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第2章 覚悟と旅立ち
取得と習得と体得 #3
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取得に向けた特訓を始めて2週間ほどが経った。男3人は1週間もしないうちに体幹も柔軟もある程度できるようになり、数日前にジャック、アキリム、クロトの順に体操者を無事取得した。
今は軽業師の取得に移行している。習得した体幹と柔軟を活かしてアクロバティックな動きをひたすら反復練習している状況で3人の動きを見ていると実にシュールでカオスだった。
なんせ、一緒に練習しているくせにやっていることはバラバラな上に、アキリムの『わーっ』とか『ぎゃー』とかいう奇声と、クロトの『俺はやれば出来る』とか『お前ならできるクロト』という気合を入れる声と、ジャックの『集中だ、集中しろ』とか『よし今だ!』という掛け声が混ざって聞こえてくるのだ。
必須条件や注意事項は教えてあるのであとは反復練習あるのみだ。自分たちのペースでやっているみたいなので放置することにした。
ニーナは未だ取得には至っていないが必須項目の6以外はクリアした。なかなか内容が決まらず、ニーナは焦っているみたいだ。焦ると視野が狭くなって余計に見つからないと教えると少し落ち着いたが、3人が1つ目を取得したことはどうも気になる様だ。
「ニーナ。今日は気分を変えて渓谷の方に行ってみないか?」
『渓谷?そんなとこあるの?』
リンドの森の西側一帯は深い渓谷になっていて、森を抜けると崖になっている。その渓谷の底には川が流れていて、その上流にはセラリアという小街がある。その渓谷と川は、ともにセイランと言い、セイラン渓谷にセイラン川と呼ばれる。そしてその上流にあるセラ湖。セラリアの街はこのセラ湖に隣接している。
「ああ。リンドの森の西側にあるんだけど、森が開けたと思ったらすぐ崖だから安全確認を怠ると崖下に真っ逆さまだ。セイラン渓谷って言うらしい。谷底がセイラン川で上流に行けばセラリアの街がある。いつも遠くから眺めるだけで街に行ったことはないんだけどな。」
『崖なら魔物が西側に出る心配はないね。じゃあリンドの森の西側はセラリアが守ってるの?』
「確かセイラン渓谷はセラリアのギルドが管理してたな。リンドの森は北も東も海に囲まれて、西は渓谷…陸地では南だけが唯一の出入口だ。渓谷の底を流れるセイラン川の上流に湖があって、そこにセラリアの街は接するように作られている。そのセラリアの街を基準に、渓谷を含めた森全体を囲うように3から5m程の塀が建てられてる。イレアから北上した森の入口にあるやつだな。塀に作られた入口はあそこだけだ。だから森自体はイレアの管轄だと思う。セラリアは小街だし渓谷が担当っぽかった。セラリアの人が森に入るには渓谷を越えるか湖を越えるか迂回するしかないしな。」
『越えられないから遠くからみてたのね。それにしてもあの塀って隣街まで続いてたんだ。近いの?』
森を囲う塀の唯一の門は常に開け放たれており、そこを通る時に視界に微かに入る程度のものだ。皆いちいち気にしないためイレアでは森を囲う塀についてあまり知られていない。反対にセラリアでは出入口がイレアにある事はあまり知られていない。ギルド関係者や建築屋の関係者達は管理上詳しく、森の塀については規制などないため、聞けば教えてくれる。が、聞く者はいない。
リミルもクライとの森での散歩中に知ったことである。
「クライに乗って数時間かかる。こっちに来る時にノフテスからルスタフまで乗っただろ?あれの1,5倍から2倍くらいかな。直線距離で。」
『嘘ぉ!めちゃくちゃ遠い。もちろん転移で行くよね?じゃないと泊まりがけだけど…そう言えば旅の許可って出たの?』
もしクライに乗っての移動なら朝早く出たとしても昼過ぎか夕方に到着という事になる。足でとなると何日かかるのか。ニーナはそう考えてふと旅の許可について話していたことを思い出した。
「いや、旅に出るのはあと少し待って欲しいって言われた。連絡手段もあるし、クライのこともある程度伝わったらしいんだけどな。理由を教えてくれなくてな。あ、もちろん渓谷へは転移で行ける。この前クライと散歩がてら転移ポイント登録しに行ってきたから。」
そう聞いてニーナはホッとした。旅というものの覚悟が出来ずにいる。野宿中に野盗が出たらと思うと怖い。不安はそれだけではない。でももしニーナが成人する前にリミルが旅に出るとなるとついて行かなくてはならない。
この上なく野宿という物が不安だった。
家族でのキャンプは経験がある。村で使う薬草を取りに行くという父の仕事に家族でついて行くことにした時だ。あの時は家族で1つのテントだった。
