見上げると、その横顔は、一番最初の、あの悪魔的な残酷さを持つ時の、身の毛もよだつ恐ろしい顔をしていた。
「ご、ごめんなさい……」
「うるっっっさい!!!!!ちょっと予定変更しますよ!座標400、転移!」
ロビーの奥、大きな階段をわざとらしく大きな足音を立てて降りてくる恰幅のいい男が、張り詰めた空気を打ち消すように現れた。マスラを始めとするカウンター内の人間が一斉に頭を深々と下げる。冒険者の中にも何人かは同様に頭を下げて男を迎え入れた。
「旦那様、申し訳ございません。今日登録しに来た中に一人、魔漢が居りましたため少々トラブルが」
「フゥン……魔漢というのは?」
「そこの黒てるてる坊主がそうです」
黒てるてる坊主。男がこちらを見る目は完全に、品定めをする時のそれだった。パン、と手を一つ叩いた瞬間、オレの手はローブの前合わせを自分から開け広げた。
「えっ……えっ……?」
心もとない装備だけを身に付けた身体が衆目に晒される。男は身体を舐めるような視線で上から下までを間近に眺め、淫紋を指先で撫でながら呪文を唱え始めた。淫紋が活性化する時のあの恐ろしい熱感がじわじわと高まっていくのに対し、何も抵抗が出来ない。いつものように諦めから受け入れてしまうといった悪癖によるものではなく、文字通り、自分の意思では指一本動かせないのだ。
「やめて……やだ……ひっ……んん……」
もはやここまでの流れである程度覚悟はしていた事もあり、オレは固く目を瞑って耐えていた。男の手はくすぐるように全身を撫で始め、その刺激に身体が勝手に反応するたびに機嫌良さそうに口の端を吊り上げる。
「……沈黙、解呪」
ラブリエルの呪文で、旦那様と呼ばれた男の声が止んだ。どうやら洗脳の魔法をかけられていたらしい。唐突に身体が自由になり、バランスを崩しそうになったのをヒルトが支える。ラブリエルが男から庇うように間に立ちはだかった。
「……っは……あ、ありがと……」
礼を言いながらラブリエルの顔を見上げると、その横顔は、一番最初の、あの悪魔的な残酷さを持つ時の、身の毛もよだつ恐ろしい顔をしていた。
「ご、ごめんなさい……」
「うるっっっさい!!!!!ちょっと予定変更しますよ!座標400、転移!」
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