稀有ってホメてる?

紙吹雪

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第1章 出会い(まとめ)

クロト

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『後ろからすまねえな。お前が白連れのリミルか?ルシノから連絡があってな。おれはハルバーってんだ』

声を掛けてきたのはノフテスのギルマスだった。
熊みたいな見た目だが鬼神だ。
屈強という言葉がとても似合うオトコだった。

「俺がリミル、こっちがクライだ」

『面倒事がこんなに重なることってあるんだな』

ハルバーは疲れたようにため息をついた。
ギルド内での騒ぎの他にも何かあったのだろう。
もしかすると自分も含まれるのでは?とリミルは思い、出直す事を提案した。

「出直そうか?」

『いや、リミル達には頼みたいことがあってな…』

すると何やらその面倒事の1つをリミル達に頼みたいという。
先に念押しされているので手紙を渡す。

「その前にルシノからハルバーに手紙を預かってる。直ぐに読んで欲しい。そう言えって言われてて」

『わかった。読むから頼み事聞いてくれな』

「俺らに出来ることならな」

そう言うとハルバーは直ぐに開封し読み始めた。
読み終わると魔法で燃やしてしまった。
良いのか?とリミルが慌てると読み終わったら燃やせと書いてあったと言った。

『んじゃ、頼み事について話すから俺の部屋行こうか』

リミル達はハルバーに連れられてギルマス部屋に入った。
席に座ると頼み事の前に村での事を伝えた。

「ルスタフへの依頼だったしこっちが忙しいならとりあえずルシノに連絡を入れてくれないか?一応帰りに寄ってみるけど」

『ああ。そうだな。あとで連絡を入れとくよ。頼み事なんだが、ちと気になるヤツがいてな。そいつに接触して暫く行動を共にして欲しいんだ』

リミルは厄介そうだなと思ったが一応依頼として報酬は払ってくれると言うので渋々頷いた。
旅に出る時に向けて資金は多い方が良い。

近くの村にいるらしく直ぐに言って欲しいとの事だった。
話終えると直ぐにその村に向かった。



<ここじゃないか?>

「たぶんな。ノックするか出てくるのを待つか…」

村に着いてすぐ、畑仕事をしていた村人にギルマスからの以来で来たと伝える。
するとそいつはどうやらとある村民の家にいるという。
リミルたちは今、その家の前にいた。

ノックするか悩んでいると綺麗な女の子が出てきた。

「ここにいるって聞いてきたんだけど」

『あ、冒険者プレイヤーさん?待ってね、すぐ呼ぶから!』

するとその子の声が聞こえていたのか女の子の後から顔を出したヤツがいた。

『よっ!お前もなの?』

と言われたがそいつの首にはギルドタグが無かった。
一応手首なんかも見てみたが見当たらない。
しかもそいつは変わっていた。

耳が丸いのに角も羽もない。
背は180cm程もあるのにだ。

何族か不明などありえないので即座に鑑定する。


☆☆☆☆☆
*名前 クロト(黒澤 大翔ひろと)
*種族 渡人わたりびと族_ღ50
*性別 ♂(♂♂)
*契魔 なし
*状態 興奮
*職業 戦士ファイター_ф32
    攻撃系魔法詠唱者マジックキャスター_ф30
    防御系魔法詠唱者マジックキャスター_ф30
    支援系魔法詠唱者マジックキャスター_ф30
    薬師ケミスト_ф50
    錬金術師アルケミスト_ф50
    鍛冶師スミス_ф50
    料理人シェフ_ф50
*称号 異世界から来た者
☆☆☆☆☆


リミルは混乱した。
まず、異世界人であるということに加え、レベルがほとんど揃っているのは不自然だった。
しかし、外見から見てこの世界の者ではないのは納得出来た。

どうやって渡ってきたのかとかコイツだけなのかとか気になることが多すぎる。
まずはじっくり話を聞くことにした。

「俺はリミル。こっちは相棒のクライ」

『その言い方サトシっぽい』

そう言って笑ったがリミルはそのが分からなかった。
サトシとは?と聞くと嘘だろ!?と驚かれた。
女の子に目配せすると彼女も知らなかった。
彼女は仕方ないみたいな顔をされたのが腑に落ちなかった。

