稀有ってホメてる?

紙吹雪

文字の大きさ
上 下
74 / 96
第1章 出会い

レベル上げ #5

しおりを挟む

『だからリミルがお詫びとしてレベル上げに付き合うって言ってるんだし、ダンジョン行くなら所有者の指示に従わないと行けない。ギルドの管理下のダンジョンだとラッセル達はまだ行けないし、リミルの言うように森の中は危険だからレベル上げには向かないしな…』

 ギルレイも落ち着かせようとレベル上げの話に移行する。だが、そろそろダンジョンに連れていくのも嫌だなと思えてきたのでリミルはダンジョンに連れていかなくて済む方向に話を持っていくことにした。

「そういや双子の質問に答えてなかった。《無感覚ナム》は時間経過で消える。効果は五感機能の低下だ。そこに別の魔法を重ね掛けする。3人こそ俺を信用出来るのか?」

『出来ない!』

『難しい…かな…』
『分からない。』

 ここぞとばかりに反撃してくるラッセルと考えて答えた双子の様子に、リミルはひっそりと拳を握り肘を後方に一瞬グッと引く。

「なら、影獣シャドウビーストの熊程度の経験値なら森の入口で十分だし、あそこなら他の冒険者も通るから森の中よりは断然危険も減るから、3人のレベル上げは森の入口でしようか。3人って連携はどの程度できる?」

 リミルがダンジョンに連れていく気が無くなったのを理解したギルレイとクリードはほっとした様子だ。恐らく双子も分かったのか諦めた顔をしている。ギルレイがダンジョンは無しの方向で話し出した。

『ダンジョンに行かないのなら俺が行く必要はないな。というか、森の入口でレベル上げするならモーリスの道場に行かせる。どうせ鉢合わせするなら最初から任せた方が良いだろ。ということでリミルも行く必要はなくなったな。』

 だが一人だけは黙っていない。

『待ってよ!何で勝手に話を進めてるんだよ!ボクはダンジョンに行きたいんだ。魔法をかけなくても何か方法があるだろ?』

「どんな方法?」

『知らないよ。それは考えてよ。僕が思いつかないようなこと、高位なんだから知ってるんでしょ?』

 連れていく義務のないリミルがなぜそこまでしなければならないのか。方法を考えることすら押し付けてくるに怒りが湧いてくる。このままだと子ども相手に怒鳴ってしまいそうだったため、リミルは席を外すことにした。一言だけ言って。
 伝家の宝刀、言い逃げである。

「自分勝手だな、お前。…ギルレイ、クリード、俺は待たせてるから行くわ。クライとジャックは?」

『はぁ?待『ああ。隣の個室にいる。』え『またな、リミル。』』

 ラッセルはきっと悪い子ではない。ただ、我が儘で自分勝手で自己中で周りに気遣いのできない、少し可哀想な子だ。
 この世界では子どもは授かりもので、もし、育てられない家庭に産まれたとしても、教会に連れていけば預かってくれ、直ぐに里親が見つかる。それ程までに希少な存在だ。だからこそ、家族だけでなく、親族や隣近所、行きつけの店の店主等まで、寄って集って皆で可愛がる。
 だが、あそこまで身勝手なのはリミルは初めて見た。リミルが街で見かける未成人は、産まれたてくらいからラッセル達のような成人に近いものまで様々だ。しかしよく見るのは、幼い子が我が儘を言っていて親に叱られてしょんぼりする様子で、可愛らしいと思える程度だ。

 我が儘を言ったり言われたりしてこなかったリミルは困惑仕切りだった。
 モーリスは厳しい人だと聞いたことがある。きっと任せても問題ない。どうにかしてくれるだろう。


 リミルはラッセル達についての考えを放棄し、隣の個室にいたクライとジャックを連れて森へと戻る。
 ジャックならある程度早く、静かに移動できるだろうと走り出す。少しペースを緩めつつ、ジャックが可能な限り急いだ。

 ラッセルの言い分を聞いた時から3人の認識がどうなのか気になっていた。3人ともギルドのルール説明は真剣に聞いていたので大丈夫だとは思いたい。
 不安を抱えつつダンジョンに到着する。

『これは…綺麗なところだな。確かに隠しておきたくなるのもわかる。』

「絶対に口外するなよ?したらキツめの罰を与えかねない。」

<俺としても複雑な立場になるから気をつけてくれ。俺のジャックなら大丈夫だろうが一応な。>

『あ、ああ。俺だってそういうのはゴメンだ。』

 ジャックの顔が一瞬引き攣ったが、直ぐにもちろん理解していると肯定してくれたので安心した。
 3人連れ立ってダンジョンの1階層にある、クロト達を待たせている安全地帯へと入る。



 3人の身体は床に転がり、奥には伏せた状態の統括が自身の左手を舐めていた。
 1時間もかからず帰ってきたはずなのにこれはどういうことなのか。

「は?…統括。説明しろ。」

 あまりな状況に一瞬混乱したが気を取り直して状況が聞ける統括に詰め寄る。すると毛繕いをやめた統括がこちらを向いて話し始めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう
ファンタジー
なろう様でも投稿しています。 真夏の昼下がり歩道を歩いていた「加賀」と「八木」、気が付くと二人、見知らぬ空間にいた。 そこに居たのは神を名乗る一組の男女。 そこで告げられたのは現実世界での死であった。普通であればそのまま消える運命の二人だが、もう一度人生をやり直す事を報酬に、異世界へと行きそこで自らの持つ技術広めることに。 「転生先に危険な生き物はいないからー」そう聞かせれていたが……転生し森の中を歩いていると巨大な猪と即エンカウント!? 助けてくれたのは通りすがりの宿の主人。 二人はそのまま流れで宿の主人のお世話になる事に……これは宿屋「兎の宿」を中心に人々の日常を描いた物語。になる予定です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...