もしパーティメンバーで行くとしたら女性はニーナ1人。仲もいいし信頼もしているがだからといって同じところで寝ることには抵抗があった。かといってずっと起きておくのは身体に悪いし何日も持たない。それに1人のテントというのも正直怖い。
ニーナには悩ましい問題だ。
今回はその心配がなさそうで安心した。
今は軽業師の取得に移行している。習得した体幹と柔軟を活かしてアクロバティックな動きをひたすら反復練習している状況で3人の動きを見ていると実にシュールでカオスだった。
なんせ、一緒に練習しているくせにやっていることはバラバラな上に、アキリムの『わーっ』とか『ぎゃー』とかいう奇声と、クロトの『俺はやれば出来る』とか『お前ならできるクロト』という気合を入れる声と、ジャックの『集中だ、集中しろ』とか『よし今だ!』という掛け声が混ざって聞こえてくるのだ。
必須条件や注意事項は教えてあるのであとは反復練習あるのみだ。自分たちのペースでやっているみたいなので放置することにした。
ニーナは未だ取得には至っていないが必須項目の6以外はクリアした。なかなか内容が決まらず、ニーナは焦っているみたいだ。焦ると視野が狭くなって余計に見つからないと教えると少し落ち着いたが、3人が1つ目を取得したことはどうも気になる様だ。
「ニーナ。今日は気分を変えて渓谷の方に行ってみないか?」
『渓谷?そんなとこあるの?』
リンドの森の西側一帯は深い渓谷になっていて、森を抜けると崖になっている。その渓谷の底には川が流れていて、その上流にはセラリアという小街がある。その渓谷と川は、ともにセイランと言い、セイラン渓谷にセイラン川と呼ばれる。そしてその上流にあるセラ湖。セラリアの街はこのセラ湖に隣接している。
「ああ。リンドの森の西側にあるんだけど、森が開けたと思ったらすぐ崖だから安全確認を怠ると崖下に真っ逆さまだ。セイラン渓谷って言うらしい。谷底がセイラン川で上流に行けばセラリアの街がある。いつも遠くから眺めるだけで街に行ったことはないんだけどな。」
『崖なら魔物が西側に出る心配はないね。じゃあリンドの森の西側はセラリアが守ってるの?』
「確かセイラン渓谷はセラリアのギルドが管理してたな。リンドの森は北も東も海に囲まれて、西は渓谷…陸地では南だけが唯一の出入口だ。渓谷の底を流れるセイラン川の上流に湖があって、そこにセラリアの街は接するように作られている。そのセラリアの街を基準に、渓谷を含めた森全体を囲うように3から5m程の塀が建てられてる。イレアから北上した森の入口にあるやつだな。塀に作られた入口はあそこだけだ。だから森自体はイレアの管轄だと思う。セラリアは小街だし渓谷が担当っぽかった。セラリアの人が森に入るには渓谷を越えるか湖を越えるか迂回するしかないしな。」
『越えられないから遠くからみてたのね。それにしてもあの塀って隣街まで続いてたんだ。近いの?』
森を囲う塀の唯一の門は常に開け放たれており、そこを通る時に視界に微かに入る程度のものだ。皆いちいち気にしないためイレアでは森を囲う塀についてあまり知られていない。反対にセラリアでは出入口がイレアにある事はあまり知られていない。ギルド関係者や建築屋の関係者達は管理上詳しく、森の塀については規制などないため、聞けば教えてくれる。が、聞く者はいない。
リミルもクライとの森での散歩中に知ったことである。
「クライに乗って数時間かかる。こっちに来る時にノフテスからルスタフまで乗っただろ?あれの1,5倍から2倍くらいかな。直線距離で。」
『嘘ぉ!めちゃくちゃ遠い。もちろん転移で行くよね?じゃないと泊まりがけだけど…そう言えば旅の許可って出たの?』
もしクライに乗っての移動なら朝早く出たとしても昼過ぎか夕方に到着という事になる。足でとなると何日かかるのか。ニーナはそう考えてふと旅の許可について話していたことを思い出した。
「いや、旅に出るのはあと少し待って欲しいって言われた。連絡手段もあるし、クライのこともある程度伝わったらしいんだけどな。理由を教えてくれなくてな。あ、もちろん渓谷へは転移で行ける。この前クライと散歩がてら転移ポイント登録しに行ってきたから。」
そう聞いてニーナはホッとした。旅というものの覚悟が出来ずにいる。野宿中に野盗が出たらと思うと怖い。不安はそれだけではない。でももしニーナが成人する前にリミルが旅に出るとなるとついて行かなくてはならない。
この上なく野宿という物が不安だった。
家族でのキャンプは経験がある。村で使う薬草を取りに行くという父の仕事に家族でついて行くことにした時だ。あの時は家族で1つのテントだった。
もしパーティメンバーで行くとしたら女性はニーナ1人。仲もいいし信頼もしているがだからといって同じところで寝ることには抵抗があった。かといってずっと起きておくのは身体に悪いし何日も持たない。それに1人のテントというのも正直怖い。
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