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本編
第166話
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「アンタたちってなんなの?お互いのこと本当に仲間だと思ってる?セナがまったく違う方向を見てるのに、なんにも言わないで傍観し続けるつもりかよ」
今まで目を背けてきたことを正面から突きつけられ、先ほどまでの気勢を殺がれた彼らはサンを睨みつけることしかできない。
この瞬間まで微動だにせず……唇をきつく引き結んで沈黙を守っていたのはただひとり。ヤヒロだ。やりとりにじっと耳を傾けていた彼は、重々しく口を開いた。
「こいつの言うことにも一理ある」
全員の視線がヤヒロに集まる。
「俺たちそれぞれが意識を変えねえと、いつか全員バラバラになっちまうぞ」
「でも……」
アキラが反論の声をあげたがそれを遮って、
「もうガタガタ抜かすんじゃねえ。俺たちのグループ名の由来、忘れたのかよ」
「――どんなに困難な旅路だろうと立ち止まらない。猛牛みたいに突き進む……」
黙っているアキラの代わりに、タビトが答える。ヤヒロは彼に向かって頷き、鋭い光を湛えたアーモンドアイで再びアキラを見据えた。
「今回の活動期間中はこいつとアコが決めたコンセプトに従う。いいな?」
「さすがヤヒロ、話がわかるじゃん。僕と同じ価値観のヤツがひとりでもいてよかった。結果は必ず出すから信用してくれていいよ」
サンは握手をしようと手を差し出したが、ヤヒロは拒絶の意味を込めてその手のひらを思い切りはたき落とした。そして苦々しく吐き捨てる。
「調子に乗んな。テメーみたいな奴をそう易々と信用するわけねえだろ。俺たちの魅力を引き出す能力がどれだけあんのか確かめたいだけだ」
「わお……すごい言い方。傷つくなあ」
「人のことさんざん扱き下ろしといて被害者ヅラしてんじゃねえよ」
忌々しそうに舌打ちすると、セナの方をちらと見る。
「セナ。おまえはそのきれいな顔の使い方、もう一回ちゃんと考えろ」
ヤヒロが『きれい』と発したことに目を丸くしたのはアキラだ。彼はなかなかこういう言葉を口にしない。
驚愕するアキラの横で、ユウはいつまでもサンを睨んでいたが……やがてセナに目を転じ、低く言う。
「サシャの真似してぶりっこすんのやめて、クール路線で売れば。もともと、元気ってよりおっとりした性格だし、黙ってる方がかっこいいし。自分らしくやった方が楽でいいんじゃね?」
「自分らしく……?」
眉をひそめ、いかにも反発したそうなセナを無視してヤヒロが深く頷く。
「サシャを意識しすぎて限界感じてんなら、もうやめとけ」
セナは苦渋を顔いっぱいに広げて、俯いた。
「できないよ。いまさら自分らしくなんて、そんなの……」
「できるできないじゃねえ。やるんだよ」
「僕もヤヒロの意見に賛成。サシャの真似はもう終わり。一からキャラをつくってこ」
サンが満面の笑みを浮かべる。
「――それで、この子たちをどんな感じに仕上げたいわけ?髪色は全員分決めたの?」
腕組みをして成り行きを見守っていたアコが尋ねると、サンは嬉々として言った。
「全体的にやわらかいイメージで統一したいんだよね。アキラはオリーブベージュ、ヤヒロはアッシュグレー。タビトはピンク、ユウはライトブラウンにして、ゴールドベージュのハイライトを入れようかな。セナは、そうだな……まあ……とりあえず、明るい色にするよ。ミルクティーカラーかブロンドあたり」
「わかった。……ユミグサはまだ会社に残ってた?」
「いるよ。一生懸命ミシンでなんか作ってたけど」
スマホを取り出してタップし、耳に当てたアコは5人に向かってひらひら手を振ると、練習室を出ていく。
「タビトの変身がいっちばん楽しみ。衣装と髪型にマッチするようにメイクしてー、カラコン入れてー……あ、眉毛も色あわせないと」
予定の数だけ指を折りながら、サンは無邪気に声を弾ませる。そしてその場に立ち竦んでいる彼らを、満足そうな顔でまじまじと見つめた。
「それじゃ、できるだけ早くアンバー・ルシアに来て。待ってるから。よろしく」
すぐそばにいたアキラの肩を力強く叩くと、彼らの反応を待たずに扉の向こうへと消える。
5人は嵐が去ったあとの静けさのなかに佇み、しばらく茫然としていた。
「なんだったのあれ……」
か細い声でつぶやいたのはタビトだ。
「俺たちの新しいボス」
ヤヒロが答えて床に胡坐をかく。
食事を再開した彼らは思案顔のまま目を伏せ、終始無言だった。しかし決してネガティブな気持ちばかりではない。そこには未知への期待と、自分たちの新たな魅力の発掘を熱望する思いが確かにあった。
