稀有ってホメてる?

紙吹雪

文字の大きさ
上 下
93 / 96
第2章 覚悟と旅立ち

取得と習得と体得 #3

しおりを挟む
 取得に向けた特訓を始めて2週間ほどが経った。男3人は1週間もしないうちに体幹も柔軟もある程度できるようになり、数日前にジャック、アキリム、クロトの順に体操者ジムナストを無事取得した。

 今は軽業師トレーサーの取得に移行している。習得した体幹と柔軟を活かしてアクロバティックな動きをひたすら反復練習している状況で3人の動きを見ていると実にシュールでカオスだった。
 なんせ、一緒に練習しているくせにやっていることはバラバラな上に、アキリムの『わーっ』とか『ぎゃー』とかいう奇声と、クロトの『俺はやれば出来る』とか『お前ならできるクロト』という気合を入れる声と、ジャックの『集中だ、集中しろ』とか『よし今だ!』という掛け声が混ざって聞こえてくるのだ。

 必須条件や注意事項は教えてあるのであとは反復練習あるのみだ。自分たちのペースでやっているみたいなので放置することにした。





 ニーナは未だ取得には至っていないが必須項目の6以外はクリアした。なかなか内容が決まらず、ニーナは焦っているみたいだ。焦ると視野が狭くなって余計に見つからないと教えると少し落ち着いたが、3人が1つ目を取得したことはどうも気になる様だ。


「ニーナ。今日は気分を変えて渓谷の方に行ってみないか?」

『渓谷?そんなとこあるの?』

 リンドの森の西側一帯は深い渓谷になっていて、森を抜けると崖になっている。その渓谷の底には川が流れていて、その上流にはセラリアという小街がある。その渓谷と川は、ともにセイランと言い、セイラン渓谷にセイラン川と呼ばれる。そしてその上流にあるセラ湖。セラリアの街はこのセラ湖に隣接している。

「ああ。リンドの森の西側にあるんだけど、森が開けたと思ったらすぐ崖だから安全確認を怠ると崖下に真っ逆さまだ。セイラン渓谷って言うらしい。谷底がセイラン川で上流に行けばセラリアの街がある。いつも遠くから眺めるだけで街に行ったことはないんだけどな。」

『崖なら魔物が西側に出る心配はないね。じゃあリンドの森の西側はセラリアが守ってるの?』

「確かセイラン渓谷はセラリアのギルドが管理してたな。リンドの森は北も東も海に囲まれて、西は渓谷…陸地では南だけが唯一の出入口だ。渓谷の底を流れるセイラン川の上流に湖があって、そこにセラリアの街は接するように作られている。そのセラリアの街を基準に、渓谷を含めた森全体を囲うように3から5m程の塀が建てられてる。イレアから北上した森の入口にあるやつだな。塀に作られた入口はあそこだけだ。だから森自体はイレアの管轄だと思う。セラリアは小街だし渓谷が担当っぽかった。セラリアの人が森に入るには渓谷を越えるか湖を越えるか迂回するしかないしな。」

『越えられないから遠くからみてたのね。それにしてもあの塀って隣街まで続いてたんだ。近いの?』

 森を囲う塀の唯一の門は常に開け放たれており、そこを通る時に視界に微かに入る程度のものだ。皆いちいち気にしないためイレアでは森を囲う塀についてあまり知られていない。反対にセラリアでは出入口がイレアにある事はあまり知られていない。ギルド関係者や建築屋の関係者達は管理上詳しく、森の塀については規制などないため、聞けば教えてくれる。が、聞く者はいない。
 リミルもクライとの森での散歩中に知ったことである。

「クライに乗って数時間かかる。こっちに来る時にノフテスからルスタフまで乗っただろ?あれの1,5倍から2倍くらいかな。直線距離で。」

『嘘ぉ!めちゃくちゃ遠い。もちろん転移で行くよね?じゃないと泊まりがけだけど…そう言えば旅の許可って出たの?』

 もしクライに乗っての移動なら朝早く出たとしても昼過ぎか夕方に到着という事になる。足でとなると何日かかるのか。ニーナはそう考えてふと旅の許可について話していたことを思い出した。

「いや、旅に出るのはあと少し待って欲しいって言われた。連絡手段もあるし、クライのこともある程度伝わったらしいんだけどな。理由を教えてくれなくてな。あ、もちろん渓谷へは転移で行ける。この前クライと散歩がてら転移ポイント登録しに行ってきたから。」

 そう聞いてニーナはホッとした。旅というものの覚悟が出来ずにいる。野宿中に野盗が出たらと思うと怖い。不安はそれだけではない。でももしニーナが成人する前にリミルが旅に出るとなるとついて行かなくてはならない。
 この上なく野宿という物が不安だった。
 家族でのキャンプは経験がある。村で使う薬草を取りに行くという父の仕事に家族でついて行くことにした時だ。あの時は家族で1つのテントだった。
 もしパーティメンバーで行くとしたら女性はニーナ1人。仲もいいし信頼もしているがだからといって同じところで寝ることには抵抗があった。かといってずっと起きておくのは身体に悪いし何日も持たない。それに1人のテントというのも正直怖い。
 ニーナには悩ましい問題だ。


 今回はその心配がなさそうで安心した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

底辺男のミセカタ 〜ゴミスキルのせいで蔑まれていた俺はスキル『反射』を手に入れて憎い奴らに魅せつける〜

筋肉重太郎
ファンタジー
俺は……最底辺だ。 2040年、世界に突如として、スキル、と呼ばれる能力が発現する。 どんどん良くなっていく生活。 いくつもの世界問題の改善。 世界は更により良くなっていく………はずだった。 主人公 田中伸太はスキルを"一応"持っている一般人……いや、底辺男であった。 運動も勉学も平均以下、スキルすら弱過ぎるものであった。平均以上にできると言ったらゲームぐらいのものである。 だが、周りは違った。 周りから尊敬の眼差しを受け続ける幼馴染、その周りにいる"勝ち組"と言える奴ら。 なんで俺だけ強くなれない………… なんで俺だけ頭が良くなれない………… 周りからは、無能力者なんて言う不名誉なあだ名もつけられ、昔から目立ちたがりだった伸太はどんどん卑屈になっていく。 友達も増えて、さらに強くなっていく幼馴染に強い劣等感も覚え、いじめまで出始めたその時、伸太の心に1つの感情が芽生える。 それは…… 復讐心。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

ダンジョン探索者に転職しました

みたこ
ファンタジー
新卒から勤めていた会社を退職した朝霧悠斗(あさぎり・ゆうと)が、ダンジョンを探索する『探索者』に転職して、ダンジョン探索をしながら、おいしいご飯と酒を楽しむ話です。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...