「それであんたは?」

『あ、そうだな!HNハンドルネームか?それとも本名の方?』

ハンドルネームが分からなかったので聞きつつ両方教えてもらうことにした。

「ハンドルネームってなんだ?どちらも教えてくれないか?この世界の人族は基本的に名前は1つしかないんだ。そちらの世界では沢山あるのか?」

そう言うと彼は『え?』と言って少し固まったが直ぐに気を取り直した。

『待てよ、お前もプレイヤーなんだろ?ならお前もこっち側じゃないのか?』

「同じ言葉が違う意味で使われているのか?俺達の世界でのとはギルドという組織に所属する冒険者という生活基盤を築いている者達を指す言葉だ。意味は、立ち向かう者や闘う者。魔物と戦うことが多い職種だ。そちらでは違うのか?」

そう言うと少し寂しそうだったが気を取り直したのかプレイヤーの意味を教えてくれた。
なんでも、日本という所ではゲームというものをする人のことを指す言葉らしく、この世界がゲームに似ているのだとか。

『そういや俺が異世界人ってみんな知ってるの?』

「ごめん、さっき不審に思って鑑定させてもらった。この世界に居ない見た目だったから」

少し申し訳なくてしゅんとしていると全然気にしてないと言ってくれた。

『俺がここに来る直前にやってたゲームは先行体験でベータテストってのに参加したんだけど、種族は人間しかなかったんだよな…容姿は細かく設定できたけど』



イマイチ言っていることは分からなかったがどうやら自分で決めた容姿のアバターという身体に成り代わった?らしい。
元の身体や元の世界での自分がどうなったかは分からないようだ。

『ここに来た時はまだゲームの中だと思ってたんだけどやけに感覚がリアルだし、文字も知らないものだし、ニーナは可愛いし優しいし…それでステータスを確認したら渡人族とかいう種族になってて…』

途中女の子の方を見てデレっとしつつ、ここが現実だと理解出来たと話してくれた。
帰り方も分からないし帰る気もないらしい。
クロトは家族が居ないらしい。
なぜいないのか理由は互いに言わなかったが居ないというだけで少し親近感が沸き、多少は打ち解けた。

「これからのこと不安だろうけどギルドからの依頼で俺たちが一緒に行動することになったから。今後どうしたいかは自分で決めれば良いけど慣れるまでは大変だろ?」

『…ニーナはずっとこの村に?』

クロトは少し考える素振りをした後女の子に話を振った。
それまでちょこちょこ合いの手を入れつつ聞き役に徹していたニーナは突然質問されて戸惑ったものの、ずっとこの村にいると答えた。

『なら俺もこの村に…』

<いや、それは無理だろう>

それまでずっと黙って隣に伏せていたクライがムクっと起き上がって言い切った。
その様子に二人とも心底驚いていたがニーナはクロトの言葉に対する驚きもあった。

『クライは喋れるのか!てゆかデカいし綺麗な毛並みだし角?触角?も尻尾もスゲーカッケー。イカすぜ』

クライはクロトに褒められて満更でもないようだ。
胸を張って顎を上げ、ふふんっとドヤ顔だ。

<当然だ。そしてこれは耳朶みみたぶだ。角や触角ではない>

『そうか…それは悪かった。それでなんでこの村に残るのは無理なんだ?』

リミルやクライは耳朶としているがおそらく角の1種だと思われる。
だがクロトは素直に受け入れ謝罪した。

<お前は俺たちと行動を共にしなければならない。だが俺達は依頼でここに来ているだけでイレアの街に帰らなくてはならない。残るのは無理だろう>

『そんなぁ~。ニーナと離れるしかないのか…』

クロトはガックリと肩を落とし顔も机に突っ伏してしまった。

<連れていったらどうだ?イレアに>

「ニーナが行きたいかどうかだろ?」

全員でニーナを見るとニーナは『え?あたし?』と言って戸惑っていた。
ニーナは村から出るという考えをもとより持っていなかったため、街への憧れはあるものの不安の方が大きいみたいだった。

「連れてくにしてもクロトが街に慣れてから連れ出した方が良いんじゃないか?種族レベルを上げて早くホームポイントを増やせば簡単に会いに来れるようになるんだし」

そう言うとクロトはホームポイントに食いついた。今まで居なかった種族なので確認しながらにはなるがたぶん同じだろうと話し、レベル上げの手伝いをすることになった。
どうせイレアに戻ったらラッセル達のレベル上げに付き合うのだから問題ない。

『ニーナ、俺、強くなってこの世界にも慣れたら迎えに来るから!』

ニーナはクロトの言葉に戸惑っていたが頬を染めて満更でもない様子だ。

「簡単な連絡手段があればなー」

なかなか会えないならせめていつでも連絡が取れれば良いのにと考えてしまう。それがつい口をついて出てしまっていた。

『え、チャットとかねーの?後は通信の魔法とか…』

「…え?通信の魔法………チャットって言うのはなんだ?」

文字を送りあって連絡を取る手段だと教えられた。リミルはそこで考え込んでしまった。
クロトは元の世界の知識なのか音の振動がどうの、電波がどうのと言っているが結局は魔法でどうにかならないのかなぁと唸っていた。


リミルははたと気づく。

魔道具が作れるなら魔法も作れるのでは?と。
思いついた途端にピコンッと音が鳴った。
自身のステータスを確認すると新たに2つ増えていた。


まずは探偵ディテクティブ

これは村での1件の時に鳴ったので推理したのが切っ掛けだろう。

それと今増えた呪文探求者スペルシーカー

これは魔法を作ると考えた途端に出た。
ならばクロトにも増えたかと思いきやクロトのステータスは変わりなかった。



他にも条件があるのかもしれない。



それはともかく、早速簡単な魔法を創って見ることにした。
まずは今しがた教えて貰った"チャット"というものを作るために詳細を決めていく。

・本人にしか見えないようにしたい。
・届いた時に合図が欲しい。
・相手が誰なのかわかる方がいい。
・保留も出来るほうがいい。
・履歴を呼び出せる(見直せる)方がいい。
・終わりの合図も欲しい。

この条件で試作してみることにした。

「《試作エクスペリメント》」


一応完成はしたので目の前にいるクロトに向かって使う。


「クロトに《チャット》」


『うお!…ガチでチャットみたいだ』


リミルは試作したと簡単に送り返事を送って貰うと、1度終了し再度クロトから使ってもらった。


するとピコピコと音がなり眼前に【クロトからチャットです】というメッセージが現れた。

暫く放置すると文字は消えるが読もうと思うと現れる。

しかし、戦闘中などであればこの数秒でも気を取られるのは不味い。
それに完全に視界から消えてしまうと忘れてしまいそうだと思った。



すぐに修正し作り直す。



今度は視界の左下にメッセージが現れ、相手の名前だけが残り続ける。

ピコピコとなるのは驚いてしまうのでどうしたものかと思っているとクロトが『通知音はあるのと無いのを自分で自由に選べるようにしておけば?』と言うのでオンオフ機能も付けた。



文字の色や通知音量はその場に合った物が自動で選択されるようにし最適化した。

消費魔力はそこまで多くないがある程度のレベルが無ければ何度もやり取り出来ないだろう。

手紙の需要が落ちても困ると思ったのと必要な機能を加えた結果だった。


呪文探求者スペルシーカーのレベルが低いので上がれば完成した魔法の編集も出来るかもしれないし、もう少し消費魔力を抑えられるかも知れないが今はこれが精一杯だった。


「とりあえず《チャット》は完成ということで《完成コンプリション》」


リミルはよし、と通話の方も考え始めるがクロトが話しかけてきたので中断した。

『なあ、気になってたんだがなんで呪文は英語で喋りは日本語なんだ?』

「えいご?にほんご?呪文や喋りの言葉の違いか?それは恐らく翻訳されているから別の言葉に聞こえるのかも知れないが一応違いはあるな。んー…魔法はイメージが大切だろ?イメージを言葉にしたのが呪文で、普通の言葉はこの世界の言語だな。俺は歴史は習ってないからギルマスの誰かに聞く方が良いかもな」


