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本編
第90話
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オフィスウイルドの社長室に集まったウル・ラドの5人は、ムナカタからの重大発表を聞き、絶句していた。
誰もが驚きと困惑に戸惑うなか、表情を険しくしたアキラがまず唇を開く。
「――それってつまり、新部署じゃなくて新しく会社を興すってこと?」
「そうだ。3月1日付けで、オフィスウイルドの子会社『アンバー・ルシア』を設立する。事業内容はファッションスタイリストとヘアメイクアップアーティストのマネジメントおよびキャスティングだ」
「このこと……アコちゃんには話したの?」
「ああ。もちろんだ」
頷いたムナカタを前に、アキラは文字通り頭を抱えた。
「新会社となると事業実績もないし、相当条件よくしないと来てくれないんじゃない?」
「彼女には社長という最高の地位を用意してある」
「社長ぉ?!」
セナが目を剥いて叫ぶ。
「ナウラオルカを辞めて独立するというから話を持ち掛けたんだ。会社設立にかかる費用を出資することなく経営権を手にできるのは好都合と考えてくれるのではないかと思ってね」
「で……いい返事は聞けたの?」
アキラが問うたが、ムナカタははっきりとは答えない。おもむろに腕時計に目を落とし、溜息をついた。
「――今日、事業の詳細を説明するから来てくれと伝えたが……」
「来ねえってことは、そういうことじゃん?」
ヤヒロがあくび交じりに言い放つ。一拍置いて、ムナカタはゆるくかぶりを振った。
「……そうだな」
やけに素直に同意するので、言った彼の方が気まずくなる。
「社長~……アコさん相手に変な駆け引きしようとするからだよ。ちゃんと『一緒に働こう』って言えばよかったのに」
セナは苦虫を噛み潰したような顔で言い、ムナカタを責めるように睨んだ。ベビーフェイスのせいか、睨んでもかわいらしい。
「真っ向からそう伝えたさ……独立するというなら、もうナウラオルカとのトラブルを恐れる必要はないからな。断られても、恥を捨ててひたすらに懇願したよ。だが――彼女の決意は固かったようだ」
長テーブルに頬杖を付いて、ヤヒロが皮肉まじりの笑みを浮かべる。その横でアキラは、安堵と落胆の入り混じった様子で言った。
「アコちゃんとの話し合いの結果はどうであれ、とにかく――これでもうミツキが介入してくる心配はなくなったってことだよね。俺たちのためにありがと……ムナカタさん」
ムナカタはかすかに笑って頷いたが、その表情にはわずかな苦味が混じっている。
「あの娘の行動に悩まされずにすむよう最善を尽くす覚悟ではあったが……――あのふたりにはほとほと参ったよ。手のひらの上で転がすつもりが、すっかり振り回されてしまった」
「ていうか、なんで子会社を設立するっていう流れになったん?」
ユウの問いに、ムナカタはキリヨシとの話の顛末を聞かせた。手を叩いて大爆笑したのはヤヒロだ。
「あのじいさん、とんでもねえな!そんな簡単に会社つくれだなんてよ」
「アコも同じような反応をしたよ」
ムナカタは肩を竦める。
「――キリヨシさんが約束通り集めてくれた腕利きの人材……今日は彼らの中の代表者が新会社の見学に来る。事業内容の詳しい説明と共に社内を案内することになっているんだが、君たちも来るか?」
「行きたい」
すぐさまアキラが答える。
「どんなスタッフさんなのか気になるもんね……」
そう言うも、タビトはどこか浮かない顔だ。アコもランもいないチームが自分たちを担当する――これまでウル・ラドが主導権を握ってコンセプトを決定し、そのイメージに合った衣装やメイクをアコたちが準備してくれるという流れだったが、それがこれからどう変わってしまうのか……正直不安だ。
出発の時間になりホズミに急かされても、彼らはしばらく社長室でぐずぐずしていた。誰もがアコがこの場に現れることを望んでいたが――彼女は来なかった。
誰もが驚きと困惑に戸惑うなか、表情を険しくしたアキラがまず唇を開く。
「――それってつまり、新部署じゃなくて新しく会社を興すってこと?」
「そうだ。3月1日付けで、オフィスウイルドの子会社『アンバー・ルシア』を設立する。事業内容はファッションスタイリストとヘアメイクアップアーティストのマネジメントおよびキャスティングだ」
「このこと……アコちゃんには話したの?」
「ああ。もちろんだ」
頷いたムナカタを前に、アキラは文字通り頭を抱えた。
「新会社となると事業実績もないし、相当条件よくしないと来てくれないんじゃない?」
「彼女には社長という最高の地位を用意してある」
「社長ぉ?!」
セナが目を剥いて叫ぶ。
「ナウラオルカを辞めて独立するというから話を持ち掛けたんだ。会社設立にかかる費用を出資することなく経営権を手にできるのは好都合と考えてくれるのではないかと思ってね」
「で……いい返事は聞けたの?」
アキラが問うたが、ムナカタははっきりとは答えない。おもむろに腕時計に目を落とし、溜息をついた。
「――今日、事業の詳細を説明するから来てくれと伝えたが……」
「来ねえってことは、そういうことじゃん?」
ヤヒロがあくび交じりに言い放つ。一拍置いて、ムナカタはゆるくかぶりを振った。
「……そうだな」
やけに素直に同意するので、言った彼の方が気まずくなる。
「社長~……アコさん相手に変な駆け引きしようとするからだよ。ちゃんと『一緒に働こう』って言えばよかったのに」
セナは苦虫を噛み潰したような顔で言い、ムナカタを責めるように睨んだ。ベビーフェイスのせいか、睨んでもかわいらしい。
「真っ向からそう伝えたさ……独立するというなら、もうナウラオルカとのトラブルを恐れる必要はないからな。断られても、恥を捨ててひたすらに懇願したよ。だが――彼女の決意は固かったようだ」
長テーブルに頬杖を付いて、ヤヒロが皮肉まじりの笑みを浮かべる。その横でアキラは、安堵と落胆の入り混じった様子で言った。
「アコちゃんとの話し合いの結果はどうであれ、とにかく――これでもうミツキが介入してくる心配はなくなったってことだよね。俺たちのためにありがと……ムナカタさん」
ムナカタはかすかに笑って頷いたが、その表情にはわずかな苦味が混じっている。
「あの娘の行動に悩まされずにすむよう最善を尽くす覚悟ではあったが……――あのふたりにはほとほと参ったよ。手のひらの上で転がすつもりが、すっかり振り回されてしまった」
「ていうか、なんで子会社を設立するっていう流れになったん?」
ユウの問いに、ムナカタはキリヨシとの話の顛末を聞かせた。手を叩いて大爆笑したのはヤヒロだ。
「あのじいさん、とんでもねえな!そんな簡単に会社つくれだなんてよ」
「アコも同じような反応をしたよ」
ムナカタは肩を竦める。
「――キリヨシさんが約束通り集めてくれた腕利きの人材……今日は彼らの中の代表者が新会社の見学に来る。事業内容の詳しい説明と共に社内を案内することになっているんだが、君たちも来るか?」
「行きたい」
すぐさまアキラが答える。
「どんなスタッフさんなのか気になるもんね……」
そう言うも、タビトはどこか浮かない顔だ。アコもランもいないチームが自分たちを担当する――これまでウル・ラドが主導権を握ってコンセプトを決定し、そのイメージに合った衣装やメイクをアコたちが準備してくれるという流れだったが、それがこれからどう変わってしまうのか……正直不安だ。
出発の時間になりホズミに急かされても、彼らはしばらく社長室でぐずぐずしていた。誰もがアコがこの場に現れることを望んでいたが――彼女は来なかった。
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