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第4章 裏切りと脅迫と忘却

閑話休題 椛島 一也の『ぴえん』 前編<465>

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「麗、そいつ、もしかしてソウの従弟の何てったけ、あいつ…」



「カズヤよ」




照明が若干思っていたより薄暗かった。



でも、雅也の顔は、はっきり分かる。



これでは、女性客が単発で居つくはずだ。




店内のカウンター席を3席おきに3人の客が付いている。



俺と麗は一番手前のカウンター席に腰をおろした。




「注文は?」




「私はブラッディメアリ。 カズヤは、モヒート?」



「分かってんじゃん」




間もなく、二つのドリンクが提供され、取敢えず乾杯した。




「このトマトさ。ソウのとこから買い付けたトマトなんだ。 供給途絶えると店の売り上げにかかわるから、頑張れよ」




雅也の言葉に、俺はモヒートを噴き出した。




「あ、マジか?」



「マジだぜ。あのバカ、何やってんだ」




俺は、無言で俯いた。





後悔したって、人生にやり直しは利かない。



今更、もう5ヵ月も前になる、あの日の、あの出来事を、今更どうにもできない事は分かっている。



ソウは、警察。



ユキは、会社を結局退職したと風の噂で聞いた。



せめてもの救いは、雀の涙ながら、退職金が貰えただろうと言う事位だ。





「あのユキが、ソウがやってたバーをやってるの?」



「らしいよ。もう、何か、全部肩透かしで、イヤんなる」




そもそもだ。



ソウも、ユキも、麗も、俺より年上なんだ。



俺がどうにかしようとして、そもそも、どうにかなる相手じゃないのに。




ソウを止めようとした。



ユキの狂気に気付かなかった。



麗の心が欲しかった。




何一つ、自分の思い通りになった試しがない。




そう思うと恨めしくなってしまって、俺はそれを目の前の麗を見つめていた。




「何、恨めし気に見上げるの? 飲み過ぎた? ブランデーにしとく?」



「麗こそ、割と軽めのカクテルのモヒートしか飲んでねえ俺に、ブランデーを勧めるなんて、そっちこそ、酔ってんの」



「ん~ん。引っ掛かるか、試したの。 可愛いね、相変わらず」




コドモ扱いかよ。



全然、俺の事、男として見てねえな。



何で、そんな俺に、カラダ赦したんだよ。



マジ、意味分かんねえ。




「もう、帰る。俺、最近、寝てないから。……酒とか、久ぶり飲んだけど。 今日は眠ぃ」




本心だった。



あぁ、こんなにてっとり早く、睡魔を取り込めるんだったら、寝酒も良いかな。



何て思った。




「雅也、チェック」



「店長、又は、マスターって呼べ。 営業妨害だ」



「ごめんごめん」




今日は俺が奢るところなのに、颯爽とカードで会計を済ませ、店を出ると、雅也に呼ばせたタクシーが店外で待っていた。



本当、全然、俺、立ち打ち出来てねえ。



麗のペースだ。

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