12 / 17
マモル in 相談室
しおりを挟む
次の日もマミちゃんは学校を休んだ。いい意味でお節介焼きなレイは、友だちとお見舞いに行こうかと話し合っている。給食を早く切り上げ、ぼくは職員室に向かう。ドアをノックし、数歩、中に入る。「高松先生はいらっしゃいますか」と誰にでもなく声をかけると、「おう」と事務机の奥の方でこっち向きに座っている先生が手を挙げた。お弁当を食べているようだ。また出直そうかどうか迷っていると、弁当箱のフタを閉め、「ちょっと待ってくれ」と声をかけてくれた。
「すみません、お昼時間中に。」
「いや、ちょうど食い終わったところだ。」
高松先生は歩きながら、廊下を指し示す。それに従い、廊下に出る。後から職員室を出てきた先生はぼくの前を歩き、隣にある「相談室」とプレートのかかった部屋に入り、手招きする。
「相談室」と表示されているが、生徒の間では別名「説教部屋」と呼ばれ、何か問題を起こすとここで「カウンセリング」を受ける。幸い、入学して以来ここでカウンセリングを受けたことはないが、入るのに躊躇する。
「まあ怖がるな。文字通り、ここは相談に乗る部屋だからな。」
「・・・はい、失礼します。」
高松先生は、グレーのパイプ椅子にぼくを座らせ、事務机を挟んで向き合って座った。
「町村君だね。昨日、野々川沿いで見かけたね。そろそろ来る頃かなと思っていたよ。」
白髪頭で黒縁メガネの風貌の高松先生は、一見大学の教授のようにも見える。実際、区内にある農業の専門大学の先生と共同研究をしていると聞いたこともある。
「林田真美瑠さん達のことだね。彼女の叔母さんからもよく聞いているよ。」
「は、はい。村長・・・じゃなくて林田さんと叔母さんから聞きました。近々ここにいるタヌキが移住してしまうって。」
「ははは、ここでは隠さなくてもいいよ。そうか、村長にも会ったのか。」
高松先生は胸元で印を結び、変身する真似をした。
「あの、高松先生がタヌキたちの運搬を手配をしてくれたって聞きましたが、先生は移住には賛成なんですか?」
「うーん、難しいところだが、自分たちで決めたことだし、彼らの意思は尊重したいと思う。」
「ボクは正直、そこまで割り切れません。」
「どうしてだい? 林田さんと別れるのが辛いか?」
「も、もちろんそれもあります・・・でも、ここでなら、ヒトとタヌキがもっとうまく暮らすことができると思うんです。たった一匹のアライグマのせいで・・・こんなことになるなんて。マミちゃんの努力が台無しじゃないですか。」
ボクは教頭先生と話したことはあまりない。失礼とわかっていても、言わずにはいられない。
「町村君の言うこともよくわかる。でも、今回の件で住民の人々の理解が得にくくなったことも確かだ。」
「何か、タヌキ達を助ける方法はないんでしょうか?」
教頭先生は、しばらく腕組みをして考えていたが、その「何か」を思いついたらしく、「ここで待っていてくれ」と言い残して出て行った。
数分して相談室のドアがガラッと開き、教頭先生が戻ってきた。手には、何か印刷物が入ったクリアファイルを持っている。
「もうすぐ締め切り間近なんだが、田瀬谷区では、こんな催しをやっている。」
先生はクリアファイルからリーフレットを一枚取り出し、テーブルの上に置いてボクの方にくるりと回して向ける。それにはこう書かれていた。
“区民が考える、野々川緑地活用コンテスト”
「野々川沿いに、区が所有する、そこそこ広い遊休地があり、これを有効活用するためのアイデアコンテストだ。締め切りは来週。一次選考通過者は来年一月上旬の、区長を審査委員長とした本選会に進める。プレゼンテーションして直接アピールできるチャンスだ。グランプリを獲ったら、緑地活用に反映される。どうだ、挑戦してみないか?」
このコンテストで何かタヌキたちの役にたつことができるのだろうか? 今ひとつピンとこなかったが、教頭先生は、ぼくに真剣に問いかけている。
とにかく今はできることは何でもやりたい。
「わかりました、精一杯考えてみます。」
「ああ。林田君に、君の本気を見せてやれ。」
「あの、教頭先生、最後にひとつだけ教えてください。先生はタヌキではないですよね?」
