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第1章 出会い
把握すべきこと #3
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『クロトは明日の試験まで核を意識し続けろ。魔力量を正確に掴めないなら魔法は暫くは使わせられない。一応ギルドで計測はするが』
『分かりました』
『さっきも言ったが敬語を使ってると他の冒険者には舐められるぞ?使えるのはいい事だ。職の幅も広がる。ただし、ギルド内ではあまり使わないことを勧める。この街の奴らは無頓着だが冒険者には色んなやつがいるからな』
『そう…だね。目上の人には使うべきって育ってきたからつい』
<目上ってなんだ?>
クロトが語ったのはこの世界にはない概念だった。
上司、というか雇い主は存在する。
雇い主が相手を見て雇用するか決めるため責任を負うことになる。
そのため雇い主には被雇用者に対する素行調査が許されている。
その逆で被雇用者、つまり雇われる側が雇用者を知ることも出来る。
店を開いたりなどして人手が欲しくて誰かを雇うには、雇用者として商工会に登録しなければならない。
登録してから定期的に調査がされることになっていて、その情報を基に被雇用者は働く場所を決めたりする。
だが、一番多いのは知り合いなどの伝で雇用されるケースだ。
さらに、見た目で年齢が分からないこともあって目上という概念がない。
『この世界では歳に関わらず大切な人を大切にするのが当たり前だし、歳が上だからって偉ぶったりしないよ?そもそも敬語だって難しいし、別に敬語じゃなくたって敬う気持ちがあれば問題ないでしょ?言葉だけ敬語でも意味無いと思うし…』
『確かにとりあえず敬語使ってるだけで敬ってない相手もいたなあ…先輩って言って先に職場で働いてた人なんだけど偉ぶってるだけで仕事出来ない人で、しかも暴言が酷かったんだ。尊敬できる所が一切なくてさ。上司の手前一応敬語使ってたんだ…そう考えると気持ちの方が大事だな』
『敬語を使うのは接客の時くらいでいいだろうな』
大体の話が終わったこともありギルドの裏手にあるルシノの家に向かう。
クロトもニーナも敷地の広さと家の大きさに驚いている。
そこにルシノが《増築》を使用して、左手の空き地というか広い庭に新たな建物を建てた。
2階の1部が繋がっている。
『クロトとニーナは新しく作った客室に泊まれ。リミルとクライは俺の部屋の向かいな。1つの部屋にしたから二人で広々使え』
「客室だったのに変えちゃって良かったの?」
<もしや俺たち専用の部屋か?>
『まあな』
リミルがクライの言葉に驚愕しているとそれを肯定するルシノの言葉が続いた。
驚きと喜びと戸惑いで固まってしまったリミルを放置してクライ、ルシノ、ニーナの3人で話は進む。
そしてふとクライが2人の部屋を用意してくれた理由を聞くとルシノはリミルの方へ目をやって言った。
『ギルレイからホームポイントが2つあるという話を聞いてな。いつでも来ていいからな』
ルシノはそう言うとリミルの頭に手をのせ、大人の色気を漂わせてふわりと笑いかけた。
するとぶわっと何かが込み上げ、耳まで真っ赤にしつつリミルは「ありがとう」となんとか返事をしたのだった。
ニーナは『ご馳走様』とニコニコしながら小さく呟いた。
クライは何となく色々察した。
それらを気にしないようにしていたクロトは生産職を極めたというルシノの実力を目の当たりにして只々関心していた。
ゲームと似ているが全く違うこの世界の理を、クロトはまだ把握していない。
しかし、凄いことを簡単そうにやってのけたのだと、体内の核らしき場所が教えてくれる。
ジクジクとした嫉妬のような恐怖のような憧れのような競争心のような、全てが混ざった尊敬の念が核で生まれ渦巻いていた。やがてその気持ちはクロトの中で目標という形になっていった。
クロトの目指すところは決まった。
そしてすぐ行動に移す──。
『ルシノ、俺を弟子にしてくれ』
『今はまだ無理だ』
『いつならいい?』
ルシノは予想していたのか戸惑いなく答えた。
クロトも恐らく断られると思っていたのだろう。
冷静に返している。
ルシノは暫く考えたあと言った。
『本格的に弟子になるなら成人してからだ。それまではリミルのついでに簡単な指導はしてやる。それ以外は却下だ』
『わかった』
クロトは成人までの2年間はレベルの解放と職業をできる限り使えるように頑張ろうと決意した。
クロトは元の世界では成人だったがこちらでは未成人であることがわかり最初は戸惑ったが歳が近いニーナとリミルがいたため直ぐに受け入れた。
新たに作られた客用家屋は、1階に風呂トイレリビングダイニングキッチン全て揃っており、客室が2つあり、2階には6部屋客室があった。
そんなに必要かとクライが尋ねると、分からないが面倒だから一度に作ってしまえと考えたらしい。
『家具も揃ってるから好きなとこ使え。リミル達も自分達の部屋見に行くか?廊下で繋いだからそこから行けるぞ』
リミルはクライとともにルシノについて本邸に行くと螺旋階段と客室の間に繋がっていた。
ルシノの部屋の真向かいに廊下を挟んで2つあった客室はルシノの言う通り1つになっていて家具も2人仕様になっていた。
「ベッドでか!クライと余裕で寝れる。これもルシノが作ったの?」
『ああ。2人で寝るなら必要だろ?』
<これなら3人でも寝れそうだな>
そのクライの言葉に顔を見合わせ3人で寝転んでみるがまだ余裕があった。
「ハハハッ。3人でも余裕じゃん」
『大は小を兼ねるからな。デザインはシンプルにしておいた。ここに来る度に1つずつ好きなように加工すれば良い。その都度教えてやるから』
『分かりました』
『さっきも言ったが敬語を使ってると他の冒険者には舐められるぞ?使えるのはいい事だ。職の幅も広がる。ただし、ギルド内ではあまり使わないことを勧める。この街の奴らは無頓着だが冒険者には色んなやつがいるからな』
『そう…だね。目上の人には使うべきって育ってきたからつい』
<目上ってなんだ?>
クロトが語ったのはこの世界にはない概念だった。
上司、というか雇い主は存在する。
雇い主が相手を見て雇用するか決めるため責任を負うことになる。
そのため雇い主には被雇用者に対する素行調査が許されている。
その逆で被雇用者、つまり雇われる側が雇用者を知ることも出来る。
店を開いたりなどして人手が欲しくて誰かを雇うには、雇用者として商工会に登録しなければならない。
登録してから定期的に調査がされることになっていて、その情報を基に被雇用者は働く場所を決めたりする。
だが、一番多いのは知り合いなどの伝で雇用されるケースだ。
さらに、見た目で年齢が分からないこともあって目上という概念がない。
『この世界では歳に関わらず大切な人を大切にするのが当たり前だし、歳が上だからって偉ぶったりしないよ?そもそも敬語だって難しいし、別に敬語じゃなくたって敬う気持ちがあれば問題ないでしょ?言葉だけ敬語でも意味無いと思うし…』
『確かにとりあえず敬語使ってるだけで敬ってない相手もいたなあ…先輩って言って先に職場で働いてた人なんだけど偉ぶってるだけで仕事出来ない人で、しかも暴言が酷かったんだ。尊敬できる所が一切なくてさ。上司の手前一応敬語使ってたんだ…そう考えると気持ちの方が大事だな』
『敬語を使うのは接客の時くらいでいいだろうな』
大体の話が終わったこともありギルドの裏手にあるルシノの家に向かう。
クロトもニーナも敷地の広さと家の大きさに驚いている。
そこにルシノが《増築》を使用して、左手の空き地というか広い庭に新たな建物を建てた。
2階の1部が繋がっている。
『クロトとニーナは新しく作った客室に泊まれ。リミルとクライは俺の部屋の向かいな。1つの部屋にしたから二人で広々使え』
「客室だったのに変えちゃって良かったの?」
<もしや俺たち専用の部屋か?>
『まあな』
リミルがクライの言葉に驚愕しているとそれを肯定するルシノの言葉が続いた。
驚きと喜びと戸惑いで固まってしまったリミルを放置してクライ、ルシノ、ニーナの3人で話は進む。
そしてふとクライが2人の部屋を用意してくれた理由を聞くとルシノはリミルの方へ目をやって言った。
『ギルレイからホームポイントが2つあるという話を聞いてな。いつでも来ていいからな』
ルシノはそう言うとリミルの頭に手をのせ、大人の色気を漂わせてふわりと笑いかけた。
するとぶわっと何かが込み上げ、耳まで真っ赤にしつつリミルは「ありがとう」となんとか返事をしたのだった。
ニーナは『ご馳走様』とニコニコしながら小さく呟いた。
クライは何となく色々察した。
それらを気にしないようにしていたクロトは生産職を極めたというルシノの実力を目の当たりにして只々関心していた。
ゲームと似ているが全く違うこの世界の理を、クロトはまだ把握していない。
しかし、凄いことを簡単そうにやってのけたのだと、体内の核らしき場所が教えてくれる。
ジクジクとした嫉妬のような恐怖のような憧れのような競争心のような、全てが混ざった尊敬の念が核で生まれ渦巻いていた。やがてその気持ちはクロトの中で目標という形になっていった。
クロトの目指すところは決まった。
そしてすぐ行動に移す──。
『ルシノ、俺を弟子にしてくれ』
『今はまだ無理だ』
『いつならいい?』
ルシノは予想していたのか戸惑いなく答えた。
クロトも恐らく断られると思っていたのだろう。
冷静に返している。
ルシノは暫く考えたあと言った。
『本格的に弟子になるなら成人してからだ。それまではリミルのついでに簡単な指導はしてやる。それ以外は却下だ』
『わかった』
クロトは成人までの2年間はレベルの解放と職業をできる限り使えるように頑張ろうと決意した。
クロトは元の世界では成人だったがこちらでは未成人であることがわかり最初は戸惑ったが歳が近いニーナとリミルがいたため直ぐに受け入れた。
新たに作られた客用家屋は、1階に風呂トイレリビングダイニングキッチン全て揃っており、客室が2つあり、2階には6部屋客室があった。
そんなに必要かとクライが尋ねると、分からないが面倒だから一度に作ってしまえと考えたらしい。
『家具も揃ってるから好きなとこ使え。リミル達も自分達の部屋見に行くか?廊下で繋いだからそこから行けるぞ』
リミルはクライとともにルシノについて本邸に行くと螺旋階段と客室の間に繋がっていた。
ルシノの部屋の真向かいに廊下を挟んで2つあった客室はルシノの言う通り1つになっていて家具も2人仕様になっていた。
「ベッドでか!クライと余裕で寝れる。これもルシノが作ったの?」
『ああ。2人で寝るなら必要だろ?』
<これなら3人でも寝れそうだな>
そのクライの言葉に顔を見合わせ3人で寝転んでみるがまだ余裕があった。
「ハハハッ。3人でも余裕じゃん」
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