上 下
6 / 8

6・忌々しい聖女・ヴィペール視点

しおりを挟む
クソッ!クソッ!クソッ!
城に帰ってきた俺の怒りは爆発していた。
わざわざこの俺が出向いてやったというのに出てこないなんて。
何様のつもりだ!
塔の入り口の向こうに何か重い物でも置いたようで、内開きの鉄の扉はビクとも動かなかった。
せっかく塔から出してやっても良いと思ったのに!
会議の為に城の一室に集まった大臣達は、どいつもこいつも苦い表情をしている。
「…聖女様は?」
おずおずと大臣の一人が俺に尋ねる。
俺は機嫌の悪さを隠さず答えた。
「出てこなかった。返事さえしなかった。…あの無礼者め!」
俺の答えを聞いて数人の大臣が大きなため息を吐く。
あまつさえ、俺に批判的な視線を向けるものまでいた。
まるで俺が何か失敗をしたかのように。
「なんだ!何か文句があるなら言ってみろ!」
俺に無礼な目線を送った者たちを怒鳴りつける。
すると、大臣達は口を開いた。
「…では申し上げますが、ここ数日城の東側の森に出現するモンスターの数がかなり増えています。
原因は、城を囲む塀に注がれていた地母神様の力が、無くなりかけている事だと思われます。」
「兵士に討伐に行かせるにしても、魔石の魔力注入ができるロシェ様がいないため、全力で戦えません」
「いざという時の為に予備の魔石や特別な武器を保管している部屋も、ロシェ様の力で施錠されているので開けません」
「ぐっ…」
大臣達の言葉に口をつぐむ。
「ヴィペール王子…こうなることは少し考えれば分かったでしょう…。
なぜ、私達に相談することも無く、ロシェ様を幽閉などされたのですか?」
「え…?」
なぜ…?
なぜって・・・・?
実りの聖女のように目に見える成果もないから、いてもいなくても変わらないと思ったから。
幼馴染だからと、トカゲの獣人なんかを従者として城に引き込んだから。
聖女とはいえ、平民のしかも孤児が城に住み着いているから。
兄上の婚約者は公爵令嬢のソルテール嬢なのに、あいつがいるせいで俺は平民なんかと結婚しなくてはならないから。
でもそれは前からそうだったことだ。
数年間、我慢できていたことだ。
なぜいきなり我慢できなくなったんだ?
なぜいきなり怒りが爆発したんだ?
あれ…分からない…。
疑問が浮かんだが、その疑問に向き合う前に再び怒りのマグマに吞み込まれる。
「う…うるさい!黙れ!どうでもいいからもうお前たちでどうにかしろ!俺は塔に出向いてやった!できることはやった!もう知らぬ!」
そう叫んで俺は部屋から飛び出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~

ノ木瀬 優
恋愛
 卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。 「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」  あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。  思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。  設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。    R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。

【完結】大聖女は無能と蔑まれて追放される〜殿下、1%まで力を封じよと命令したことをお忘れですか?隣国の王子と婚約しましたので、もう戻りません

冬月光輝
恋愛
「稀代の大聖女が聞いて呆れる。フィアナ・イースフィル、君はこの国の聖女に相応しくない。職務怠慢の罪は重い。無能者には国を出ていってもらう。当然、君との婚約は破棄する」 アウゼルム王国の第二王子ユリアンは聖女フィアナに婚約破棄と国家追放の刑を言い渡す。 フィアナは侯爵家の令嬢だったが、両親を亡くしてからは教会に預けられて類稀なる魔法の才能を開花させて、その力は大聖女級だと教皇からお墨付きを貰うほどだった。 そんな彼女は無能者だと追放されるのは不満だった。 なぜなら―― 「君が力を振るうと他国に狙われるし、それから守るための予算を割くのも勿体ない。明日からは能力を1%に抑えて出来るだけ働くな」 何を隠そう。フィアナに力を封印しろと命じたのはユリアンだったのだ。 彼はジェーンという国一番の美貌を持つ魔女に夢中になり、婚約者であるフィアナが邪魔になった。そして、自らが命じたことも忘れて彼女を糾弾したのである。 国家追放されてもフィアナは全く不自由しなかった。 「君の父親は命の恩人なんだ。私と婚約してその力を我が国の繁栄のために存分に振るってほしい」 隣国の王子、ローレンスは追放されたフィアナをすぐさま迎え入れ、彼女と婚約する。 一方、大聖女級の力を持つといわれる彼女を手放したことがバレてユリアンは国王陛下から大叱責を食らうことになっていた。

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

無能だと言われ続けた聖女は、自らを封印することにしました

天宮有
恋愛
国を守る聖女として城に住んでいた私フィーレは、元平民ということもあり蔑まれていた。 伝統だから城に置いているだけだと、国が平和になったことで国王や王子は私の存在が不愉快らしい。 無能だと何度も言われ続けて……私は本当に不必要なのではないかと思い始める。 そうだ――自らを封印することで、数年ぐらい眠ろう。 無能と蔑まれ、不必要と言われた私は私を封印すると、国に異変が起きようとしていた。

〖完結〗醜い聖女は婚約破棄され妹に婚約者を奪われました。美しさを取り戻してもいいですか?

藍川みいな
恋愛
聖女の力が強い家系、ミラー伯爵家長女として生まれたセリーナ。 セリーナは幼少の頃に魔女によって、容姿が醜くなる呪いをかけられていた。 あまりの醜さに婚約者はセリーナとの婚約を破棄し、妹ケイトリンと婚約するという…。 呪い…解いてもいいよね?

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。 失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。 そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……! 悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。

【4話完結】聖女に陥れられ婚約破棄・国外追放となりましたので出て行きます~そして私はほくそ笑む

リオール
恋愛
言いがかりともとれる事で王太子から婚約破棄・国外追放を言い渡された公爵令嬢。 悔しさを胸に立ち去ろうとした令嬢に聖女が言葉をかけるのだった。 そのとんでもない発言に、ショックを受ける公爵令嬢。 果たして最後にほくそ笑むのは誰なのか── ※全4話

【完結】婚約破棄にて奴隷生活から解放されたので、もう貴方の面倒は見ませんよ?

かのん
恋愛
 ℌot ランキング乗ることができました! ありがとうございます!  婚約相手から奴隷のような扱いを受けていた伯爵令嬢のミリー。第二王子の婚約破棄の流れで、大嫌いな婚約者のエレンから婚約破棄を言い渡される。  婚約者という奴隷生活からの解放に、ミリーは歓喜した。その上、憧れの存在であるトーマス公爵に助けられて~。  婚約破棄によって奴隷生活から解放されたミリーはもう、元婚約者の面倒はみません!  4月1日より毎日更新していきます。およそ、十何話で完結予定。内容はないので、それでも良い方は読んでいただけたら嬉しいです。   作者 かのん

処理中です...