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第2章 人の人生を変えるなら、人に人生変えられるかくご位してやがれ

CROWNは、その日開店5周年を迎えました。前編<99>

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「店長。宅急便で、胡蝶蘭が届いたんですけど。お祝いの札付きで」

「誰から?」

「冬野 総一郎って方からです。祝 5周年って書いてあります。おじい様ですか?」

「違うよ。そっか、覚えてたんだ」





センちゃんが玄関から大振りの胡蝶蘭の苗を持って戻って来た。



純白の花を満開にさせた三つに分かれてたわわに咲かせている。




「3万……、否、5」

「セイ、心の中でだけ、呟こうか。野暮だよ」

「ごめんなさい」

「俺、手伝って来るから」




冬野さんはそう言って、胡蝶蘭の苗を重そうに運び込むセンちゃんの元に向かった。

胡蝶蘭の苗に改めて目を凝らして思わず身構えた。

なぜなら、その胡蝶蘭の植木鉢に竹中さんのお店のロゴが入っていたからだった。



「お~い。こっちは俺からの祝いだ。折角だから、一番立派に育ったレモンの木にしてやったんだ。大事にしろよ」

「うわぁ、竹中さんありがとうございます。5周年記念当日まで店に飾って、後はベランダで育てますよ。本当、うれしいや」

「今、丁度3つ実がついてるが来年はもっとたくさん実がつくぞ」





あぁ、久しぶりだな。

お正月にうちに飲みに来て以来だわ。



「センちゃん、ごめん、ここにお代を」



私はお財布から泣きの5千円を取り出しテーブルに置いた。



「石崎さん、まだ1杯しか飲んでないじゃないですか。千円も飲んでませんよ」

「残りはツケで」

「先払いのツケなんて聞いた事ありません。 店長、石崎さん、急にもう帰るって」




困ったセンちゃんは、冬野さんにそう声をかけ、むろん傍らに居た竹中さんにもそれが聞こえ、冬野さんには「どうしたの?」って駆け寄って来られて理由を求められるし、竹中さんは私を見つけて、にやにや冬野さんの後ろで私に話しかけるタイミングを見計らっているし、とにかくテーブルの5千円札をおさいふにしまわされて、冬野さんが安心したところで竹中さんは私に言った。




「テンよりお前が張り切ってんだってな。ご苦労、ご苦労」

「竹中さん、お久しぶりです。でも、張り切ってはないです。私ただのお客さんですから」

「はあ? ちゃんと、この店に、一通りの料理を叩きこんだんだろう」

「違いますよ。たまたま流れでそうなっただけです」

「そうか、サバの水煮缶がそのまま皿で出てくる事がなくなったところから、俺は感動してたんだけどな」

「あんまり誰彼かまわず無茶振りするの良くないですよ」



恨めしそう見上げる私に竹中さんは言った。




「俺が調理場を借りてやろうと思ってたんだが、お前がいるなら、これで頼めるか?」



何ってこった。

佐賀の幻の日本酒、鍋島。

日本酒とは思えない柑橘に似た甘酸っぱい味わいと、ほのかに舌を触る炭酸、すっきりとしていながら蒸せ上がるのにヒヤリと来酔いの感じが堪らない、まさにザ冷酒。



「薄造り」



そう言ってサランラップの中でキッチンペーパーでぐるぐる巻きにされていた何かを取り出すと、大体想像はしていたのだが、死んだ魚でした(生きてたら怖い)。




「竹中さん。これ、クエ(高級料亭とかで重宝される高級魚)だよね?」

「骨のあらは、素揚げで。味付けは任せる」

「ここは料亭じゃないんですよ」

「石ちゃん、そう言わないで。竹中さん、一応この物件のオーナーだから」



そ、そうでした。




「冬野さん、お店入っても良いですか? 後、エプロンお借りしても」

「正直そうしてもらえると助かる。ごめん、魚が捌けない事はないけど、決して得意って程の腕前じゃないから」

「私も素人に毛が生えたレベルですから、あんま期待できませんよ」

「そんなの分かってる。二人とも、五十歩百歩ってところだ」




竹中さんの言葉に、冬野さんはすかさずその言葉への疑問を投げかけた。




「どっちが五十歩ですか?」

「お前が五十に決まってるだろ? 子供の頃から包丁握らせて叩き込んでんだからな。自惚れんなよ」



そう言って、竹中さんは大笑いした。

確かに中学から釣った魚の捌き方を強制的にやらされて来たっけ。そりゃ、下手でも月並みには出来る様になるよ。

まぁ、少しはリスペクトして貰えてここは嬉しいと思っておくか、何て考えながら、何とかクエの薄造りを仕上げて、ライムのスライスを彩りに添えた。



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