進むべき道を指し示す一筋の光を見つけ、各々が決意を固めるなか……光から目を逸らし暗闇に身を沈めた者がいる。
――セナだ。
今まで目を背けてきたことを正面から突きつけられ、先ほどまでの気勢を殺がれた彼らはサンを睨みつけることしかできない。
この瞬間まで微動だにせず……唇をきつく引き結んで沈黙を守っていたのはただひとり。ヤヒロだ。やりとりにじっと耳を傾けていた彼は、重々しく口を開いた。
「こいつの言うことにも一理ある」
全員の視線がヤヒロに集まる。
「俺たちそれぞれが意識を変えねえと、いつか全員バラバラになっちまうぞ」
「でも……」
アキラが反論の声をあげたがそれを遮って、
「もうガタガタ抜かすんじゃねえ。俺たちのグループ名の由来、忘れたのかよ」
「――どんなに困難な旅路だろうと立ち止まらない。猛牛みたいに突き進む……」
黙っているアキラの代わりに、タビトが答える。ヤヒロは彼に向かって頷き、鋭い光を湛えたアーモンドアイで再びアキラを見据えた。
「今回の活動期間中はこいつとアコが決めたコンセプトに従う。いいな?」
「さすがヤヒロ、話がわかるじゃん。僕と同じ価値観のヤツがひとりでもいてよかった。結果は必ず出すから信用してくれていいよ」
サンは握手をしようと手を差し出したが、ヤヒロは拒絶の意味を込めてその手のひらを思い切りはたき落とした。そして苦々しく吐き捨てる。
「調子に乗んな。テメーみたいな奴をそう易々と信用するわけねえだろ。俺たちの魅力を引き出す能力がどれだけあんのか確かめたいだけだ」
「わお……すごい言い方。傷つくなあ」
「人のことさんざん扱き下ろしといて被害者ヅラしてんじゃねえよ」
忌々しそうに舌打ちすると、セナの方をちらと見る。
「セナ。おまえはそのきれいな顔の使い方、もう一回ちゃんと考えろ」
ヤヒロが『きれい』と発したことに目を丸くしたのはアキラだ。彼はなかなかこういう言葉を口にしない。
驚愕するアキラの横で、ユウはいつまでもサンを睨んでいたが……やがてセナに目を転じ、低く言う。
「サシャの真似してぶりっこすんのやめて、クール路線で売れば。もともと、元気ってよりおっとりした性格だし、黙ってる方がかっこいいし。自分らしくやった方が楽でいいんじゃね?」
「自分らしく……?」
眉をひそめ、いかにも反発したそうなセナを無視してヤヒロが深く頷く。
「サシャを意識しすぎて限界感じてんなら、もうやめとけ」
セナは苦渋を顔いっぱいに広げて、俯いた。
「できないよ。いまさら自分らしくなんて、そんなの……」
「できるできないじゃねえ。やるんだよ」
「僕もヤヒロの意見に賛成。サシャの真似はもう終わり。一からキャラをつくってこ」
サンが満面の笑みを浮かべる。
「――それで、この子たちをどんな感じに仕上げたいわけ?髪色は全員分決めたの?」
腕組みをして成り行きを見守っていたアコが尋ねると、サンは嬉々として言った。
「全体的にやわらかいイメージで統一したいんだよね。アキラはオリーブベージュ、ヤヒロはアッシュグレー。タビトはピンク、ユウはライトブラウンにして、ゴールドベージュのハイライトを入れようかな。セナは、そうだな……まあ……とりあえず、明るい色にするよ。ミルクティーカラーかブロンドあたり」
「わかった。……ユミグサはまだ会社に残ってた?」
「いるよ。一生懸命ミシンでなんか作ってたけど」
スマホを取り出してタップし、耳に当てたアコは5人に向かってひらひら手を振ると、練習室を出ていく。
「タビトの変身がいっちばん楽しみ。衣装と髪型にマッチするようにメイクしてー、カラコン入れてー……あ、眉毛も色あわせないと」
予定の数だけ指を折りながら、サンは無邪気に声を弾ませる。そしてその場に立ち竦んでいる彼らを、満足そうな顔でまじまじと見つめた。
「それじゃ、できるだけ早くアンバー・ルシアに来て。待ってるから。よろしく」
すぐそばにいたアキラの肩を力強く叩くと、彼らの反応を待たずに扉の向こうへと消える。
5人は嵐が去ったあとの静けさのなかに佇み、しばらく茫然としていた。
「なんだったのあれ……」
か細い声でつぶやいたのはタビトだ。
「俺たちの新しいボス」
ヤヒロが答えて床に胡坐をかく。
食事を再開した彼らは思案顔のまま目を伏せ、終始無言だった。しかし決してネガティブな気持ちばかりではない。そこには未知への期待と、自分たちの新たな魅力の発掘を熱望する思いが確かにあった。
進むべき道を指し示す一筋の光を見つけ、各々が決意を固めるなか……光から目を逸らし暗闇に身を沈めた者がいる。
――セナだ。
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