神色の魔法使い

門永直樹

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孤児院の子供達 7

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「クレイグさんっ!」


深い森を抜けてバートやエマ、他の子供達と合流するとバートが心配してくれていたのか声を上げて寄ってきた。


「帰ったか。今夜はシシ鍋だぞー」


ユリが大きな猪の腿肉を綺麗に解体しながら言った。


「おぉ、随分と大きかったんだな。何か手伝うか?」

「丁度終わった所だよ。村の者がほとんど運んでくれたからな」


聞けば村の者にも声を掛けて荷車で運んだらしい。


「そうか、それは皆も大変だっただろう?ご苦労様」


子供達の頭をポンポンと撫でると皆が「えへへっ」と可愛く笑った。バートも得意気だ。


「バートなんて腰が抜けてしばらく立てなかったんだよなー」


他の子供がそう言うと、真っ赤な顔でバートはふくれっ面をした。それを見てまた皆で笑うのだった。妹のエマも声を出さずニコニコと笑っている。


「そうかそうか。いや、怖かったと思うぞ。みんな無事で良かったな」


バートの肩を優しく叩いた。


「凄かったんだよ、クレイグさん!ユリさんの剣があのデカイ猪をスパッて真っ二つにしたんだ!」


バート達が興奮した顔でまくしたてると、ユリが解体用の短剣を拭きながら


「私の前をお肉が黙って通過するなんて見過ごせないからな」


唇をとがらせてユリが言ったので皆で顔を見合わせると、ゲラゲラと笑った。


「さぁ、じゃあ戻ろうか。後の肉は私のバッグに入れていこう」

「クレイグさん、そんなバッグにこんな大量の肉を入れるの?」


バートが不思議そうな顔でクレイグのバッグを見ている。

普通のバッグならば入る訳はない。

だが、クレイグのバッグは友人と一緒に作った魔道具で、バッグの底に魔法陣が描いてあり、それを安定化させる機構が組み込んである。

大概の物は入るように出来ているというマジックバッグだ。


「クレイグのバッグは特別なんだ。寒い時は私も思わず入る位だ」

「いや、入れた事ないだろ」


そんなユリとのやり取りを子供達と笑いながら、解体されたイノシシの肉や素材をバッグに入れていく。
どんどん入っていく様子に「スゲェー!」とバートは喜んでいた。





***





村に戻ると、村の広場に人が大勢集まっていた。
すると白髪で髭を生やした、村長と名乗る男性が声を掛けてきた。


「冒険者の方々!この度はありがとうございます!村を代表してお礼を申し上げます。冒険者組合からわざわざ来て頂いたにも関わらずご挨拶もしなかった事をお詫びさせてください」


そう言うと、村長と取り囲む村人達は深く頭を下げた。

クレイグとユリは目を合わせた。


「いや、私達は冒険者組合から来た訳ではないぞ。ただの旅の者だ。孤児院の子供達と一緒に薬草を取っていたら向こうから肉がやって来たのだ」


ユリはブレないなと感心しながらクレイグは補足する。


「偶然居合わせただけなんですよ。魔獣の討伐を冒険者組合に依頼していたのですか?」

「はい、実は依頼はもう一年も前に出したのですが……。そうだったんですか、私はてっきり組合からやっと来て下さったのだと思っておりました。貧乏な村ですので討伐の報酬をあまり出せなかったので……誰も来てくださらなかったのですよ」

「そうでしたか。では丁度良かったという訳ですね」


笑顔でそう言うと村長も頬をゆるませて答える。


「ありがとうございました。助かりました。これで安心してヤギや牛を放牧できます。それで報酬なのですが……。申し上げにくいのですが、うちの村ではこれだけしかご用意できません」


村長の後ろから、夫人と思われる女性が木の器に入ったお金を出してきた。そこには沢山の銅貨の山の上に小金貨が5枚。恐らく村の皆が少しずつ出し合ったのだろう。


「私達は依頼された訳ではないのでこれは受け取れません。孤児院で宿を貸して頂いただけで充分ですよ、村長さん」

「しかし、それでは……。え?あの……本当によろしいのですか?」


怪訝な顔で村長が顔色をうかがう。


「かまいませんよ。本当に偶然ですからね。それより、皆さんでイノシシの肉を分けましょうか」


村の人達に問いかけるように声を掛けると村人からワァッと歓声が上がる。


「本当にいいのか?」

「悪いなぁ、後で孤児院に野菜を持っていくよ」

「肉なんて久しぶりだよ!」


大きく解体してあったイノシシ肉をユリと二人で更に小さく解体して村人たちに配っていく。いつのまにか村人全員が行列を作って並んでいた。


「なんだかお祭りみたいだな!」

「うふふ、楽しいね!」


子供達にも手伝ってもらい、全ての肉を配り終える頃には夕方になろうとしていた。


「さぁ!イノシシ鍋にイノシシステーキだぁ!」


ユリが子供達に号令を掛けると、子供達も目を輝かせてユリに付いて孤児院に向かっていく。その後ろ姿を微笑ましく見送っていた。


「本当にありがとうございました。村にいる間はどうぞゆっくりして行ってください。後で家からお酒でも持っていきますよ」

「それはありがたい。甘えさせて頂きますので。では後ほど」


村長に挨拶をして孤児院に向かう。

孤児院の庭の大きな木の根本。
固くなった土を短剣を使って丁寧に掘り起こしていく。
一番深く掘った所にバッグから取り出した紫水晶を置いた。

その紫水晶を指でなぞるようにしながら魔法陣を描いていく。


「【シルバーヒール】」


クレイグが小さく唱える。

すると紫水晶が共鳴するように強く輝いた。その輝きは大木の根や周りの土にも浸潤していくようだった。


銀色の活性魔法。


動植物の細胞はもちろん、鉱物や無機物にも魔法陣を描く事でその物質を分子レベルで活性化させる。


紫水晶の上に根が付くように、バッグから取り出したカタビラ草を植え替えて土を被せていく。全てのカタビラ草を植えると魔力のせいかぼんやりと光っているように見える。


「これでよし……と」


膝や腕に付いた泥を払っていると、孤児院の中から大きな声でバートに呼ばれて顔を上げた。


「クレイグさん!鍋たべるよー!早く早くーっ!」

「はははっ、今行くよ」


子供の笑顔はやはり一番の国の宝だなと思いながら、クレイグも孤児院の中に入っていった。



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