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いもうとの初恋
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side 華南
おにいちゃんの艶々の綺麗な黒髪は、美容院で綺麗にブローして貰った後の様にいつもサラサラで、私の赤毛に比べたらよっぽど乙女な髪の毛だった。
長めの前髪に、整った細い眉と切れ長の目。
なんて綺麗な顔をしているんだろう。
おにいちゃんに初めて会った瞬間、私は一目で恋に堕ちた。
中学一年の夏休み。
ママは私に、1つ年上の男の子がいる男の人と再婚すると宣言した。
(相談ではなく、夏休み最初の日に、8月1日から相手の家族の家に引っ越しますと言う、文字通りの宣言だった)
そして、忘れもしない8月1日の朝。
私の家のチャイムを鳴らして、引っ越しの手伝いにやって来たのが、私の新しいお兄ちゃんだった。
学校で一番の秀才で、部活は剣道をやっている。
身長は178センチ。
色白で細身だけど、私が一人じゃ持てない重い物も軽々と一人で運んでくれた。
時々、ふざけて私の頭を撫でてくれる。
いつも可愛いって言ってくれる。
時々、『寂しいなら添い寝してあげましょうか?』とか冗談を言って、私を笑わせようとしてくれる。
私はずっと、幸せだった。
おにいちゃんが好き過ぎて、もうおにいちゃんの居ない毎日なんて考えられやしない。
朝、目覚ましを止められない私の変わりに、私の部屋に来て、そっと目覚ましを止めてくれる。
「お寝坊な僕の妖精さん。朝ですよ」と起こしてくれる。それでも起きない私は、おにいちゃんに頭を撫でて起こして貰う。
一度だけ、それでも眠くて起きれなかったら鼻の頭を指先でこしょぐられた事がある。
(あり得ないぐらいこそばくて、飛び起きた)
トラウマになったので、以来、頭を撫で始めたら起きる様にしている。
まぁ、どのみちお陰で、起きると完全寝坊状態だけど……。
慌てて起きた後、顔を洗っている私の後ろで、おにいちゃんは私の髪を梳かして、三つ編みをしてくれる。
それで、寝坊のプラマイはゼロ。
朝ごはんも余裕。
優雅に朝ご飯を食べていると、おにいちゃんはデザートにドライフルーツの入ったヨーグルトを出してくれる。
美容と健康に良いからと、私の健康を気遣ってくれる。
わざわざ前日から、ドライフルーツをヨーグルトに浸していると言う手の込んだおにいちゃんの努力を私はちゃんと熟知している。
着替えの後、ちょっと襟が曲がってたりすると、綺麗に襟を直してくれる。
頬にパン屑付いてるって、私の頬から払ってくれる。
(ただ、その日の朝食はご飯だったのが気になるけれど
本当に私には勿体ない位の良いおにいちゃんだ。
でも、もしも願いがかなうなら、私はお兄ちゃんの恋人が良い。
将来、もしも結婚するなら、お兄ちゃんとしたい。
だって、私とおにいちゃんは結婚出来る関係なんだから。
「華南、どうしたんです浮かない顔して」
リビングで、おにいちゃんとおしゃべりしてたのに、私ったらおにいちゃんに好かれたいばっかりに、上の空だった。
しまった。今何の話をしていたかしら?
「ごめんなさい。おにいちゃんが、いつか結婚しちゃったら、私寂しいなって思って」
私達、親の再婚でたまたま兄弟になっただけで、血の繋がりがある訳じゃない。
でも、きっとお互い別々の人と結婚して、今みたいには暮らせなくなるんだろうな。
そう思うと悲しくて。
「馬鹿な華南」
おにいちゃんが大袈裟に笑う素振りで、プッと吹き出す真似をした。
それが子供扱いされているみたいで、私は腹が立った。
「おにいちゃん、酷い」
「ごめん、ごめん。でも、僕は他の人と結婚したりしませんよ」
(いやぁああ!! 絶対、結婚しそう。お兄ちゃんが学校でモテモテなの知ってるんだから!!)
それに、ご丁寧に追加で私を馬鹿って言った。
おにいちゃんの意地悪。
「馬鹿じゃないもん。おにいちゃん、いつか私がびっくりする様な綺麗な人連れて、結婚しますって言いに来そうだもん」
私がムキになってそう言った瞬間、おにいちゃんは私から顔を背けた。
黙り込んで固まるおにいちゃんに、私が首を傾げていると、私に背を向けたままお兄ちゃんは私に言った。
「変な事言わないで下さい。僕が華南の前に、結婚相手を連れてくる様な事はないですよ」
おにいちゃん、ちょっと怒ってる?