文字についても聞かれたので、ほとんどその形から作られたものだと教えるとそういうのは"象形文字"と言うと教えられた。"にほんご"がそうらしい。
リミルは納得した。

「ならその"えいご"ってやつがイメージを言葉で表す言葉なんだろうな」

『そうだった気がする』

クロトは英語のひとつの単語に複数ある意味が日本語だとバラバラなのをイメージを表すと聞いて妙に納得した。
何かでそう言っていたのを聞いた気もする。



さて、とリミルは立ち上がった。
そろそろニーナの家から出てギルマスの所に報告に行って宿屋を探さなくてはならない。

『とりあえずノフテスの街に行かないと。ニーナ、種族レベルはいくつ?』

遅くなったがニーナは猫獣人だ。
黒い猫耳と黒い尻尾が生えている。
年齢は19歳らしいが普通の人にしてはレベルがあった。

『ღ22…色々あってレベル上げてるの』

「そんなに気にしなくていい。俺も色々あって年齢は恐らく20後半くらいだけど君の4倍はあるから」

ニーナはとても驚いたあと何やら考え込んでしまった。

この世界では子どもは守られる存在だ。
そんな者達がレベル上げなど周りが止めるので出来ない。
だがリミルの様な者も世界中探せば居るかもしれない。
ニーナが鍛える理由は分からないが。

そんな二人の様子に戸惑っているのはクロトだ。

『ここではレベル上げってそんなコソコソするもんなのか?』

この世界の常識は彼には通じないらしい。
説明すると、大事にされてるって事じゃん!と喜んでいた。
ならばと年齢を聞くと22歳だったので成人するまで鍛えずにおくか?と揶揄うと焦っていた。
それを見て溜飲を下げたリミルは保護者の許しが出ると冒険者登録出来ると教えた。

『俺の保護者って誰になるんだ?リミルか?』

「そういうのはギルマスに聞いてみないと分からないな」

するとニーナが考えが纏まったのか、ついて行くと言い出した。
どうやら本格的に強くなりたいらしい。

「んー…ニーナ、家族は?」

『いないの。最近魔物に…』

「そうか…」

クロトはニーナの肩をそっと抱き寄せた。
それを見つつ、リミルは二人の面倒を見ることになるが部屋はギルレイに借りてる状態だ。
どうしたものかと悩んだが先程作った魔法を思い出してギルレイに飛ばした。

*********

<驚かせてごめん。さっき作った魔法でまだレベルが低いから消費魔力がそこまで抑えられていないが、遠くにいてもやり取りが出来る魔法だ。>

<ほんとにリミルか?>

<これは魔力や個人名、相手の顔もイメージして放つ魔法だから偽装は出来ないよ。>

<そうか。そろそろノフテスじゃないか?>

<そうなんだけど、ハルバーに依頼されて村に来てて、そこで出会ったクロトと行動を共にしてくれって言われてて。>

<ああ。聞いている。仕方ないし俺の家で保護するから一緒に帰ってこい。>

<それが、一緒にいたニーナっていう女の子も来たいらしくて。>

<その子家族は?>

<魔物に殺られたみたいで強くなりたいらしい。俺としても力にはなってやりたいんだけど、今お世話になってる身でどうしようかと思ってさ。>

<そうだな…部屋増やすか。良いぞ、連れてこい。>

<ありがとう。助かるよ。>

<いや、リミルが誰かと交流を持つのは俺としては嬉しいからな。そういや始まりのダンジョンに行ったが俺しか入れなかった。凄いな、あそこの妖術と統括。>

<他のギルド管理者と?>

<クリードだ。>

<それは仕方ない。統括に紹介してないし俺たちと行った訳じゃないからな。>

<妖術がどんなものか気になってな。明日帰ってくるのか?>

<いや、恐らく明後日かその次の日だ。>

<わかった。気をつけてな。>

*********

そうしてギルレイとのやり取りを終え、二人に連れて帰れる事とお世話になっている人の家に行くのでお礼は直接その人に行って欲しい旨を伝えた。

『あたしは宿でも…』

『なら俺も!』

<そうなるから二人とも連れてくんだろ?>

クライは部屋が狭くなると思っているようで少し不機嫌である。

「クライ、ギルレイが部屋を増築してくれるみたいだから俺らの部屋はあのままだよ」

すると一気に機嫌が戻った。
とても分かりやすい。

『え?俺たちのためにそこまで!?』

「?ああ。そんなに驚くことか?確かに金はかかるけど帰ったらギルレイに返すし…」

『え、あたしも払う!返すのは遅くなるかもしれないけど…』

『…え?』



どうやら異世界とは建築方法が違うらしい。
こちらの世界では専用の職業クラスを取得している者ならだれでも魔法で簡単に建築が出来る。
建築に特化した者達が所属するのが建築屋だ。

