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孤児院の子供達 2
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孤児院の中は外観からある程度想像した通り、ひどく痛みが進んでいた。
壁や床は有り合わせの木材を貼り付けて、補強の真似事のような事がしてあり、天井からの雨漏りを受ける為の桶が室内に何ヶ所も置かれていた。
この孤児院の経済状況は、とても潤っているとは言えないが、子供達が元気に騒いだりしているのは他の孤児院と変わらない。
クレイグ達が目に付いたのは、20人程年齢がバラバラな子供達がいる中で、そのほとんどの子供に、四肢のうちのどこかに欠損があった。
「冒険者さん、こんにちわ。バートから話は聞きましたよ、今夜の宿を探していらっしゃるのですか?」
奥の部屋から出てきたのは上品な物言いの女性だった。クレイグは突然の来訪の非礼を詫びた。
「突然にお邪魔して申し訳ない。旅の途中でこの霧雨に降られてしまいまして。できたら一晩の宿をお借りできたらと。もちろんお金はお支払い致します」
「そうでしたか。ここで良ければ遠慮なさらずに。あまりおもてなしはできませんが……どうぞ休んでいってください。私はこの孤児院のシスターです」
子供達のほうに目をやりながらシスターは言った。
「……驚かれたでしょう?」
「……えぇ。あ、私はクレイグといいます。彼女はユリ」
ユリもシスターに丁寧におじぎをした。
「おや?もしかしてユリさんは、エルフの方でしょうか?エルフの方なんてこの辺りでは珍しいんですよ。ユリ様からは何か……強い精霊様の輝きを感じるような気が致します」
ユリは一応『ハイエルフ』という種族で、街や村だけでなく王都でも珍しい黒髪のエルフだ。
腰まで伸びた美しく長い黒髪に、少ない口数と切れ長の目は相手に冷たい印象を与えるが、実際話してみるとそうでもない。
そのあまり尖っていない耳と、見た目から20代の人間族にしか見えないが、実際は250歳を軽く越えている。
エルフの特性というものだが、クレイグよりも随分と幼く見える。
「年寄りはいたわれ」などとたまに言っているが、見た目的に矛盾を感じるセリフである。
「お。よくわかったなシスター。精霊達もシスターに会えた事と雨宿りできた事を喜んでいるようだぞ」
ホントかよとクレイグは思いながらも、シスターはにこにこ笑っているのであえて何も言わない。
「ふふふ。それは良かったです。では、あちらの奥の部屋をご自由にお使い下さい。それとバートがクレイグさん達とお話をしたがっているのですがご迷惑ではありませんか?」
「ありがとうございます。何も迷惑な事はありません」
クレイグが返事をすると、気になっている事をユリは遠慮なくシスターに問いかける。
「なぁ、シスター。どうして子供達の手足は無くなったのだ?」
シスターも驚いた様子はなくユリの方に顔を向けて丁寧に答える。
「……戦争ですよ。この子供達はみんな戦争孤児なんです」
「戦争というと……五年前のか?」
「そうです。この子達は戦火の激しかったベスラの街で、住んでいた家だけでなく自分達の手や足を、家族も無くしてしまいました。それでも命を繋いだだけ運が良かったと言えるでしょう。元々はベスラの孤児院で他の子供達と暮らしていたのですが……」
シスターの腰元に、少女が甘えるように腕を回してひっつく。
少女の両目は火傷により癒着しているため、その目を見る事はできないが可愛らしい口元に微笑みを浮かべている。
その少女の髪を優しく撫でながらシスターは続ける。
「障害があるというだけで、大人からも迫害されていたんです。この子達には何の罪も無いんですけどね。すみません、こんな話を旅の方にしてしまって」
「いえ。そうでしたか」
シスターは目を伏せたまま軽く頭を下げた。
「もうすぐお食事にします。ご馳走は無いですが、今夜はゆっくりして下さいね」
「ありがとうございます」
クレイグは深く頭を下げて感謝の気持ちを伝える。
「ねぇ! 話は終わった? 聞きたい事があるんだ」
バートは、シスターの話が終わるのをいまかいまかと待っていたが、気持ちがはやるらしく勢いよく話しかけてくる。
「バート。王都の何が聞きたいんだ?」
