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第2章 人の人生を変えるなら、人に人生変えられるかくご位してやがれ
水野 雪 前編<180>
しおりを挟む「彼女に張ったおされたんですか?」
「……だったら、悪い?」
「別に。どうしたら、そこまで綺麗に跡付くかは不思議ですけど。遅くなりましたが、ありがとうございました」
「駅から距離あるだろ? 歩いて帰るなよ」
「……私の事覚えてます?」
「ユキの彼女だろ?」
「いや、彼女ではないです。幼馴染です。付き合ってません。付き合った事もありません」
私が顔をしかめると、なぜかゴリラは私に笑いかけた。
「何がおかしいんですか?」
「基本、ユキと反応が似てて面白いなって。双子みたいだな」
「……そんな事言われるの初めてです」
他愛ない会話で、その日は家の前まで送って貰った。
翌月、ゴリラはユキを連れて、私の街から居なくなった。
それから、二人の消息を知るものは誰もいなかった。
みたいなノリにはならず、私はゴリラとユキがビルのテナントを借りて家を移った事を知った。
何でも、祖父の遺産が入ってそれを運転資金に、なぜかカフェバーを始める事にしたのだと言う。
ユキは、今の勤め先に近いその店舗の2階の居住スペースに家賃を払って間借りするのだと言う。
「良いな。一人暮らし」
「ユキも住む? 一部屋空いてるよ。ここ、二人で住むには広いし、家賃手伝ってくれるなら大歓迎だよ」
ゴリラが居なきゃ、考えなくもない。
私は当時そう思った。
それから間もなく、ゴリラの開店した店で住み込みの大学生が入居して、3人でルームシェアしていた。
王冠を模したイラストで、CROWN(クラウン)という名前の店だった。
「あのさ、ユキ、ユキの従兄って植木屋さんの修行してたよね?」
「そうだよ。でも、ある日、その植木屋さんのオーナーが連れて行ってくれたジャスバーで飲んだコーヒーにハマって、ずっと、店をやりたかったんだって」
「植木屋さんから、バーの経営者に?」
「そうだよ。この物件、その植木屋さんのオーナーの物件で、格安で貸して貰える事になって、丁度、お金があったから」
それって、いくらだよ。
その額を私はいまだに知らないが、一応前のテナントもバーでほとんど居ぬきで入居したとはいえ、半端じゃない金額が必要だったとは思う。
ちなみにそれなりに繁盛していて、私も程なくファンになるほど居心地良かった。
主に、チョコレート、ナッツ、生ハムなどのフードメニューの他は、アルコールとコーヒーを出していて。
土曜日の午後だけ、コーヒータイムの営業もしていた。
「ご注文は?」
「チョコレートの盛り合わせとチョコレートの選りすぐりと本日のおすすめチョコレートとう~ん、テキーラ」
チョコレートの盛り合わせは、アーモンドチョコレートなどの比較的安めのチョコレート。
チョコレートの選りすぐりは、海外モノの、チョコレートにマカダミアやクルミ、ドライフルーツが入っていたりする高級チョコレート。
本日のおすすめチョコレートは、特別に仕入れたレアもののブランドチョコレートでゴデ〇バやジャン〇ールエ〇ァンとかのプラリネが提供される。
「テキーラ……?」
「あぁ、ショットで下さい」
私は、ゴリラの出したバーに最初面白半分で飲みに行ったのだが、見事にその店のセンスにハマってほぼ毎週通い詰める様になっていた。
「今日は何にする?」
「このお店のチョコレート全部、ドリンクは、テキーラで」
ユキは知らないと思うけど、私は初代クラウンのお店で頼んだメニューはチョコと生ハムとテキーラとマティーニとコーヒーだけだった。
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