『そうか…魔法って便利だな…』

クロトはしみじみと呟いた。



宿代が勿体ないということで今晩はニーナの家に泊まらせて貰うことになった。
風呂はギルレイやルシノの家ほどでかい訳もなく、1人ずつ入った。
クライは入れなかったためいつも通り《清潔クリーン》だが風呂が気に入ったようで心做しかソワソワしていた。


次の日、準備を終えた二人と共にニーナの家の戸締りをして村長に挨拶する。

『村長、今までありがとう。大事な家だから気にかけてくれると嬉しい』

『ああ。ちゃんと庭の手入れはしとくよ』

そうして4人でノフテスに向かった。



街の近くから既に冒険者プレイヤーが行き来しており、結構な数の視線に晒された。

<こちらは不躾な視線がやけに多いな。鬱陶しい>

「そうだな。早くルスタフに移動したい」

そう話す二人の後ろではクロトがニーナを口説いていた。

「クロトのせいでもあると思うけど…」

『なんだ?リミル、ヤキモチか?嫉妬か?お前は好きな人とかいないの?』


そう言われたリミルの頭にはルシノがチラついた。
その時ようやく自覚しかけたがリミルは気付かないふりをした。

自覚するのが怖かった。



「…いないな」

クライは後ろの二人に気付かれない程度にリミルに視線を送った。
いるだろ。と。

リミルはその視線に気づくことなくクライには鈍いという烙印を押されていた。




街に着くとクロトとニーナがソワソワし出した。

『すげー!異世界って感じ!』

『ここがノフテス…広いのね…』

<イレアの方が広いし綺麗だぞ?>


クロトは始まりの街らしい喧騒だとか言ったあと、武具を売っている店を見て騒いでいた。
ニーナは人の多さに驚きつつ平静を装っていた。


ギルドに到着すると中は静かだった。
騒ぎを起こしていた連中は揃って居なくなっていた。
日を跨いでいるので当然といえば当然なのだが結構な人数が誰一人ギルドに来ない事などないだろう。

リミルは受付に進みギルマスに会いたい旨を伝える。
前日とは違い、丁寧に対応され、ギルマス部屋からハルバーが出てきた。

『入ってくれ。中で話そう』



ギルマスの部屋に入るとハルバーがクロトの方を向いた。

『俺はこの街のギルドマスターをしているハルバーだ。お前のことを聞かせてもらってもいいか?』

疑問形だが有無を言わせない圧を感じる。
異世界人が来たのは初めてだと思う。
だからこそ疑問も多いし、疑いもする。
クロトは話した感じ嫌な雰囲気はないが、今後もそうとは限らないし、新たに渡って来る者も居るかもしれない。

用心するに越したことはないだろう。


『はい。俺のHNハンドルネームはクロトです。本名は黒澤大翔ひろとって言います。異世界から来ました。ステータスでは渡人わたりびと族ってなってました。よろしくお願いします』

リミルは驚いた。
ニーナも驚いているが、クロトは敬語を使えたようだ。
異世界の敬語は簡単なのだろうか?とニーナとヒソヒソ話す。

『ハンドルネーム?本名?クロサワヒロトと言うのが本当の名前ということか?長い名前だな。ハンドルネームと言うのはあだ名のようなものか?』

『俺の世界には苗字、つまり家名というものがあって、家名と個人名を並べて名乗るんです。俺の場合は家名が黒澤、個人名が大翔で、ハンドルネームはあだ名と言えばあだ名ですが、ある特定の物事で使う個人を示す名前の事を言います』


リミルはクロトのステータスの表示を思い出して納得した。
カッコ内にあった名前が途中で別れていたのは家名と個人名に別れていたからなのかと今更ながら理解した。


『そうか。それでお前はどう呼ばれたい?』

『クロトでお願いします。もう元の姿ではないし、家族もいませんのでこちらで生きていきます。帰れたとしても帰る気はありません』


クロトはリミルに話した内容を要約してハルバーに話した。
ゲームというものがイマイチ理解出来なかったが画面上で遊ぶ娯楽と認識した。
そこに出てくる世界にこの世界が似ているらしい。
クロトの世界は魔法もレベルもないらしく、不便だと思った。
だからこそ科学やらが発展してゲームがあるのだとか。


