神色の魔法使い

門永直樹

文字の大きさ
上 下
12 / 38

孤児院の子供達 12

しおりを挟む
「精霊様……!魔法使いって?………痛ててっ……!えぇ……?!」


バートは突然、自分の存在しない足の指先に痛みを感じた。


無くした身体の痛みを感じる事は今までもあったが、こんなにはっきりと痛みを感じる事は無かった。

その痛みはまるで今、自分の右足が存在しているかのような痛みとなって差し込んでくるのだった。


そしてその痛みは他の子供達も同様だった。


「痛ててっ……」

「いたたたっ……」

「いちちちっ!」

「ど、どうしたのみんな!大丈夫?」

「だ、大丈夫です、シスター……。大丈夫なんですけど、こっちの無い足の方が急に痛くなって……」


バートは右足の膝下の所で、固く結んであるズボンをほどこうとした。


すると、精霊の息吹によって舞う雪のような光は、バートの右足に集まり、黄色く輝く魔法陣を描き出した。


「こ、これは……?!」


バートが驚いて顔を上げると、他の子供達の身体にも魔法陣が輝いていた。

前腕の無いブラウンは肘が輝き、目の見えないリサは顔全体が輝いた。

シスターと子供達がこの不思議な現象に目を合わせた時、その声は魔法陣から何重にも反響して聞こえた。


『……イエロークリエイト……』


どこかで聞き憶えのある優しい声だった。


その瞬間、魔法陣の光は直視できない程強く輝いた。
バートが目を細めて自分の足の魔法陣に目を向けると驚くべき事が起こっていた。


それは『再生』だった。


膝から下に二本の骨が徐々に伸びていき、それを追いかけるように無数の血管や神経が走ったかと思うと、筋肉が覆い皮膚へと見事に『再生』された。


「はっ……あっ……あしっ、俺の足が……!!!」


バートの足は指先まで見事に復元された。


何年振りに見る自分の右足に思わず両手で触れた。
暖かい本物の自分の足に触れると、自然と熱い涙が込み上げて来た。


「足だ……俺の足が……うぅ……!」

「腕だ……。お……俺の腕だ!腕だぁっ……!」

「まぶしい……。シスター、光が……色が見える」

「みんな……!あぁ……なんという事でしょう……!神様!このような奇跡を私達に!」


ブラウンとリサ、シスターの声にバートは顔を上げた。

はっとエマの方を慌てて振り返ると、エマも真っ直ぐバートを見つめてゆっくりと口を開いた。


「ちゃ……ん……、おにぃ………ちゃ……ん………、声が、出るよ……!」


大声で泣きながら抱き合うバートとエマ、互いに身体を寄せ合い涙するシスターと子供達の元に驚いた顔の村長がやって来た。


「……シスター……、これは一体……」


泣きながら祈るシスターが答える。


「村長さん……。神様です……、神様が私達に贈り物をくださったのです……」


精霊姫ドリュアスが満足気に微笑むとゆっくりと立ち上がった。


「確かに『ギフト』を渡したぞ幼子達よ……。ではわらわはこれで失礼するぞ……」

「せ……精霊様っ!あのっ……!」


バートが慌ててドリュアスに話しかける。


「……まだ何か用か?」

「あの……あの、俺達にこの『ギフト』を贈って下さったその魔法使い様に……せめて……せめてお礼が言いたいのですが……魔法使い様は他の精霊様なのでしょうか?」


バートの言葉にドリュアスは大きく息を吐き出しながら答える。


「魔力だけなら精霊どころか、いつか『魔王』にでもなれそうだが……あの者は一応人間じゃ。確か……人間の間ではそう、『神色の魔法使い』とか呼ばれておったかのぅ……」

「……! か……、神色の魔法使い様が……?! どうして俺達なんかに……」


驚いたバートは考え込んだ。


ようやく光に慣れたリサが、その美しい瞳をゆっくりと開いて言った。


「私……わかるよ……。さっき聞いた優しい声……」

「私も……。うん、憶えてる……」


エマとリサが目を合わせると二人の頬を大粒の涙が落ちた。


心からの笑顔がこぼれる嬉し涙だった。

二人が声を揃えてその名を呼んだ。


「「クレイグさんだよ……!」」



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

アタエバネ ~恵力学園一年五組の異能者達~

弧川ふき
ファンタジー
優秀な者が多い「恵力学園」に入学するため猛勉強した「形快晴己(かたがいはるき)」の手首の外側に、突如として、数字のように見える字が刻まれた羽根のマークが現れた。 それを隠して過ごす中、学内掲示板に『一年五組の全員は、4月27日の放課後、化学室へ』という張り紙を発見。 そこに行くと、五組の全員と、その担任の姿が。 「あなた達は天の使いによってたまたま選ばれた。強引だとは思うが協力してほしい」 そして差し出されたのは、一枚の紙。その名も、『を』の紙。 彼らの生活は一変する。 ※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・出来事などとは、一切関係ありません。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...