よあけ

紙仲てとら

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本編

第76話

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 タビトがためらいがちに頷くのを見ると、コーヒーをひとくち飲む。「やっぱりね」続けてそうつぶやいた彼に特別な表情は窺えない。
「あの日のタビト……めずらしく怒ってたからさ。いつ話を蒸し返されるかなって思ってた」
 いまいち感情の読めない彼を前に、タビトは慎重に言葉を選ぶ。
「ヤヒロの背中にあるやけどの痕……知ってたのに、どうしてあんなこと」
「仕事だから」
「仕事っていったってアイドルにもプライバシーの権利はあるじゃん……」
「プライバシー?」
 彼はカップから唇を離し、目を細める。
「笑わせてるつもり?全然おもしろくないけど」
「――アキラ……」
「俺たちにはプライバシーなんてないだろ。四六時中ファンと記者に追いかけ回されて……こっちが必死で隠してることもむりやり暴かれてさ」
「わかるよ、アキラの言うこと……」
「守られない権利なら、無いのと同じだよ」
 タビトは視線を落とす。黒で満たされたカップの中でゆらゆら揺れている光を見つめた。
 プライベートで街を歩いていても食事をしていても、こっちの断りなしにカメラで撮られてネットに載せられる。以前暮らしていた宿舎はセキュリティ対策が緩く、郵便ポストを覗かれたり、出したゴミを漁られたこともあった。
 共同生活を終えて別々で暮らしていることも、メディアで話していないのにファンはなぜか知っている。いったいどこから流出するのか、迷惑電話や迷惑メールが入ってくることも多々あった。
「ファンは苦労話とかお涙頂戴のエピソードが大好物だし、やけどの痕があることを明かせば絶対に話題になるってカメラマンが言うなら、初めから黙って従うべきだったんだよ。苦節乗り越えて今があるだとか、ここまでがんばれたのはファンのおかげとか――高尚でストイックな精神は俺たちの価値を高めるしさ」
 アキラは口角に嘲笑を浮かべて言葉を続ける。
「素性にも需要があるっていうなら見せつけてやればいい。自分を切り売りしてカネを稼ぐ、それがアイドルだ」
「賛同はできない」
 タビトは短く、しかしはっきりと言った。手で顔を拭って、静かに息を吐く。
「――ヤヒロをあんなふうに追い詰めないでもらいたかった。みんなは俺にとって大切な仲間で、友達で、兄弟みたいなもんだから……傷つけ合ってほしくないし、傷つけたくないよ。痛みを癒していたわり合う関係でいたいんだ」
 切れ切れに伝えると、タビトは唇を結んだ。アキラは黙ったまま、感情の見えない静かなまなざしを彼に据えている。
「アキラは本当に、あれでよかったと思ってるの?」
 静寂がふたりを包む。アキラは視線を宙に据えたまま一定の間隔でカップを傾けている。一方のタビトはぬるくなっていくコーヒーをただ見つめていた。
「ねえ」
「……ん?」
「別に口止めされてるわけじゃないから話すけど」
 タビトは顔を上げ、言葉の続きに耳を傾ける。
 沈黙がしばらく続いた。最後のひとくちを飲み込んだアキラは、ようやく口を開く。
「ヤヒロが複雑な家庭事情を抱えてるのはタビトも知ってるよね。母親が行方知れずになったあとも……残されたヤヒロと双子の弟たちは父親からの虐待を受け続けてた。あのやけどは、弟たちをかばって負ったんだ」
 アキラの、いつもの明るく愛想のよい表情は消えている。
「あの日、俺たちはまだ14歳だった」
 彼は洞のように光を失くした瞳を伏せ……そうして、自身の心の陰に隠していた過去を語り始めた。
 ――アキラは代々医者の家系の長男として生まれた。彼の両親は「菫谷マタニティクリニック」の医師で、母親はそこの医院長であり、産婦人科を担当している。この母と婦人科医の父の元に生まれたアキラは、クリニックの跡継ぎになると運命づけられているようなものだった。