『ならなぜここに来たのかは分からないということか…』

『はい…気付いたらニーナのいる村の近くで倒れていまして。ニーナに助けてもらいました』


その後これからの事だとかこの世界のルールだったりを話していた。
そして唐突に切り出される。

『そうだ、リミル。お前がクロトの保護者な』

「は?一緒にギルレイんとこで世話になるからギルレイじゃないのか?」

思っても見なかったためとても驚いた。
ギルレイが保護者になると思っていた。
成人して間もないリミルに頼むことではない。

『あいつはギルドマスターの仕事があんだろ?数年はお前らと行動を共にして貰うんだからお前が保護者の方が都合がいいだろ?』

「俺あんま歳変わらないぞ?」

するとニーナがソワソワし始めた。
嫌な予感がする。

『私も成人はまだで親が居ないんだけど…』

『じゃあニーナの保護者もリミルな』

リミルは嘘だろ?と呆然とする。
成人して間もない親を知らないリミルが二人の親代わりとなってしまったのである。


「マジかよ…てゆか、ハルバー。サラッと言っていたが数年って?クロトが慣れるまでじゃないのか?」

『慣れるのに必要だろうと思ってな。それに成人までは一緒にいてもらうから』

成人までとなるとクロトは確か22と言っていたので2年程だ。

「流石に四六時中は無理だぞ?」

『そりゃな。ただ、同じ街や村にはいてもらうことになる』

それくらいなら困ることは無い。
秘匿している物事が多いので一緒に行動するのは躊躇われる。
まだそこまで信用出来てはいない。
人となりは良い奴だが。



『よろしく、リミルお兄さん』

『あたしも!よろしくね、リミル君』

「ああ…保護者って具体的に何をするんだ?」

『んー、そうだな。基本はやらかしたりしないように見守ってやれば良いけど、相談相手もしてやれ。あとはいざと言う時は守ってやれ。親代わりじゃないからそんくらいで大丈夫だろ?二人とも成人してないとはいえ自分たちで考えることは出来るだろう』

二人とも真剣な眼差しで頷く。
それなら確かに者らしい。
親代わりでなくて良いのならまだ幾分か気が楽だった。
後は見張りもだな。
ハルバーがチラリとリミルを見る。
そんな目で見なくても分かってるよ。
クロトにバレたらどうすんだ。



一通りの話が終わったので村の件を確認する。

「昨日頼んだ村の件はルシノに伝えてくれたか?」

『ああ。今日帰りにルスタフ寄ってくだろ?そう伝えといたぞ?直接聞きたいんだと』

クロトとニーナの2人は当然知らないから首を傾げていた。
しかしクライは頭をプルプルと振っていた。
リミルが訝しげに見遣ると何でもないと緩く左右に頭を振った。



(そうだ。移動どうしようか…三人でクライに乗れるのか?それを考えて頭を振っていたのかな?こんなことなら転移のポイント何処か探して付けておくんだった…)

「クライ…三人乗せられるか?」

<ああ。問題ない。リミルとニーナは同じくらいでちっさいからな>

グサッ。

気にしていることを言ってきたということは不機嫌なのか。
リミルに思い当たる節はなかった。

『そう言えば珍しいよね?私と同じくらいの魔人族の男の人って…』

「俺は育った環境が悪かったからな。それよりギルドの登録はここでやるかそれとも戻ってからやるか?」

しょぼくれた言い方になってしまったのは仕方ないと思う。
直ぐに話題を切り替え、背の話は終わりにした。

『ああ、その事なんだけどな。ホームをイレアにするなら二人とも戻ってから作った方が良いだろう。ここは遠すぎる。せめてルスタフで作れ』



二人にどこで作りたいか聞くとどう違うのか問われたので説明する。
作った街がホームとして登録される。
ホームとして登録された街のギルドで定期試験を受ける必要がある。
この定期試験と言うのは実力をギルドがある程度把握して依頼を任せられるか判断するためのものだ。
ホームは変更も出来るが確か結構面倒でお金も高くはないがかかるはずだ。
移住する者くらいしかホームの変更はしないだろう。

