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8・真実・レザール視点
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王子とロシェが婚約者になった時、もしも王子がロシェに優しければ、俺は身を引くつもりだった。
獣人の俺と、王子。
比べるまでもなく、王子と一緒になった方がロシェは幸せになれる。
そう思っていた。
でも…王子はロシェに辛く当たった。
その上、懇意の貴族から金や従属と引き換えに、魔石への魔力注入の依頼を聞き、大量の魔石に力を入れさせたり、例の石の鍵を制作させたりとこき使った。
そしてちゃんと言われたことをこなすロシェを労うこともしなかった。
王子のロシェへの態度は変わらなかった。
だから…もっぱら炎の魔法ばかり使っている俺の、もう1つのささやかな力、毒の魔法で王子を操り、この騒動を起こさせた。
この考えを思いついたのは、初めは防壁に力を注ぐ術しか使えなかったロシェが、魔石に魔力を注ぐ術を、新しく取得した時。
修行すれば新しい術を得ることができる。
それは、魔法の教育をきちんと受けていない俺には衝撃的なことだった。
ロシェや、城の図書館から本を借りて詳しく調べると、しっかりとしたイメージを浮かべ続けることで新しい術を得ることができるという。
もちろん、イメージはしっかりと、長時間集中して思い浮かべることが必要だし、何より、多くの魔力も要る。
でも、頭の中で強く思い浮かべるくらい、根性でどうとでもなる。
それに魔力に関しては、俺にはロシェがプレゼントくれた、身体能力と魔力を大きく引き上げてくれる魔石の腕輪があった。
元々俺が持っている毒の魔法は、生物の内臓機能を狂わせる毒のみ。
フッと息を吹きかけると、軽くて体調不良、強く魔力を込めれば死に至らしめる。
でも、他の毒の力を手に入れれば、ロシェと一緒に生き続ける道が開かれるのではないか。
そしてどんな毒が良いか考えた末に身に付けたのは―
人を興奮状態にする毒。
頭を煮えたぎらせ、深い思慮を阻害し、小さな不満から怒りを爆発させる。
幸いなことに城には、平民のロシェと獣人の俺を見下す王子の取り巻き達等の、人体実験にうってつけの人間が何人もいた。
そいつらで人体実験を何度も行い、そしてあの日。
ロシェに頼まれていた雑用に含まれていた、王子の確認が要る書類を提出に行った時。
新たな毒の息を静かに吹きかけ囁いた。
―将来、ロシェを娶ったら、あの子を幸せにしてくれますか?
―嫌なら、婚約を破棄しないといけませんね
―聖女に落ち度が無ければ、後で王子が悪し様に言われますよ
―聖女の方に落ち度があったと言うべきでしょうね
―でも、向こうに落ち度があったとしても、流石に聖女を死なせたら大問題
―あの塔に閉じ込めるのはいかがでしょう?
―世話係は汚らわしい獣人がお似合いです
その後王子は、ほぼ俺の理想通りに動いてくれた。
ロシェが殴られたのは俺としても予想外だったが…。
久し振りの城の自室のベットで、ロシェが眠りについたのを見届けてから、俺も自分の部屋に戻る。
この騒動で王子とロシェの婚約にはヒビが入った。
ロシェ本人も、王子との結婚は嫌だと言っていた。
それでもまだあいつとロシェを結婚させるといいうのなら…
あいつがまだロシェに辛く当たるのなら…
今度こそ、俺が元々持っていた毒を吹きかけてやろう。
幽閉の間の修行で、毒性はより強化されているはずだ。
俺は静かな城の廊下の暗がりに歩いて行った。
終わり
獣人の俺と、王子。
比べるまでもなく、王子と一緒になった方がロシェは幸せになれる。
そう思っていた。
でも…王子はロシェに辛く当たった。
その上、懇意の貴族から金や従属と引き換えに、魔石への魔力注入の依頼を聞き、大量の魔石に力を入れさせたり、例の石の鍵を制作させたりとこき使った。
そしてちゃんと言われたことをこなすロシェを労うこともしなかった。
王子のロシェへの態度は変わらなかった。
だから…もっぱら炎の魔法ばかり使っている俺の、もう1つのささやかな力、毒の魔法で王子を操り、この騒動を起こさせた。
この考えを思いついたのは、初めは防壁に力を注ぐ術しか使えなかったロシェが、魔石に魔力を注ぐ術を、新しく取得した時。
修行すれば新しい術を得ることができる。
それは、魔法の教育をきちんと受けていない俺には衝撃的なことだった。
ロシェや、城の図書館から本を借りて詳しく調べると、しっかりとしたイメージを浮かべ続けることで新しい術を得ることができるという。
もちろん、イメージはしっかりと、長時間集中して思い浮かべることが必要だし、何より、多くの魔力も要る。
でも、頭の中で強く思い浮かべるくらい、根性でどうとでもなる。
それに魔力に関しては、俺にはロシェがプレゼントくれた、身体能力と魔力を大きく引き上げてくれる魔石の腕輪があった。
元々俺が持っている毒の魔法は、生物の内臓機能を狂わせる毒のみ。
フッと息を吹きかけると、軽くて体調不良、強く魔力を込めれば死に至らしめる。
でも、他の毒の力を手に入れれば、ロシェと一緒に生き続ける道が開かれるのではないか。
そしてどんな毒が良いか考えた末に身に付けたのは―
人を興奮状態にする毒。
頭を煮えたぎらせ、深い思慮を阻害し、小さな不満から怒りを爆発させる。
幸いなことに城には、平民のロシェと獣人の俺を見下す王子の取り巻き達等の、人体実験にうってつけの人間が何人もいた。
そいつらで人体実験を何度も行い、そしてあの日。
ロシェに頼まれていた雑用に含まれていた、王子の確認が要る書類を提出に行った時。
新たな毒の息を静かに吹きかけ囁いた。
―将来、ロシェを娶ったら、あの子を幸せにしてくれますか?
―嫌なら、婚約を破棄しないといけませんね
―聖女に落ち度が無ければ、後で王子が悪し様に言われますよ
―聖女の方に落ち度があったと言うべきでしょうね
―でも、向こうに落ち度があったとしても、流石に聖女を死なせたら大問題
―あの塔に閉じ込めるのはいかがでしょう?
―世話係は汚らわしい獣人がお似合いです
その後王子は、ほぼ俺の理想通りに動いてくれた。
ロシェが殴られたのは俺としても予想外だったが…。
久し振りの城の自室のベットで、ロシェが眠りについたのを見届けてから、俺も自分の部屋に戻る。
この騒動で王子とロシェの婚約にはヒビが入った。
ロシェ本人も、王子との結婚は嫌だと言っていた。
それでもまだあいつとロシェを結婚させるといいうのなら…
あいつがまだロシェに辛く当たるのなら…
今度こそ、俺が元々持っていた毒を吹きかけてやろう。
幽閉の間の修行で、毒性はより強化されているはずだ。
俺は静かな城の廊下の暗がりに歩いて行った。
終わり
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