ユリがバートに顔を近づけて、優しく問いかけるとバートは少し照れて顔を赤くしながら言った。
「王都にいる治療師様の事が知りたいんだ」
壁や床は有り合わせの木材を貼り付けて、補強の真似事のような事がしてあり、天井からの雨漏りを受ける為の桶が室内に何ヶ所も置かれていた。
この孤児院の経済状況は、とても潤っているとは言えないが、子供達が元気に騒いだりしているのは他の孤児院と変わらない。
クレイグ達が目に付いたのは、20人程年齢がバラバラな子供達がいる中で、そのほとんどの子供に、四肢のうちのどこかに欠損があった。
「冒険者さん、こんにちわ。バートから話は聞きましたよ、今夜の宿を探していらっしゃるのですか?」
奥の部屋から出てきたのは上品な物言いの女性だった。クレイグは突然の来訪の非礼を詫びた。
「突然にお邪魔して申し訳ない。旅の途中でこの霧雨に降られてしまいまして。できたら一晩の宿をお借りできたらと。もちろんお金はお支払い致します」
「そうでしたか。ここで良ければ遠慮なさらずに。あまりおもてなしはできませんが……どうぞ休んでいってください。私はこの孤児院のシスターです」
子供達のほうに目をやりながらシスターは言った。
「……驚かれたでしょう?」
「……えぇ。あ、私はクレイグといいます。彼女はユリ」
ユリもシスターに丁寧におじぎをした。
「おや?もしかしてユリさんは、エルフの方でしょうか?エルフの方なんてこの辺りでは珍しいんですよ。ユリ様からは何か……強い精霊様の輝きを感じるような気が致します」
ユリは一応『ハイエルフ』という種族で、街や村だけでなく王都でも珍しい黒髪のエルフだ。
腰まで伸びた美しく長い黒髪に、少ない口数と切れ長の目は相手に冷たい印象を与えるが、実際話してみるとそうでもない。
そのあまり尖っていない耳と、見た目から20代の人間族にしか見えないが、実際は250歳を軽く越えている。
エルフの特性というものだが、クレイグよりも随分と幼く見える。
「年寄りはいたわれ」などとたまに言っているが、見た目的に矛盾を感じるセリフである。
「お。よくわかったなシスター。精霊達もシスターに会えた事と雨宿りできた事を喜んでいるようだぞ」
ホントかよとクレイグは思いながらも、シスターはにこにこ笑っているのであえて何も言わない。
「ふふふ。それは良かったです。では、あちらの奥の部屋をご自由にお使い下さい。それとバートがクレイグさん達とお話をしたがっているのですがご迷惑ではありませんか?」
「ありがとうございます。何も迷惑な事はありません」
クレイグが返事をすると、気になっている事をユリは遠慮なくシスターに問いかける。
「なぁ、シスター。どうして子供達の手足は無くなったのだ?」
シスターも驚いた様子はなくユリの方に顔を向けて丁寧に答える。
「……戦争ですよ。この子供達はみんな戦争孤児なんです」
「戦争というと……五年前のか?」
「そうです。この子達は戦火の激しかったベスラの街で、住んでいた家だけでなく自分達の手や足を、家族も無くしてしまいました。それでも命を繋いだだけ運が良かったと言えるでしょう。元々はベスラの孤児院で他の子供達と暮らしていたのですが……」
シスターの腰元に、少女が甘えるように腕を回してひっつく。
少女の両目は火傷により癒着しているため、その目を見る事はできないが可愛らしい口元に微笑みを浮かべている。
その少女の髪を優しく撫でながらシスターは続ける。
「障害があるというだけで、大人からも迫害されていたんです。この子達には何の罪も無いんですけどね。すみません、こんな話を旅の方にしてしまって」
「いえ。そうでしたか」
シスターは目を伏せたまま軽く頭を下げた。
「もうすぐお食事にします。ご馳走は無いですが、今夜はゆっくりして下さいね」
「ありがとうございます」
クレイグは深く頭を下げて感謝の気持ちを伝える。
「ねぇ! 話は終わった? 聞きたい事があるんだ」
バートは、シスターの話が終わるのをいまかいまかと待っていたが、気持ちがはやるらしく勢いよく話しかけてくる。
「バート。王都の何が聞きたいんだ?」
ユリがバートに顔を近づけて、優しく問いかけるとバートは少し照れて顔を赤くしながら言った。
「王都にいる治療師様の事が知りたいんだ」
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