 夏休みも終盤に差し掛かった、とある真夜中。みなが寝静まった夜の底で、アキラは机に向かい猛勉強していた。ぬるく湿った風がカーテンを揺らし、デスクライトの灯りに照らされた彼の仄白い額には細かな汗の粒が浮いていた。
 時計の針が1時を回ったころ、眠気を感じた彼は集中力が途切れたのを察して席を立ち、ラジオをつけた。音を絞ってからまた机に向かいかけたとき、ベッドの上に放置していたスマホにヤヒロからの連絡が入っていることに気づいた。確認してみれば、今からこちらに来るという。
 こうして真夜中にヤヒロがふらりと現れることは今までに何度もあった。勉強の合間の息抜きになっていたくらいだ。両親の寝室が閉まっていることを確認し勝手口から庭に出て待っていると、玄関アプローチに沿うように立っている木々の合間に影が見えた。
 暗がりのなかでも、いつもと違うことにアキラはすぐに気付いた。ふらふらして覚束ない足取りのヤヒロに思わず駆け寄ると、彼は胸の中に倒れてきた。慌てて抱え込んだ彼の髪からは、乾いた夏草のような匂いがした。
「どうしたの……ヤヒロ!何があったの?ねえ!」
 ヤヒロは歯を食いしばり、沈黙したまま答えない。
 肩を貸して裏口から家に入ると、引きずるようにして階段を上った。自室のベッドに寝かせたが、仰向けになれないらしい。ヤヒロは右肩を下にして浅く速い呼吸を繰り返している。こめかみ付近のあざに気付いたアキラは表情を更に強張らせた。
 また父親から酷い仕打ちを受けたのだろう――彼が憤りの言葉を舌に乗せかけたとき、ヤヒロは左腕をゆっくりと袖から抜いてTシャツを首までたくし上げた。鞭のようにしなやかな筋肉があらわになると同時に、生々しい熱傷が目に飛び込んでくる。
 左の肩口から肩甲骨周辺にかけての発赤と水泡、浸潤――まだまだ知識が足りない自分が見ても酷いやけどなのは明らかだ。
 すぐにでも医師の診察を受けるべきだった。スマホを手にしたアキラが画面をタップすると、どこに連絡しようとしているかを察したヤヒロが彼の方に腕を伸ばし手首を掴む。
「救急車呼ぼうとしてんなら……やめろ。おおごとにすんな」
 彼はか細く掠れた声で言葉を継いだ。
「おまえに手当てを頼みたい」
 アキラは目を剥いた。
「無理だ……」手からスマホを奪おうとする彼に抵抗しながら、叫ぶように言う。「こんな状態、俺の手に負えないよ!」
 適切な治療をしなければ大変なことになるかもしれないとヤヒロに訴えたが、彼は頑として首を縦に振らない。爪が食い込むほど強くアキラの腕を掴むと、顔を歪め脂汗をかきながら「おまえがなんとかしてくれ」と繰り返した。
 アキラは怒りと困惑に震えながら部屋を飛び出す。こんなことは間違っていると知りながらも彼は自宅と隣接しているクリニックの鍵を親に無断で持ち出し、処置室へ走った。しかし彼の家は産婦人科であり、やけどの傷に適した医療用品などない。それでも使えそうなものを持ってくると、知識を総動員して手当てを行った。
 ここに来たことは誰にも言わないでくれ。そう言い残し街灯の先の暗闇に溶けていった彼の後ろ姿。当時そうは感じなかったが、いま思い起こせば――なんと小さく幼い背中だったことだろう。自分たちはあまりにも愚かで無力な子どもだった。
 ――タビトは息を呑んだまま、初めて聞くヤヒロの過去に衝撃を受けている。言葉を失くした彼を横目に見て、アキラは言葉を継いだ。
「親戚に皮膚科の開業医がいたから、その人のところにヤヒロを連れていこうとしたけど……どうしても行きたがらなくてね。しかたないから自分でわざと指をやけどして皮膚科にかかって、塗り薬をもらった。市販薬より医者の薬の方が効くと思ってさ。必死になってバカみたいだよね」彼は自嘲して、「そのときはとにかく……ヤヒロの体に瘢痕を残したくないっていう一心だったんだ。だって残っちゃったら、何度だってその時のことを思い出しちゃうから」
 でも駄目だった、そう言って手のなかのカップをテーブルに置く。彼は、あのころ毎日見ていたヤヒロの背中を脳裏に思い描いた。青白く薄い皮膚を、そこに浮かびあがる美しい骨の輪郭を。