いつも優しい声で話すのに、暗い声。
まるでお葬式の時みたいだよ。
いもうとの私に寂しい想いさせないって、おにいちゃんモテるから、すぐに結婚相手見つかりそうなのに。
「私の為に結婚しないなんて駄目だよ。華南はおにいちゃんが幸せなら、それで良いから。怒らないで」
私の言葉に、おにいちゃんは突然ばっと私を振り返ると、物言いたげな表情で私を見つめて目を伏せ、席を立ってしまった。
そして、その日はそのまま部屋から出て来てくれなかった。
おにいちゃんの事、時々分からなくなってしまう。
私はただおにいちゃんが好きなだけなのに。
私は、おにいちゃんの事が好き。
でも、再婚で兄妹同士になった相手を好きになっちゃうなんてベタ過ぎて、誰にも打ち明けられないし、ましてや、おにいちゃんにバレて幻滅されて避けられたら、立ち直れないよ。
だから、内緒。
そう思って、私はずっとおにいちゃんに片想いを続けてきた。
明日は高校の入学式。
私は、新しい制服に袖を通してリビングに向かった。
一足早く、家族みんなに新しい制服を着た私の事を見て貰いたくて。
紺色のジャケットに白のシャツ。
朱色の紐をリボン結びしたお洒落な制服が気に入っていた。
山吹色のチェックのスカートに紺のハイソックス。ちょっと踵の高いローファー。
明日はこれを着て、お兄ちゃんと一緒に学校に行ける。
「華南ちゃん、よく似合ってるよ」
「本当。可愛いわ」
リビングに行くと、お父さんもお母さんが、笑顔で私を迎えてくれた。
お兄ちゃん、さっきまでいたのにな。
「お兄ちゃんは?」
「あぁ、さっきもう寝るって部屋に戻ったよ。さぁ、華南ちゃんももう休みなさい」
「そうよ、おやすみ。華南」
「はい」
私はがっかりしながら、部屋に戻った。
隣の部屋にいるのに、私の事、見て貰えないなんて。
早く着替えて寝た方が良いのは分かっていても、中々その気になれなかった。
大好きなお兄ちゃんに、私の制服姿見て欲しかったから。
おにいちゃんの艶々の綺麗な黒髪は、美容院で綺麗にブローして貰った後の様にいつもサラサラで、私の赤毛に比べたらよっぽど乙女な髪の毛だった。
長めの前髪に、整った細い眉と切れ長の目。
なんて綺麗な顔をしているんだろう。
おにいちゃんに初めて会った瞬間、私は一目で恋に堕ちた。
中学一年の夏休み。
ママは私に、1つ年上の男の子がいる男の人と再婚すると宣言した。
(相談ではなく、夏休み最初の日に、8月1日から相手の家族の家に引っ越しますと言う、文字通りの宣言だった)
そして、忘れもしない8月1日の朝。
私の家のチャイムを鳴らして、引っ越しの手伝いにやって来たのが、私の新しいお兄ちゃんだった。
学校で一番の秀才で、部活は剣道をやっている。
身長は178センチ。
色白で細身だけど、私が一人じゃ持てない重い物も軽々と一人で運んでくれた。
時々、ふざけて私の頭を撫でてくれる。
いつも可愛いって言ってくれる。
時々、『寂しいなら添い寝してあげましょうか?』とか冗談を言って、私を笑わせようとしてくれる。
私はずっと、幸せだった。
おにいちゃんが好き過ぎて、もうおにいちゃんの居ない毎日なんて考えられやしない。
朝、目覚ましを止められない私の変わりに、私の部屋に来て、そっと目覚ましを止めてくれる。
「お寝坊な僕の妖精さん。朝ですよ」と起こしてくれる。それでも起きない私は、おにいちゃんに頭を撫でて起こして貰う。
一度だけ、それでも眠くて起きれなかったら鼻の頭を指先でこしょぐられた事がある。
(あり得ないぐらいこそばくて、飛び起きた)
トラウマになったので、以来、頭を撫で始めたら起きる様にしている。
まぁ、どのみちお陰で、起きると完全寝坊状態だけど……。
慌てて起きた後、顔を洗っている私の後ろで、おにいちゃんは私の髪を梳かして、三つ編みをしてくれる。
それで、寝坊のプラマイはゼロ。
朝ごはんも余裕。
優雅に朝ご飯を食べていると、おにいちゃんはデザートにドライフルーツの入ったヨーグルトを出してくれる。
美容と健康に良いからと、私の健康を気遣ってくれる。
わざわざ前日から、ドライフルーツをヨーグルトに浸していると言う手の込んだおにいちゃんの努力を私はちゃんと熟知している。
着替えの後、ちょっと襟が曲がってたりすると、綺麗に襟を直してくれる。
頬にパン屑付いてるって、私の頬から払ってくれる。
(ただ、その日の朝食はご飯だったのが気になるけれど
本当に私には勿体ない位の良いおにいちゃんだ。
でも、もしも願いがかなうなら、私はお兄ちゃんの恋人が良い。
将来、もしも結婚するなら、お兄ちゃんとしたい。
だって、私とおにいちゃんは結婚出来る関係なんだから。
「華南、どうしたんです浮かない顔して」
リビングで、おにいちゃんとおしゃべりしてたのに、私ったらおにいちゃんに好かれたいばっかりに、上の空だった。
しまった。今何の話をしていたかしら?
