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5・王子の訪問
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次の日。
今日は、レザールがちゃっかり買っておいてくれたボードゲームを2人ですることにした。
ゲームは私の優勢で進む。
でも、私は駒を次どう進めるかより、他のことを考えていた。
…そろそろ、言っても良いタイミングではないだろうか。
「…ねえ、レザール」
「んー?」
「ヴィペール王子はなんでこんなことをしたのかしら?」
私が幽閉された日に口にした疑問を再び言う。
駒をもてあそんでいたレザールの指先がピタリと止まった。
この塔に幽閉された日からずっと考えていた。
王子は平民出身の私のことを嫌っていたけど、私の聖女としての有用性は認めていたはず。
なのになぜ私を塔に閉じ込めたのだろうか。
「…あいつが何考えてるかは分からない」
しばらく考えていたレザールが口を開いた。
「ただ、国王や兄王子が帰ってくるまで、ロシェはこの塔の中にいた方が良いと思う」
「そりゃそうよね。逃げる気なんて無いわ」
「そうじゃなくて」
レザールは険しい顔で続けた。
「ヴィペール王子に何されるか分からないから、この塔に籠城してた方が安全だってことだよ」
「え…?」
何されるか分からないって…?
「どうして…?」
「だって、あいつなんだか様子も行動もおかしかっただろ。
聖女であるロシェを殴ったり、ましてや閉じ込めるなんて正気じゃない。
それに国王も兄王子も出かけてる今、この城にいる最高権力者はヴィペール王子だ。
あいつに何があったのか、何考えてるのかは分からないけど、ロシェが幽閉以上のことをされないとも限らない。
だから塔の中にいた方が安全だと思うぞ」
幽閉以上のこと、と聞いて背筋が冷たくなる。
でも、一理ある。
人前で平手打ちされたんだもん。
お忍びでここにやってきて、骨折するような暴行を加えられる、なんてこともありえなくもない気がする。
もしヴィペール王子が塔に来ても、国王陛下やペトル王子が帰ってくるまでは、この塔に籠城してた方が身のためかもしれない。
でも、籠城すると言ってもヴィペール王子はこの塔の鍵を持っている。
ここに入りたければいつでも入ってこれる。
ならば―
「…この塔の扉、内側から石板で塞いでおいた方が良いんじゃないかしら」
「そうだな」
私のアイディアに、レザールも頷いた。
まあ王子がわざわざここに来る用事も無いだろうけど。
結局、王子がなぜこんなことをしたのかは見当もつかず、私の不安と疑惑が深まっただけだ。
「…なあ、あいつと仲直りしたい、とか思ってるか?」
「え?」
モヤモヤしていた私に、レザールが不安そうな顔で、別の話を切り出した。
「ロシェとあいつは一応婚約者だっただろ?
国王達が帰ってきたら、話し合って、あいつと仲直りして、また婚約者に戻りたいって思ってるか?」
レザールは苦々しそうにゆっくり問いかけてくる。
そんな質問答えは決まってる。
「仲直りも何も、私と王子が仲良かったことなんて無いよ。もちろん婚約者にだって戻りたくない」
私は即答した。
私の答えにレザールはパッと明るくなる。
「ほ、本当か?」
「うん」
「そうか…」
そうよ、私はあんな殴ってくるような王子とは結婚したくない。
だって、私が本当に好きなのは―
…いえ、こんな時に止めておこう。
この塔から出て、日常が戻ってからにしよう。
次の日。
朝ご飯の片付けをしていると、上の階で洗濯物を干していたレザールが慌てて駆け下りてきた。
「ロシェ!ヴィペール王子がこっちに向かってきてる!」
「えっ!?」
急いで窓から外を覗くと、数人の兵士を引き連れて、肩を怒らせながら王子がこちらに早足で向かってきていた。
こんな朝早くから何の用?
いえ、それより何より、遠目でも怒っているのが分かる。
なんで?なんで?塔から出ずに大人しくしてるのに!
「ロシェ!窓と扉を閉めろ!」
「う、うん!」
私は石の壁に手をつき魔力を注ぎ込む。
光取りの窓と、昨日早速作った、厚い石板でできた中扉を閉じた。
今まで朝日で眩しかった塔の中が暗闇に包まれる。
その場から動けずにいると
―ドン!…ドン!…ドン!…ドン!ドン!…
外から扉を叩く音が塔に響き始めた。
「―!―!」
なんて言ってるかは分からないけど、ヴィペール王子の怒鳴り声がうっすら聞こえる。
レザールが手のひらの上に小さな火をボッと出してくれた。
小さな火に灯されたお互いの顔を見合わせ、私達は扉に近付いた。
この石板の中扉を、あの数人の兵士で破壊するのは難しいだろう。
扉の前で様子を窺うくらいは大丈夫なはず。
「―!―!」
うーん…扉の前まで来ても、なんて言ってるのかは聞こえない。
でも…
昨日レザールが言ったセリフを思い出す。
『何されるか分からない』
殴られるどころじゃないことをされたらどうしよう…。
「…このままやり過ごしましょう」
万が一にも外にいる王子達に聞こえないように、レザールに小声で囁く。
レザールもコクリとうなづいた。
それからしばらくの間、王子たちは外からドアを叩いていたけれど、ついに諦めて帰ったようで、静かになった。
私達は2人でホッと安堵の息を吐く。
大丈夫。
あと数日で国王やソルテール様たちが帰ってくる。
それまでは、この塔に守ってもらおう。
今日は、レザールがちゃっかり買っておいてくれたボードゲームを2人ですることにした。
ゲームは私の優勢で進む。
でも、私は駒を次どう進めるかより、他のことを考えていた。
…そろそろ、言っても良いタイミングではないだろうか。
「…ねえ、レザール」
「んー?」
「ヴィペール王子はなんでこんなことをしたのかしら?」
私が幽閉された日に口にした疑問を再び言う。
駒をもてあそんでいたレザールの指先がピタリと止まった。
この塔に幽閉された日からずっと考えていた。
王子は平民出身の私のことを嫌っていたけど、私の聖女としての有用性は認めていたはず。
なのになぜ私を塔に閉じ込めたのだろうか。
「…あいつが何考えてるかは分からない」
しばらく考えていたレザールが口を開いた。
「ただ、国王や兄王子が帰ってくるまで、ロシェはこの塔の中にいた方が良いと思う」
「そりゃそうよね。逃げる気なんて無いわ」
「そうじゃなくて」
レザールは険しい顔で続けた。
「ヴィペール王子に何されるか分からないから、この塔に籠城してた方が安全だってことだよ」
「え…?」
何されるか分からないって…?
「どうして…?」
「だって、あいつなんだか様子も行動もおかしかっただろ。
聖女であるロシェを殴ったり、ましてや閉じ込めるなんて正気じゃない。
それに国王も兄王子も出かけてる今、この城にいる最高権力者はヴィペール王子だ。
あいつに何があったのか、何考えてるのかは分からないけど、ロシェが幽閉以上のことをされないとも限らない。
だから塔の中にいた方が安全だと思うぞ」
幽閉以上のこと、と聞いて背筋が冷たくなる。
でも、一理ある。
人前で平手打ちされたんだもん。
お忍びでここにやってきて、骨折するような暴行を加えられる、なんてこともありえなくもない気がする。
もしヴィペール王子が塔に来ても、国王陛下やペトル王子が帰ってくるまでは、この塔に籠城してた方が身のためかもしれない。
でも、籠城すると言ってもヴィペール王子はこの塔の鍵を持っている。
ここに入りたければいつでも入ってこれる。
ならば―
「…この塔の扉、内側から石板で塞いでおいた方が良いんじゃないかしら」
「そうだな」
私のアイディアに、レザールも頷いた。
まあ王子がわざわざここに来る用事も無いだろうけど。
結局、王子がなぜこんなことをしたのかは見当もつかず、私の不安と疑惑が深まっただけだ。
「…なあ、あいつと仲直りしたい、とか思ってるか?」
「え?」
モヤモヤしていた私に、レザールが不安そうな顔で、別の話を切り出した。
「ロシェとあいつは一応婚約者だっただろ?
国王達が帰ってきたら、話し合って、あいつと仲直りして、また婚約者に戻りたいって思ってるか?」
レザールは苦々しそうにゆっくり問いかけてくる。
そんな質問答えは決まってる。
「仲直りも何も、私と王子が仲良かったことなんて無いよ。もちろん婚約者にだって戻りたくない」
私は即答した。
私の答えにレザールはパッと明るくなる。
「ほ、本当か?」
「うん」
「そうか…」
そうよ、私はあんな殴ってくるような王子とは結婚したくない。
だって、私が本当に好きなのは―
…いえ、こんな時に止めておこう。
この塔から出て、日常が戻ってからにしよう。
次の日。
朝ご飯の片付けをしていると、上の階で洗濯物を干していたレザールが慌てて駆け下りてきた。
「ロシェ!ヴィペール王子がこっちに向かってきてる!」
「えっ!?」
急いで窓から外を覗くと、数人の兵士を引き連れて、肩を怒らせながら王子がこちらに早足で向かってきていた。
こんな朝早くから何の用?
いえ、それより何より、遠目でも怒っているのが分かる。
なんで?なんで?塔から出ずに大人しくしてるのに!
「ロシェ!窓と扉を閉めろ!」
「う、うん!」
私は石の壁に手をつき魔力を注ぎ込む。
光取りの窓と、昨日早速作った、厚い石板でできた中扉を閉じた。
今まで朝日で眩しかった塔の中が暗闇に包まれる。
その場から動けずにいると
―ドン!…ドン!…ドン!…ドン!ドン!…
外から扉を叩く音が塔に響き始めた。
「―!―!」
なんて言ってるかは分からないけど、ヴィペール王子の怒鳴り声がうっすら聞こえる。
レザールが手のひらの上に小さな火をボッと出してくれた。
小さな火に灯されたお互いの顔を見合わせ、私達は扉に近付いた。
この石板の中扉を、あの数人の兵士で破壊するのは難しいだろう。
扉の前で様子を窺うくらいは大丈夫なはず。
「―!―!」
うーん…扉の前まで来ても、なんて言ってるのかは聞こえない。
でも…
昨日レザールが言ったセリフを思い出す。
『何されるか分からない』
殴られるどころじゃないことをされたらどうしよう…。
「…このままやり過ごしましょう」
万が一にも外にいる王子達に聞こえないように、レザールに小声で囁く。
レザールもコクリとうなづいた。
それからしばらくの間、王子たちは外からドアを叩いていたけれど、ついに諦めて帰ったようで、静かになった。
私達は2人でホッと安堵の息を吐く。
大丈夫。
あと数日で国王やソルテール様たちが帰ってくる。
それまでは、この塔に守ってもらおう。
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