「ヤヒロの左肩には今も父親の憎悪が残ってる。あいつはあれを一生背負って生きていかなきゃならない」
 ヤヒロが一度、児童相談所に助けを求めたことをアキラは知っている。それが無駄に終わったことも。
 彼の父親は、学校の保護者会の役員をやったり町内会の班長を進んで引き受けるなどして、普段から社会的信頼の厚い男を演じていた。入学式から運動会、授業参観などの様々な行事に欠かさず出席し、子煩悩な父という仮面を被っていたのだった。
 その仮面の下の顔を、誰も暴こうとはしなかった。結局ヤヒロたちは保護されず家に帰され、その日から以前にも増した暴力の日々が始まった。
 このとき母親はすでにいなかった。弟たちが生まれて数年後、ヤヒロが12歳のときに、暴力に耐えかね家を出て行方知れずになったのだ。子ども達には手紙を、夫には離婚届を置いて。
 彼女がヤヒロたち以上の暴力を振るわれていたことを近隣の住人は知らない。子どもを庇って、腕の骨や肋骨を折ったことを知らない――それどころか、薄情な嫁だと悪く言っている。『あんなにいい旦那さんを捨てるだなんて!』これが彼女たちの決まり文句だ。
 どんな醜聞を耳にしても、ヤヒロは母親を見損なったり恨んだことはないと言っていた。どこかで元気でいてくれたらそれでいいと。彼女を一番近くで見てきたし、他人がなにを噂しようと、真実を歪めることはできないと。
「俺だって、」
 アキラは言葉を切ると、ふいに俯いた。
「ヤヒロにあんな顔させたくなかったよ」
「じゃあどうして」
 責めるべきではないとわかっていたが、タビトは思わずそう口にしてしまう。その反応を当然のように受け止めて、アキラはほのかに笑った。
「アイドルとしてデビューすることをムナカタ社長に打診される前、メジャーデビューを諦めかけてた俺に、ヤヒロが言ったんだ……俺たちの作る曲を多くの人に聞いてもらうなら、もうバンドっていう形にこだわってる場合じゃない、おまえと音楽が続けられるならなんだってやってやるって。あんな真剣な顔、後にも先にも見たことない」
 そう話す彼の表情が陰り、わずかに眉根が歪む。
「バンドデビューをあきらめてお互い、並々ならぬ覚悟でアイドルになった。この道を進むことを選んだとき、たくさんの人に俺たちの曲を聴いてもらうために弱音吐かずになんでもやろう、容姿でも私生活でも売れるものはなんでも売ろうってふたりで誓い合ったんだ。だから、やっと売れ始めたこの大事なときに関係先を怒らせるようなことを言うべきじゃないと思ったし……あそこでヤヒロをかばったら、あのときの誓いもこれまでの我慢も、ぜんぶが台無しになるような気がしたんだよ」
 あの日、アキラからの言葉にも反論せず態度がやけに従順だったのはこの約束があったからだったのだろう。そう思うと胸が苦しくなる。タビトは無意識に喉元をさすり、静かに深く息を吐く。
「アイドルにならなければ今よりも自由に暮らしてたと思うけど――後悔はしてない。どんなかたちでデビューするかよりも、どうやったらたくさんの人に曲を聴いてもらえるかの方が重要で……俺たちの野望は叶えるためにあったから」
「ウル・ラドはアキラとヤヒロのためにあるって、ずっと思ってた。俺たちは飾りみたいなもんだって。なんでそう思ってたのか、わかった気がする」
「なに言ってるの……ユウの歌声もセナのダンスもチームには絶対に欠かせないでしょ。それになにより、ヤヒロの楽曲を完成させるにはおまえの歌声が必要なんだよ」
「アキラは?」
 タビトは険しくもかなしい顔で問う。
「アキラの曲は、誰が完成させてくれるの?」
 ヤヒロは『タビトをメンバーにするならアイドルとしてデビューする』と言ったという。この発言がきっかけで、ヤヒロと運命共同体のアキラが今の道を選んだのだとしたら、彼はまだ――
 タビトの問いにアキラは歯を見せて笑った。そしておもむろに腕を伸ばし、皺の寄った彼の眉間に、つと指先を当てる。
「ばかだね……タビトは」
「アキラ……」
 呻くように声を絞って、彼の手をいささか乱暴に掴む。
「この俺が誰かのために自分を犠牲にすると思う?」
「してるじゃん」
「そんな美学は持ってないよ」
 胸を衝かれたタビトは目を見張った。手を掴んでいる力が緩むと、アキラはそっと腕を引く。空っぽになった手のひらに目を落として、タビトは声に憂いを滲ませる。
「ヤヒロが先にアイドルになることを決めたんでしょ?……俺のことを気に入ったからって勝手に」
「はっきり言っておきたいんだけど……アイドルになったのはヤヒロの意見に引きずられたからじゃないんだよ。あのときの俺は、とにかく時間がなかったんだよね」
「どういうこと?」
 思わず顔を上げると、視線が交差した。アキラはいつもの――美しく気品のある笑みを浮かべながら言う。
「ヤヒロと俺は中学3年の時に、バンドの合同ライブを観に来てたオフィスウイルドの人にスカウトされた。なんか……曲を作れるやつを探してたみたい。だから俺たち以外のメンバーはスカウトされなかった。俺たちは他のメンバー抜きでデビューしようなんて考えてなかったのに誤解されて、いつのまにかグループ内に亀裂が入って、みんな離れていっちゃった。いつか自作曲でデビューしたいって思ってたし、このチャンスをどうしても諦めたくなかったから必死で新しいメンバーを探したけど、……なかなかうまくはいかないもんだよね」
 当時を思い出したのか、先ほどまでの微笑が消えていき、話し終わるころにはすっかり表情が曇っている。
「時間だけがどんどん過ぎていった。――うち、親が家業を継げってうるさくてさ。大学卒業する22歳までにデビューできなかったらあきらめて医師を目指すっていう約束で、事務所との契約を許してもらったんだ。時間がなかったっていうのはそういう理由。ヤヒロは俺の事情を優先してくれたし、いろいろ考えていてくれてたと思うよ。ふたりの夢を叶えるにはどうしたらいいかって……」
 ムナカタは初めからアキラとヤヒロをアイドルにしたがっていたとホズミが話していたことを、タビトは思い出した。彼の言う通りにアイドルになればデビューは約束されていたということだ。
 関係が泥沼化すれば、ふたりは退所して他の事務所にその才能を売り込みに行くかもしれない。それは大きな脅威になりえると、ムナカタは警戒していたという。だが同時に、デビューしなければアキラはスタート地点にも立てないことも知っていたのだろう。才能に溢れたふたりを同時に失う恐れと、他の事務所でのデビューが確約されていない状態で退所という決断はできないはずという確信が、ムナカタの中に混在していたのかもしれない。
 彼は、アイドルとして売り出すという意志を曲げず根気強く待つことを選択した。あがいたところでアキラが持つ時間は限られている……自作曲を世に広く送り出すという野望を持つふたりは、いずれ必ず手の中に落ちてくるだろうと。
 結果、彼はふたりを手に入れて最高のアイドルに仕立て上げた――タビトは思わず背筋を震わせる。
「タビト」
 名を呼ぶアキラの声が優しい。
「むずかしく考えないで。もっと単純でいいんだよ」
 何も言えずに唇を結んで、タビトはただアキラを見つめた。ややあって頷く。
「――どうしてヤヒロとの過去を教えてくれたの」
「わかんない」飄々とした口調で答える。「ただ、話さなきゃいけないと思ったんだ」
 この瞬間、この言葉、この横顔を、きっとずっと忘れないだろうとタビトは思った。
「今日はもう泊まっていけば」
 空のカップを手にソファから立ち上がったアキラが穏やかな眼差しで彼を見下ろす。
「久しぶりにアキラの作ったごはんが食べたいな」
「ふたりで作るならいいよ」
「えー」
「いやならコンビニかカップ麺」
「わかったよ。一緒につくろ」
 カップの中身を一気に飲み干して、タビトも立ち上がる。窓の外は美しい夜の気配がしていた。
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