1 / 8
1・転生(ロゼ視点)
しおりを挟む
村のすぐそばの静かな森の中。
野苺を摘みに森に来ていた私は、小さな泉に映した自分の顔を見つめていた。
青い大きなリボンでハーフアップにした、淡い水色のストレートロングヘア。
この泉のように涼やかな青色の大きな瞳。
この透明感のある可憐な美少女は…。
自分の顔のはずなのに自分じゃないような。
泉の水面が音も無く揺れて、映っていた私の顔も歪む。
…思い出した。
この姿は私がプレイしていた乙女ゲーム『奇跡の泉』の主人公、ロゼ。
私、もしかして、乙女ゲームの世界に転生したの?
野苺いっぱいのバスケットを片手に、急いで家に帰った。
私の家は田舎の村の平凡な農家だ。
バスケットを母に渡し、自分の部屋に戻る。
姿見に写した自分の姿は、何度見ても間違いなくゲームの主人公、ロゼ。
顔だけじゃなく、服装も、ゲームの導入部分の立ち絵で見覚えのある紺のエプロンドレスだ。
乙女ゲーム『奇跡の泉』は、ある日聖女の力に目覚めた主人公が城に迎えられ、そこで出会った貴公子達と恋に落ち、彼と協力して国を守る、というシナリオのゲームだ。
自分の右手の甲を見ると、うっすらと花のようなアザが浮かんでいる。
このアザこそ聖女の証。
でも、ゲームのスチルに比べてずっと薄いような…?
ゲームが始まったら濃くなっていくのかしら。
私はベッドに腰かけた。
ゲームの世界に転生したってことは、元の世界の私は死んじゃったってことよね。
階段から落ちた記憶があるような…無いような…。
まあ、いいわ。
せっかくゲームのヒロインに転生したんだもん。
メイン攻略キャラの王子の妃になって、悠々自適に暮らすわよ!
…城からの迎えが来ない。
…なんで?
なんとなく、主人公である私が、この世界はゲームの世界だと気付けば、ゲームもスタートすると思っていた。
でも、あの日から一週間待っても、何の音沙汰も無い。
ゲームはいつ始まるの?
ゲームの内容をじっくり思い出してみても、『奇跡の泉』は作中が何月か、どの季節なのかの描写が無いゲームだった。
せめて季節くらい分かればどれくらい待てばいいのか分かるのに。
何か手掛かりはないかしら…?
そうだ。
私は近くの町へ向かった。
少し遠いけど、歩いて行ける範囲内では比較的栄えている町だ。
目指すは教会。
町の教会は古びてはいるけど、ステンドグラスを通して色付いた光が建物内を厳かに照らしていた。
ステンドグラスの絵はこの国の守護神の神話の一場面を描いたものだ。
我が国の守護神は巨大な魚の姿をした水の神。
丸みを帯びたその姿を眺めていると、奥の扉から、掃除道具を持った若いシスターが現れた。
「あら、こんにちは」
「こんにちは」
笑顔で挨拶されたので私も挨拶を返す。
そうだ、私はここにわざわざステンドグラスを見に来たんじゃない。
教会関係者に聞きたいことがあってきたんだ。
「何か御用でしょうか?神父様は本日、出かけているのですが…」
え、神父いないの?
うーん…。
私は目の前にいるシスターを見た。
この人で分かることなのかな?
それ以前に、ただの村娘に教えてもらえるような情報なんだろうか?
まあ、せっかくここまで来たんだから聞くだけ聞いてみよう。
「あの、我が国の聖女様について知りたいのですが…」
「あぁ、聖女スルス様の事ですね」
「へ…?」
え?
スルス?
誰?
そんなキャラいなかったわよ?
「スルス、様って…どんな人、ですか?」
私の質問にシスターはスラスラ答えてくれた。
聖女スルス。
私達と同じ十代半ばの少女。
数年前からこの国の聖女を務めている。
聖女として城に迎えられたのと同時に、この国の第一王子ラック王子の婚約者となり、将来は王妃としてもこの国の為に尽くしてくれる予定になっている、そうだ。
…何、それ…。
ゲームでも、聖女である主人公が王子と結ばれ、将来の王妃となるというのがトゥルーエンドだ。
そしてゲーム内に聖女はロゼ1人だけ。
聖女はたった1人、唯一の存在。
他の聖女なんて候補すらいない。
そのスルスとやらに私のポジションが奪われてる…。
なんでそんな事態が起こってるの…?
少し考えると答えが出た。
そのスルスという子も私と同じく転生者。
おそらく名前すらないモブだったくせにゲーム知識を駆使してヒロインの座に収まったんだ。
「あの、大丈夫ですか?」
青ざめこわばった顔をしている私にシスターが声をかける。
「あ、えぇ、大丈夫です…じゃあ、お邪魔しました」
それだけ言うと私は足早に教会から出た。
そして急いで自分の村を目指す。
なんてこと…。
この世界のヒロインの座は私の物なのに、勝手に横取りされているなんて…。
どうすれば…。
自宅に帰り、自室のベッドに座り考える。
何とかして取り返さなきゃ。
ヒロインの座を。
野苺を摘みに森に来ていた私は、小さな泉に映した自分の顔を見つめていた。
青い大きなリボンでハーフアップにした、淡い水色のストレートロングヘア。
この泉のように涼やかな青色の大きな瞳。
この透明感のある可憐な美少女は…。
自分の顔のはずなのに自分じゃないような。
泉の水面が音も無く揺れて、映っていた私の顔も歪む。
…思い出した。
この姿は私がプレイしていた乙女ゲーム『奇跡の泉』の主人公、ロゼ。
私、もしかして、乙女ゲームの世界に転生したの?
