稀有ってホメてる?

紙吹雪

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第2章 覚悟と旅立ち

突然の転機 #1

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 あれから1ヶ月ほど経った。

 毎日午前中は4人のレベル上げに付き合い、お昼を食べた後は各自自由にしていた。リミルは自身のレベル上げの時間が午後にしか取れないので依頼を受けるついでにレベル上げをやったりもした。ガッツリ稼ぐ日もあれば、たまにトウと街で散歩したり、クライと森を散歩したり。

 依頼は最近まで、リミルとクライとジャックでやっていた。3人の時もあれば2人の時もあり、1人の時もあった。3人での依頼は徐々に減っていった。別れて稼いだ方が効率がいいからだ。そして高位への依頼はリミルとクライかリミル単体でしか受けられないため、2人での仕事もやり、リミル1人でも良さそうな依頼の時は効率を優先して3人それぞれで依頼を熟した。
 最近ではアキリム、ニーナ、クロトが簡単な依頼なら出来そうなくらいにはなったので新たな経験を積ませレベル上げも同時に行っていたりする。3人で出来そうな依頼は任せ、少し難しい依頼はクライかリミルが一緒に行う。ジャックはジャックの判断で参加したりしなかったりだ。
 皆も毎日依頼を受けている訳ではない。リミルが今までの生活と同じようにやっておきたいことややらないといけないことを優先にしたので、皆も同じように自由に今日は休もうかなとか今日は依頼を受けようかなとかその日の気分でそれぞれ行動している。依頼を受けようと思った者同士で組んで依頼を受けることもあった。

 連絡は《チャット》でやり取りし、夜第2リビングに集まった時に何をしたとか誰の依頼を受けたとか話し、情報交換はこまめに行った。パーティでの活動については特に。個人の休みについては自分から話さない限りは踏み込んだりしない。


『今日の依頼は面白かった。食材集めっていいね!どんな料理になるのか考えながらやるとワクワクして!』

『考えすぎてお腹減ったけどな。』

『報酬に食べさせてくれたから助かったわ。シチューを食べさせてくれたんだけど美味しかった。』

「ココリの依頼か!ココリの料理ってほっこりする味だよな。」

『それは気になる。俺も一緒に行けばよかった。』

<今度全員で受ければ良いんじゃないか?>

『まあココリなら人数が増えるのは喜ぶだろうが、あんまり迷惑はかけるなよ?あー、リミルとクライ、向こうのリビングで話がある。』

「?わかった。」

<ああ。>

『皆はそのまま話してても寝ても良いぞ。』



 3人はダイニングを通って元からあるリビングに入った。コの字型のソファに座ると中庭を挟んで向かい側にあるリビングからこちらを気にしている4人の姿が見えた。
 手をヒラヒラと振り、ギルレイの言葉に耳を傾ける。

『実はな、前にグレモスが言ってたお前の両親の親、つまりお前の祖父母についてグレモスから連絡がきた。』

 リミルはたじろいだ。前にグレモスの店で話した時は、親と言っていた。

 リミルはずっと親が欲しいとは望んで来なかった。下手な願いは自分を傷つける。期待はせずにいた方が何かを得られた時、喜びが大きいからだ。
 ただ…、目に映る子ども達が、親子連れが、家族連れが、羨ましかった。自分とは違うのだと妬ましい気持ちもあった。
 幸いなことに、人族に出会って直ぐアンリと出会い、優しさに触れ温かさを知ったお陰で、クライと出会ったお陰で、独りでは無かったため激しい嫉妬などはしなかった。気づいたら自分の状況を受け入れていた。諦めもあった。

 それらが今、崩されようとしている。

 両親らしき2人は行方不明だと言っていた。もし仮に両親だったとしても家族が手に入る訳では無い。祖父母が突然現れるに過ぎない。大丈夫。大丈夫。
 リミルは自分を落ち着かせるために1度深呼吸し、とりあえず確定なのかギルレイに確認する。

「断定して話すってことは…」

『ああ。確認が取れたらしい。リーマスとミルレアは間違いなくリミルの両親だ。』

「………。」

 リミルは絶句した。喜びが大きいかと思いきや、哀しみと戸惑いと不安が心の大半を占めていた。これまでのことが一気に甦り、心の中は何とも言い難い感情だらけで複雑な状態だった。受け入れたいような受け入れたくないような矛盾した気持ちが綯い交ぜになり、叫び出したい気分だ。そんな葛藤を抱え悶々としていると戸惑ったようなギルレイの声がかかる。

『………それでな、リミルに言わなくちゃ行けないことがあるんだ……』

 何を言われるのか、不安に苛まれる。ただでさえ混乱しているのにこれ以上混乱させないでくれというリミルの願いは聞き届けられなかった。

『俺はミルレアの兄で、つまりはお前の叔父にあたる……。グレモスからミルレアの名前が出たとき、直ぐに言うべきだったんだが、ずっと家族とは連絡を取っていなかった。駆け落ちをしたから取れなかったんだが、ミルレアが結婚をしたのは風の噂に聞いていた。それが失踪していたのも子どもを産んでいたのも俺には驚きで…。言い出せなかった……。すまん。』

「ちょ、と、待って、くれないか?ギルレイが俺の叔父?…そうか。それで態度が変わったのか。ならそんなの知らないままの方が良かった。」

『態度?なんの事だ?』

 ギルレイは言わなかったことに怒ると思っていたみたいだ。正反対の言葉に驚きつつ、リミルの言ったことに引っかかった。

「…グレモスの話を聞いた後くらいからギルレイに義務感みたいなのが透けて見えて、俺は素直に好意として受け取れなくなったんだ。最初は気のせいかとも思ったけど、依頼で離れて、アイツらを連れ帰ったらより実感が湧いて。俺もアイツらに対してギルレイと同じようにしないといけなくなる気がして。」

『そんなこと!…確かに俺はミルレアの名前が出てから俺が連絡を取っていれば、早くに気づいていれば、もっと気にかけておけばと何度も後悔した。それで叔父として出来ることはやろうとも思った。それが態度に出ていたかもしれない。親戚としての義務感もあったと思う。でも、それはあくまで俺の事情であってリミルがアイツらにしてやらないといけない訳では無い。リミルはアイツらと同世代だ。世話を焼いたり面倒をみたりするのは中世代以上に任せておけばいい。リミルもアンリと出会ってからの経験で知っているだろ?子どもは皆で育てるものだと。』

 リミルはアンリエットとベテラン冒険者達に様々なことを教わった。もちろんギルレイやクリード、リリアン達にも。その時の記憶が思い起こされ、ふっと強ばっていた身体の力が抜けた。

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