稀有ってホメてる?

紙吹雪

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第1章 変化の始まり

買い物と魔物 #2

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<もう見て良いか?>

『ああ、自由に見てくれ。展示してあるのはサンプルだ。2階にもある。カタログも見てじっくり選んでくれ。その間に備品のオススメいくつか持ってくるから』

**

クライと自由に見て回った結果、二人とも選んだのは同じ物だった。一番大きいサイズのベッドで、シンプルなのに綺麗な装飾が施してある白い金属製の骨組みに様々な魔工まこうがされた、ほど良く弾力のあるマットレス、魔工されたスルスルツルツルとした触感のボックスシーツと枕カバー、フカフカの枕二つ、大きめの肌触りの良いタオルケット。
これらを2セット購入した。

『一緒に選んだわけじゃねえのに全く一緒の物を選ぶとかシンクロしてんのか?』

ペティが驚きを通り越して呆れている。

<そうかもな>

『仲が良い分には良いだろ』

喧嘩しないか心配していたギルレイはホッとしたようだ。

『それもそうだな。ところで商品はどうする?家まで送り届けようか?』

「ああ、こっちで持って帰るよ。《空間収納》あるから」

『『え!?』』

「そんなに驚くことじゃないだろ?【運び屋】の職業クラスは比較的取りやすいよね?」

『まあ、そうだが《空間収納》って確かレベルが…』

(結構早い段階で使えるけど…確かレベル20とかだったかな?そんなに慌てる理由が分からないんだけど)

『待て、ペティ。ここで話すのはタブーだ』

『あ、ああ。すまん』

「とりあえず代金払って収納してもいい?他の客がこっち見てて居心地悪い」

『ああ、すまない。すぐに商品を用意する』

**

サンプルとして並んでいた物ではなく、同じ物の新品がある倉庫へ移動する。そこで全て確認し、お金を払ったら納品されるシステムのようだ。

『リミル、能力の詮索はしないでおくから何かあったとき、お前の力を借りても良いか?有事の際に物資を運んで貰うとかな!』

『それはたぶんギルドから要請することになるとは思うが、俺からも頼む』

「え、それは全然良いけど、ペティが運び屋を取得したほうが早くない?」

『いや、取得はしてるんだ。だがレベルが中々上がらなくてな』

「え?…」

『『え?』』

(んー…認識に差がありそうだな。一度ギルレイに色々と確認してみようかな。今日の夜にでも…)

「…ギルレイ、今日の夜詳しく話そう」

『ああ。その方が良さそうだな』

『俺には話せる範囲で良いからまた聞かせてくれ』

そう言ってペティとは別れて三人は店の外に出た。

**

<とりあえず早く他の買い物も終わらせようぜ>

『そうだな、だが次の買い物の前に昼飯食べに行くぞ』

「クライ、買い物はご飯の後だってさ」

<ああ、そう言えば朝ご飯は拠点の片付けの前に食べたから早朝だったな。どうりで状態が空腹なわけだ>

『ハハハ、それじゃ南通りに行くか』

南通りに向かって歩き出す。

「店でクライも食べていいのか?まだ進化する前に連れていったことがあるけど嫌な目で見られたぞ」

『テラス席がある店なら従魔は連れて行っても良い決まりのはずだが』

「そうなのか?それ以来そこの店には一人ででも行ってないな…目が怖かったから」

『もしかして、グレモスの店か?そこで働いているピギルーイという竜人族のホストの目がギラついてて怖いと噂になっている』

「そうかも。確かに顳顬こめかみから長めの角生えてたよ。瞳はエメラルドグリーンなのに血走ってて怖いんだよ」

<あの時、襲ってくるのかと思ったな。俺のこと殺そうとしてたんじゃないか?俺にだけ殺気を放ってたから>

「確かにな…俺の事は一瞥いちべつしただけでクライのこと睨むように見てたからヒヤヒヤしたよ」

『まあ竜人族だし、血の気が多いのは許してやれ。ただ、クライに対してってのは気になるな。グレモスの店で食べよう、ピギルーイが居るかは分からんがグレモスに聞けば理由は分かるだろう。グレモスは、まあ、穏やかな方だから』

「…グレモスって人種なに?」

『ああ、豚獣人だ。…料理について質問だけはするな。褒めるのは問題ないが、質問すると熱く語り出して止めるのが難儀なんだ。普段は良い奴なんだがな…』

「なるほど…料理に関する質問はしないようにか。わかった」

『それ以外はほんとに普通だ。むしろ、料理の腕は良いし、料理長としての接客も穏やかで丁寧で評判も良い』

「そっか、あとはピギルーイって人だね…噂になってるってことはクライだけじゃない可能性もあるよね?」

『ああ。だからこそグレモスと本人に話を聞いてみよう…あそこだな』

他の店は昼の時間ということもあり騒がしいがグレモスの店だけ客がまばらだった。
リミルとギルレイは顔を見合わせ、クライにテラスで待つよう目で合図をして店の中に入った。

『いらっしゃいませ』

黒と白の給仕服に身を包み、90°に折った腕に白い布巾を掛け体の前に添え、丁寧にお辞儀をするホストは顳顬こめかみから角が生えているがサファイア色の瞳だった。髪は薄群青というのか薄い紺色と薄い灰色を混ぜた様な色だ。ちなみにピギルーイの髪は若草色だ。

『君は確かペルルーイだったかな?グレモスを呼んでくれるか?』

『覚えていただきありがとうございます。ただ今呼んで参りますので席についてお待ちください。従魔がいらっしゃるようなのでテラス席でお願い致します』

『ああ、ありがとう』

リミルは声をかけられそうもなかったので頭を下げるに留めた。ペルルーイと呼ばれた竜人はテラス席に戻る後ろ姿のリミルを見て一瞬だけ目を細めた。だが、その事に気づいた者はいなかった。
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