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マモルの実験観察その二
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実証すること。マミちゃんは本当にタヌキが化けているのか? 念のため。
お弁当には、美味しそうなおかずが並んでいたが、マミちゃんがもともとタヌキなら、人間が食べないようなは虫類や昆虫も好きなのではないか(オエ!)。
ぼくは、小学校時代に遊んでいたおもちゃがしまってあるプラスチックの収納ケースをひっくり返し、目当てのものを見つけ、鞄にしまった。
翌日。マミちゃんとは一緒の班で掃除当番だ。 各自の役割を決め、掃除機がけ、モップがけ、黒板掃除、ゴミ捨てを淡々と済ませる。椅子を上げて後ろに寄せていた机を元の位置に戻す。その時、ぼくは、戻したマミちゃんの椅子にあるものを置いた。
掃除道具入れにモップを戻してマミちゃんが席に戻ってくる。帰り支度をして、机の中に忘れ物が無いか確かめようと椅子を引いた瞬間。
全長二十センチほどの鮮やかな、ミドリ色をしたトノサマガエルが座席に鎮座している。もちろん、おもちゃだ。
巨大なカエルとご対面したマミちゃんは、まん丸の目をさらに丸くし、「ふりゅん」と不思議な声を発したかと思うと、目を閉じてへたりこんでしまった。さらに悪いことに。背中のスカートの上あたりにシッポが生え、お団子に結んだ髪の毛がケモノミミに変わってしまった!
ぼくは思考停止状態になった後、パニックに陥った。
マズイマズイマズイ! トニカクドコカドコカドコカ? ホケンシツホケンシツホケンシツ!
デモ、ミミトシッポカクサナイト!
ほんの少しだけ冷静さを取り戻し、マミちゃんにぼくの屋外授業用の帽子を被せると、シッポを隠すように抱きかかえ、教室を走り出た。掃除当番のクラスメイトは何があったのか気づかなかったようだが、廊下に出たら次々と声をかけられる。
「どうした?」
「・・・多分貧血だと思う。」
「手伝うわよ。」
「大丈夫、保健室の先生いるはずだから。」
「いいな、お姫様抱っこ。」
「・・・」
心配そうに聞いてくる生徒や単なる野次馬でついてくる生徒を振り切り、廊下を進む。慎重に階段を降りると、脇にある保健室に駆け込んだ。
養護の高野先生は、事務机の前に座ってパソコンのキーボードを叩いていたが、女の子を抱きかかえて入ってきたぼくを見て、一瞬びっくりし、その女の子からシッポが生えているのを認めると、うなずいてぼくにベッドを指さした。
「こっち寝かせて。」
ぼくは慎重にマミちゃんを降ろし、ゆっくりと寝かせた。普通に息はしているようだ。
「何やったの?」
「ええと、カエルのおもちゃに驚くかと試しまして・・・」
「ほんと、男の子ってのは、どうしようもないわね。」
高野先生はうつむいて目頭を押さえたあと、マミちゃんの制服を少し緩め、呼吸や脈拍を調べ、ペットボトルの水を用意した。
「大丈夫。気を失っているだけ。もうすぐ目を覚ますわ。そしたらシッポも耳も引っ込むから。」
ぼくは少しだけホッとしたが、申し訳ない気持ちで胸が苦しいまんまだ。高野先生はつけ加える。
「タヌキって、びっくりすると気絶しちゃうんだから。気をつけてね。」
昨夜ネットで調べたら確かにそう書いてあった。 ぼくは恐る恐る聞いてみた。
「あの、高野先生は、マミちゃん、いや林田さんのこと、知っていたんですか?」
先生は軽く頷く。
「あまり詳しくは知らないけどね。教頭先生に言われてたの。いつか保健室に運ばれてくるかもしれないから、よろしくってね。前にもそういう生徒がいたみたい。」
その生徒も、ぼくみたいなのに驚かされたんだろうか。
「先生、本当にすみませんでした。ぼくのせいでご迷惑おかけしました。」
「私じゃなくて! 目が覚めたら、この子に謝まんなよ。今日は、保護者の方に迎えに来てもらうから。教室戻ってこの子の荷物、持ってきて。」
保健室を出ると、心配している生徒も野次馬もぼくに質問する。「ちょっとした弾みで驚いて、気を失ったけど、大丈夫。お家の人も迎えに来るので」と、教室に戻るまで、いや教室に入っても同じ説明を合計十回ほど繰り返した。
荷物を持って、保健室に引き返すと、マミちゃんはベッドの上に起き上がって、ペットボトルの水を飲んでいた。ぼくの姿を見つけると、「エヘヘ。」と笑った。
ぼくは何度もごめんと謝った。
「マミ、ごめんなさいね、お店の仕込みおの途中だったから。」
一時間ほどして、マミちゃんの保護者である叔母さんが保健室に入ってきた。そんなに慌てている様子はない。まずマミちゃんに声をかけたあと、高野先生に深々と頭を下げ、丁寧にお礼の言葉を述べた。
「懐かしいわね。この保健室。」
そう言って叔母さんは部屋の中を見まわし、ぼくと目が合った。ニヤッと笑い、声をかけてくる。
「あなたが町村君ね。真美瑠の叔母の川端 律です。」
「あの、このたびは、本当に申し訳ありませんでした。」
「高野先生から聞いたわ。ほんとうに男の子って、しょうもないわね。」
同じコメントを二人の大人から言われてしまった。「男の子」の名誉のために言っておくと、男の子がしょうもないのではなく、ぼくがしょうもないだけだ。
叔母さんの川端さんは、マミちゃんが歩いて帰れそうなのを確かめると、姪の鞄を持って二人並んでドアに向かった。この人、どこかで見かけたことがあるような。叔母さんは振り返り、ぼくに声をかけた。
「真美瑠がね、町村君のことよく話すのよ。これからもよろしくね。それから。この子はカエルも虫も大の苦手よ。覚えといてね。」
マミちゃんは、エヘヘと笑ってぼくに手を振った。
その夜、ぼくはマミちゃんの観察&反省文ノートにこう書いた。
マミちゃんは、びっくりして気絶したので、タヌキだと思う。でもタヌキの好物が苦手なので、普通のタヌキとはちょっと違う。
驚かせちゃって、本当にごめんなさい。
決して、たぶん、もうしません。
お弁当には、美味しそうなおかずが並んでいたが、マミちゃんがもともとタヌキなら、人間が食べないようなは虫類や昆虫も好きなのではないか(オエ!)。
ぼくは、小学校時代に遊んでいたおもちゃがしまってあるプラスチックの収納ケースをひっくり返し、目当てのものを見つけ、鞄にしまった。
翌日。マミちゃんとは一緒の班で掃除当番だ。 各自の役割を決め、掃除機がけ、モップがけ、黒板掃除、ゴミ捨てを淡々と済ませる。椅子を上げて後ろに寄せていた机を元の位置に戻す。その時、ぼくは、戻したマミちゃんの椅子にあるものを置いた。
掃除道具入れにモップを戻してマミちゃんが席に戻ってくる。帰り支度をして、机の中に忘れ物が無いか確かめようと椅子を引いた瞬間。
全長二十センチほどの鮮やかな、ミドリ色をしたトノサマガエルが座席に鎮座している。もちろん、おもちゃだ。
巨大なカエルとご対面したマミちゃんは、まん丸の目をさらに丸くし、「ふりゅん」と不思議な声を発したかと思うと、目を閉じてへたりこんでしまった。さらに悪いことに。背中のスカートの上あたりにシッポが生え、お団子に結んだ髪の毛がケモノミミに変わってしまった!
ぼくは思考停止状態になった後、パニックに陥った。
マズイマズイマズイ! トニカクドコカドコカドコカ? ホケンシツホケンシツホケンシツ!
デモ、ミミトシッポカクサナイト!
ほんの少しだけ冷静さを取り戻し、マミちゃんにぼくの屋外授業用の帽子を被せると、シッポを隠すように抱きかかえ、教室を走り出た。掃除当番のクラスメイトは何があったのか気づかなかったようだが、廊下に出たら次々と声をかけられる。
「どうした?」
「・・・多分貧血だと思う。」
「手伝うわよ。」
「大丈夫、保健室の先生いるはずだから。」
「いいな、お姫様抱っこ。」
「・・・」
心配そうに聞いてくる生徒や単なる野次馬でついてくる生徒を振り切り、廊下を進む。慎重に階段を降りると、脇にある保健室に駆け込んだ。
養護の高野先生は、事務机の前に座ってパソコンのキーボードを叩いていたが、女の子を抱きかかえて入ってきたぼくを見て、一瞬びっくりし、その女の子からシッポが生えているのを認めると、うなずいてぼくにベッドを指さした。
「こっち寝かせて。」
ぼくは慎重にマミちゃんを降ろし、ゆっくりと寝かせた。普通に息はしているようだ。
「何やったの?」
「ええと、カエルのおもちゃに驚くかと試しまして・・・」
「ほんと、男の子ってのは、どうしようもないわね。」
高野先生はうつむいて目頭を押さえたあと、マミちゃんの制服を少し緩め、呼吸や脈拍を調べ、ペットボトルの水を用意した。
「大丈夫。気を失っているだけ。もうすぐ目を覚ますわ。そしたらシッポも耳も引っ込むから。」
ぼくは少しだけホッとしたが、申し訳ない気持ちで胸が苦しいまんまだ。高野先生はつけ加える。
「タヌキって、びっくりすると気絶しちゃうんだから。気をつけてね。」
昨夜ネットで調べたら確かにそう書いてあった。 ぼくは恐る恐る聞いてみた。
「あの、高野先生は、マミちゃん、いや林田さんのこと、知っていたんですか?」
先生は軽く頷く。
「あまり詳しくは知らないけどね。教頭先生に言われてたの。いつか保健室に運ばれてくるかもしれないから、よろしくってね。前にもそういう生徒がいたみたい。」
その生徒も、ぼくみたいなのに驚かされたんだろうか。
「先生、本当にすみませんでした。ぼくのせいでご迷惑おかけしました。」
「私じゃなくて! 目が覚めたら、この子に謝まんなよ。今日は、保護者の方に迎えに来てもらうから。教室戻ってこの子の荷物、持ってきて。」
保健室を出ると、心配している生徒も野次馬もぼくに質問する。「ちょっとした弾みで驚いて、気を失ったけど、大丈夫。お家の人も迎えに来るので」と、教室に戻るまで、いや教室に入っても同じ説明を合計十回ほど繰り返した。
荷物を持って、保健室に引き返すと、マミちゃんはベッドの上に起き上がって、ペットボトルの水を飲んでいた。ぼくの姿を見つけると、「エヘヘ。」と笑った。
ぼくは何度もごめんと謝った。
「マミ、ごめんなさいね、お店の仕込みおの途中だったから。」
一時間ほどして、マミちゃんの保護者である叔母さんが保健室に入ってきた。そんなに慌てている様子はない。まずマミちゃんに声をかけたあと、高野先生に深々と頭を下げ、丁寧にお礼の言葉を述べた。
「懐かしいわね。この保健室。」
そう言って叔母さんは部屋の中を見まわし、ぼくと目が合った。ニヤッと笑い、声をかけてくる。
「あなたが町村君ね。真美瑠の叔母の川端 律です。」
「あの、このたびは、本当に申し訳ありませんでした。」
「高野先生から聞いたわ。ほんとうに男の子って、しょうもないわね。」
同じコメントを二人の大人から言われてしまった。「男の子」の名誉のために言っておくと、男の子がしょうもないのではなく、ぼくがしょうもないだけだ。
叔母さんの川端さんは、マミちゃんが歩いて帰れそうなのを確かめると、姪の鞄を持って二人並んでドアに向かった。この人、どこかで見かけたことがあるような。叔母さんは振り返り、ぼくに声をかけた。
「真美瑠がね、町村君のことよく話すのよ。これからもよろしくね。それから。この子はカエルも虫も大の苦手よ。覚えといてね。」
マミちゃんは、エヘヘと笑ってぼくに手を振った。
その夜、ぼくはマミちゃんの観察&反省文ノートにこう書いた。
マミちゃんは、びっくりして気絶したので、タヌキだと思う。でもタヌキの好物が苦手なので、普通のタヌキとはちょっと違う。
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