「ごめんなさい。おにいちゃんが、いつか結婚しちゃったら、私寂しいなって思って」
私達、親の再婚でたまたま兄弟になっただけで、血の繋がりがある訳じゃない。
でも、きっとお互い別々の人と結婚して、今みたいには暮らせなくなるんだろうな。
そう思うと悲しくて。
「馬鹿な華南」
おにいちゃんが大袈裟に笑う素振りで、プッと吹き出す真似をした。
それが子供扱いされているみたいで、私は腹が立った。
「おにいちゃん、酷い」
「ごめん、ごめん。でも、僕は他の人と結婚したりしませんよ」
(いやぁああ!! 絶対、結婚しそう。お兄ちゃんが学校でモテモテなの知ってるんだから!!)
それに、ご丁寧に追加で私を馬鹿って言った。
おにいちゃんの意地悪。
「馬鹿じゃないもん。おにいちゃん、いつか私がびっくりする様な綺麗な人連れて、結婚しますって言いに来そうだもん」
私がムキになってそう言った瞬間、おにいちゃんは私から顔を背けた。
黙り込んで固まるおにいちゃんに、私が首を傾げていると、私に背を向けたままお兄ちゃんは私に言った。
「変な事言わないで下さい。僕が華南の前に、結婚相手を連れてくる様な事はないですよ」
おにいちゃん、ちょっと怒ってる?
いつも優しい声で話すのに、暗い声。
まるでお葬式の時みたいだよ。
いもうとの私に寂しい想いさせないって、おにいちゃんモテるから、すぐに結婚相手見つかりそうなのに。
「私の為に結婚しないなんて駄目だよ。華南はおにいちゃんが幸せなら、それで良いから。怒らないで」
私の言葉に、おにいちゃんは突然ばっと私を振り返ると、物言いたげな表情で私を見つめて目を伏せ、席を立ってしまった。
そして、その日はそのまま部屋から出て来てくれなかった。
おにいちゃんの事、時々分からなくなってしまう。
私はただおにいちゃんが好きなだけなのに。
私は、おにいちゃんの事が好き。
でも、再婚で兄妹同士になった相手を好きになっちゃうなんてベタ過ぎて、誰にも打ち明けられないし、ましてや、おにいちゃんにバレて幻滅されて避けられたら、立ち直れないよ。
だから、内緒。
そう思って、私はずっとおにいちゃんに片想いを続けてきた。
明日は高校の入学式。
私は、新しい制服に袖を通してリビングに向かった。
一足早く、家族みんなに新しい制服を着た私の事を見て貰いたくて。
紺色のジャケットに白のシャツ。
朱色の紐をリボン結びしたお洒落な制服が気に入っていた。
山吹色のチェックのスカートに紺のハイソックス。ちょっと踵の高いローファー。
明日はこれを着て、お兄ちゃんと一緒に学校に行ける。
「華南ちゃん、よく似合ってるよ」
「本当。可愛いわ」
リビングに行くと、お父さんもお母さんが、笑顔で私を迎えてくれた。
お兄ちゃん、さっきまでいたのにな。
「お兄ちゃんは?」
「あぁ、さっきもう寝るって部屋に戻ったよ。さぁ、華南ちゃんももう休みなさい」
「そうよ、おやすみ。華南」
「はい」
私はがっかりしながら、部屋に戻った。
隣の部屋にいるのに、私の事、見て貰えないなんて。
早く着替えて寝た方が良いのは分かっていても、中々その気になれなかった。
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