野苺いっぱいのバスケットを片手に、急いで家に帰った。
私の家は田舎の村の平凡な農家だ。
バスケットを母に渡し、自分の部屋に戻る。
姿見に写した自分の姿は、何度見ても間違いなくゲームの主人公、ロゼ。
顔だけじゃなく、服装も、ゲームの導入部分の立ち絵で見覚えのある紺のエプロンドレスだ。
乙女ゲーム『奇跡の泉』は、ある日聖女の力に目覚めた主人公が城に迎えられ、そこで出会った貴公子達と恋に落ち、彼と協力して国を守る、というシナリオのゲームだ。
自分の右手の甲を見ると、うっすらと花のようなアザが浮かんでいる。
このアザこそ聖女の証。
でも、ゲームのスチルに比べてずっと薄いような…?
ゲームが始まったら濃くなっていくのかしら。
私はベッドに腰かけた。
ゲームの世界に転生したってことは、元の世界の私は死んじゃったってことよね。
階段から落ちた記憶があるような…無いような…。
まあ、いいわ。
せっかくゲームのヒロインに転生したんだもん。
メイン攻略キャラの王子の妃になって、悠々自適に暮らすわよ!
…城からの迎えが来ない。
…なんで?
なんとなく、主人公である私が、この世界はゲームの世界だと気付けば、ゲームもスタートすると思っていた。
でも、あの日から一週間待っても、何の音沙汰も無い。
ゲームはいつ始まるの?
ゲームの内容をじっくり思い出してみても、『奇跡の泉』は作中が何月か、どの季節なのかの描写が無いゲームだった。
せめて季節くらい分かればどれくらい待てばいいのか分かるのに。
何か手掛かりはないかしら…?
そうだ。
私は近くの町へ向かった。
少し遠いけど、歩いて行ける範囲内では比較的栄えている町だ。
目指すは教会。
町の教会は古びてはいるけど、ステンドグラスを通して色付いた光が建物内を厳かに照らしていた。
ステンドグラスの絵はこの国の守護神の神話の一場面を描いたものだ。
我が国の守護神は巨大な魚の姿をした水の神。
丸みを帯びたその姿を眺めていると、奥の扉から、掃除道具を持った若いシスターが現れた。
「あら、こんにちは」
「こんにちは」
笑顔で挨拶されたので私も挨拶を返す。
そうだ、私はここにわざわざステンドグラスを見に来たんじゃない。
教会関係者に聞きたいことがあってきたんだ。
「何か御用でしょうか?神父様は本日、出かけているのですが…」
え、神父いないの?
うーん…。
私は目の前にいるシスターを見た。
この人で分かることなのかな?
それ以前に、ただの村娘に教えてもらえるような情報なんだろうか?
まあ、せっかくここまで来たんだから聞くだけ聞いてみよう。
「あの、我が国の聖女様について知りたいのですが…」
「あぁ、聖女スルス様の事ですね」
「へ…?」
え?
スルス?
誰?
そんなキャラいなかったわよ?
「スルス、様って…どんな人、ですか?」
私の質問にシスターはスラスラ答えてくれた。
聖女スルス。
私達と同じ十代半ばの少女。
数年前からこの国の聖女を務めている。
聖女として城に迎えられたのと同時に、この国の第一王子ラック王子の婚約者となり、将来は王妃としてもこの国の為に尽くしてくれる予定になっている、そうだ。
…何、それ…。
ゲームでも、聖女である主人公が王子と結ばれ、将来の王妃となるというのがトゥルーエンドだ。
そしてゲーム内に聖女はロゼ1人だけ。
聖女はたった1人、唯一の存在。
他の聖女なんて候補すらいない。
そのスルスとやらに私のポジションが奪われてる…。
なんでそんな事態が起こってるの…?
少し考えると答えが出た。
そのスルスという子も私と同じく転生者。
おそらく名前すらないモブだったくせにゲーム知識を駆使してヒロインの座に収まったんだ。
「あの、大丈夫ですか?」
青ざめこわばった顔をしている私にシスターが声をかける。
「あ、えぇ、大丈夫です…じゃあ、お邪魔しました」
それだけ言うと私は足早に教会から出た。
そして急いで自分の村を目指す。
なんてこと…。
この世界のヒロインの座は私の物なのに、勝手に横取りされているなんて…。
どうすれば…。
自宅に帰り、自室のベッドに座り考える。
何とかして取り返さなきゃ。
ヒロインの座を。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
侯爵の孫娘は自身の正体を知らない
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
青い髪の少女の子を貴族が引き取りに来た。どうやら孫を探していた様子。だが候補は二人。一人は葡萄(えび)色の瞳のアイデラ、もう一人は青い瞳のイヴェット。
決め手になったのは、イヴェットが首から下げていたペンダントだった。けどそれ、さっき私が貸したら私のよ!
アイデラは前世の記憶を持っていたが、この世界が『女神がほほ笑んだのは』という小説だと気が付いたのは、この時だったのだ。
慌てて自分のだと主張するも、イヴェットが選ばれエインズワイス侯爵家へ引き取られて行く。そして、アイデラはアーロイズ子爵家に預けられ酷い扱いを受けるのだった――。
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる