愛想の無い姉と婚約破棄して可憐な妹と婚約したいとのことですがあなたみたいなアンポンタン姉妹揃ってお断りです

ハツカ

文字の大きさ
2 / 2

後編

しおりを挟む
屋敷に帰った姉妹は、まず母にパーティーであったことを報告した。
いつもは優しくおっとりしている母も、さすがに剣呑な雰囲気になっている。
「クロキュス、あなたはどうしたいの?」
「私は、エトゥル様が婚約破棄したいと仰るなら、是非とも了承したいです」
「そう…マルグリットは?」
「絶対イヤ」
即答する。
「でしょうね…今日、お父様が帰ってきたら、また改めて相談しましょう」
「はい」
「分かりました」
姉妹は各々自室に戻り、メイドに手伝ってもらいながらパーティードレスから部屋着のワンピースに着替える。
クロキュスの着替えが完了したタイミングで、部屋のドアがノックされた。
―コンコンコン
「マルグリットかしら?」
「えぇ、入っても良い?」
「どうぞ」
メイドの退室と入れ替わりに、マルグリットが入室する。
2人はテーブルセットに向かい合って座った。
2人しかいないから、もうくだけた言葉遣いで良いだろう。
「…姉様、なんであのバカ、あんなにバカなの…?」
「家族に過剰に甘やかされて育ったからよ」
マルグリットは頭を抱えた。
深いため息を吐く妹に、姉は言葉を続ける。
「だから…エトゥル様が、『姉と婚約破棄したい、妹の方が良い』って言うなら、本当にそうなっちゃうかもしれないわね」
マルグリットは驚いて顔を上げた。
「な、なんで…」
「だって、彼のご両親は、あのバカ息子の言う事なら何でも叶えようとするから」
「~~っ!」
マルグリットは驚きを通り超えて、言葉も出ない程の恐怖に包まれた。
だって、姉の言う通りなのだ。
エトゥルの家の先代、つまり彼の祖父母は、人格も能力も申し分のない人物達で、現在の彼の家の力はこの祖父母が築いたものだ。
しかし、この祖父母さえ、孫は可愛くて仕方なかったようで、領主としての有能さはどこへやら、彼をワガママ放題に育ててしまった。
そして、祖父母は近年亡くなり、代を継いだ息子、つまりエトゥルの両親は人格も能力もイマイチで、財を少しずつ減らしながら、エトゥルを甘やかしまくっている。
あの夫婦なら、クロキュスとの勝手な婚約破棄のお詫びもそこそこに、マルグリットとの婚約申込を言い出しかねない。
「イヤよ!嫌!あのアンポンタンと結婚なんていやーっ!」
「とりあえずしばらくのうちは『姉に一方的に婚約破棄した無礼者に妹をやれるか』ってお父様に断ってもらえるでしょう」
「そ、そうだけど…でも、あいつの家の領地と領民の将来の事も、考えなくてはいけないわ」
クロキュスは頷いた。妹の言う通りだ。
姉妹の家の領地と、エトゥルの家の領地は隣接しているのだ。
あのアンポンタンにまともな領地運営ができる訳が無い。
そうなると食いっぱぐれた領民達が姉妹の家の領地に流れてくる。
元々クロキュスは、そのような事態にならないように、エトゥルの妻、と言うより、領主代行になるつもりでいた。
エトゥルには適当な仕事をあてがい、自分が領地運営し、必要な時はすぐ隣の実家と協力する。
これが思い描いていた未来予想図だった。
今日その予想図をブチ壊されたわけだが…実はクロキュスは怒りよりも喜びでいっぱいだった。
あのアンポンタンと結婚しなくて済む。
あのアンポンタンの子供を産まなくて済む。
そう思うと、踊りだしたいほど浮かれた気分だ。
どうやら自分は、自分で思っていたよりあいつの事が嫌いだったようだ。
クロキュスはこの浮かれた気分を顔に出していなかったが、マルグリットには、姉から溢れ出る解放感が感じ取れた。
『私はこんなに悩んでるのに!』
文句の一つも言いたくなってしまう。
「…姉様、今、『あのアンポンタンの世話係を妹に押し付けれそうでラッキー』とか思ってないわよね?」
「思ってないわよ。『あのアンポンタンの世話係から解放されそうでラッキー』とは思ってるけど」
マルグリットは、いつもは大きな瞳を細くすがめ姉を睨んだ。
クロキュスは、いつもは無表情な顔をニヤリと歪ませる。
「今日までは姉様の婚約者だったのよ。ちゃんと首輪しておいてよ」
「最善を尽くして、アレなのよ」
クロキュスは意地悪い口調で返す。
しかし、妹をこのままあのアンポンタンに嫁がせる気もサラサラ無かった。
考えはあるのだ。
「いいこと、マルグリット?」
クロキュスは、ニヤついていた顔を真面目な無表情に変え、姿勢を正した。
姉につられて、マルグリットも背筋を伸ばす。
「私達姉妹は2人ともあのアンポンタンと結婚したくない。
でも、あいつの家の領地は我が家の隣の領地だから、あいつを放置したら将来的に領民が流れてくる。そうよね?」
「え、えぇ…」
姉程の思慮深さが無くとも、それくらいマルグリットにだって分かっている。
流れてきた領民が、食べる為に、盗みや、それ以上の犯罪を犯す可能性もあることだって分かってる。
「だったら、将来あいつの領地が傾いてきたら、我が家の領地に近い地域から順に、あちらの領地を買い取りましょう」
「…!」
普通の貴族なら自分の領地を簡単に手放したりしないだろうが、エトゥルのおつむは普通じゃない。
困っている時にまとまった金額が手に入るなら、買取に応じるだろう。
しかし
「私達の婚約者はどうするのよ」
そう、まだこの問題がある。
しかもこの問題は、エトゥルの領地運営が傾く未来よりも近くに迫っている。
しかしクロキュスは事もなげに
「そんなもの、学校内にあのアンポンより遥かに優秀で、婚約者もいない男子がいくらでもいるでしょう」
「え…婚約者いない人、そんなにたくさんいるの?」
「あなただって、まだいないじゃない。我が校には、跡取りじゃない次男坊、三男坊なんてたくさんいるわ。
その中で、あなたを愛してくれて、なおかつ我が家の運営に役立ちそうな男子を探すのよ」
なるほど。
まだ1年生の自分は知らなかったが、2年生の姉曰くあの学校内なら婿探しは容易らしい。
貴族の結婚は政略結婚。
ならばあのアンポンタンより我が家に有用な人物を見つけて、親を納得させればいい。
姉妹の父親は、2人を溺愛している訳ではなく、領民の生活と娘の気持ちのどちらかを取れと言われたら領民を取る人物だ。
そしてエトゥルの無能さもよく知っている。
ならば、エトゥルよりも我が領地の為になり、なおかつ、エトゥルの家の領地を買い取る金額以上の稼ぎを娘と共に生み出せる結婚相手なら、父は許してくれるはずだ。
「タイムリミットは…各々卒業までね」
「えぇ、姉様は―いえ、なんでもないわ」
マルグリットは『姉様は相手にアテはあるの?』と聞きかけたが、この美しく聡明な姉の事だ。
無表情で愛想の無いことくらい気にしないでくれる相手なんていくらでも射止められるだろう。
そしてクロキュスも妹をあまり心配していなかった。
思ったことをすぐに口に出してしまう短慮な所はあるが、妹には自分には無い愛嬌や勘の良さがある。
容姿も愛らしいし、きっと良い相手を見つけることができるだろう。
車輪の音が聞こえ、姉妹が窓の外を見ると、父の乗る馬車が屋敷に近付いていた。

終わり
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

乙女ゲームはエンディングを迎えました。

章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。 これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。 だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。 一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。

お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます

碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」 そんな夫と 「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」 そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。 嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう

処理中です...