『試験なんてあるんだ…』

『無闇に死なせないためにな。難度をギルドである程度決めている。それにあった実力があるかどうかで依頼を受けさせるかどうかを決めているんだ』

ハルバーにそう言われてクロトは納得したようだった。
不安そうなのはニーナだ。

『あたしのは村タグなんだけど…』

「登録したら変更か更新が出来るんだったよな?ギルドタグと交換するか、村タグのままギルドタグに移行するか」

出来るぞとハルバーに言われてようやく安心したようだった。
村人は例に漏れず村タグを所持している。
産まれてすぐ親から贈られる最初のプレゼントだ。
個人を示すものでこれと言った機能がある訳では無い。
しかし大事にする者は多い。


「ここで登録しないなら後は帰るだけだが寄るところがある。少し待っててくれ。クライ!」

<ああ>


クロトとニーナをハルバーに任せてノルスの森に向かった。

買い付けた馬を連れて歩くのは疲れされるだけだしクライと比べると遅いので移動に時間がかかる。
なので1度イレアに戻ったあと転移で迎えに来て転移で連れて帰ろうと考えた。
そのための転移ポイントを誰にもバレない所に作りたかったのでとりあえず森に来たのだ。


人の足では入れない奥まった所に到着すると転移ポイントを記憶した。



この転移が使える職業クラスは取得している者が居ないのか少ないのか、情報が全くない。
情報のない職業クラスは少なくはないが使っているところを見ることはあるので恐らく所持者が居ないのだろう。

隠す必要はそこまでないのだがリミルは根掘り葉掘り聞かれることにうんざりしていた。
当然、ギルドに聞かれれば話さなくてはならないが、バレるまでは隠すことにしている。
他にも使っている者がいる職業クラスは人前でも普通に使う。

《チャット》に関しては広めなくては意味が無いので話すことに決めた。

まあ、リミルが取得している職業クラスは取得条件が未だ分からないものが多いので話せない事も多いが。



「よし、戻ろう。これで買い付けの馬の迎えは心配なくなった」

<そいつらに乗って移動はしないのか?そしたら戻ってくる手間もないだろ?>

「行きの何倍もの時間がかかるが良いのか?それに俺の馬じゃなくて買った馬だけどな。今は一応俺のということにはなるだろうけど回復させてから引き渡さなきゃ評価も下がるしな…」

<何倍?馬ってそんなに遅かったか?>

「魔獣でも魔物でもない普通の馬だからな」

<遅いのは嫌だな…転移で正解だ>



そんなことを話しつつギルドに戻る。
ハルバーにお礼を言い、二人を連れてノフテスを出る。

人目が減った所でクライの背中に、前からリミル、ニーナ、クロトの順に乗った。
落ちないようクロトがニーナを挟むように腕を伸ばしリミルに掴まる。
ニーナもリミルに掴まった。





リミルは革と金属の複合鎧を着ており、ニーナは革鎧、クロトは軽装鎧とローブを着ている。



リミルは普段軽装鎧とローブ姿だが、基本的に刀剣士スローターを使うので戦うときは自身で作ったオリジナルの複合鎧を着用する。
ローブだと剣を振るのに邪魔になるからだ。
クロトには着替えたのを見て『グラン〇ルー〇ァンタジーに出てくるルシフェルっぽい』と言われた。

ゲームに出てくるらしい。
お気に入りだったキャラだそうでその姿で生活して欲しいと言われた。

リミル自身も苦労して作った複合鎧なのでとても気に入っている。

だが流石に街中では目立つ。
重装鎧で生活する者もいるくらい装備を普段から着用するのは普通のことなのだが、どの種類の鎧も明るい色が多く、リミルのように全身黒は居ない。
1部が黒いのはよく見かけるが、リミルは全体的に黒く、1部赤や金や白が入っている。

赤と白は自分の色なので入れたかった。
しかし黒、赤、白だと浮いてしまって、金を入れるとバランスが良くなったので今の形に収まったのだ。
全身を黒にしたのには理由があるが他の職業クラスでも使えるようにと考えたのが大きい。



ニーナは野伏レンジャー職業クラスを取得しているようで身軽な革鎧を装備している。
空色とレモーネ色と白で可愛い感じだ。
ちょっとした装飾も着いているのだが、それは自作らしい。
装備自体は旅商人から買ったとか。

普段着でも良いけど替えは欲しいと言っていた。
お金を貯めたらまずは替えの鎧を買うらしい。



クロトは生産職に特化した構成を選び、ゲームを始めて直ぐこちらに転移したと言っていた。
戦士ファイターを2レベルほど上げた所でブラックアウトしたので他はお試しの初期レベルだとか。
限られた人数で試しに遊んで改善点などを確認するベータテストというものに参加したらしい。
お試しだったためレベルはある程度ある状態からスタートだったので実際にはまだ何もてをつけていないそうだ。
容姿や装備は自分で決めれたと言うがリミルには信じ難かった。

生産職に特化した構成と言うだけあって戦える職業クラスが戦士か攻撃系魔法詠唱者マジックキャスターしかない。
それにどれも使ったことがないと言っていた。
これからが大変だろうなと思う。
装備は軽装鎧とローブという魔法詠唱者マジックキャスター寄りなので戦士ファイター用に重装鎧か複合鎧も買うか作るかするのを勧めた。




クロトの世界の話や装備の話をしつつ、途中出てくる魔物を行きと同じ要領で倒してドロップを集めているとニーナが倒したいと言い出した。

『少しでもレベルあげたくて…』

「ギルドタグが出来てからなら倒した奴の記録が残るから報酬貰えるんだけどな…レベル上げにはちゃんと付き合うから報酬を貰わしてくれないか?」

『ギルドタグのない俺らが倒すと貰えないのか?それは損だな…』

ニーナは残念そうだったが納得してくれた。
途中、村の様子を確認しつつ、子ども達に手を振ってルスタフへ急ぐ。


朝ニーナの家で食べて以来、食べていなかった。
ニーナは料理人シェフのレベルがそれほど高くなく、苦手だと言っていた。
リミルはレベルはそこそこだがとても美味しく出来る時と可もなく不可もなくという時とがあり、安定しない。
クロトは生産職特化と言っていたので期待したが実際には作ったことがなく経験が足りないためレベルが生かされていなかった。

昼は美味しいものをということでルスタフで食べることにしたのだが、ハルバーとの話し合いが長引き、ルスタフに着くのが昼を越えてしまったのだった。



ルスタフに到着して早々4人はご飯屋に向かった。
行くところはルシノにオススメされた大人な雰囲気のカリィを出す店だ。

リミルとクライは前に食べたものを選んだ。
ニーナはスイーツの着いたセットを頼み、クロトは驚愕の表情で固まっていた。

『これって…これって!カレーじゃん!ライスは無いのかな?』

『ございますよ。稀にライスを希望されるお客様がいらっしゃいますので用意してあります。ですがお客様の好みに寄っては合わないと感じるカリィも御座いますのでその時は一言お声掛けして頂ければナンをお持ちすることも可能でございます』

クロトはリミルと同じものをライスで注文した。

全員お腹が空いていたので黙々と食べ、全員分リミルが支払い、店を出た。



『ご馳走様でーす』

『美味しかった』

「カリィはあの店が1番美味しいらしい」

そう話しながらギルドに向かう。
するとギルド前の道でばったりルシノに出会う。
リミルは顔を綻ばせて近寄る。
それを見てクロトとニーナも察した。

ニーナはふふふっと優しく微笑み、クロトはそのニーナの表情を見て顔をだらしなく緩めている。
クロトはRGBTに偏見は無いがこの世界ではその辺どうなのか気になったのでニーナに聞いてみた。

『偏見かあ…この世界ではよくある光景だし偏見はないかな。ただ、当事者同士が恋愛対象タイプかどうかってだけだね。一応言っておくと性別は服装で判断するの。鑑定すれば分かるけど性別のとこに身体の性別と気持ち?内面?の性別があって、そこを見れば詳しく分かるよ』

ニーナに確認してからニーナを鑑定することも考えたが思っていた性別と違ったらと思うと勇気が出なかった。
偏見はないが当事者になるというのはまた違うのだ。
ニーナならと思わなくもないがまだ自身はない。

クロトはこっそりリミルが駆け寄った人物とリミルを鑑定した。

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