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第1章 変化の始まり(まとめ)
お風呂上がりの話し合い
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<そうだな。今日はもう休みたい>
「晩御飯とお風呂と、あと話もしなきゃだしな」
三人はダンジョンから出てギルレイの《転移》でギルレイの家の玄関に移動した。
「《転移》用に部屋に靴マット置こうかな。クライも乗れるくらいの」
『明日買いに行くか。とりあえず風呂の使い方教えるからリミル先に入ってくれ。クライは今はすまないが《清潔》で済ませてくれ。後で俺と入ろうな』
<お!洗ってくれるのか?《清潔》楽しみだな>
「お風呂久々に入るなー」
『クライは体毛が短いから洗いやすそうだな』
<銀狼の時は長かったから短くしてみたんだ。前より早く走れるようになったしスッキリしていい感じだ>
「毛の長さが変えられるらしいよ。クライは寒い場所以外では基本短いままだな」
『そう言えば野生のフェンリルの目撃情報では体毛の長さはまちまちだったな』
そんな話をしながら二人は靴を脱ぎ装備を《武具収納》に片付け、クライは魔法で綺麗にして家に上がる。
リビングに入ると魔道具の[自動照明]や[暖炉]がつき、一気に明るくなる。
[自動照明]は人を検知し自動で発光するので様々な場所で使われている。
[暖炉]は実際に火が灯っているが部屋の温度を一定に保つ魔工が施されている。
<火があるのに暑くないな。快適だ>
『クライは少しそこでのんびりしててくれ』
クライは言われた通り、暖炉の近くに敷いてあるフワフワした毛足の長いカーペットの上で横向きに寝転び寛いだ。
蒼に埋もれた白銀の毛並みががキラキラと火に照らされ、まるで海に浮かんでいる様だ。
リミルとギルレイはそれを横目にキッチンの左の扉に向かう。
中に入るとキッチン程の広さの部屋があり、入って来た真向かいに扉、右側が殆ど磨りガラスで左側には棚と扉と洗面台がある。扉の多い脱衣所だ。
「この部屋全方向に扉があるけどそれぞれ何処に繋がってんの?」
『ああ、真向かいは俺の部屋、左側のは廊下に繋がってるが左右に手洗いがある。見とくか?』
「うん。したいときに迷ったら困るし」
左側の扉をスライドして開けると小さめの廊下があって奥に扉がある。
その扉を押し開けると右手に階段と奥に玄関がある廊下が見えた。
引っ込んで扉を閉め、小さな廊下の左右にある扉をそれぞれ開けてみる。
どちらも同じ造りになっていて、広めの個室でトイレが1つと小さな手洗い場が1つあった。
「玄関からお風呂に直行出来るね。御手洗もその場で手を洗えるし便利」
『ああ。アンリが帰ってきて直ぐにお風呂行きたいこともあるからって言ってな』
「確かに。んじゃ磨りガラスのとこがお風呂か」
脱衣所にもどり、磨りガラスの1部、扉になっている所を開ける。
壁は木材で床は石材のタイルのような物で出来ている。
丸い岩に囲まれた浴槽は5m四方程のほぼ円形をしており、右側と奥の壁にくっ付くような配置だ。
左の壁にはシャワーが二つ並んで付いている。
『シャワーは手に取るとお湯が出る魔道具だ。浴槽にはこっちでお湯を出す。ついでにどちらの温度調節もここで一緒に出来る』
ギルレイはそう言って脱衣所の唯一磨りガラスでは無い壁に設置してある魔道具の使い方を操作しながらリミルに教えた。
「わかった」
『じゃあリミルが風呂に入ってる間に晩飯作るから上がったらダイニングに来てくれ。ついでに、風呂上がりにはこれを着ろよ』
棚を開けてそこにかかっているバスローブを1つ出して部屋の真ん中にある腰くらいの高さの机に置く。
「ありがとう」
ギルレイがキッチンの方に行ったのを見送ると、早速入る準備をする。
お風呂上がりに着るものがあるので、着ていたもの全てに《清潔》をかけて《空間収納》に片付ける。
浴室に入り頭や身体を洗い、お湯に浸かる。
リミルは今日一日を振り返っていた。
(まず冒険に出ようと思って森を出たけどこれは延期になった。それから初めてちゃんとした家に住むことになった。家具を買いに行くのも初だったな。後で設置しないと。そこの店主のペティからは悪意や害意は感じなかった)
騙された頃から、悪意や害意、敵意といった嫌な視線には気をつけるようになった。
元々アンリに気を付けるようにと散々言われていたが何も起きなかったため危機感が薄かった。
実際はアンリにそれとなく守られていたのでそういった視線に気付く間も無かっただけだ。
それ故に、アンリがいなくなった途端に騙されたのだが、そうなって初めてアンリの言いつけを思い出した。
リミルはそこまで酷い目に遭った訳ではなくて良かったと思うことにした。
実際、その頃のショックが大きかっただけで今ではいい教訓になったと思っている。
取り返しがつかない事とかでなくて心底ホッとする。
だからこそ、以前のように人を簡単に信用することは出来なくなったが、視線に気をつけるようになってから、ある程度の見極めは出来るようになった。
嫌な視線の者とは出来るだけ関わりたく無かった。
(その後グレモスのレストランに行ったんだ。色々あったな。美味しい料理を食べて、俺の親かも知れない人達の話を聞いて、ピギルーイから話を聞いて…)
リミルはピギルーイに襲われたとは思っていない。
クライ個人への憎悪もなければ、本気で殺しにきた訳でもなかったからだ。
ただの八つ当たりに近かった。
辛いことが重なって泣き喚いている者を落ち着かせるために気絶させたに過ぎなかった。
ピギルーイはちゃんとその後反省していたので特に思うところはなかった。
(ピギルーイが落ち着いてよかった。ギルレイが調べてくれるってのもあってやっと冷静になって…そんでオーバーフローが起きたって言われて)
オーバーフローが発生する時は決まって森に居る時だったため、知らない事だらけだった。
(そう言えばピギルーイに武具貸したままだった。種族レベル36って言ってたけど冒険者じゃないからそんなに上げてないのかな。それともレベルの上げ始めはみんな遅いとか。その辺のズレも後でギルレイに聞いてみよう。自分のステータスはどこまで見せようか…)
ステータスの虚偽は不可能だが隠蔽はある程度のレベルアップによって可能になる。
リミルが、ふと上を見ると綺麗な星空が見えた。
風呂場の天井はガラスの様に透明な材質だが曇ってはいなかった。
「綺麗だな」
暫く見ていたかったがそろそろ逆上せそうだったので、楽しみは次に取っておこうと急いで上がる。
「《温風》」
魔法で全身を乾かし、用意して貰ったバスローブを着てダイニングへと向かった。
**
リミルがキッチンから出ると直ぐにギルレイから声がかかる。
『もうすぐ出来上がるからクライを起こしてくれ』
「寝てるのか?呼んだら起きるだろ?クライ!」
『それが起きないんだ』
「あれ?いつもは物音で起きるのにな」
『危険がない場所で寝るのが初めてなのかもな』
「そう言えばそうだな」
『そうか…そのまま寝かせとくか?』
「いや、ご飯抜きは辛いだろ」
リミルはクライに近寄って軽く揺すりながら話しかける。
「クライ、晩御飯食べないのか?」
<ん?いや食べる…くぁ~>
「珍しいな。呼んでも起きなかったぞ?」
<ここは飛び起きる必要もないしモコモコだし暖かくてな。安心して気持ちよく寝れたぞ>
「そっか。二人が後でお風呂に入ってる間にベッドの設置しといてやるから」
<ありがとう。あれは魔法を使っても大変そうだと思ってたんだ。特にカバーとか>
『二人とも!ご飯出来たぞ』
二人は喜んでダイニングに跳んだ。
<おお!今日の晩御飯は何だ?>
「美味しそう」
『今日の昼は肉のコース料理でガッツリ系だったし野菜と合うように味も濃いめだったから優しい味のミルククリームスープと鮭のバターソテーだ』
<グレモスが食べてたな、鮭>
『あれはバターソテーでは無かったけど美味そうだったからついな』
「確かに魚コースも美味しそうだったなー」
『今度行った時な。さ、熱いうちに食おうぜ』
ミルクの濃厚な風味と出汁の味が妙にマッチしていて具の根野菜にも出汁が染みていてとても美味しかった。
『じゃあクライ、風呂行くぞ』
「じゃあ俺はベッドの設置してくるから」
**
ギルレイはクライに伏せの状態になって貰って洗い始めた。
まずは、耳の付け根から後ろに伸びて生えている角の様な、触覚の様な何かと顔周りを注意深く洗う。
その何かは風に靡くように形を変えるが角のように硬く、植物の蔓の様な細く長い円筒状をしていて、先はダイヤモンドカットを伸ばしたような形で先端が尖っている。
『クライ、耳と耳の間にあるこれは角か?触覚か?』
<みみたぶ…かな?>
『みみ…耳朶!?』
<耳にくっ付くようにあるから、たぶん人種で言うところの耳朶だ>
『そ、そうか。硬いし長いし自由に動くから角と触覚を兼ねたものかと思ったんだが』
<確かに、硬さは一緒か分からないが、竜人族の角ほど太くはないが同じくらい尖ってるし、鬼人族の角ほど丸くはないが同じくらいの太さだな。それと少し鈍いが感覚もある。でも部位だと耳の1部だと思うぞ?>
『じゃあ耳朶が角や触覚の役割をしてるんだな…きっと』
(クライは耳の1部と言うが根元が近い位置にあるだけで生えている方向はそれぞれ耳が上後方で耳朶はクライの身体に沿うようにあるが…まあ耳朶の方が分かりやすいし良いか)
顔周りを洗い終えたので1度流して毛の長い箇所を洗っていく。
『頭部や足先の毛が長いのは態とか?』
<頭部は変化しないからだな。首を覆う程度か>
『他のフェンリルも頭部はこの長さって事だな。目撃情報があったやつは全身がクライほど短くなかったから目立たなかったんだな』
<足先の方は足音を消すためと靴の代わりだ>
『なるほどなー』
<足音がならない靴をリミルが作ってもらう時に一緒に頼んだらオヤジが考えてくれたんだ。毛を伸ばせば音も抑えられるし怪我からも守れるんじゃねぇの?ってさ>
『靴屋か?それとも鍛冶屋か?』
<装備の方だ。そういや銀狼の時は気にもしなかったなって思い出してその場で伸ばしたらオヤジは吃驚した後豪快に笑ってたな>
『そうか。それは驚くよな』
そう話しながら流し終え、今度は毛の短い滑らかな肌触りの全体を洗い始めていた。
クライに立ってもらって全身隈無く洗っていく。
そして最後に尻尾を洗う。
クライの尻尾はフェルト生地のリボンの様な形状で、それが6本あり、根元でくっついている。それらは長く、白銀の短い毛並みを煌めかせながらヒラヒラと動いている。
『あとは尻尾だけなんだが、触っても大丈夫か?』
<ああ、洗って貰ってるんだから全く問題ない>
『そうか』
尻尾のある種族は親しい者であっても触らせたりはしない。
伴侶や番には簡単に許したりもするが、基本は皆嫌がる。
これはこの世界では常識で、本人の許可なく触ることは犯罪とされる。
許可は貰ったが嫌だろうと思ったギルレイは出来るだけ丁寧に且つ、急いで6本の尻尾を洗い終えた。
全身をシャワーで流してやり、お湯を勧める。
クライはそっと前足を入れ、シャワーと同じくらいのほんのり温かいお湯に入った。
暫くして洗い終わったギルレイもお湯に浸かる。
二人は星空を眺めながら軽く世間話をして上がった。
ギルレイは直ぐに自分に《温風》をかけるとクライに待つように言って棚から櫛とブラシを取り出してきて梳きながら《温風》をかけていく。
<これは気持ちいいな>
クライはどうやら髪を梳いて貰うのが好きなようだ。
ブラッシングは必要なかった。
というのも、毛も抜けないし短いので絡まりもしないし艶も良かったからだ。
ギルレイは櫛とブラシを片付け、バスローブを取り出して羽織った。
リビングの方に行くとソファにリミルが寝転んでいた。
『ベッドの設置は出来たか?』
「うん。結構簡単だったよ」
<ありがとう>
『話す前に飲み物を用意しておこう。何がいい?』
「サッパリしてて飲みやすくて喉が潤うもの」
<俺は温かいミルクが良いな>
ギルレイは甘酸っぱいレモナの実を絞って作るレモーネと紅茶の実にお湯をかけて作るローゼと温めたミルクを持ってリビングに戻ってきた。
リミルは状態を起こして座り直す。
『クライはホットミルクな。リミルはどっちにする?レモーネかローゼか』
「どっちも好きだから迷うな…」
『じゃあローゼは寝る前に作ってやろうか?』
「ありがとう。じゃあ今はレモーネを」
飲み物も揃ったのでいよいよ話をと思ったが、お互いにどう切り出せばいいのか悩んだ。
そこで、質問形式にして答えられそうなら答える。
ということで収まった。
「俺から良い?先に聞いておきたいことがあって」
『ああ。答えられることなら』
「まず、ピギルーイが種族レベル36って言ってたけど、職業的なもの?それともそれが普通なの?」
たまにアンリのような口調になってしまうことがあるが気が付かないことの方が多い。
アンリはどちらの性別でも話すような言葉遣いを教えたが、他の冒険者に『弱そうだ』と揶揄われたことがあり、冒険者達を見て少し粗野な言葉遣いを覚えた。
本人は侮られないよう気を付けているつもりなのだ。
リミルの実力を知るベテランと言われる者達は侮ることはしないが、巫山戯て揶揄ったりする。
それを見た何も知らない奴が本気にして喧嘩を吹っかける事もしばしば見られた。
リミルの成長を見ようと態と嗾けたりもするが、最近は大したものは見れていない。
理由は、リミルの努力による成果だ。
実力を隠し、喧嘩を回避し、言動にも注意した。
その辺に気づいたベテラン勢はそれで満足していた。
『職業的とも言えるし普通とも言えるな。商工会に所属している奴らは種族レベルは年齢と共に上がるから冒険者みたいに態々上げたりしないな。ただ、身を守るためにギルドに登録して戦闘系の職業を習得してある程度は鍛えるけどな』
店を出していたり店で働いていたり、店に関わっている者は全て商工会に所属している。
鍛冶屋もポーション屋も家具屋も雑貨屋もレストランも居酒屋も食料品屋も全て。
建築屋だけは別だが。
「じゃあ冒険者の種族レベルって大体どれくらいなんだ?」
種族レベルはその者自体の強さを表す指標で、年齢とともに上がるが経験を積むことで上げられたりもする。
冒険者はほかの職業に比べレベルが上がりやすい。
『それだと幅が広すぎるな。リミルを基準に考えると年齢的には駆け出しだ。高位冒険者という括りだと大体58から96くらいか』
冒険者にはラッセル達のような駆け出しから長いことやっているベテランまで幅広い世代がおり、レベルもバラバラだ。
高位に昇格した者達の1番上と1番下のレベルやどこのパーティーがどういった依頼を受けているかなどの情報はギルド内で共有されている。
「そうか。俺は年相応じゃないけど高位相応のレベルなんだな。てゆか、俺くらいの奴が駆け出しってことは皆成人してからレベルを上げ始めるのか?」
『まあそうだな。危険が多いからある程度は大人になってからじゃないと心配で許可を出せないんだ』
成人していない者は親の許可なく冒険者にはなれない。
例え親が許可を出したとしても、ギルドが危険だと判断すれば冒険者登録が出来ない。
「そうか…ギルレイは確か1127歳だったよな?今のレベルの上がり方と俺くらいの時のレベルの上がり方に違いってあったりするか?」
リミルは、ふと疑問に思った。
自分は物心着いた頃から生きるためにレベルを上げていた。
そうして今、ベテランと言われる人達と同じくらいの種族レベルになっている。
これはレベルの上がり方に違いがあるのでは?と。
『ん?歳をとると上がりにくくなるのか?いやでもレベルが上がるに連れて上がりにくくなるもんだろ?』
「んーまあ、そうなんだけどさ。高位の人達って結構オッサンが多いだろ?そう考えると俺は結構楽にレベル上がってる気がして。それにペティがなかなか上がらないって言ってただろ?」
若ければ誰でもレベルが上げやすいのか、子どもの期間が上げやすいのか。
詳しいことは分からないがリミルには重要な気がした。
『結構楽にって言うが、俺は成人してすぐレベルを上げ始めたが楽なのは最初だけだったぞ?ペティのは職業レベルだからまた別だろ?』
「そうなのか?最初が楽なのは俺も変わらないがオッサン達と比べるとな…(やっぱ成人するまでの期間って重要なんじゃないか?)確かに職業のレベル上げは種族レベルとは違うな」
リミルはとりあえず、【子どもの期間は重要】と頭の片隅にメモをする。
ただ、これがわかった所で特に何かに使える訳でもないのだが気になったので仕方ない。
『じゃあ今度は俺から。リミルのステータスを見せれる限りでいいから見せてくれないか?おそらく種族レベルは80越えだろ?隠蔽も使えるはずだ』
種族レベルが5の倍数になる度に能力が解放されたりするのだが、ღ75でステータスが隠蔽可能になる。
ღ80を越えているとギルレイが確信したのもリミルが使っていた能力によるものだ。
「使えるよ。んー(レベルを一応伏せて、見せても問題なさそうなやつだけにしようかな)、よし。こんなもんかな?」
見られて困るような職業や称号を隠し、レベルを伏せて表示した。
話してしまった事に関係するものも隠す必要はない。
『見てもいいか?』
「良いよ」
『《鑑定》』
☆☆☆☆☆
*名前 リミル
*種族 魔人族
*性別 ♂(♂♀)
*契魔 クライ
*状態 普通
*職業 狩人、魔法詠唱者、刀剣士、料理人、拳闘士、運び屋、妖術師
*称号 クライの家族、森の住人、ダンジョン攻略者、魔物の救い手、地下迷宮の主、愚か者、フェンリルの主
☆☆☆☆☆
『ほう…あれ?加工師か魔工師あったよな?あれは隠す必要ないだろ?』
毛皮を加工して着ていたので取得していないわけが無かった。
魔工師も魔導具が欲しくて作るために取得した。
取得はしたのだが。
「いや、向いてないから」
『そうか?良いもの作ってたと思うが…』
作れるには作れるし、完成した物はそれなりに良いものだ。
ただ、問題がある。
「失敗の方が多すぎて生産職は向いていないことに気がついた。今はたまに趣味で作る程度だ。それだとそんなに失敗しないんだけどな…使えるって言うのは恥ずかしいから隠してる。唯一、料理人は真面に使えるよ」
素材が無駄になっていく。
それで使えると言うのは恥ずかしい。
ただ、欲しいものがない時に自分で作るしかないので素材を多めに用意して趣味と称して遊んでいる。
何故か分からないがその時の方が失敗が少ない。
失敗自体はするけどな。
器用で集中力もあるリミルだが、真剣に作ると何故か失敗する。
『まあ、向き不向きはあるよな。俺も回復系の魔法は殆ど使えてねぇし、隠蔽系は特殊能力頼りだ』
「隠蔽系は魔法より特殊能力の方が使い勝手が良いしな」
隠蔽系は魔法詠唱者の魔法よりは狩人などの特殊能力を使う方が楽で素早く、職業レベルによっては強力だ。
『確かにな。それにしても、聞いてた話を思い出しながら見ていくとお前の過ごしてきた情景が浮かぶような職業や称号が並んでるな』
「並べ替えが出来たら良いんだけどな。取得した順だもんな」
『普段は隠してるんだろ?隠せない3つは何を選んでるんだ?』
取得した順に職業欄に追加されていくのでステータスを見ればある程度の為人や経歴なんかが分かったりする。
それをステータス隠蔽で隠す。
ただ、全てを隠すことは出来ず、最低でも3つは残るのでどれを残すか選ばなくてはならない。
つまりは人に見せるものを選ぶのだ。
「俺はよく使う魔法詠唱者、刀剣士、拳闘士かな。ギルレイは?」
『俺も同じ様なもんだが、初めて剣で戦ったのが訓練所で対人だったからな、戦士が主力だ。後はよく使う攻撃系魔法詠唱者と鑑定士だな』
条件によって取得できる職業が異なり、似た系統のものでも一応条件さえ揃えば重ねて取得が可能だ。
「回復が苦手って言ってたよな?てことは支援系魔法詠唱者が伸びなくてまだ纏まってないのか?」
『そうだな。攻撃系と防御系は楽にレベル100になったんだがな。支援系があと少し何だが。早く職業改変したいよ』
魔法詠唱者は最初それぞれ攻撃系、防御系、支援系に別れており、それぞれをレベルMAXにすることによって職業改変が可能になり一つに纏まる。
「支援系は最後の方は確か重傷を治すとレベルが上がりやすかったと思う。それか特大範囲に支援魔法か」
『そうか!ありがとうな。試してみるよ』
そこでピロンッと頭の中で音が鳴る。
ステータスの更新音だ。
早速見ると職業欄に先導者というのが増えていた。
教えた事で出てきたのか考えていると声がかかる。
『どうした?』
「いや、今先導者というのが追加されたんだ」
『そうか。俺も取得してるが的確なアドバイスをした時に稀に手に入る職業のようだ』
「詳しい条件がまだ判明してないんだな。特にこれといって思い当たらないしな」
『ああ。もしかしたら状況ではなく所持してる職業とかかも知れないな。そういや運び屋のレベルについてまだ聞いてなかったな。さっきの事といいリミルはレベルの上げやすい条件を知ってるのか?』
確かにその線もあるなとか考えていたら誤解が生まれていた。
「知ってるって言うか自分で見つけたんだよ。試行錯誤して」
『そうか…頑張ったんだな。ありがとうな、教えてくれて』
頭を撫でてくれる手に照れながら、良いよそれくらい。とボソボソ言っていると突然ギルレイが『あ!』と大きな声を出して吃驚した。
『さっきの条件の話だが、俺も自分で試行錯誤して見つけた事を人に教えた時だった。先導者の職業が出たのは』
「なるほど!じゃあそれが条件かもね」
『ああ。他にもあるかも知れないが、条件の一つである可能性は高いな。それで気が向いたらで良いんだがペティに運び屋のレベルの上げ方を教えてやって欲しい』
自分で見つけ出した情報を簡単に渡すことは難しい。
特に一度会っただけの人にというのはとても戸惑う。
だが先導者のレベル上げにはおそらく効果的だろう。
効果があれば先程判明した条件が確定となる。
でも無かったとしたら?
情報を顔見知りにタダで渡した上レベルアップも無しなんてことになったら?
後悔…するだろうか。
(気が向いたら、ね…)
ギルレイはレベルアップの可能性にかけ、街のためにペティの運び屋レベルを上げたかった。
しかしこれは勝手な願いなので判断をリミルに任せることにした。
リミルが考え込んでいると『そう言えば』とギルレイが話を切り出した。
『クライのステータス隠蔽は前の種族からのものか?それとも人種と違って受け継がないのか?』
<前の種族のものだ。ステータス隠蔽で前の種族も隠していたからそう思ったんだろう?>
ここまでずっと話を聞いているだけで余計なことは言わないとでも言うようにずっと黙っていたクライが漸く口を開いた。
クライはギルレイのことは信頼しているがステータスをリミル以外に詳しく話す気は無いようで、あまり話に入らないようにしている。
『そうか。その辺は変わらないんだな』
「俺もギルレイのステータス見てみたいんだけど」
ギルレイは仲が良かったので勝手にステータスを見たことが無かった。
だからこそ普段見せている3つも知らなかったのだがそれはギルレイもらしい。
面と向かって頼むのが礼儀だし、その方が少し詳しい内容を見せて貰いやすいという事だ。
なのでこの際リミルも見せてもらおうと思った。
『ああ。俺もレベルや1部の職業は隠させてもらうな』
「もちろん」
リミルが間髪入れずそう答えると笑ってリミルの頭を撫でた後、ステータスを弄り始めた。
誰にでも隠したいステータスの1つや2つは有るもんだ。
いや、1つや2つでは収まらないほど沢山あるもんだ。
人に見せられない職業も称号も条件が揃うとステータスに乗ってしまうのだからステータス隠蔽が出来るレベルになるまでは大変だ。
『こんなもんか。良いぞ』
「《鑑定》」
☆☆☆☆☆
*名前 ギルレイ
*種族 魔人族、魔神
*性別 ♂(♂♂)
*契魔 ギア
*状態 普通
*職業 戦士、攻撃系魔法詠唱者、防御系魔法詠唱者、支援系魔法詠唱者、剣士、狩人、料理人、拳闘士、魔工匠、運び屋、薬師、錬金術師、先導者、鑑定士
*称号 ダンジョン攻略者、駆け落ちした者、魔鳥(金鷹)の主、神格となった者、イレアのギルドマスター、寡男
☆☆☆☆☆
リミルは何となく見せられないものが多いんだろうなと思った。
年齢に対して少ないというのもあるが、ギルドマスターになって取得した鑑定士の後が無いのはおかしいし、称号もギルドマスターからアンリが亡くなった所まで飛んでいる。
自分も隠しているのでお互い様だ。
しかしギルドマスターや管理者達の共通の職業に対する興味は消えない、が仕方ない。
「ギルレイも運び屋持ってるんだな」
『ああ、言いたいことは分かる。俺は一応まあまあレベルは高いが上げるのに160年程掛かった。効率を優先せずに使ってるうちに上がっただけだからな。参考にならないだろ?効率的な上げ方も知らないしな』
ギルレイもペティと一緒に教えてと言わないのは何故か。
レベルが高いのか。
それなら何故ギルレイが教えないのか。
教えられるほどレベルが高くないのか。
ならペティだけに教えてやって欲しいって言ったのはリミルを気遣ってなのか。
と色々考えていたのが分かったらしい。
なるほど、レベルは高いが教えられる事が無いということだったらしい。
「そっか。俺はまだ高いとは言えないレベルだけど160年って考えるとだいぶ早いね」
『だろ?だがまあその件はよく考えてくれ。そろそろ夜も遅いし寝ようか』
気付けば日付けが変わる1時間程前だった。
いつもより少し遅い就寝になった。
「そうだな寝よう」
ローゼを作って貰い、飲んでから《清潔》をかけてギルレイと別れクライと共に部屋に行く。
並べて置かれたベッドに入りクライは少しリミルの方にはみ出している。
それぞれにタオルケットを掛け、頭をくっ付けて眠った。
**
次の日、朝食を食べているとギルレイに連絡が入り、午前中は別行動になり午後からダンジョンの調査の続きをすることになった。
『昨日言っていたラグでも買いに行ってくるか?オススメの店までの地図描いてやるから』
「そうする。ホームポイントが使えないままなのは困るし」
ギルレイは紙とペンを出してサッと描いて渡した。
丁寧に店の名前や店主の名前まで書いてあり、店主への一言も添えてあった。
『じゃあ昼にグレモスの店で合流しよう』
「了解。お昼もそこで食べよう。それに武具も返してもらわないと」
**
食べ終わって直ぐにギルレイは合鍵をリミルに渡してギルドに向かった。
リミルとクライは早速ラグを買いに行きペティの時のように店主と軽く話して買い物を済ませた。
他にも買いたかったベッド横に置くキャビネットやドア付近に置きたかった大きめの姿見を探して回った。
気に入ったものを購入して帰り部屋に設置するとグレモスの店に向かった。
**
店に着くとまだギルレイは来ていなかった。
テラス席にクライを待たせて中に入りホストに声を掛ける。
「こんにちはー」
対応してくれたのはピギルーイだった。
丁寧にお辞儀をしてくれる。
『いらっしゃいませ。早速来て頂けたんですね。精一杯のおもてなしをさせていただきます。あと昨日お借りした武具も後でお返ししに行きますので』
武具のことをどうやら忘れていなかったようだ。
客も昨日よりは増えていて効果があったようでホッとする。
「ありがとう。後からギルレイも来るよ。クライと一緒にテラス席にいるから」
『はい。承りました。ギルレイ様も来ましたらグレモスと共に伺います』
テラス席に戻って暫くすると、ギルレイが来て中に声を掛けてリミル達のいる席に座った。
「買い物は最低限欲しいものは買い終わったよ」
『そうか。歩き回っただろ?』
ラグの場所しか教えていなかったことにギルレイは眉尻を下げて申し訳なさそうに言った。
「まあね。でもまあ色々見て回るのは初めてだったし面白かったよな」
<ああ。店によって特色が違うのは見ていて飽きないな>
リミルもクライも楽しんだ買い物を思い出しながら話した。
二人の楽しそうな雰囲気にギルレイも、それは良かったと微笑んだ。
『エリエッタの店が気に入ったんじゃないか?』
見て回るのは楽しかったが結局気に入った店は数店でそこでしか買わないだろうなと思った。
実際そのうちの2店でそれぞれ姿見とキャビネットを買った。
<よく分かったな。姿見はその雑貨屋で買った>
『アンリが気に入ってた店だったから二人も好きだろうと思ってな』
「晩御飯とお風呂と、あと話もしなきゃだしな」
三人はダンジョンから出てギルレイの《転移》でギルレイの家の玄関に移動した。
「《転移》用に部屋に靴マット置こうかな。クライも乗れるくらいの」
『明日買いに行くか。とりあえず風呂の使い方教えるからリミル先に入ってくれ。クライは今はすまないが《清潔》で済ませてくれ。後で俺と入ろうな』
<お!洗ってくれるのか?《清潔》楽しみだな>
「お風呂久々に入るなー」
『クライは体毛が短いから洗いやすそうだな』
<銀狼の時は長かったから短くしてみたんだ。前より早く走れるようになったしスッキリしていい感じだ>
「毛の長さが変えられるらしいよ。クライは寒い場所以外では基本短いままだな」
『そう言えば野生のフェンリルの目撃情報では体毛の長さはまちまちだったな』
そんな話をしながら二人は靴を脱ぎ装備を《武具収納》に片付け、クライは魔法で綺麗にして家に上がる。
リビングに入ると魔道具の[自動照明]や[暖炉]がつき、一気に明るくなる。
[自動照明]は人を検知し自動で発光するので様々な場所で使われている。
[暖炉]は実際に火が灯っているが部屋の温度を一定に保つ魔工が施されている。
<火があるのに暑くないな。快適だ>
『クライは少しそこでのんびりしててくれ』
クライは言われた通り、暖炉の近くに敷いてあるフワフワした毛足の長いカーペットの上で横向きに寝転び寛いだ。
蒼に埋もれた白銀の毛並みががキラキラと火に照らされ、まるで海に浮かんでいる様だ。
リミルとギルレイはそれを横目にキッチンの左の扉に向かう。
中に入るとキッチン程の広さの部屋があり、入って来た真向かいに扉、右側が殆ど磨りガラスで左側には棚と扉と洗面台がある。扉の多い脱衣所だ。
「この部屋全方向に扉があるけどそれぞれ何処に繋がってんの?」
『ああ、真向かいは俺の部屋、左側のは廊下に繋がってるが左右に手洗いがある。見とくか?』
「うん。したいときに迷ったら困るし」
左側の扉をスライドして開けると小さめの廊下があって奥に扉がある。
その扉を押し開けると右手に階段と奥に玄関がある廊下が見えた。
引っ込んで扉を閉め、小さな廊下の左右にある扉をそれぞれ開けてみる。
どちらも同じ造りになっていて、広めの個室でトイレが1つと小さな手洗い場が1つあった。
「玄関からお風呂に直行出来るね。御手洗もその場で手を洗えるし便利」
『ああ。アンリが帰ってきて直ぐにお風呂行きたいこともあるからって言ってな』
「確かに。んじゃ磨りガラスのとこがお風呂か」
脱衣所にもどり、磨りガラスの1部、扉になっている所を開ける。
壁は木材で床は石材のタイルのような物で出来ている。
丸い岩に囲まれた浴槽は5m四方程のほぼ円形をしており、右側と奥の壁にくっ付くような配置だ。
左の壁にはシャワーが二つ並んで付いている。
『シャワーは手に取るとお湯が出る魔道具だ。浴槽にはこっちでお湯を出す。ついでにどちらの温度調節もここで一緒に出来る』
ギルレイはそう言って脱衣所の唯一磨りガラスでは無い壁に設置してある魔道具の使い方を操作しながらリミルに教えた。
「わかった」
『じゃあリミルが風呂に入ってる間に晩飯作るから上がったらダイニングに来てくれ。ついでに、風呂上がりにはこれを着ろよ』
棚を開けてそこにかかっているバスローブを1つ出して部屋の真ん中にある腰くらいの高さの机に置く。
「ありがとう」
ギルレイがキッチンの方に行ったのを見送ると、早速入る準備をする。
お風呂上がりに着るものがあるので、着ていたもの全てに《清潔》をかけて《空間収納》に片付ける。
浴室に入り頭や身体を洗い、お湯に浸かる。
リミルは今日一日を振り返っていた。
(まず冒険に出ようと思って森を出たけどこれは延期になった。それから初めてちゃんとした家に住むことになった。家具を買いに行くのも初だったな。後で設置しないと。そこの店主のペティからは悪意や害意は感じなかった)
騙された頃から、悪意や害意、敵意といった嫌な視線には気をつけるようになった。
元々アンリに気を付けるようにと散々言われていたが何も起きなかったため危機感が薄かった。
実際はアンリにそれとなく守られていたのでそういった視線に気付く間も無かっただけだ。
それ故に、アンリがいなくなった途端に騙されたのだが、そうなって初めてアンリの言いつけを思い出した。
リミルはそこまで酷い目に遭った訳ではなくて良かったと思うことにした。
実際、その頃のショックが大きかっただけで今ではいい教訓になったと思っている。
取り返しがつかない事とかでなくて心底ホッとする。
だからこそ、以前のように人を簡単に信用することは出来なくなったが、視線に気をつけるようになってから、ある程度の見極めは出来るようになった。
嫌な視線の者とは出来るだけ関わりたく無かった。
(その後グレモスのレストランに行ったんだ。色々あったな。美味しい料理を食べて、俺の親かも知れない人達の話を聞いて、ピギルーイから話を聞いて…)
リミルはピギルーイに襲われたとは思っていない。
クライ個人への憎悪もなければ、本気で殺しにきた訳でもなかったからだ。
ただの八つ当たりに近かった。
辛いことが重なって泣き喚いている者を落ち着かせるために気絶させたに過ぎなかった。
ピギルーイはちゃんとその後反省していたので特に思うところはなかった。
(ピギルーイが落ち着いてよかった。ギルレイが調べてくれるってのもあってやっと冷静になって…そんでオーバーフローが起きたって言われて)
オーバーフローが発生する時は決まって森に居る時だったため、知らない事だらけだった。
(そう言えばピギルーイに武具貸したままだった。種族レベル36って言ってたけど冒険者じゃないからそんなに上げてないのかな。それともレベルの上げ始めはみんな遅いとか。その辺のズレも後でギルレイに聞いてみよう。自分のステータスはどこまで見せようか…)
ステータスの虚偽は不可能だが隠蔽はある程度のレベルアップによって可能になる。
リミルが、ふと上を見ると綺麗な星空が見えた。
風呂場の天井はガラスの様に透明な材質だが曇ってはいなかった。
「綺麗だな」
暫く見ていたかったがそろそろ逆上せそうだったので、楽しみは次に取っておこうと急いで上がる。
「《温風》」
魔法で全身を乾かし、用意して貰ったバスローブを着てダイニングへと向かった。
**
リミルがキッチンから出ると直ぐにギルレイから声がかかる。
『もうすぐ出来上がるからクライを起こしてくれ』
「寝てるのか?呼んだら起きるだろ?クライ!」
『それが起きないんだ』
「あれ?いつもは物音で起きるのにな」
『危険がない場所で寝るのが初めてなのかもな』
「そう言えばそうだな」
『そうか…そのまま寝かせとくか?』
「いや、ご飯抜きは辛いだろ」
リミルはクライに近寄って軽く揺すりながら話しかける。
「クライ、晩御飯食べないのか?」
<ん?いや食べる…くぁ~>
「珍しいな。呼んでも起きなかったぞ?」
<ここは飛び起きる必要もないしモコモコだし暖かくてな。安心して気持ちよく寝れたぞ>
「そっか。二人が後でお風呂に入ってる間にベッドの設置しといてやるから」
<ありがとう。あれは魔法を使っても大変そうだと思ってたんだ。特にカバーとか>
『二人とも!ご飯出来たぞ』
二人は喜んでダイニングに跳んだ。
<おお!今日の晩御飯は何だ?>
「美味しそう」
『今日の昼は肉のコース料理でガッツリ系だったし野菜と合うように味も濃いめだったから優しい味のミルククリームスープと鮭のバターソテーだ』
<グレモスが食べてたな、鮭>
『あれはバターソテーでは無かったけど美味そうだったからついな』
「確かに魚コースも美味しそうだったなー」
『今度行った時な。さ、熱いうちに食おうぜ』
ミルクの濃厚な風味と出汁の味が妙にマッチしていて具の根野菜にも出汁が染みていてとても美味しかった。
『じゃあクライ、風呂行くぞ』
「じゃあ俺はベッドの設置してくるから」
**
ギルレイはクライに伏せの状態になって貰って洗い始めた。
まずは、耳の付け根から後ろに伸びて生えている角の様な、触覚の様な何かと顔周りを注意深く洗う。
その何かは風に靡くように形を変えるが角のように硬く、植物の蔓の様な細く長い円筒状をしていて、先はダイヤモンドカットを伸ばしたような形で先端が尖っている。
『クライ、耳と耳の間にあるこれは角か?触覚か?』
<みみたぶ…かな?>
『みみ…耳朶!?』
<耳にくっ付くようにあるから、たぶん人種で言うところの耳朶だ>
『そ、そうか。硬いし長いし自由に動くから角と触覚を兼ねたものかと思ったんだが』
<確かに、硬さは一緒か分からないが、竜人族の角ほど太くはないが同じくらい尖ってるし、鬼人族の角ほど丸くはないが同じくらいの太さだな。それと少し鈍いが感覚もある。でも部位だと耳の1部だと思うぞ?>
『じゃあ耳朶が角や触覚の役割をしてるんだな…きっと』
(クライは耳の1部と言うが根元が近い位置にあるだけで生えている方向はそれぞれ耳が上後方で耳朶はクライの身体に沿うようにあるが…まあ耳朶の方が分かりやすいし良いか)
顔周りを洗い終えたので1度流して毛の長い箇所を洗っていく。
『頭部や足先の毛が長いのは態とか?』
<頭部は変化しないからだな。首を覆う程度か>
『他のフェンリルも頭部はこの長さって事だな。目撃情報があったやつは全身がクライほど短くなかったから目立たなかったんだな』
<足先の方は足音を消すためと靴の代わりだ>
『なるほどなー』
<足音がならない靴をリミルが作ってもらう時に一緒に頼んだらオヤジが考えてくれたんだ。毛を伸ばせば音も抑えられるし怪我からも守れるんじゃねぇの?ってさ>
『靴屋か?それとも鍛冶屋か?』
<装備の方だ。そういや銀狼の時は気にもしなかったなって思い出してその場で伸ばしたらオヤジは吃驚した後豪快に笑ってたな>
『そうか。それは驚くよな』
そう話しながら流し終え、今度は毛の短い滑らかな肌触りの全体を洗い始めていた。
クライに立ってもらって全身隈無く洗っていく。
そして最後に尻尾を洗う。
クライの尻尾はフェルト生地のリボンの様な形状で、それが6本あり、根元でくっついている。それらは長く、白銀の短い毛並みを煌めかせながらヒラヒラと動いている。
『あとは尻尾だけなんだが、触っても大丈夫か?』
<ああ、洗って貰ってるんだから全く問題ない>
『そうか』
尻尾のある種族は親しい者であっても触らせたりはしない。
伴侶や番には簡単に許したりもするが、基本は皆嫌がる。
これはこの世界では常識で、本人の許可なく触ることは犯罪とされる。
許可は貰ったが嫌だろうと思ったギルレイは出来るだけ丁寧に且つ、急いで6本の尻尾を洗い終えた。
全身をシャワーで流してやり、お湯を勧める。
クライはそっと前足を入れ、シャワーと同じくらいのほんのり温かいお湯に入った。
暫くして洗い終わったギルレイもお湯に浸かる。
二人は星空を眺めながら軽く世間話をして上がった。
ギルレイは直ぐに自分に《温風》をかけるとクライに待つように言って棚から櫛とブラシを取り出してきて梳きながら《温風》をかけていく。
<これは気持ちいいな>
クライはどうやら髪を梳いて貰うのが好きなようだ。
ブラッシングは必要なかった。
というのも、毛も抜けないし短いので絡まりもしないし艶も良かったからだ。
ギルレイは櫛とブラシを片付け、バスローブを取り出して羽織った。
リビングの方に行くとソファにリミルが寝転んでいた。
『ベッドの設置は出来たか?』
「うん。結構簡単だったよ」
<ありがとう>
『話す前に飲み物を用意しておこう。何がいい?』
「サッパリしてて飲みやすくて喉が潤うもの」
<俺は温かいミルクが良いな>
ギルレイは甘酸っぱいレモナの実を絞って作るレモーネと紅茶の実にお湯をかけて作るローゼと温めたミルクを持ってリビングに戻ってきた。
リミルは状態を起こして座り直す。
『クライはホットミルクな。リミルはどっちにする?レモーネかローゼか』
「どっちも好きだから迷うな…」
『じゃあローゼは寝る前に作ってやろうか?』
「ありがとう。じゃあ今はレモーネを」
飲み物も揃ったのでいよいよ話をと思ったが、お互いにどう切り出せばいいのか悩んだ。
そこで、質問形式にして答えられそうなら答える。
ということで収まった。
「俺から良い?先に聞いておきたいことがあって」
『ああ。答えられることなら』
「まず、ピギルーイが種族レベル36って言ってたけど、職業的なもの?それともそれが普通なの?」
たまにアンリのような口調になってしまうことがあるが気が付かないことの方が多い。
アンリはどちらの性別でも話すような言葉遣いを教えたが、他の冒険者に『弱そうだ』と揶揄われたことがあり、冒険者達を見て少し粗野な言葉遣いを覚えた。
本人は侮られないよう気を付けているつもりなのだ。
リミルの実力を知るベテランと言われる者達は侮ることはしないが、巫山戯て揶揄ったりする。
それを見た何も知らない奴が本気にして喧嘩を吹っかける事もしばしば見られた。
リミルの成長を見ようと態と嗾けたりもするが、最近は大したものは見れていない。
理由は、リミルの努力による成果だ。
実力を隠し、喧嘩を回避し、言動にも注意した。
その辺に気づいたベテラン勢はそれで満足していた。
『職業的とも言えるし普通とも言えるな。商工会に所属している奴らは種族レベルは年齢と共に上がるから冒険者みたいに態々上げたりしないな。ただ、身を守るためにギルドに登録して戦闘系の職業を習得してある程度は鍛えるけどな』
店を出していたり店で働いていたり、店に関わっている者は全て商工会に所属している。
鍛冶屋もポーション屋も家具屋も雑貨屋もレストランも居酒屋も食料品屋も全て。
建築屋だけは別だが。
「じゃあ冒険者の種族レベルって大体どれくらいなんだ?」
種族レベルはその者自体の強さを表す指標で、年齢とともに上がるが経験を積むことで上げられたりもする。
冒険者はほかの職業に比べレベルが上がりやすい。
『それだと幅が広すぎるな。リミルを基準に考えると年齢的には駆け出しだ。高位冒険者という括りだと大体58から96くらいか』
冒険者にはラッセル達のような駆け出しから長いことやっているベテランまで幅広い世代がおり、レベルもバラバラだ。
高位に昇格した者達の1番上と1番下のレベルやどこのパーティーがどういった依頼を受けているかなどの情報はギルド内で共有されている。
「そうか。俺は年相応じゃないけど高位相応のレベルなんだな。てゆか、俺くらいの奴が駆け出しってことは皆成人してからレベルを上げ始めるのか?」