「ハハハ、残念ながら違うよ。『あのタヌキ親父め』とはよく言われるがな。」
文字通りのベタな親父ギャグは聞かなかったことにして、ぼくはリーフレットを受け取り、相談室を後にした。
「すみません、お昼時間中に。」
「いや、ちょうど食い終わったところだ。」
高松先生は歩きながら、廊下を指し示す。それに従い、廊下に出る。後から職員室を出てきた先生はぼくの前を歩き、隣にある「相談室」とプレートのかかった部屋に入り、手招きする。
「相談室」と表示されているが、生徒の間では別名「説教部屋」と呼ばれ、何か問題を起こすとここで「カウンセリング」を受ける。幸い、入学して以来ここでカウンセリングを受けたことはないが、入るのに躊躇する。
「まあ怖がるな。文字通り、ここは相談に乗る部屋だからな。」
「・・・はい、失礼します。」
高松先生は、グレーのパイプ椅子にぼくを座らせ、事務机を挟んで向き合って座った。
「町村君だね。昨日、野々川沿いで見かけたね。そろそろ来る頃かなと思っていたよ。」
白髪頭で黒縁メガネの風貌の高松先生は、一見大学の教授のようにも見える。実際、区内にある農業の専門大学の先生と共同研究をしていると聞いたこともある。
「林田真美瑠さん達のことだね。彼女の叔母さんからもよく聞いているよ。」
「は、はい。村長・・・じゃなくて林田さんと叔母さんから聞きました。近々ここにいるタヌキが移住してしまうって。」
「ははは、ここでは隠さなくてもいいよ。そうか、村長にも会ったのか。」
高松先生は胸元で印を結び、変身する真似をした。
「あの、高松先生がタヌキたちの運搬を手配をしてくれたって聞きましたが、先生は移住には賛成なんですか?」
「うーん、難しいところだが、自分たちで決めたことだし、彼らの意思は尊重したいと思う。」
「ボクは正直、そこまで割り切れません。」
「どうしてだい? 林田さんと別れるのが辛いか?」
「も、もちろんそれもあります・・・でも、ここでなら、ヒトとタヌキがもっとうまく暮らすことができると思うんです。たった一匹のアライグマのせいで・・・こんなことになるなんて。マミちゃんの努力が台無しじゃないですか。」
ボクは教頭先生と話したことはあまりない。失礼とわかっていても、言わずにはいられない。
「町村君の言うこともよくわかる。でも、今回の件で住民の人々の理解が得にくくなったことも確かだ。」
「何か、タヌキ達を助ける方法はないんでしょうか?」
教頭先生は、しばらく腕組みをして考えていたが、その「何か」を思いついたらしく、「ここで待っていてくれ」と言い残して出て行った。
数分して相談室のドアがガラッと開き、教頭先生が戻ってきた。手には、何か印刷物が入ったクリアファイルを持っている。
「もうすぐ締め切り間近なんだが、田瀬谷区では、こんな催しをやっている。」
先生はクリアファイルからリーフレットを一枚取り出し、テーブルの上に置いてボクの方にくるりと回して向ける。それにはこう書かれていた。
“区民が考える、野々川緑地活用コンテスト”
「野々川沿いに、区が所有する、そこそこ広い遊休地があり、これを有効活用するためのアイデアコンテストだ。締め切りは来週。一次選考通過者は来年一月上旬の、区長を審査委員長とした本選会に進める。プレゼンテーションして直接アピールできるチャンスだ。グランプリを獲ったら、緑地活用に反映される。どうだ、挑戦してみないか?」
このコンテストで何かタヌキたちの役にたつことができるのだろうか? 今ひとつピンとこなかったが、教頭先生は、ぼくに真剣に問いかけている。
とにかく今はできることは何でもやりたい。
「わかりました、精一杯考えてみます。」
「ああ。林田君に、君の本気を見せてやれ。」
「あの、教頭先生、最後にひとつだけ教えてください。先生はタヌキではないですよね?」
「ハハハ、残念ながら違うよ。『あのタヌキ親父め』とはよく言われるがな。」
文字通りのベタな親父ギャグは聞かなかったことにして、ぼくはリーフレットを受け取り、相談室を後にした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる