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本編
第95話
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「え?アコさんがウル・ラドの担当だった……?」
「なんだユミグサ……そんなことも知らなかったのか」
困惑している彼女にあきれ顔で言いながら、サンはゆっくり立ち上がった。不敵な笑みを口角に刻んだまま、アコに言い放つ。
「はっきり言わせてもらうけど。アンタら2人が無能だったから、ミュトスなんかに負け続けてんだよ」
「は……?」
「花の名前のヘアメイクは“努力してます考えてます”ってツラして大したことやってない自己満女。アンタはどの場面でもさ……万人受けするっていうか、地味で無難な衣装ばっか着させてるじゃん。コンセプトがあっても、スタイリストとかヘアメイクはその世界観の範疇で表現の仕方を工夫していくもんじゃないの?まあ、そもそも……オフィスウイルドの売り出し方が悪いんだけどね。ウル・ラドはカリスマ性を武器にできるチームなのにその真逆をやってるんだもん」
「君さ――偉そうに言ってるけど、アイドルの担当になったことないんでしょ?簡単に言わないでくれる?」
落ち着き払って彼女はそう言ったが、体の内側は怒りで煮えている。
「たしかに経験はないけどさ。僕、アイドルオタクなんだよね。ずっと前からいろんな国のアイドルのファンやってきたしその文化を見てきたから、まったく無知でもないよ。今の時代のファンが何を求めてるか、アイドルのどんなところに魅力を感じてるか……少なくともアンタより詳しいと思うけど」
彼女が反論してくるのを阻止するように、彼は素早く言葉を続けた。
「わかってないみたいだから教えてあげる。ウル・ラドは『その辺にいそうな兄ちゃん』じゃダメだ。音楽性は突出してるけど、今の時代それだけじゃ生き残れない。アイドルなんだからもっともっと外見を活かしていかないともったいないよ」
良く通る声で淀みなくしゃべる。まるで選挙演説だ。
「他のグループと同じことをしてるだけじゃこの先どんどん埋もれていくぞ。バラエティに引っ張りだこになるくらい個性の強いメンバーもいないし、ギャップ売りも中途半端。こんなんじゃいつ消えてもおかしくないね。ましてやミュトスからトップの座を奪うなんて無理無理!」
「――言ってくれるじゃん……」
ヤヒロが半笑いで言う。
「ウル・ラドは他のどのアイドルグループよりもカリスマ性があるんだよ。メンバー全員がモデル並みのスタイルなんていうのはなかなかないし、クールからキュートまで、見目麗しいメンバーが揃ってる。このグループはまさに奇跡なんだ!彼らの崇高な美しさを最大限まで引き出せるかどうかは、会社の売り出し方と僕たち裏方の腕にかかってるってわけ」
「なんなのコイツ……」
アコがめずらしく引いている。そんな彼女に視線だけをやって、サンは鷹揚な態度で腕を組んだ。
「――ああ、そういやアンタ、コスチュームデザインもやってるんだっけ?言わせてもらうけど、ライブは学芸会じゃないんだよ。これからは安っぽい衣装を着させるな。僕の施すメイクが台無しになる」
その言葉を受けたアコはとうとういきり立ち、
「じゃあ何?全身ハイブランドで固めろとでも?」
「話にならないね!ヘアメイク担当の僕にそんなことまで教えられないとわかんないわけ?僕だったら、ラグジュアリーブランドはアクセサリーとか帽子なんかの装飾品で取り入れて、衣装はアップカミングなブランドとか若い子に人気があるミドルブランドのアイテムを選ぶね。サイズが合わなかったり動きにくければ必要に応じてカスタマイズすればいいし、シンプルなものでも装飾品をプラスすればじゅうぶん舞台映えするじゃん」
実によくしゃべる男である。ようやく黙ったかと思えば、再び口を開いた。
「あと気になったのは、プライベートで着てる服。ファンが隠し撮りした写真をSNSで見かけたことあるけど、なにあれ?」
彼はヤヒロを見下ろし、「くたびれたスウェットとシャワーサンダルで外に出るな。柄on柄コーデやめろ。家の中ならなにしたって自由だけどさ、外では品格を持ちなよ」そしてその流れで視線をセナに移して、「キャラとしてなんだろうけど、うさ耳の付いたパーカーとぬいぐるみリュックはやりすぎ。かわいい通り越してあざとい」
セナの表情が凍りつく。彼の言葉はまるで鋭利な刃物だ。
「――ちょっと待って。柄物同士のコーデは品格関係なくない?」
ユミグサが言うもそれを無視して、
「カネの使い方が下品と思わせるのは絶対にダメだし、別にブランドもん買えとか高級車乗り回せとか言ってんじゃないんだ。ただ――清潔感とか品位をもっと大事にしろってこと。アイドルの私生活なんかあってないようなもんなんだから、いつも見られてること意識してうまくやんないと価値が下がるよ?」
「プライベートのときくらい、自分の着たいもの着てていいでしょ……」
セナはもごもごと反論する。
「このまま二番手に甘んじるつもりならどうぞご勝手に」彼はやれやれと言わんばかりに首を振って、「てか……最近のセナは私服のセンスが死んでる。かわいいキャラを割り当てられてるからって無理してない?デビュー前はモード系だったよな?それとも趣向が変わった?」
そんなことまで調べ上げているとは――人知れずセナは背筋を震わせる。
「まあ、ファッションについてはユミグサになんとかしてもらえ。僕はヘアメイク専門だからね……服装よりなにより指摘したいのはアンタたちの不健康さだよ。みーんな顔色悪いけど、前の担当者はスキンケアとか食事とかの生活指導はしてたのか?まさか自己流でやらせてたんじゃないだろうね?」
「なんだユミグサ……そんなことも知らなかったのか」
困惑している彼女にあきれ顔で言いながら、サンはゆっくり立ち上がった。不敵な笑みを口角に刻んだまま、アコに言い放つ。
「はっきり言わせてもらうけど。アンタら2人が無能だったから、ミュトスなんかに負け続けてんだよ」
「は……?」
「花の名前のヘアメイクは“努力してます考えてます”ってツラして大したことやってない自己満女。アンタはどの場面でもさ……万人受けするっていうか、地味で無難な衣装ばっか着させてるじゃん。コンセプトがあっても、スタイリストとかヘアメイクはその世界観の範疇で表現の仕方を工夫していくもんじゃないの?まあ、そもそも……オフィスウイルドの売り出し方が悪いんだけどね。ウル・ラドはカリスマ性を武器にできるチームなのにその真逆をやってるんだもん」
「君さ――偉そうに言ってるけど、アイドルの担当になったことないんでしょ?簡単に言わないでくれる?」
落ち着き払って彼女はそう言ったが、体の内側は怒りで煮えている。
「たしかに経験はないけどさ。僕、アイドルオタクなんだよね。ずっと前からいろんな国のアイドルのファンやってきたしその文化を見てきたから、まったく無知でもないよ。今の時代のファンが何を求めてるか、アイドルのどんなところに魅力を感じてるか……少なくともアンタより詳しいと思うけど」
彼女が反論してくるのを阻止するように、彼は素早く言葉を続けた。
「わかってないみたいだから教えてあげる。ウル・ラドは『その辺にいそうな兄ちゃん』じゃダメだ。音楽性は突出してるけど、今の時代それだけじゃ生き残れない。アイドルなんだからもっともっと外見を活かしていかないともったいないよ」
良く通る声で淀みなくしゃべる。まるで選挙演説だ。
「他のグループと同じことをしてるだけじゃこの先どんどん埋もれていくぞ。バラエティに引っ張りだこになるくらい個性の強いメンバーもいないし、ギャップ売りも中途半端。こんなんじゃいつ消えてもおかしくないね。ましてやミュトスからトップの座を奪うなんて無理無理!」
「――言ってくれるじゃん……」
ヤヒロが半笑いで言う。
「ウル・ラドは他のどのアイドルグループよりもカリスマ性があるんだよ。メンバー全員がモデル並みのスタイルなんていうのはなかなかないし、クールからキュートまで、見目麗しいメンバーが揃ってる。このグループはまさに奇跡なんだ!彼らの崇高な美しさを最大限まで引き出せるかどうかは、会社の売り出し方と僕たち裏方の腕にかかってるってわけ」
「なんなのコイツ……」
アコがめずらしく引いている。そんな彼女に視線だけをやって、サンは鷹揚な態度で腕を組んだ。
「――ああ、そういやアンタ、コスチュームデザインもやってるんだっけ?言わせてもらうけど、ライブは学芸会じゃないんだよ。これからは安っぽい衣装を着させるな。僕の施すメイクが台無しになる」
その言葉を受けたアコはとうとういきり立ち、
「じゃあ何?全身ハイブランドで固めろとでも?」
「話にならないね!ヘアメイク担当の僕にそんなことまで教えられないとわかんないわけ?僕だったら、ラグジュアリーブランドはアクセサリーとか帽子なんかの装飾品で取り入れて、衣装はアップカミングなブランドとか若い子に人気があるミドルブランドのアイテムを選ぶね。サイズが合わなかったり動きにくければ必要に応じてカスタマイズすればいいし、シンプルなものでも装飾品をプラスすればじゅうぶん舞台映えするじゃん」
実によくしゃべる男である。ようやく黙ったかと思えば、再び口を開いた。
「あと気になったのは、プライベートで着てる服。ファンが隠し撮りした写真をSNSで見かけたことあるけど、なにあれ?」
彼はヤヒロを見下ろし、「くたびれたスウェットとシャワーサンダルで外に出るな。柄on柄コーデやめろ。家の中ならなにしたって自由だけどさ、外では品格を持ちなよ」そしてその流れで視線をセナに移して、「キャラとしてなんだろうけど、うさ耳の付いたパーカーとぬいぐるみリュックはやりすぎ。かわいい通り越してあざとい」
セナの表情が凍りつく。彼の言葉はまるで鋭利な刃物だ。
「――ちょっと待って。柄物同士のコーデは品格関係なくない?」
ユミグサが言うもそれを無視して、
「カネの使い方が下品と思わせるのは絶対にダメだし、別にブランドもん買えとか高級車乗り回せとか言ってんじゃないんだ。ただ――清潔感とか品位をもっと大事にしろってこと。アイドルの私生活なんかあってないようなもんなんだから、いつも見られてること意識してうまくやんないと価値が下がるよ?」
「プライベートのときくらい、自分の着たいもの着てていいでしょ……」
セナはもごもごと反論する。
「このまま二番手に甘んじるつもりならどうぞご勝手に」彼はやれやれと言わんばかりに首を振って、「てか……最近のセナは私服のセンスが死んでる。かわいいキャラを割り当てられてるからって無理してない?デビュー前はモード系だったよな?それとも趣向が変わった?」
そんなことまで調べ上げているとは――人知れずセナは背筋を震わせる。
「まあ、ファッションについてはユミグサになんとかしてもらえ。僕はヘアメイク専門だからね……服装よりなにより指摘したいのはアンタたちの不健康さだよ。みーんな顔色悪いけど、前の担当者はスキンケアとか食事とかの生活指導はしてたのか?まさか自己流でやらせてたんじゃないだろうね?」
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