36 / 49
テホム街道
VSレッドワーム⑥
しおりを挟む
翌朝。というより昼過ぎ。3人川の字の中心で眠っているせいで身動きが取れないままぼんやりと昨日の声の主について考えていた。ヒルトの声に似ていたが、オレは声の聞き分けが苦手だ。ましてあの時点でヒルトは死んでいたのだ。となったら幻聴か何かであると考えるのが自然だが、それにしてはやけに痛いところを突かれた気分だった。
もはや思い出すのは無意味だと理解しているが、そうしない事が出来ない程度には、あの世界で生きていたのだと痛感する。助けを求められなかった理由もそれなりにあるが、それでも逃げるチャンスがあった事は否めない。ただし自分の身が置かれた世界の中では、助けを求めた後の想像を、すればするほど何もかもが不安で、踏み切れなかったのだ。
本当に、人生のうちに数回、手を差し伸べようとした人は確かにいたと思う。その手に気付かなかった幼少の自分はさておき、高校生や社会人になってからでも助けを求めていれば、もう少しまともに過ごせたかもしれないのにという後悔は何十回としていた。その中に、『王子様のような誰かがいつか拐いに来てくれないか』という他人任せな気持ちがなかったのかというと否定はしきれない。配管工でも義賊でもいい。いや拐うとしたら大王や大将軍だろうか。為政者は悪役に抜擢されやすいものだ。ともかく、自分の意志ではないという体裁さえ整えばそれでいいと思っていた。
そう考えると、あの場で死んで異世界転生となったのは、平々凡々なメンヘラの受け顔モブ男としては最善のエンディングだったのかもしれない。トラックのヘッドライトに煌々と照らされて、どこか胸を撫で下ろした自分が、いたような気がする。
「おはようございます……どうかしましたか?」
「んぇ、ああ、おはよう……いや、ちょっと早く目が覚めただけ」
目を覚ましたヒルトがいつの間にかこちらを見ていた。その目はレッドワームの腹の中で見た時とは別人にも、同一人物とも見える不思議な遊色をしている。
もはや思い出すのは無意味だと理解しているが、そうしない事が出来ない程度には、あの世界で生きていたのだと痛感する。助けを求められなかった理由もそれなりにあるが、それでも逃げるチャンスがあった事は否めない。ただし自分の身が置かれた世界の中では、助けを求めた後の想像を、すればするほど何もかもが不安で、踏み切れなかったのだ。
本当に、人生のうちに数回、手を差し伸べようとした人は確かにいたと思う。その手に気付かなかった幼少の自分はさておき、高校生や社会人になってからでも助けを求めていれば、もう少しまともに過ごせたかもしれないのにという後悔は何十回としていた。その中に、『王子様のような誰かがいつか拐いに来てくれないか』という他人任せな気持ちがなかったのかというと否定はしきれない。配管工でも義賊でもいい。いや拐うとしたら大王や大将軍だろうか。為政者は悪役に抜擢されやすいものだ。ともかく、自分の意志ではないという体裁さえ整えばそれでいいと思っていた。
そう考えると、あの場で死んで異世界転生となったのは、平々凡々なメンヘラの受け顔モブ男としては最善のエンディングだったのかもしれない。トラックのヘッドライトに煌々と照らされて、どこか胸を撫で下ろした自分が、いたような気がする。
「おはようございます……どうかしましたか?」
「んぇ、ああ、おはよう……いや、ちょっと早く目が覚めただけ」
目を覚ましたヒルトがいつの間にかこちらを見ていた。その目はレッドワームの腹の中で見た時とは別人にも、同一人物とも見える不思議な遊色をしている。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる