天使ノ探求者

はなり

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第七章 天使転輪

第198話 運命の邂逅

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奇跡を目の当たりにした千士は、そのあとも擲槍としばらくの間、旅をした。
そして現在、とある町で千士と擲槍は些細な事でまたも喧嘩をしてしまい擲槍は機嫌を損ねていた。

「全くあやつめ、俺が少しあのガキをバカにした程度で怒りよって。気の小さいやつだ」

千士への文句をたれながら、擲槍は一人、特に目的もなく露店を歩きまわっていた。幸いにも、今夜泊まる宿はとってあるので寝床には困らず、帰って寝るのもよかったのだが、万が一、千士と鉢合わせなどしたくなかったので特に目的もなくそうしていたのである。
そしてあの日から千士の小刀は時折、人になり行動を共にしていた。流石に長い間一緒に居ただけあって千士と小刀は仲が良かった。そんな様子を見ていると擲槍は何故だがその小刀のことが気に食わなかった。

「確かに大人気なかったが、奴も奴であのガキを贔屓にしすぎだ。全く、つまらん」

そうして一人で文句をたれていると、ある店の前で足を止める。

「むしゃくしゃする時はやはり賭博だな」

擲槍はそう言って店へと入っていった。千士と擲槍はここ数年景気、運気が良く儲かっていた。そう、もちろん賭博で。なので、最近は野宿とは無縁だったのだ。なので擲槍は意気揚々と入店した。擲槍は思っていた、今日も勝って、千士の奴をぎゃふんと言わせてやろうと。そうすれば、スッキリすると思ったからだ。だがしかし、数分後、久方ぶり擲槍は後悔することになる。
店内に入ると擲槍まずはカウンターに座り一杯の酒を煽った。そうして、店内を見渡すと、一際に賑わっているテーブルを見つける。

「おいおい!?まじかよ!ありえねぇ!」

「どうやったんだ?なんか細工してんかぁ?」

「面白れぇ!なぁなぁ姉ちゃん、今度は俺と勝負だ!」

そのテーブルには男が数人とおそらく女であろう、黒い羽織にフードの被っている人物がいた。
そして、テーブルには小さなサイコロが3つ転がっていた。
擲槍は席を立ち、そのテーブルへと近づき様子を伺った。

「俺はなぁ、運をもってんだぁ、だから、50万かけるぜ!!さぁ姉ちゃんはどうする?」

そう言って、少し酔っている中年ぐらいの男がテーブルへと着くと、そんな調子で懐から金が入っているであろう袋をいくつか取り出した。

「・・・・」

向かいの女はというと無言でテーブルの横に置いてあった、おそらく今までの賭け額をテーブルへと差し出す。
その行動に周りが驚きの声を上げる。それもそのはず、目算でおおよそ500万程度あるであろう袋の塊が何のためらいもなく差し出されたからだ。

「おいおいおい!!うそだろ全額ベットかよ」

「・・・お先にどうぞ」

女は周りのどよめく声を他所に、テーブルの向かいに座っている男へとサイコロを振る事を促す。

「ふん!泣いても知らねぇぜ!じゃあ、いくぜぇ!ほいっと!」

男はサイコロを手にすると両手で少し振り、軽快に机へとサイコロを投げる。そして、出たサイコロの目は6、5、5だった。
その出目に再び周りがどよめく。

「おいおいおい!まじかよ!」

「こいつぁ、流石にだめか」

「さぁさぁ!!どうする?負けを認めるなら今夜相手をしてもらうのと賭け額を半額でもいいんだぜ」

男は口角を上げ、勝ち誇りながら女へと下種な提案をする。

「ふ、ご冗談を・・」

女は極めてつまらなさそうに笑うと、サイコロを投げる。
皆が一様にテーブルに投げられたサイの目を見やる。

「は?」

その出目を見た男は間の抜けた声を発する。同様に周りにいた男たちは驚きのあまり唖然としていた。
それもそのはず出たサイコロの目は6、6,6であったからだ。
そして、一瞬の静寂のあと今まで呆然としていた男たちが声を上げる。

「うおおおおおお!!!!」

「うそだろ!?」

「そんなバカな!?」

「・・それでは頂きます」

騒ぎ立てる男たちを他所に、女は向かいのテーブルに置いてあった男の金に手を伸ばす。しかし、男がその手を強引につかむと騒ぎ立てた。

「このくそっ!いかさまだ!!ありえるもんか!!こんなこと!」

その行動に周りにいた男たちが男へと罵声を浴びせる。

「おい!だせぇぞ!」

「手を引っ込めろ!クソ野郎!」

「男らしく負けを認めろ!」

「うるせぇ!!」

口々に投げかけられる罵声に男は声を荒げると、懐からナイフを取り出し、周りの男たちへ見せつけるように振り回した。その行動により再び静まり返る。

「そうそう、黙ってればいいんだ!さぁて、お嬢さん、イカサマと認めろ!そもそもこんなことありえねぇだろうが!!」

しかし男にナイフを向けられた女はさもつまらなさそうにため息をついた。

「はぁ・・なぜありえないと?これはゲームですよ、正真正銘の大博打、イカサマなどしようがございません。なんならサイコロを変えて、もう一度やってみましょうか?」

「ふん、よし!いいだろう、もう一度だ!!おい!適当にサイコロを持ってこい!」

男がそう言うとこの店の店員と思しき人がそそくさとサイコロを持ってくる。
そして、そのサイコロを引っ手繰ると入念にねめつける様にサイコロを確認する。

「ふん!よし再開だ!」

男は大人しくテーブルに着くとサイコロを振った。その様子を見ながら女が口を開く。

「一つよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「私は再戦を申し込みました。このまま同じ賭けで行うのはあまり面白くありません。ですから、私が負ければ一生、あなた様のお使いとしてお金を献上するというのはどうでしょう?」

男は女の発言にサイコロを振る手を止めた。

「ひっひ、そいつぁ面白れぇな。いいだろう、乗った!」

「ありがとうございます。それで、万に一つ、私が勝った暁にはあなたのをくださいな」

「なっ!・・てめぇ、なぜそれを」

男は女の発言に動揺を隠せず少しばかり額に汗を浮かべる。
そして女は流暢に話を続けた。

「そうですね。まず、あなたがここへ入って来たとき、数人の部下と思わしき人物を連れていたこと。そして、先ほどの、ナイフを取り出しこんなことを平然と行うこと。普通は警備の方がやってきます。ですが見たところ、店員が止めに来るのはおろか、警報も鳴らない。さらにはこんなにも男の人が居るというのに誰も止めに入って来ない。そうなるとその人物、つまりあなた様はこの町の権力者、もしくはそれに関係ある者ということでしょう。しかも、こんな賭博場には必ずと言っていいほど裏にはヤバい連中がいます。誰も来ないところを見るとそういうことでしょう。そして、私はあなたにもともと用がございました。賭博好きとは聞いていましたから、張っていて正解でした。はぁ、しかし話すのは疲れますね」

男はしばらく女を睨みつけるとさっきとは違って落ち着いた口調で話し始める。

「なるほどな。だとするとお前は差し詰め、殺し屋か?こんな状況にも関わらず顔色一つ変えずに席についている。まぁ、そこまでわかってるなら白状しよ。そうそう、俺はこの町の闇の部分を担う組織の幹部だ。それでお前の知りたい情報ってのは何なんだ?」

「そうですね・・それは後にしましょう。今はゲームを楽しみましょう」

男は一瞬、間の抜けた顔をすると口角を上げた。

「まぁ、それもそうか・・さて仕切り直しだ!」

男は再び、サイコロを振り、テーブルへと投げる。出た目は6,6,5であった。
周りは先ほどとは打って変わって静かにその行く末を見つめていた。それもそのはず。おそらく、二人の会話を聞いたからであろう。男の正体はこの町を牛耳る闇、その幹部なのだから。

「どうだ、俺の運も捨てたものではないだろう」

「たしかに」

女は興味が無さそうに返すと静かに、サイコロを振ってテーブルへと投げる。

「!?」

その出た目に周りの男たちも男も驚きで声が出なかった。それもそのはず、女の出した目は6,6、6であったからだ。

「このクソアマが!一度ならず二度もイカサマを!!!」

男が声を荒げ女へとナイフを突き立てる。しかし、女はそれをつまらなさそうに見つめる。

「さぁ、約束通り教えていただきましょうか。あ、お金はいりませんよ。そんなものより重要なんですから」

「お前はこの状況がわかってんのかぁ?お前は俺を謀った!!その罪は万死に値するぞ女!!」

「ふっふ、万死って・・随分と大仰な物言いですね」

「ふざけた女だな、ならさっさと死ねやぁ!!!」

女が馬鹿にする様に言うと、男が突き立てたナイフを女の心臓目掛けて突き刺した。がしかし、その手が不意に止まる。いや、止められたのだ。その止めた男が群衆の中から出て来たことをここにいる誰も気づかなかった。今まで黙って一部始終を見ていた擲槍が男の腕を掴んでいた。

「その辺にしておけ。この女は面白い、ここで死なすには惜しい。せめて、俺が相手をしてからだ」

「誰だお前ぇはよう!!どっから出てきた!部外者は引っ込んでろ!」

「引っ込むのは貴様だ人間、恥を知れ」

擲槍は男の胸倉を掴むと軽々しく持ち上げ、この店の入口の方へと放り投げた。それを見ていた周りの男たちは口をぽかんとあけ呆気に取られていた。それもそのはず、テーブルから入口までの距離は目算でも100mはあったからだ。そんな距離を男一人、しかも片手で放り投げたのだからそうなるのも仕方がなかった。

「さて、邪魔虫は消えたな。女よ、次はこの俺と勝負だ。掛け金はもちろんここにあるぞ」

擲槍は懐から金の入った袋を取り出した。しかし、女は一連の擲槍の行動を見て驚く様子もなく擲槍に微笑みかける。

「ふっふ、思ったよりも面白いお方ですわね。いつ出てくるのかと思いましたよ。まぁが、関係はありますからお相手させていただきます」

「何を言っているかわからんが、勝負はしてくれるみたいだな」

「ええ、これもですから」

女は先ほどとは打って変わって嬉しそうに微笑んだ。
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