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第1章 シンデレラはガラスの靴をk点に向かって全力で投げた

シュガーレスパレード~甘くない行進~<16>

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「……お疲れ様、ありがと。キヲツケテカエッテネ」





冬野さんが放心しているのが悲しい位分かる。




「ブラッディメアリーとカシスウーロンとファジーネーブル」



「シャンディガフと何かお腹にたまるのない?」




カウンターとテーブル席から無情に寄せられるオーダー。



「……」




それに微動だにしない冬野さん。



面倒な事からは、避ける、逃げる、忘れるのだが、中途半端はきらいである。



私は、冬野さんの前にたち直して冬野さんの顔を覗き込んだ。




「冬野さん」



一瞬の間を要して、はっとする冬野さんに私は更に「今日は金曜日だから、ラストまで居ますから、ブラッディメアリーとファジーネーブルとシャンディガフ作って下さい」と続けて、お腹にたまるフードが欲しいと言う客に具体的にどんなものが食べたいか聞きに行った。



居残ることを決めた私に、冬野さんはこれ以上迷惑かけられないと難色を示した。



でも、また新しいお客さんやオーダーが入ったところで冬野さんは観念した。



ブラッディメアリーに必要不可欠なトマジュースの在庫が切れて急遽買い出しに行かなければならなくなったのも手伝ったのだろう。



その買い物を利用して、お腹にたまる料理に使いたい食材を買うことが出来てラッキーだった。




「お待たせしました。海老のミートソースとクリームのドリアです」




炊きたてのご飯にバターを溶かしてお皿に敷いた上に、千切りオニオンと舞茸にぶつ切り鳥ももも肉を炒めてクリームで煮込んだソースかけて、その上にミートソースを薄く敷いて、その上にチーズをとろけるチーズど粉チーズの順でふる。



すると、とろけるチーズは溶けてトロトロに。



粉チーズはサックリきつね色に香ばしく仕上がる。



焼いて硬くならない様に、最後に茹で海老を散らしたら出来上がり。




「すっごい、こんな海老ドリア。レストランでも見たことないよ」




まだ食べてないのに、良い歳してそうなサラリーマン風の三人組がいそいそとドリアを取り分け始めるのを尻目に隣のグループからも、海老ドリアのオーダーを受けてしまった。




意外と手間のかからないメニューなのだが、材料はせいぜいあと2つ分しかない。



冷凍ご飯を作りたいから多めに炊いて欲しいと言われて多めに炊いて良かった。




時刻は23時を過ぎていた。




閉店まであとひと頑張り。私は、海老ドリアのオーダーに取り掛かった。




「あれ、ポテトサラダがもうない」



私は、ベシャメルソース(クリームソース)を作る手を止めて冷蔵庫にかがむ冬野さんに声をかけた。




「そこの棚に置いてるチップスとコンソメ顆粒をお湯で溶いて、じゃがいもを小さくさいの目に切って2分半レンジでチンしてつぶすと時短になりますよ。後は粒マスタード大目て味付けしたら出来上がり。塩分薄め、辛み強めのポテトサラダ。所要時間は驚異の5分」




「本当?」



「はい。で、良ければですけど。それを適当な大きさに丸めて生ハムで包むと、綺麗な深紅のポテトサラダが出来ます。少しポテト少なめに包んで生ハムの余ったところを織り畳むと薔薇みたいに綺麗になるんですけど」




「石崎さん、大好き」




冷蔵庫を見つめたまま、そう言い放った冬野さんに、私はフライパンを掴み損ねてしまいそうだった。



「は!?」



「……え、今、俺何か言った」



冬野さんは突然立ち上がり、冷蔵庫をしめた。



私は、じわじわと湧いてくる疑念に肩をすくめた。




今、何時もは自分の事、僕って言うのに。



冬野さん、自分の事、俺って言ってた。



気のせいじゃ無いよね。



私の知らない冬野さんを見つけてしまった気がするのと、冗談でも、好きって言われて私は帰ってお祝いしようと心に決めた。





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