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第1章 変化の始まり(まとめ)
買い物と魔物
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「あ、そうだ!買い物行く前にホームポイント!」
『ああ、そうだな!先にしておく方が便利だな』
(便利というかして置かないと面倒な事になるんだ…あと幾つかレベル上げればもう少し《転移門》も自由が聞くんだが…)
<早く!買い物に行きたいんだ!>
(分かってるよ!クライがはしゃいでることくらい…)
「待てって!すぐやるから…」
部屋に入り魔法を展開する。
「これでおっけーだ!…?ああ、そっか」
『どうかしたか?』
「いや、ホームポイントが2つになったんだ。森の方にも行けるしこっちにも来れる」
『は?え?リミル今レベル幾つだよ?』
とても驚いている。本日2度目だ。
「んー、何のレベル?」
<おい、もうそろそろ待てない。引越しが済んでからにしてくれ>
話が長くなるのがわかったのかクライが急かしてくる。
『あ、ああ。そうだな…また後で話そう。それより買い物だな』
ギルレイも立ち直って切り替えたようだ。
(後で、か。どこまで話すべきかなぁ)
「わかった!早く行こう!俺も家具見るの楽しみなんだ!」
外で詳しいステータスの話をするのは暗黙のルールでタブーとされているため、家に帰ってから話すことになった。
『まずは何から見る?見るものによって店が違ったりするぞ?』
「ベッド!」
<ベッド!>
声が被る。
『そうか、ならまずはペティの店に行こう』
ギルドはイレア中央広場に面した北通り沿い西側に位置している。ギルドの周辺地域は戸建て住宅が集まっており、管理者住宅地と呼ばれている。そこにある戸建てのうち、最もギルドに近い敷地を所有するのがギルドマスターのギルレイである。
商業施設は東通りと西通りに密集しているため中央広場を挟んで一本の道を通ればほとんどの買い物は済むようになっている。
ただ、冒険者が買うような物は全て北通りに並んでいる。一番の理由は、森で何かあった場合すぐに装備や武器、ポーションなどを調達し易いようにするためだが、市民と冒険者の無用の争いを防ぐ目的や冒険者同士の交流を促す目的もある。
そして、南通りには様々な飲食店が立ち並ぶ。魔物を引き寄せてしまわないように森から一番離れた場所に飲食店を置きたかったことと、他街との食材の行き来もし易い場所であることから丁度いい立地だった。
**
中央広場から西通りに入ってすぐの所にペティの寝具屋はあった。
『よう、ペティ!』
ギルレイが声をかけたのはとても大きな人だった。ギルレイですらリミルからしたら大きいのだが、それよりも更に大きい。
ちなみに、それぞれの身長は…
リミル……168cm
ギルレイ…201cm
ペティ……212cm
魔族と獣人族と竜人族は
男性約170cmから約210cm
男性平均…189cm
女性約160cmから約190cm
女性平均…176cm
小人族は男女共に
130cm以上150cm未満
木人族は男女共に
150cm以上180cm未満
神格化しても身長は変わらず、種族の特徴がよりハッキリと現れるだけだ。魔族のうちの魔人族は耳が少し尖っているが魔神はより鋭く尖った耳になる。
リミルは耳が尖っているが、ギルレイの耳の方がより尖っている。
もう一つの魔族、鬼人族は額から2つ小さな角が生えている。鬼神になるともう1つ生えて3つになる。
それはともかく、ペティはとてつもなくデカい。そして赤茶色の熊の耳と尻尾が見えているので熊獣人だとわかる。
(ペティ…女性…ではないな、うん)
振り向いたのは人好きのする笑顔の、オジサンというにはまだ若い風貌の男性。笑顔はとても好印象だが元の顔は少し厳つい雰囲気でカッコイイ。
(名前とギャップがありすぎる)
『おぉ、ギルじゃねぇか!用事か?買い物か?』
(声は意外と爽やかなんだな。渋いのかと思ってた。ギルレイの方が渋くて良い声だな。ペティも爽やかな良い声だけど)
『買い物だ。こいつらの。紹介するな、リミル、クライ。こいつがここの店主のペティだ。ペティ、こいつらがうちに住むことになった冒険者のリミルとその従魔のクライだ』
(紹介されるのは良いけど、3人ともデカいから首がしんどい)
『そうか!お前がリミルか!クライ、カッコイイ名前付けてもらったな!俺はペティだ。二人ともよろしくな』
<よろしく、ペティ>
「よろしく!俺のこと知ってんの?」
(俺まだそんなに名前は知られてないはずなんだけど?)
『ああ、昔アンリエットとギルから少し話を聞いてたんだ。それがまさか白いフェンリル連れのソロ冒険者とは思わなかったけどな!ハハハ』
「アンリは俺のことなんて言ってた?」
『ああ、久々に言葉を教えてる子がいるんだけど、とても優秀な教え子なの!先生をしてた頃を思い出すわ。毎日楽しいの!って言ってたぞ』
「そっか…」
(アンリも楽しかったんだな。良かった)
『さ、そろそろクライがお待ちかねだぞ?』
ギルレイはペティと話していたことを言うつもりはないようで思いっきり話を逸らしにかかる。リミルはそんなギルレイと肩を竦めたペティと店内を見たくてうずうずしているクライを順番に見たあと諦めたように軽くため息をついた。
<もう見て良いか?>
『ああ、自由に見てくれ。展示してあるのはサンプルだ。2階にもある。カタログも見てじっくり選んでくれ。その間に備品のオススメいくつか持ってくるから』
**
クライと自由に見て回った結果、二人とも選んだのは同じ物だった。一番大きいサイズのベッドで、シンプルなのに綺麗な装飾が施してある白い金属製の骨組みに様々な魔工がされた、ほど良く弾力のあるマットレス、魔工されたスルスルツルツルとした触感のボックスシーツと枕カバー、フカフカの枕二つ、大きめの肌触りの良いタオルケット。
これらを2セット購入した。
『一緒に選んだわけじゃねえのに全く一緒の物を選ぶとかシンクロしてんのか?』
ペティが驚きを通り越して呆れている。
<そうかもな>
『仲が良い分には良いだろ』
喧嘩しないか心配していたギルレイはホッとしたようだ。
『それもそうだな。ところで商品はどうする?家まで送り届けようか?』
「ああ、こっちで持って帰るよ。《空間収納》あるから」
『『え!?』』
「そんなに驚くことじゃないだろ?【運び屋】の職業は比較的取りやすいよね?」
『まあ、そうだが《空間収納》って確かレベルが…』
(結構早い段階で使えるけど…確かレベル20とかだったかな?そんなに慌てる理由が分からないんだけど)
『待て、ペティ。ここで話すのはタブーだ』
『あ、ああ。すまん』
「とりあえず代金払って収納してもいい?他の客がこっち見てて居心地悪い」
『ああ、すまない。すぐに商品を用意する』
**
サンプルとして並んでいた物ではなく、同じ物の新品がある倉庫へ移動する。そこで全て確認し、お金を払ったら納品されるシステムのようだ。
『リミル、能力の詮索はしないでおくから何かあったとき、お前の力を借りても良いか?有事の際に物資を運んで貰うとかな!』
『それはたぶんギルドから要請することになるとは思うが、俺からも頼む』
「え、それは全然良いけど、ペティが運び屋を取得したほうが早くない?」
『いや、取得はしてるんだ。だがレベルが中々上がらなくてな』
「え?…」
『『え?』』
(んー…認識に差がありそうだな。一度ギルレイに色々と確認してみようかな。今日の夜にでも…)
「…ギルレイ、今日の夜詳しく話そう」
『ああ。その方が良さそうだな』
『俺には話せる範囲で良いからまた聞かせてくれ』
そう言ってペティとは別れて三人は店の外に出た。
**
<とりあえず早く他の買い物も終わらせようぜ>
『そうだな、だが次の買い物の前に昼飯食べに行くぞ』
「クライ、買い物はご飯の後だってさ」
<ああ、そう言えば朝ご飯は拠点の片付けの前に食べたから早朝だったな。どうりで状態が空腹なわけだ>
『ハハハ、それじゃ南通りに行くか』
南通りに向かって歩き出す。
「店でクライも食べていいのか?まだ進化する前に連れていったことがあるけど嫌な目で見られたぞ」
『テラス席がある店なら従魔は連れて行っても良い決まりのはずだが』
「そうなのか?それ以来そこの店には一人ででも行ってないな…目が怖かったから」
『もしかして、グレモスの店か?そこで働いているピギルーイという竜人族のホストの目がギラついてて怖いと噂になっている』
「そうかも。確かに顳顬から長めの角生えてたよ。瞳はエメラルドグリーンなのに血走ってて怖いんだよ」
<あの時、襲ってくるのかと思ったな。俺のこと殺そうとしてたんじゃないか?俺にだけ殺気を放ってたから>
「確かにな…俺の事は一瞥しただけでクライのこと睨むように見てたからヒヤヒヤしたよ」
『まあ竜人族だし、血の気が多いのは許してやれ。ただ、クライに対してってのは気になるな。グレモスの店で食べよう、ピギルーイが居るかは分からんがグレモスに聞けば理由は分かるだろう。グレモスは、まあ、穏やかな方だから』
「…グレモスって人種なに?」
『ああ、豚獣人だ。…料理について質問だけはするな。褒めるのは問題ないが、質問すると熱く語り出して止めるのが難儀なんだ。普段は良い奴なんだがな…』
「なるほど…料理に関する質問はしないようにか。わかった」
『それ以外はほんとに普通だ。むしろ、料理の腕は良いし、料理長としての接客も穏やかで丁寧で評判も良い』
「そっか、あとはピギルーイって人だね…噂になってるってことはクライだけじゃない可能性もあるよね?」
『ああ。だからこそグレモスと本人に話を聞いてみよう…あそこだな』
他の店は昼の時間ということもあり騒がしいがグレモスの店だけ客が疎らだった。
リミルとギルレイは顔を見合わせ、クライにテラスで待つよう目で合図をして店の中に入った。
『いらっしゃいませ』
黒と白の給仕服に身を包み、90°に折った腕に白い布巾を掛け体の前に添え、丁寧にお辞儀をするホストは顳顬から角が生えているがサファイア色の瞳だった。髪は薄群青というのか薄い紺色と薄い灰色を混ぜた様な色だ。ちなみにピギルーイの髪は若草色だ。
『君は確かペルルーイだったかな?グレモスを呼んでくれるか?』
『覚えていただきありがとうございます。ただ今呼んで参りますので席についてお待ちください。従魔がいらっしゃるようなのでテラス席でお願い致します』
『ああ、ありがとう』
リミルは声をかけられそうもなかったので頭を下げるに留めた。ペルルーイと呼ばれた竜人はテラス席に戻る後ろ姿のリミルを見て一瞬だけ目を細めた。だが、その事に気づいた者はいなかった。
クライの元に行き、二人は椅子に腰掛ける。
「ペルルーイ?の目が合った時の視線が気になったんだが、意図までは分からなかった」
『俺には接客以上の意図はなかったがリミルには違ったのか?』
<俺は確認できなかった。近くにいなかったからな>
「うーん。何だろうな…こう、モヤッとするような…もう一度顔を合わせれば分かるだろ」
『グレモスを連れて来るだろう』
だがグレモスを案内したのは木人族のホステスだった。
給仕服から覗く脚や腕は茶色く木の表面のような見た目で、顔は木を切った断面のような色をしている。まるで木で作った仮面を付けているようだが、瞼も唇も眉も頬なども自然に動く。肌触りは流石に分からない。
女性に興味本位で触れるのは失礼過ぎるし、木人族の男性に肌を触らせてくれるような友達はいない。と言うか、リミルに友達と呼べる相手はギルレイくらいしか思い当たらない。
『ペルルーイに代わりスランがグレモスをお連れ致しました。給仕はこのまま私が勤めさせていただきます』
『ありがとう。俺は肉のコースを頼む』
「俺も肉のコースを」
<俺も肉が良いな。ただ、人と同じ量だと足りないから…>
『クライには3人分くらい必要じゃないか?』
「いつもは2人分で足りてるけど」
『じゃあ2人分とデザート多めにしとくか?』
<ああ、それで頼む>
『注文を確認します。お肉コースを4つと追加でデザートを…そうですね2つほどで宜しいでしょうか?』
『ああ、それで頼む。それと料理を作り終わったらグレモスにはこちらに来て欲しい。話したいことがある。食事も一緒にどうだ?』
ここに来てやっと豚獣人のグレモスが口を開いた。
『ギルレイ様、白いフェンリル連れの冒険者様、白のフェンリル様、本日の昼食に当店を選んでいただき誠にありがとうございます。こちらもお話したいことがありますので、ご提案を有難くお受け致します。スラン、僕の分は魚コースを作るのでこちらの席に運んでくれますか?』
『承知致しました。では先に失礼します』
『グレモス、こちらリミルとクライだ。リミル、クライ。こちらがグレモスだ』
『グレモスと申します。料理長をしております』
「よろしく、俺はリミルだ。ごめんな、敬語は難しくて…」
そう。この世界の敬語はとても難しい。
元々使う人も少なかったりするが、使えないと就けない職種もあったりする。
特にリミルは言葉自体覚えたてなため大人なら使える簡単な敬語すら使えない。
『全然構いませんよ。使わない者が殆どですし、冒険者であれば使う機会はないでしょうしね』
<俺はクライだ。従魔の言葉遣いは基本契主依存だ。フェンリルは話せる種族だからフェンリル特有の話し方も出来るが俺はリミルの言葉遣いが長いからな>
「へ~」
『そうなのか』
『知りませんでした。あ、よろしくお願いします。挨拶も済みましたので、私は一度厨房に戻ります』
そう言ってグレモスは店の中に入っていった。
「フェンリル特有の話し方って?」
<もっと偉そうな話し方だな。俺はする気はないぞ>
「偉そうなのは嫌だな…。それより、ピギルーイが見当たらないな」
『ペルルーイは奥で接客してるな』
<ここにいる竜人族はその二人だけか?>
『いや、確かもう一人いたと思うが女性だったな。今はいないようだが…』
「それにしてもこの店だけ客が少ないな。何かあったのか?噂のせいか?」
『グレモスの話ってのはその辺の事だろうな』
<スランがご飯持って来るぞ>
**
お腹が減っていたリミル達は黙々と食べ始めメインと共にやってきたグレモスも下品にならない程度に急いで食べ全員のデザートが運ばれて来た頃、漸く話を切り出した。
『クライ、お前器用だな』
<あ?犬のように食べると思ったのか。リミルと出会って間もない頃にリミルが作ったご飯を食べたら口の周りが汚れて気持ち悪かったからな。魔法で口元まで運ぶ事にしたんだ。人種は食器を使えるが俺には使えないからな>
「俺も出来るよ。真似して一緒に練習したからな。人前ではやらないけど」
『そうですね。その方がよろしいかと思います。大人としてのテーブルマナーは合格点だと思いますので。クライ様も魔法を使っての食事でとても上品に食べてらしたのでマナーとして問題ないかと』
「そっか、ありがとう。マナーは殆ど独学だからな嬉しいよ」
『そうなのか?アンリは?』
「食器の使い方とかは教えて貰ったけどマナーについては何も言われなかったな。見てて綺麗だなって思う食べ方の人を真似しただけだな」
『左様ですか。失礼ですが、お二人はどのような関係なのでしょう?』
『あー、俺とアンリのお気に入りって感じかな?大切に思ってるよ』
「俺にとってはギルレイもアンリも恩人かな…ギルレイは唯一の友達でもあるな。俺他に友達って呼べるような奴いないし」
グレモスがチラッとクライを見る。
<俺はリミルの家族だ>
『なるほど…リミル様はもしやリーマスとミルレアの息子では?』
「…え?」
ガタッとギルレイが勢いよく立ち上がる。
『グレモス!お前リミルの親の事知ってんのか!?』
とても驚いたようで咄嗟に立ち上がってしまったみたいだ。俺は逆に驚き過ぎて小さい声が出ただけだった。
『お、落ち着いてくださいギルレイ様。もしやと思っただけで、確証はございませんがそれで良ければお話いたしますので』
『あ、ああ。悪いな。リミル聞くか?』
「えっと、一応…」
グレモスは一つ頷いた。
『リーマスとミルレアという夫婦は私の父方の遠い親戚でして、つい数十年前まで交流がございました。ですが、パタリと音信不通になり、姿も確認されていません。行方不明になる数年前に男の子を産んだと聞きました。リーマスは鬼神になるのではと噂があり、ミルレアは魔人族の方の魔族でした。二人の間に産まれる男の子は魔人族の姿になりますし、肌の色や顔はミルレアの面影があり、髪色や片方ですが目の色はリーマスに似ています。それに年齢的にも。ですからもしやと思った次第です』
『鬼神に…リーマス…?ああ!わかったあいつか。確かにリーマスの髪はプラチナで目は両目ともルビーのようだった』
「でも俺の目は右がルビー色で左は薄紅色で、オッドアイだ」
『リミル、オッドアイは遺伝ではなく得意な魔法の系統の色調になる。俺も右が黒色だが左は赤色だ。俺のは黒が混ざった赤色だ。黒系統の魔法が特に得意で続いて赤系統が得意だと言うことだな。リミルは赤系統が最も得意で続いて白系統が得意と言うことになる』
「そうなのか…髪は遺伝?」
『ああ、リーマスもふんわりしたプラチナの髪だった。俺も父親が俺と同じように赤と黒の混じった髪だ』
「じゃあその人たちが…ホントに俺の…親?」
『まだわかりませんが可能性は高いかと…ただ、リミル様は孤児だったご様子。あの二人が子どもを捨てるなど考えられません。二人は仲睦まじく、産まれた赤ん坊を大事にしていたと聞いていましたので。何かあったのではと…』
リミルは混乱している様子で、ギルレイは何か考え込んでいるようだ。少しの沈黙の後、それを破ったのはリミルを心配したクライの声だった。
<大丈夫か?>
「うん…何とか…。えっと、俺は物心ついた時にはリンドの森で一人で狩りとかして生活してた」
『そうか…だからあんな危険地帯に住んでたのか。住んでる場所を知ったのがつい最近だったから…てっきり強くなるためだとばかり……。一人でって物心ついたって子どもだろ!?リーマスは何をしてんだ…いや…もしかして森で何かあったのか?その前に森に幼い子どもを連れて行くか?』
気づいてやれなかった罪悪感と子どもを一人で森に置いたかもしれないことへの怒りと森で何か起こったのかという心配と子どもが森にいたという事実への困惑とギルレイは様々な感情に戸惑いを隠せない。
『謎ですね…ですがリンドの森という新たな情報を得られましたので、捜索に進展がある事を祈るばかりです』
「俺と関係があるのかもまだ分からないけど進展すると良いね…」
『…二人の親…がいれば魔法で血縁関係かどうか調べて貰えるんだろ?』
『いるにはいるんですが…やめておいた方がよろしいかと。リーマスの母親はもう既に亡くなっており、父親がいるんですが彼は竜人族で気性が荒く…ミルレアの両親は健在ですが、ミルレアが行方不明になったことを認められないようで…』
『ああ…。孫かもって言って違えばどうなるか…もし本当に孫だったとしてミルレアはどこだってリミルに詰め寄るかもしれないしな…』
「リーマスの父親は何か怖そうだな…」
『もし、進展しまして、リミル様が二人の子どもだという確証が得られたら会うことを検討して頂けませんか?私も一度三人にお会いしてきますので』
「まあ…俺も出生が不明なままは嫌だし…会えそうな雰囲気なら…」
『その時は一緒に行ってやるよ』
「ありがとう、ギルレイ」
<俺も家族として一緒に行くぞ>
「当たり前だろ」
『では、その件につきましてはまた後日ということで。本題といいますか、元々話すつもりだった話をさせて頂いても宜しいでしょうか?』
『ああ、たぶんこちらとそちらの話は殆ど同じだろう』
『ええ、ピギルーイの事です』
『こちらは進化前のクライに向かって殺気を放ったということと、噂について聞こうと思ってきた。そちらは?』
『最近、彼の様子がおかしいのでもしや…と思って』
『まさか、堕ちたかもしれないのか?』
『ええ、違っていてほしいのですが…彼の大切な人が魔物に襲われ亡くなったそうです』
『番か?』
『ええ、おそらく。初めて出会った番だったのではと思います』
『そうか…』
「確か番って複数居るんだよね?」
『そうです。竜人族、獣人族、木人族は番を求めます。人種全てが対象となりますが、魔族、小人族、妖精族は番を求めません。ただ、惹かれ合う習性だけが顕著に現れるので恋人や夫婦となる場合が殆どです。そして、番は同時に二人現れた例がありますが、世界は広いので実際に同時に何人現れているのかは確認されていません。同じ街に二人、番がいるというのはそれほど珍しくはないと思います』
「そうなんだ」
『番だからと言って必ずしも付き合うとは限らないとも聞いたぞ?』
『はい。それは仕方ないことですね。よくあるのは、番に既に恋人や連れ合いがいて、番の幸せを思って身を引く等の物理的に不可能な場合です。あとは稀にですが、番を持たない種族の方に惹かれ合う習性が働かず、恋愛対象ではないと拒否される等の気持ち的に不可能な場合もあります。そのどちらでもキツい事ですが、魔物に襲われたとなると憤怒を抱いても仕方ないかと思います』
『だが怒りだけで堕ちたりはしない』
『ええ、ですから何かあったのか心配で…私の杞憂で終われば良いのですが』
「当人は今どこに?」
『今日は午後から店に立つ予定ですのでそろそろ降りてくるかと…』
『こちらに来るか?』
『いえ、従魔連れのお客様の担当には竜人族以外を当てておりますので…』
『噂対策か?』
『ええ』
「こっちに来るぞ!」
階段から降りてきてこちらと目が合った途端に凄い勢いで走ってくるのでテラス席から広い通りに飛び退りリミルとクライは臨戦態勢を整えるが武器等は所持せず防具も普段使いの軽装鎧と軽めのローブのみだ。対して相手は種族特殊能力の竜鱗を身に纏って竜爪を構えている。
『やめなさい!ピギルーイ!』
『リミル!』
ピギルーイがクライに襲いかかったのと同時にピギルーイの肩甲骨辺り目掛けて腕を振り下ろす。飛びかかっていた体は地面にぶつかり。
『カハッ』
息が強制的に出され気絶した。
リミルはピギルーイが息をしているか確認すると両腕で抱えあげ、店に運ぶ。
通りにいた者達やギルレイとグレモスは呆気にとられていたがリミルが店に近づくとそれぞれ動き始めた。
『あ、ありがとうございます。こちらに。クライ様うちの従業員が申し訳ありません』
<問題ない。リミルがやってしまった>
『リミルが戦う?とこ初めてみたよ』
「俺だってギルレイが戦うとこ見たことないんだけど?」
『そのうちあるだろ』
店の中にいた客達も呆然とこちらを見ていたがグレモスが声をかけたらそちらを注視し話を聞いて殆どの者は喜んでいた。
『皆様、お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。せめてものお詫びとして本日のお食事はお代を頂きません。ごゆっくり食事を堪能していって下さいませ。…スラン、すまないがCLOSEにして来てくれ。今いるお客様のご帰宅は自由だ。注文があれば対応してくれ。副料理長に任せる』
『畏まりました』
『では我々は上へ』
**
従業員の仮眠室に入り、ピギルーイをベッドへ寝かせ、隣のベッドにリミルとギルレイが座り、グレモスは近くにあった椅子を持ってきて座った。クライはリミルの座っているベッドの隣に座っている。
「話を聞ける状態か?また飛びかからないか?」
『ああ、大丈夫だ。《拘束》これで大きな動作はできない』
『ご迷惑をお掛けします』
『こいつ、まだ堕ちてないぞ。堕ちる寸前かもしれないが』
「戻してあげられないのか?」
『話を聞いて見なければなんとも…ただ、堕ちるか堕ちないかは本人次第だな』
『そうですか…できる限り説得しようと思います』
<俺がいて話し合いができるか?>
『いる方が良いんじゃないか?たぶんこいつは話せる知性のある魔物がいると知らないから見かけたら飛びかかるんだろう』
<従魔は全員話せることも知らないのか?>
『たぶんな』
『そういった教育はしませんのでもしかしたら知らないかもしれません。言っておけば従魔を襲わなかったのでしょうか…だとしたら私の責任でもありますね』
『この際それは仕方ないだろう。従魔についてはそれほど知られていないんだから。グレモスの責任だというならそういう知識を広めなかったギルドの責任とも言える。だがこれはギルドの会合で話し合わなければならない案件だ。勝手に広めることはできない』
『ギルドから広まる方が信頼度は高いです』
「そういや冒険者が持ち込んだ知識をギルドが調査して真偽を確かめてるんだっけ?一人しか事例がなければどうするんだ?」
『情報提供者が本人であれ他者であれ、基本的に本人を調べるからな…』
「拒否は…されないか。ギルドに居られなくなるもんな」
『まあな。そういう決まりだからな』
『そういった知識を広めるか広めないかはどういった基準で決まるのか聞いてもよろしいですか?』
『大まかになら。本人に迷惑が掛かりそうな件は秘匿する。だが、知られた方が本人の為になるのであれば広める』
『では今回の件については?』
『今までは知られない方がいいと考えられてきたが今回のように従魔と魔物を一緒くたに考えられる危険性も項目に追加して会合で話し合いだな』
『知られる方が不味い場合はこのまま秘匿というのもあるということですね?』
『ああ。だがまあ…違う方法での解決という事もあるかも知れないがな』
『それはどういう?』
『これ以上は正式に発表されるのを待ってくれ』
『そうですね、申し訳ありません』
「個人での知識の共有は禁止とかされてる訳でもないんだからグレモスから話せば良くないか?ギルドの発表に拘ってるように見えるけど」
『拘ってるわけではないんです。ただ、なぜと。八つ当たりかも知れませんね…』
ギルレイは寝ているピギルーイを見ながら口を開く。
『誰のせいでもねぇよ。ピギルーイが元に戻りさえすれば良い話だし。手遅れでもねぇんだから』
『そうですね。噂もどうにかしなければ』
『ピギルーイを辞めさせれば店に被害は無かったんだろ?なんで辞めさせなかったんだ?』
『彼は根は良い人なんですよ。僕を強盗から助けてくれた恩人でもありますし、ホストとしても非常に優秀です。それにうちの従業員に彼を好きな子がいまして…彼は知らないと思いますがその子が言うには番だそうです』
「え、番って持つ種族同士なら互いに分かるもんなんでしょ?」
『ええ。ですが、彼は番を亡くしたばかりで、一瞬すれ違っただけだった様ですので気づかなかったのでしょう。彼が落ち着いたら引き合わせようと思っていたのですが…彼女も心配してました』
『だってよ。起きてるんだろ?』
『え?起きていたんですか?』
「自分の話をされてると起き難いよね」
『………申し訳ない』
『いえ、せめて従魔は意思疎通が出来ることだけでも話しておくべきでした』
『そうですか…やっぱりあれは実際に聞こえて…』
『何があった?』
『実は番がゴブリンに襲われまして、その方の冒険者チーム全員が亡くなったのですが、その一月後くらいにグレモスのレストランに食べに来たお客様の中にゴブリンを従魔にした冒険者の方が来ていて…違うゴブリンだと思って接客していたのですが配膳しに行った時にゴブリンと話しているのを聞いてしまって…』
『なんて言っていたんだ』
『次はどのチームを襲う?と』
『それは確かか?』
『はい。離れる直前でしたので。ゴブリンがそう言い、冒険者は馬鹿野郎っ!と小声で怒鳴っていました。その時は空耳が聞こえたのかとも考えましたが従魔ですら許せなくなってしまって…』
『そうか…ゴブリンを従魔にしている冒険者はこの街には一人しかいない。あいつは前から問題があってギルドで目を付けてたんだが森での行動までは監視していなかったからその隙をつかれたのか。早急に捕まえて取り調べる』
『お願いします。彼らの無念を晴らしてください』
『ああ。ギルドに連絡を入れる。…ああ、ギルレイだ。捕まえて欲しいやつがいる。…は?森が?直ぐに出られるのは?そうか…こちらからは俺と白のフェンリル連れと竜人族が一人応援に向かう』
<ギルレイ、何かあったのか?>
『森でオーバーフローだ。リミル、クライ、ピギルーイ。一緒に戦って貰うぞ』
『ピギルーイはうちの従業員ですよ?』
『汚名返上のチャンスだろ』
『俺そのリミル?に一発でやられる程度ですが戦力になりますか?』
『リミルは高位冒険者だ。歯が立たなくて当たり前だろ?』
『そう…ですか…俺無謀なことしてたんですね…』
「武器とか防具必要なら貸すよ?種族レベルどれくらい?」
ギルレイは種族レベル5から使えるようになる《武具収納》から装備を取り出しササッと準備する。ちなみに《拘束》はとっくに解除していた。
『36ですね。武具は持っていません。警棒などの警備系ならありますが…』
「え…と、ならこの辺かな…得意な武器は?」
『職業的にガントレットが使いやすいですね』
「おっけー。じゃあこれかな。汚名返上ならその制服のまま上から着なよ」
ピギルーイも装備ができた。
『おし、じゃあ行くか』
『ああ、そうだな!先にしておく方が便利だな』
(便利というかして置かないと面倒な事になるんだ…あと幾つかレベル上げればもう少し《転移門》も自由が聞くんだが…)
<早く!買い物に行きたいんだ!>
(分かってるよ!クライがはしゃいでることくらい…)
「待てって!すぐやるから…」
部屋に入り魔法を展開する。
「これでおっけーだ!…?ああ、そっか」
『どうかしたか?』
「いや、ホームポイントが2つになったんだ。森の方にも行けるしこっちにも来れる」
『は?え?リミル今レベル幾つだよ?』
とても驚いている。本日2度目だ。
「んー、何のレベル?」
<おい、もうそろそろ待てない。引越しが済んでからにしてくれ>
話が長くなるのがわかったのかクライが急かしてくる。
『あ、ああ。そうだな…また後で話そう。それより買い物だな』
ギルレイも立ち直って切り替えたようだ。
(後で、か。どこまで話すべきかなぁ)
「わかった!早く行こう!俺も家具見るの楽しみなんだ!」
外で詳しいステータスの話をするのは暗黙のルールでタブーとされているため、家に帰ってから話すことになった。
『まずは何から見る?見るものによって店が違ったりするぞ?』
「ベッド!」
<ベッド!>
声が被る。
『そうか、ならまずはペティの店に行こう』
ギルドはイレア中央広場に面した北通り沿い西側に位置している。ギルドの周辺地域は戸建て住宅が集まっており、管理者住宅地と呼ばれている。そこにある戸建てのうち、最もギルドに近い敷地を所有するのがギルドマスターのギルレイである。
商業施設は東通りと西通りに密集しているため中央広場を挟んで一本の道を通ればほとんどの買い物は済むようになっている。
ただ、冒険者が買うような物は全て北通りに並んでいる。一番の理由は、森で何かあった場合すぐに装備や武器、ポーションなどを調達し易いようにするためだが、市民と冒険者の無用の争いを防ぐ目的や冒険者同士の交流を促す目的もある。
そして、南通りには様々な飲食店が立ち並ぶ。魔物を引き寄せてしまわないように森から一番離れた場所に飲食店を置きたかったことと、他街との食材の行き来もし易い場所であることから丁度いい立地だった。
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中央広場から西通りに入ってすぐの所にペティの寝具屋はあった。
『よう、ペティ!』
ギルレイが声をかけたのはとても大きな人だった。ギルレイですらリミルからしたら大きいのだが、それよりも更に大きい。
ちなみに、それぞれの身長は…
リミル……168cm
ギルレイ…201cm
ペティ……212cm
魔族と獣人族と竜人族は
男性約170cmから約210cm
男性平均…189cm
女性約160cmから約190cm
女性平均…176cm
小人族は男女共に
130cm以上150cm未満
木人族は男女共に
150cm以上180cm未満
神格化しても身長は変わらず、種族の特徴がよりハッキリと現れるだけだ。魔族のうちの魔人族は耳が少し尖っているが魔神はより鋭く尖った耳になる。
リミルは耳が尖っているが、ギルレイの耳の方がより尖っている。
もう一つの魔族、鬼人族は額から2つ小さな角が生えている。鬼神になるともう1つ生えて3つになる。
それはともかく、ペティはとてつもなくデカい。そして赤茶色の熊の耳と尻尾が見えているので熊獣人だとわかる。
(ペティ…女性…ではないな、うん)
振り向いたのは人好きのする笑顔の、オジサンというにはまだ若い風貌の男性。笑顔はとても好印象だが元の顔は少し厳つい雰囲気でカッコイイ。
(名前とギャップがありすぎる)
『おぉ、ギルじゃねぇか!用事か?買い物か?』
(声は意外と爽やかなんだな。渋いのかと思ってた。ギルレイの方が渋くて良い声だな。ペティも爽やかな良い声だけど)
『買い物だ。こいつらの。紹介するな、リミル、クライ。こいつがここの店主のペティだ。ペティ、こいつらがうちに住むことになった冒険者のリミルとその従魔のクライだ』
(紹介されるのは良いけど、3人ともデカいから首がしんどい)
『そうか!お前がリミルか!クライ、カッコイイ名前付けてもらったな!俺はペティだ。二人ともよろしくな』
<よろしく、ペティ>
「よろしく!俺のこと知ってんの?」
(俺まだそんなに名前は知られてないはずなんだけど?)
『ああ、昔アンリエットとギルから少し話を聞いてたんだ。それがまさか白いフェンリル連れのソロ冒険者とは思わなかったけどな!ハハハ』
「アンリは俺のことなんて言ってた?」
『ああ、久々に言葉を教えてる子がいるんだけど、とても優秀な教え子なの!先生をしてた頃を思い出すわ。毎日楽しいの!って言ってたぞ』
「そっか…」
(アンリも楽しかったんだな。良かった)
『さ、そろそろクライがお待ちかねだぞ?』
ギルレイはペティと話していたことを言うつもりはないようで思いっきり話を逸らしにかかる。リミルはそんなギルレイと肩を竦めたペティと店内を見たくてうずうずしているクライを順番に見たあと諦めたように軽くため息をついた。
<もう見て良いか?>
『ああ、自由に見てくれ。展示してあるのはサンプルだ。2階にもある。カタログも見てじっくり選んでくれ。その間に備品のオススメいくつか持ってくるから』
**
クライと自由に見て回った結果、二人とも選んだのは同じ物だった。一番大きいサイズのベッドで、シンプルなのに綺麗な装飾が施してある白い金属製の骨組みに様々な魔工がされた、ほど良く弾力のあるマットレス、魔工されたスルスルツルツルとした触感のボックスシーツと枕カバー、フカフカの枕二つ、大きめの肌触りの良いタオルケット。
これらを2セット購入した。
『一緒に選んだわけじゃねえのに全く一緒の物を選ぶとかシンクロしてんのか?』
ペティが驚きを通り越して呆れている。
<そうかもな>
『仲が良い分には良いだろ』
喧嘩しないか心配していたギルレイはホッとしたようだ。
『それもそうだな。ところで商品はどうする?家まで送り届けようか?』
「ああ、こっちで持って帰るよ。《空間収納》あるから」
『『え!?』』
「そんなに驚くことじゃないだろ?【運び屋】の職業は比較的取りやすいよね?」
『まあ、そうだが《空間収納》って確かレベルが…』
(結構早い段階で使えるけど…確かレベル20とかだったかな?そんなに慌てる理由が分からないんだけど)
『待て、ペティ。ここで話すのはタブーだ』
『あ、ああ。すまん』
「とりあえず代金払って収納してもいい?他の客がこっち見てて居心地悪い」
『ああ、すまない。すぐに商品を用意する』
**
サンプルとして並んでいた物ではなく、同じ物の新品がある倉庫へ移動する。そこで全て確認し、お金を払ったら納品されるシステムのようだ。
『リミル、能力の詮索はしないでおくから何かあったとき、お前の力を借りても良いか?有事の際に物資を運んで貰うとかな!』
『それはたぶんギルドから要請することになるとは思うが、俺からも頼む』
「え、それは全然良いけど、ペティが運び屋を取得したほうが早くない?」
『いや、取得はしてるんだ。だがレベルが中々上がらなくてな』
「え?…」
『『え?』』
(んー…認識に差がありそうだな。一度ギルレイに色々と確認してみようかな。今日の夜にでも…)
「…ギルレイ、今日の夜詳しく話そう」
『ああ。その方が良さそうだな』
『俺には話せる範囲で良いからまた聞かせてくれ』
そう言ってペティとは別れて三人は店の外に出た。
**
<とりあえず早く他の買い物も終わらせようぜ>
『そうだな、だが次の買い物の前に昼飯食べに行くぞ』
「クライ、買い物はご飯の後だってさ」
<ああ、そう言えば朝ご飯は拠点の片付けの前に食べたから早朝だったな。どうりで状態が空腹なわけだ>
『ハハハ、それじゃ南通りに行くか』
南通りに向かって歩き出す。
「店でクライも食べていいのか?まだ進化する前に連れていったことがあるけど嫌な目で見られたぞ」
『テラス席がある店なら従魔は連れて行っても良い決まりのはずだが』
「そうなのか?それ以来そこの店には一人ででも行ってないな…目が怖かったから」
『もしかして、グレモスの店か?そこで働いているピギルーイという竜人族のホストの目がギラついてて怖いと噂になっている』
「そうかも。確かに顳顬から長めの角生えてたよ。瞳はエメラルドグリーンなのに血走ってて怖いんだよ」
<あの時、襲ってくるのかと思ったな。俺のこと殺そうとしてたんじゃないか?俺にだけ殺気を放ってたから>
「確かにな…俺の事は一瞥しただけでクライのこと睨むように見てたからヒヤヒヤしたよ」
『まあ竜人族だし、血の気が多いのは許してやれ。ただ、クライに対してってのは気になるな。グレモスの店で食べよう、ピギルーイが居るかは分からんがグレモスに聞けば理由は分かるだろう。グレモスは、まあ、穏やかな方だから』
「…グレモスって人種なに?」
『ああ、豚獣人だ。…料理について質問だけはするな。褒めるのは問題ないが、質問すると熱く語り出して止めるのが難儀なんだ。普段は良い奴なんだがな…』
「なるほど…料理に関する質問はしないようにか。わかった」
『それ以外はほんとに普通だ。むしろ、料理の腕は良いし、料理長としての接客も穏やかで丁寧で評判も良い』
「そっか、あとはピギルーイって人だね…噂になってるってことはクライだけじゃない可能性もあるよね?」
『ああ。だからこそグレモスと本人に話を聞いてみよう…あそこだな』
他の店は昼の時間ということもあり騒がしいがグレモスの店だけ客が疎らだった。
リミルとギルレイは顔を見合わせ、クライにテラスで待つよう目で合図をして店の中に入った。
『いらっしゃいませ』
黒と白の給仕服に身を包み、90°に折った腕に白い布巾を掛け体の前に添え、丁寧にお辞儀をするホストは顳顬から角が生えているがサファイア色の瞳だった。髪は薄群青というのか薄い紺色と薄い灰色を混ぜた様な色だ。ちなみにピギルーイの髪は若草色だ。
『君は確かペルルーイだったかな?グレモスを呼んでくれるか?』
『覚えていただきありがとうございます。ただ今呼んで参りますので席についてお待ちください。従魔がいらっしゃるようなのでテラス席でお願い致します』
『ああ、ありがとう』
リミルは声をかけられそうもなかったので頭を下げるに留めた。ペルルーイと呼ばれた竜人はテラス席に戻る後ろ姿のリミルを見て一瞬だけ目を細めた。だが、その事に気づいた者はいなかった。
クライの元に行き、二人は椅子に腰掛ける。
「ペルルーイ?の目が合った時の視線が気になったんだが、意図までは分からなかった」
『俺には接客以上の意図はなかったがリミルには違ったのか?』
<俺は確認できなかった。近くにいなかったからな>
「うーん。何だろうな…こう、モヤッとするような…もう一度顔を合わせれば分かるだろ」
『グレモスを連れて来るだろう』
だがグレモスを案内したのは木人族のホステスだった。
給仕服から覗く脚や腕は茶色く木の表面のような見た目で、顔は木を切った断面のような色をしている。まるで木で作った仮面を付けているようだが、瞼も唇も眉も頬なども自然に動く。肌触りは流石に分からない。
女性に興味本位で触れるのは失礼過ぎるし、木人族の男性に肌を触らせてくれるような友達はいない。と言うか、リミルに友達と呼べる相手はギルレイくらいしか思い当たらない。
『ペルルーイに代わりスランがグレモスをお連れ致しました。給仕はこのまま私が勤めさせていただきます』
『ありがとう。俺は肉のコースを頼む』
「俺も肉のコースを」
<俺も肉が良いな。ただ、人と同じ量だと足りないから…>
『クライには3人分くらい必要じゃないか?』
「いつもは2人分で足りてるけど」
『じゃあ2人分とデザート多めにしとくか?』
<ああ、それで頼む>
『注文を確認します。お肉コースを4つと追加でデザートを…そうですね2つほどで宜しいでしょうか?』
『ああ、それで頼む。それと料理を作り終わったらグレモスにはこちらに来て欲しい。話したいことがある。食事も一緒にどうだ?』
ここに来てやっと豚獣人のグレモスが口を開いた。
『ギルレイ様、白いフェンリル連れの冒険者様、白のフェンリル様、本日の昼食に当店を選んでいただき誠にありがとうございます。こちらもお話したいことがありますので、ご提案を有難くお受け致します。スラン、僕の分は魚コースを作るのでこちらの席に運んでくれますか?』
『承知致しました。では先に失礼します』
『グレモス、こちらリミルとクライだ。リミル、クライ。こちらがグレモスだ』
『グレモスと申します。料理長をしております』
「よろしく、俺はリミルだ。ごめんな、敬語は難しくて…」
そう。この世界の敬語はとても難しい。
元々使う人も少なかったりするが、使えないと就けない職種もあったりする。
特にリミルは言葉自体覚えたてなため大人なら使える簡単な敬語すら使えない。
『全然構いませんよ。使わない者が殆どですし、冒険者であれば使う機会はないでしょうしね』
<俺はクライだ。従魔の言葉遣いは基本契主依存だ。フェンリルは話せる種族だからフェンリル特有の話し方も出来るが俺はリミルの言葉遣いが長いからな>
「へ~」
『そうなのか』
『知りませんでした。あ、よろしくお願いします。挨拶も済みましたので、私は一度厨房に戻ります』
そう言ってグレモスは店の中に入っていった。
「フェンリル特有の話し方って?」
<もっと偉そうな話し方だな。俺はする気はないぞ>
「偉そうなのは嫌だな…。それより、ピギルーイが見当たらないな」
『ペルルーイは奥で接客してるな』
<ここにいる竜人族はその二人だけか?>
『いや、確かもう一人いたと思うが女性だったな。今はいないようだが…』
「それにしてもこの店だけ客が少ないな。何かあったのか?噂のせいか?」
『グレモスの話ってのはその辺の事だろうな』
<スランがご飯持って来るぞ>
**
お腹が減っていたリミル達は黙々と食べ始めメインと共にやってきたグレモスも下品にならない程度に急いで食べ全員のデザートが運ばれて来た頃、漸く話を切り出した。
『クライ、お前器用だな』
<あ?犬のように食べると思ったのか。リミルと出会って間もない頃にリミルが作ったご飯を食べたら口の周りが汚れて気持ち悪かったからな。魔法で口元まで運ぶ事にしたんだ。人種は食器を使えるが俺には使えないからな>
「俺も出来るよ。真似して一緒に練習したからな。人前ではやらないけど」
『そうですね。その方がよろしいかと思います。大人としてのテーブルマナーは合格点だと思いますので。クライ様も魔法を使っての食事でとても上品に食べてらしたのでマナーとして問題ないかと』
「そっか、ありがとう。マナーは殆ど独学だからな嬉しいよ」
『そうなのか?アンリは?』
「食器の使い方とかは教えて貰ったけどマナーについては何も言われなかったな。見てて綺麗だなって思う食べ方の人を真似しただけだな」
『左様ですか。失礼ですが、お二人はどのような関係なのでしょう?』
『あー、俺とアンリのお気に入りって感じかな?大切に思ってるよ』
「俺にとってはギルレイもアンリも恩人かな…ギルレイは唯一の友達でもあるな。俺他に友達って呼べるような奴いないし」
グレモスがチラッとクライを見る。
<俺はリミルの家族だ>
『なるほど…リミル様はもしやリーマスとミルレアの息子では?』
「…え?」
ガタッとギルレイが勢いよく立ち上がる。
『グレモス!お前リミルの親の事知ってんのか!?』
とても驚いたようで咄嗟に立ち上がってしまったみたいだ。俺は逆に驚き過ぎて小さい声が出ただけだった。
『お、落ち着いてくださいギルレイ様。もしやと思っただけで、確証はございませんがそれで良ければお話いたしますので』
『あ、ああ。悪いな。リミル聞くか?』
「えっと、一応…」
グレモスは一つ頷いた。
『リーマスとミルレアという夫婦は私の父方の遠い親戚でして、つい数十年前まで交流がございました。ですが、パタリと音信不通になり、姿も確認されていません。行方不明になる数年前に男の子を産んだと聞きました。リーマスは鬼神になるのではと噂があり、ミルレアは魔人族の方の魔族でした。二人の間に産まれる男の子は魔人族の姿になりますし、肌の色や顔はミルレアの面影があり、髪色や片方ですが目の色はリーマスに似ています。それに年齢的にも。ですからもしやと思った次第です』
『鬼神に…リーマス…?ああ!わかったあいつか。確かにリーマスの髪はプラチナで目は両目ともルビーのようだった』
「でも俺の目は右がルビー色で左は薄紅色で、オッドアイだ」
『リミル、オッドアイは遺伝ではなく得意な魔法の系統の色調になる。俺も右が黒色だが左は赤色だ。俺のは黒が混ざった赤色だ。黒系統の魔法が特に得意で続いて赤系統が得意だと言うことだな。リミルは赤系統が最も得意で続いて白系統が得意と言うことになる』
「そうなのか…髪は遺伝?」
『ああ、リーマスもふんわりしたプラチナの髪だった。俺も父親が俺と同じように赤と黒の混じった髪だ』
「じゃあその人たちが…ホントに俺の…親?」
『まだわかりませんが可能性は高いかと…ただ、リミル様は孤児だったご様子。あの二人が子どもを捨てるなど考えられません。二人は仲睦まじく、産まれた赤ん坊を大事にしていたと聞いていましたので。何かあったのではと…』
リミルは混乱している様子で、ギルレイは何か考え込んでいるようだ。少しの沈黙の後、それを破ったのはリミルを心配したクライの声だった。
<大丈夫か?>
「うん…何とか…。えっと、俺は物心ついた時にはリンドの森で一人で狩りとかして生活してた」
『そうか…だからあんな危険地帯に住んでたのか。住んでる場所を知ったのがつい最近だったから…てっきり強くなるためだとばかり……。一人でって物心ついたって子どもだろ!?リーマスは何をしてんだ…いや…もしかして森で何かあったのか?その前に森に幼い子どもを連れて行くか?』
気づいてやれなかった罪悪感と子どもを一人で森に置いたかもしれないことへの怒りと森で何か起こったのかという心配と子どもが森にいたという事実への困惑とギルレイは様々な感情に戸惑いを隠せない。
『謎ですね…ですがリンドの森という新たな情報を得られましたので、捜索に進展がある事を祈るばかりです』
「俺と関係があるのかもまだ分からないけど進展すると良いね…」
『…二人の親…がいれば魔法で血縁関係かどうか調べて貰えるんだろ?』
『いるにはいるんですが…やめておいた方がよろしいかと。リーマスの母親はもう既に亡くなっており、父親がいるんですが彼は竜人族で気性が荒く…ミルレアの両親は健在ですが、ミルレアが行方不明になったことを認められないようで…』
『ああ…。孫かもって言って違えばどうなるか…もし本当に孫だったとしてミルレアはどこだってリミルに詰め寄るかもしれないしな…』
「リーマスの父親は何か怖そうだな…」
『もし、進展しまして、リミル様が二人の子どもだという確証が得られたら会うことを検討して頂けませんか?私も一度三人にお会いしてきますので』
「まあ…俺も出生が不明なままは嫌だし…会えそうな雰囲気なら…」
『その時は一緒に行ってやるよ』
「ありがとう、ギルレイ」
<俺も家族として一緒に行くぞ>
「当たり前だろ」
『では、その件につきましてはまた後日ということで。本題といいますか、元々話すつもりだった話をさせて頂いても宜しいでしょうか?』
『ああ、たぶんこちらとそちらの話は殆ど同じだろう』
『ええ、ピギルーイの事です』
『こちらは進化前のクライに向かって殺気を放ったということと、噂について聞こうと思ってきた。そちらは?』
『最近、彼の様子がおかしいのでもしや…と思って』
『まさか、堕ちたかもしれないのか?』
『ええ、違っていてほしいのですが…彼の大切な人が魔物に襲われ亡くなったそうです』
『番か?』
『ええ、おそらく。初めて出会った番だったのではと思います』
『そうか…』
「確か番って複数居るんだよね?」
『そうです。竜人族、獣人族、木人族は番を求めます。人種全てが対象となりますが、魔族、小人族、妖精族は番を求めません。ただ、惹かれ合う習性だけが顕著に現れるので恋人や夫婦となる場合が殆どです。そして、番は同時に二人現れた例がありますが、世界は広いので実際に同時に何人現れているのかは確認されていません。同じ街に二人、番がいるというのはそれほど珍しくはないと思います』
「そうなんだ」
『番だからと言って必ずしも付き合うとは限らないとも聞いたぞ?』
『はい。それは仕方ないことですね。よくあるのは、番に既に恋人や連れ合いがいて、番の幸せを思って身を引く等の物理的に不可能な場合です。あとは稀にですが、番を持たない種族の方に惹かれ合う習性が働かず、恋愛対象ではないと拒否される等の気持ち的に不可能な場合もあります。そのどちらでもキツい事ですが、魔物に襲われたとなると憤怒を抱いても仕方ないかと思います』
『だが怒りだけで堕ちたりはしない』
『ええ、ですから何かあったのか心配で…私の杞憂で終われば良いのですが』
「当人は今どこに?」
『今日は午後から店に立つ予定ですのでそろそろ降りてくるかと…』
『こちらに来るか?』
『いえ、従魔連れのお客様の担当には竜人族以外を当てておりますので…』
『噂対策か?』
『ええ』
「こっちに来るぞ!」
階段から降りてきてこちらと目が合った途端に凄い勢いで走ってくるのでテラス席から広い通りに飛び退りリミルとクライは臨戦態勢を整えるが武器等は所持せず防具も普段使いの軽装鎧と軽めのローブのみだ。対して相手は種族特殊能力の竜鱗を身に纏って竜爪を構えている。
『やめなさい!ピギルーイ!』
『リミル!』
ピギルーイがクライに襲いかかったのと同時にピギルーイの肩甲骨辺り目掛けて腕を振り下ろす。飛びかかっていた体は地面にぶつかり。
『カハッ』
息が強制的に出され気絶した。
リミルはピギルーイが息をしているか確認すると両腕で抱えあげ、店に運ぶ。
通りにいた者達やギルレイとグレモスは呆気にとられていたがリミルが店に近づくとそれぞれ動き始めた。
『あ、ありがとうございます。こちらに。クライ様うちの従業員が申し訳ありません』
<問題ない。リミルがやってしまった>
『リミルが戦う?とこ初めてみたよ』
「俺だってギルレイが戦うとこ見たことないんだけど?」
『そのうちあるだろ』
店の中にいた客達も呆然とこちらを見ていたがグレモスが声をかけたらそちらを注視し話を聞いて殆どの者は喜んでいた。
『皆様、お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。せめてものお詫びとして本日のお食事はお代を頂きません。ごゆっくり食事を堪能していって下さいませ。…スラン、すまないがCLOSEにして来てくれ。今いるお客様のご帰宅は自由だ。注文があれば対応してくれ。副料理長に任せる』
『畏まりました』
『では我々は上へ』
**
従業員の仮眠室に入り、ピギルーイをベッドへ寝かせ、隣のベッドにリミルとギルレイが座り、グレモスは近くにあった椅子を持ってきて座った。クライはリミルの座っているベッドの隣に座っている。
「話を聞ける状態か?また飛びかからないか?」
『ああ、大丈夫だ。《拘束》これで大きな動作はできない』
『ご迷惑をお掛けします』
『こいつ、まだ堕ちてないぞ。堕ちる寸前かもしれないが』
「戻してあげられないのか?」
『話を聞いて見なければなんとも…ただ、堕ちるか堕ちないかは本人次第だな』
『そうですか…できる限り説得しようと思います』
<俺がいて話し合いができるか?>
『いる方が良いんじゃないか?たぶんこいつは話せる知性のある魔物がいると知らないから見かけたら飛びかかるんだろう』
<従魔は全員話せることも知らないのか?>
『たぶんな』
『そういった教育はしませんのでもしかしたら知らないかもしれません。言っておけば従魔を襲わなかったのでしょうか…だとしたら私の責任でもありますね』
『この際それは仕方ないだろう。従魔についてはそれほど知られていないんだから。グレモスの責任だというならそういう知識を広めなかったギルドの責任とも言える。だがこれはギルドの会合で話し合わなければならない案件だ。勝手に広めることはできない』
『ギルドから広まる方が信頼度は高いです』
「そういや冒険者が持ち込んだ知識をギルドが調査して真偽を確かめてるんだっけ?一人しか事例がなければどうするんだ?」
『情報提供者が本人であれ他者であれ、基本的に本人を調べるからな…』
「拒否は…されないか。ギルドに居られなくなるもんな」
『まあな。そういう決まりだからな』
『そういった知識を広めるか広めないかはどういった基準で決まるのか聞いてもよろしいですか?』
『大まかになら。本人に迷惑が掛かりそうな件は秘匿する。だが、知られた方が本人の為になるのであれば広める』
『では今回の件については?』
『今までは知られない方がいいと考えられてきたが今回のように従魔と魔物を一緒くたに考えられる危険性も項目に追加して会合で話し合いだな』
『知られる方が不味い場合はこのまま秘匿というのもあるということですね?』
『ああ。だがまあ…違う方法での解決という事もあるかも知れないがな』
『それはどういう?』
『これ以上は正式に発表されるのを待ってくれ』
『そうですね、申し訳ありません』
「個人での知識の共有は禁止とかされてる訳でもないんだからグレモスから話せば良くないか?ギルドの発表に拘ってるように見えるけど」
『拘ってるわけではないんです。ただ、なぜと。八つ当たりかも知れませんね…』
ギルレイは寝ているピギルーイを見ながら口を開く。
『誰のせいでもねぇよ。ピギルーイが元に戻りさえすれば良い話だし。手遅れでもねぇんだから』
『そうですね。噂もどうにかしなければ』
『ピギルーイを辞めさせれば店に被害は無かったんだろ?なんで辞めさせなかったんだ?』
『彼は根は良い人なんですよ。僕を強盗から助けてくれた恩人でもありますし、ホストとしても非常に優秀です。それにうちの従業員に彼を好きな子がいまして…彼は知らないと思いますがその子が言うには番だそうです』
「え、番って持つ種族同士なら互いに分かるもんなんでしょ?」
『ええ。ですが、彼は番を亡くしたばかりで、一瞬すれ違っただけだった様ですので気づかなかったのでしょう。彼が落ち着いたら引き合わせようと思っていたのですが…彼女も心配してました』
『だってよ。起きてるんだろ?』
『え?起きていたんですか?』
「自分の話をされてると起き難いよね」
『………申し訳ない』
『いえ、せめて従魔は意思疎通が出来ることだけでも話しておくべきでした』
『そうですか…やっぱりあれは実際に聞こえて…』
『何があった?』
『実は番がゴブリンに襲われまして、その方の冒険者チーム全員が亡くなったのですが、その一月後くらいにグレモスのレストランに食べに来たお客様の中にゴブリンを従魔にした冒険者の方が来ていて…違うゴブリンだと思って接客していたのですが配膳しに行った時にゴブリンと話しているのを聞いてしまって…』
『なんて言っていたんだ』
『次はどのチームを襲う?と』
『それは確かか?』
『はい。離れる直前でしたので。ゴブリンがそう言い、冒険者は馬鹿野郎っ!と小声で怒鳴っていました。その時は空耳が聞こえたのかとも考えましたが従魔ですら許せなくなってしまって…』
『そうか…ゴブリンを従魔にしている冒険者はこの街には一人しかいない。あいつは前から問題があってギルドで目を付けてたんだが森での行動までは監視していなかったからその隙をつかれたのか。早急に捕まえて取り調べる』
『お願いします。彼らの無念を晴らしてください』
『ああ。ギルドに連絡を入れる。…ああ、ギルレイだ。捕まえて欲しいやつがいる。…は?森が?直ぐに出られるのは?そうか…こちらからは俺と白のフェンリル連れと竜人族が一人応援に向かう』
<ギルレイ、何かあったのか?>
『森でオーバーフローだ。リミル、クライ、ピギルーイ。一緒に戦って貰うぞ』
『ピギルーイはうちの従業員ですよ?』
『汚名返上のチャンスだろ』
『俺そのリミル?に一発でやられる程度ですが戦力になりますか?』
『リミルは高位冒険者だ。歯が立たなくて当たり前だろ?』
『そう…ですか…俺無謀なことしてたんですね…』
「武器とか防具必要なら貸すよ?種族レベルどれくらい?」
ギルレイは種族レベル5から使えるようになる《武具収納》から装備を取り出しササッと準備する。ちなみに《拘束》はとっくに解除していた。
『36ですね。武具は持っていません。警棒などの警備系ならありますが…』
「え…と、ならこの辺かな…得意な武器は?」
『職業的にガントレットが使いやすいですね』
「おっけー。じゃあこれかな。汚名返上ならその制服のまま上から着なよ」
ピギルーイも装備ができた。
『おし、じゃあ行くか』
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※以前完結した作品を修正、加筆しております。
完結した内容を変更して、続編を連載する予定です。
伝説の霊獣達が住まう【生存率0%】の無人島に捨てられた少年はサバイバルを経ていかにして最強に至ったか
藤原みけ@雑魚将軍2巻発売中
ファンタジー
小さな村で平凡な日々を過ごしていた少年リオル。11歳の誕生日を迎え、両親に祝われながら幸せに眠りに着いた翌日、目を覚ますと全く知らないジャングルに居た。
そこは人類が滅ぼされ、伝説の霊獣達の住まう地獄のような無人島だった。
次々の襲い来る霊獣達にリオルは絶望しどん底に突き落とされるが、生き残るため戦うことを決意する。だが、現実は最弱のネズミの霊獣にすら敗北して……。
サバイバル生活の中、霊獣によって殺されかけたリオルは理解する。
弱ければ、何も得ることはできないと。
生きるためリオルはやがて力を求め始める。
堅実に努力を重ね少しずつ成長していくなか、やがて仲間(もふもふ?)に出会っていく。
地獄のような島でただの少年はいかにして最強へと至ったのか。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
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今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
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