『まあそうだな。危険が多いからある程度は大人になってからじゃないと心配で許可を出せないんだ』
成人していない者は親の許可なく冒険者にはなれない。
例え親が許可を出したとしても、ギルドが危険だと判断すれば冒険者登録が出来ない。
「そうか…ギルレイは確か1127歳だったよな?今のレベルの上がり方と俺くらいの時のレベルの上がり方に違いってあったりするか?」
リミルは、ふと疑問に思った。
自分は物心着いた頃から生きるためにレベルを上げていた。
そうして今、ベテランと言われる人達と同じくらいの種族レベルになっている。
これはレベルの上がり方に違いがあるのでは?と。
『ん?歳をとると上がりにくくなるのか?いやでもレベルが上がるに連れて上がりにくくなるもんだろ?』
「んーまあ、そうなんだけどさ。高位の人達って結構オッサンが多いだろ?そう考えると俺は結構楽にレベル上がってる気がして。それにペティがなかなか上がらないって言ってただろ?」
若ければ誰でもレベルが上げやすいのか、子どもの期間が上げやすいのか。
詳しいことは分からないがリミルには重要な気がした。
『結構楽にって言うが、俺は成人してすぐレベルを上げ始めたが楽なのは最初だけだったぞ?ペティのは職業レベルだからまた別だろ?』
「そうなのか?最初が楽なのは俺も変わらないがオッサン達と比べるとな…(やっぱ成人するまでの期間って重要なんじゃないか?)確かに職業のレベル上げは種族レベルとは違うな」
リミルはとりあえず、【子どもの期間は重要】と頭の片隅にメモをする。
ただ、これがわかった所で特に何かに使える訳でもないのだが気になったので仕方ない。
『じゃあ今度は俺から。リミルのステータスを見せれる限りでいいから見せてくれないか?おそらく種族レベルは80越えだろ?隠蔽も使えるはずだ』
種族レベルが5の倍数になる度に能力が解放されたりするのだが、ღ75でステータスが隠蔽可能になる。
ღ80を越えているとギルレイが確信したのもリミルが使っていた能力によるものだ。
「使えるよ。んー(レベルを一応伏せて、見せても問題なさそうなやつだけにしようかな)、よし。こんなもんかな?」
見られて困るような職業や称号を隠し、レベルを伏せて表示した。
話してしまった事に関係するものも隠す必要はない。
『見てもいいか?』
「良いよ」
『《鑑定》』
☆☆☆☆☆
*名前 リミル
*種族 魔人族
*性別 ♂(♂♀)
*契魔 クライ
*状態 普通
*職業 狩人、魔法詠唱者、刀剣士、料理人、拳闘士、運び屋、妖術師
*称号 クライの家族、森の住人、ダンジョン攻略者、魔物の救い手、地下迷宮の主、愚か者、フェンリルの主
☆☆☆☆☆
『ほう…あれ?加工師か魔工師あったよな?あれは隠す必要ないだろ?』
毛皮を加工して着ていたので取得していないわけが無かった。
魔工師も魔導具が欲しくて作るために取得した。
取得はしたのだが。
「いや、向いてないから」
『そうか?良いもの作ってたと思うが…』
作れるには作れるし、完成した物はそれなりに良いものだ。
ただ、問題がある。
「失敗の方が多すぎて生産職は向いていないことに気がついた。今はたまに趣味で作る程度だ。それだとそんなに失敗しないんだけどな…使えるって言うのは恥ずかしいから隠してる。唯一、料理人は真面に使えるよ」
素材が無駄になっていく。
それで使えると言うのは恥ずかしい。
ただ、欲しいものがない時に自分で作るしかないので素材を多めに用意して趣味と称して遊んでいる。
何故か分からないがその時の方が失敗が少ない。
失敗自体はするけどな。
器用で集中力もあるリミルだが、真剣に作ると何故か失敗する。
『まあ、向き不向きはあるよな。俺も回復系の魔法は殆ど使えてねぇし、隠蔽系は特殊能力頼りだ』
「隠蔽系は魔法より特殊能力の方が使い勝手が良いしな」
隠蔽系は魔法詠唱者の魔法よりは狩人などの特殊能力を使う方が楽で素早く、職業レベルによっては強力だ。
『確かにな。それにしても、聞いてた話を思い出しながら見ていくとお前の過ごしてきた情景が浮かぶような職業や称号が並んでるな』
「並べ替えが出来たら良いんだけどな。取得した順だもんな」
『普段は隠してるんだろ?隠せない3つは何を選んでるんだ?』
取得した順に職業欄に追加されていくのでステータスを見ればある程度の為人や経歴なんかが分かったりする。
それをステータス隠蔽で隠す。
ただ、全てを隠すことは出来ず、最低でも3つは残るのでどれを残すか選ばなくてはならない。
つまりは人に見せるものを選ぶのだ。
「俺はよく使う魔法詠唱者、刀剣士、拳闘士かな。ギルレイは?」
『俺も同じ様なもんだが、初めて剣で戦ったのが訓練所で対人だったからな、戦士が主力だ。後はよく使う攻撃系魔法詠唱者と鑑定士だな』
条件によって取得できる職業が異なり、似た系統のものでも一応条件さえ揃えば重ねて取得が可能だ。
「回復が苦手って言ってたよな?てことは支援系魔法詠唱者が伸びなくてまだ纏まってないのか?」
『そうだな。攻撃系と防御系は楽にレベル100になったんだがな。支援系があと少し何だが。早く職業改変したいよ』
魔法詠唱者は最初それぞれ攻撃系、防御系、支援系に別れており、それぞれをレベルMAXにすることによって職業改変が可能になり一つに纏まる。
「支援系は最後の方は確か重傷を治すとレベルが上がりやすかったと思う。それか特大範囲に支援魔法か」
『そうか!ありがとうな。試してみるよ』
そこでピロンッと頭の中で音が鳴る。
ステータスの更新音だ。
早速見ると職業欄に先導者というのが増えていた。
教えた事で出てきたのか考えていると声がかかる。
『どうした?』
「いや、今先導者というのが追加されたんだ」
『そうか。俺も取得してるが的確なアドバイスをした時に稀に手に入る職業のようだ』
「詳しい条件がまだ判明してないんだな。特にこれといって思い当たらないしな」
『ああ。もしかしたら状況ではなく所持してる職業とかかも知れないな。そういや運び屋のレベルについてまだ聞いてなかったな。さっきの事といいリミルはレベルの上げやすい条件を知ってるのか?』
確かにその線もあるなとか考えていたら誤解が生まれていた。
「知ってるって言うか自分で見つけたんだよ。試行錯誤して」
『そうか…頑張ったんだな。ありがとうな、教えてくれて』
頭を撫でてくれる手に照れながら、良いよそれくらい。とボソボソ言っていると突然ギルレイが『あ!』と大きな声を出して吃驚した。
『さっきの条件の話だが、俺も自分で試行錯誤して見つけた事を人に教えた時だった。先導者の職業が出たのは』
「なるほど!じゃあそれが条件かもね」
『ああ。他にもあるかも知れないが、条件の一つである可能性は高いな。それで気が向いたらで良いんだがペティに運び屋のレベルの上げ方を教えてやって欲しい』
自分で見つけ出した情報を簡単に渡すことは難しい。
特に一度会っただけの人にというのはとても戸惑う。
だが先導者のレベル上げにはおそらく効果的だろう。
効果があれば先程判明した条件が確定となる。
でも無かったとしたら?
情報を顔見知りにタダで渡した上レベルアップも無しなんてことになったら?
後悔…するだろうか。
(気が向いたら、ね…)
ギルレイはレベルアップの可能性にかけ、街のためにペティの運び屋レベルを上げたかった。
しかしこれは勝手な願いなので判断をリミルに任せることにした。
リミルが考え込んでいると『そう言えば』とギルレイが話を切り出した。
『クライのステータス隠蔽は前の種族からのものか?それとも人種と違って受け継がないのか?』
<前の種族のものだ。ステータス隠蔽で前の種族も隠していたからそう思ったんだろう?>
ここまでずっと話を聞いているだけで余計なことは言わないとでも言うようにずっと黙っていたクライが漸く口を開いた。
クライはギルレイのことは信頼しているがステータスをリミル以外に詳しく話す気は無いようで、あまり話に入らないようにしている。
『そうか。その辺は変わらないんだな』
「俺もギルレイのステータス見てみたいんだけど」
ギルレイは仲が良かったので勝手にステータスを見たことが無かった。
だからこそ普段見せている3つも知らなかったのだがそれはギルレイもらしい。
面と向かって頼むのが礼儀だし、その方が少し詳しい内容を見せて貰いやすいという事だ。
なのでこの際リミルも見せてもらおうと思った。
『ああ。俺もレベルや1部の職業は隠させてもらうな』
「もちろん」
リミルが間髪入れずそう答えると笑ってリミルの頭を撫でた後、ステータスを弄り始めた。
誰にでも隠したいステータスの1つや2つは有るもんだ。
いや、1つや2つでは収まらないほど沢山あるもんだ。
人に見せられない職業も称号も条件が揃うとステータスに乗ってしまうのだからステータス隠蔽が出来るレベルになるまでは大変だ。
『こんなもんか。良いぞ』
「《鑑定》」
☆☆☆☆☆
*名前 ギルレイ
*種族 魔人族、魔神
*性別 ♂(♂♂)
*契魔 ギア
*状態 普通
*職業 戦士、攻撃系魔法詠唱者、防御系魔法詠唱者、支援系魔法詠唱者、剣士、狩人、料理人、拳闘士、魔工匠、運び屋、薬師、錬金術師、先導者、鑑定士
*称号 ダンジョン攻略者、駆け落ちした者、魔鳥(金鷹)の主、神格となった者、イレアのギルドマスター、寡男
☆☆☆☆☆
リミルは何となく見せられないものが多いんだろうなと思った。
年齢に対して少ないというのもあるが、ギルドマスターになって取得した鑑定士の後が無いのはおかしいし、称号もギルドマスターからアンリが亡くなった所まで飛んでいる。
自分も隠しているのでお互い様だ。
しかしギルドマスターや管理者達の共通の職業に対する興味は消えない、が仕方ない。
「ギルレイも運び屋持ってるんだな」
『ああ、言いたいことは分かる。俺は一応まあまあレベルは高いが上げるのに160年程掛かった。効率を優先せずに使ってるうちに上がっただけだからな。参考にならないだろ?効率的な上げ方も知らないしな』
ギルレイもペティと一緒に教えてと言わないのは何故か。
レベルが高いのか。
それなら何故ギルレイが教えないのか。
教えられるほどレベルが高くないのか。
ならペティだけに教えてやって欲しいって言ったのはリミルを気遣ってなのか。
と色々考えていたのが分かったらしい。
なるほど、レベルは高いが教えられる事が無いということだったらしい。
「そっか。俺はまだ高いとは言えないレベルだけど160年って考えるとだいぶ早いね」
『だろ?だがまあその件はよく考えてくれ。そろそろ夜も遅いし寝ようか』
気付けば日付けが変わる1時間程前だった。
いつもより少し遅い就寝になった。
「そうだな寝よう」
ローゼを作って貰い、飲んでから《清潔》をかけてギルレイと別れクライと共に部屋に行く。
並べて置かれたベッドに入りクライは少しリミルの方にはみ出している。
それぞれにタオルケットを掛け、頭をくっ付けて眠った。
**
次の日、朝食を食べているとギルレイに連絡が入り、午前中は別行動になり午後からダンジョンの調査の続きをすることになった。
『昨日言っていたラグでも買いに行ってくるか?オススメの店までの地図描いてやるから』
「そうする。ホームポイントが使えないままなのは困るし」
ギルレイは紙とペンを出してサッと描いて渡した。
丁寧に店の名前や店主の名前まで書いてあり、店主への一言も添えてあった。
『じゃあ昼にグレモスの店で合流しよう』
「了解。お昼もそこで食べよう。それに武具も返してもらわないと」
**
食べ終わって直ぐにギルレイは合鍵をリミルに渡してギルドに向かった。
リミルとクライは早速ラグを買いに行きペティの時のように店主と軽く話して買い物を済ませた。
他にも買いたかったベッド横に置くキャビネットやドア付近に置きたかった大きめの姿見を探して回った。
気に入ったものを購入して帰り部屋に設置するとグレモスの店に向かった。
**
店に着くとまだギルレイは来ていなかった。
テラス席にクライを待たせて中に入りホストに声を掛ける。
「こんにちはー」
対応してくれたのはピギルーイだった。
丁寧にお辞儀をしてくれる。
『いらっしゃいませ。早速来て頂けたんですね。精一杯のおもてなしをさせていただきます。あと昨日お借りした武具も後でお返ししに行きますので』
武具のことをどうやら忘れていなかったようだ。
客も昨日よりは増えていて効果があったようでホッとする。
「ありがとう。後からギルレイも来るよ。クライと一緒にテラス席にいるから」
『はい。承りました。ギルレイ様も来ましたらグレモスと共に伺います』
テラス席に戻って暫くすると、ギルレイが来て中に声を掛けてリミル達のいる席に座った。
「買い物は最低限欲しいものは買い終わったよ」
『そうか。歩き回っただろ?』
ラグの場所しか教えていなかったことにギルレイは眉尻を下げて申し訳なさそうに言った。
「まあね。でもまあ色々見て回るのは初めてだったし面白かったよな」
<ああ。店によって特色が違うのは見ていて飽きないな>
リミルもクライも楽しんだ買い物を思い出しながら話した。
二人の楽しそうな雰囲気にギルレイも、それは良かったと微笑んだ。
『エリエッタの店が気に入ったんじゃないか?』
見て回るのは楽しかったが結局気に入った店は数店でそこでしか買わないだろうなと思った。
実際そのうちの2店でそれぞれ姿見とキャビネットを買った。
<よく分かったな。姿見はその雑貨屋で買った>
『アンリが気に入ってた店だったから二人も好きだろうと思ってな』
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といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
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