魔王VS(自称)無力な村人のクソゲーに魔王として転生したけど一度負けたらしんでしまいます。ミツバチに勝ち目はありません

ブレブレ

文字の大きさ
上 下
2 / 2

第二話

しおりを挟む
『デンジャー・アヘッド!』は5VS1の非対称型アクションゲームである。
 魔王の生み出した空間に迷い込んだ無力な村人五人が逃げ隠れしながら、各エリアの電動機を稼働し脱出装置を出現させる。そうして起動成功し元の世界へ帰るか、その前に魔王によって全滅させられるか……あるいは、魔王を勇者一行の力でやっつけるか、いずれかの形で試合は決着する。

 魔王は三キャラクターの内から選べる。

 攻撃特化の『破滅の魔王』。
 絡め手が得意な『狡知の魔王』。
 そして、あらゆる点でバランスのいい『世直しの魔王』。

 世直し、と言ってもキャラの思想は過激で、要はこの世の害悪たる人類を殲滅するのが目的である。ほかの魔王も、理由は様々だが人間への悪意に満ちている。

 圧倒的魔王の力に村人は基本歯が立たないが、対抗策はある。

 一つ目は『職業スキル』。
 二つ目は、伝説の勇者一行の魂をその身に宿し戦う、『伝説変身』。

 村人の『職業スキル』は全五種類。


 一つ。逃走特化の『トランスポーター運び屋』系スキル。逃走能力に優れるものが多いが、最近伝説変身時スピード20%アップの壊れスキルがでたため最強カードとなった。

 二つ。隠密特化の『プライベートアイ探偵』系スキル。ゲームリリース当初から、開幕魔王の位置を二十秒特定できるやべーやつだったが、最近さらに十秒完全ステルスのスキルが追加されてさらにやばくなった。

 三つ。仲間の治療特化の『ドクター』系スキル。最近通常二十秒かかる蘇生を二秒でできるスキルが追加されてやべーやつになった。

 四つ。バフ特化『コック』系スキル。最近スピードバフスキルが追加されてやべーやつになった。

 五つ。起動特化の『エンジニア』系スキル。脱出装置起動のための電動機を素早く発見、設置できる。最近は設置が早すぎてこいつ一人いるだけでゲームが壊れる。


 さすがにスキルの持続タイムやクールタイムはあるが、だいたいそんな感じである。
 以上五つに、さらに『伝説変身』の変身先を組み合わせ、無限のやりこみを提供する、というのが多分、運営の当初の構想だったはずだ。

『伝説変身』はマップに散らばる勇者一行の思いを集めることで変身ゲージを溜め、魔王と戦う力を得るシステムのことである。もちろん変身ゲージが切れれば一般村人に戻るので、再度変身したければ再び思いを集めなければならない。
 なんだよ『思い』って。
 変身先は、勇者・魔法使い・剣士・僧侶・道化、のこれまた五種類。
 だがこの分類はスキルほど重要ではない。
 というか、今の環境ではほぼ意味がない。
 なぜなら――。





「運び屋! 魔王、町エリアに逃げ込んだよ!」
「サンキュー探偵!」
「ってかあいつ空飛ばねえぞ。縛りプレイか?」
「今時期、魔王やってるってことはそういうことでしょ」
「殺せ殺せ殺せ!」

 勇者・剣士は近接系。僧侶は広範囲浄化魔法という名の、ふわっとした球状判定の近中距離攻撃系。道化の攻撃は大ダメージの代わりに前スキ後スキが大きく、そもそも当たらない。
 となると勝利を目指す村人の選択肢は一つ。

「「「「「伝説変身!」」」」」

 長距離ビームの撃てる魔法使い以外、選ぶ理由がない。
 そういうわけで黒夫は四方八方から襲い来るぶっといビームから逃げ回っていた。
「どこが無力な村人だクソが!」
 しかしこのクソな感覚、間違いない。
 間違いなく、ここは『デンアヘ』の世界だ。

「うお!」

 己の逃げ足の速さに感嘆する間もなく、ビーム魔法が頬をかすめる。ついでに髪もジュっと焼き払っていく。
 その瞬間、冷たい予感が黒夫を襲った。
 これはゲームの世界だ。それはわかる。しかし、ゲーム特有の軽さのようなものを黒夫は感じ取れなかった。
 端的に言えば、繰り出される攻撃に、命の危機を感じたのだ。
 当たれば死ぬ。そう本能が囁く。
 囁いたからと言ってどうしようもなく、黒夫は再びチェイスに最適な小高い塔を周り始めた。
 伝説変身のゲージ切れを祈りながら。

「なんで五人の村人がいっぺんに変身できるようにしたよ! リンチ起きるってわかるだろうが! それはもう諦めるとしてパーティプレイは禁止にしろ! 村人弱体化しろ! 魔王強化しろ! 同じ練度のやつが集まったら五人が勝つに決まってんだろうが! もうそういうのは全部諦めるとしてせめてチャットはできないようにしろよクソ運営が~~!!」

 ついでに叫びながら。
 思うにつけ、このゲームは本当に、ほんっとうにクソな要素ばかりだった。
 それでも黒夫はこのゲームをやりこんでいた。
 しかも、魔王専で。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...