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第七章 天使転輪
第196話 擲槍という男(二)
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「随分と動きが良くなったな!ほらほら、もっとだ!」
槍士は蹴り技を連発しながら擲槍へと詰め寄る。
「チッ、偉そうにしやがってよぉ!」
「はっは、貴様は頑丈であり、柔軟であるが頭の方はあまり回っていないようだな。頭を使えばもっと機敏な動きになるはずだ。しかし、俺の知らんところでこうも成長するとは大したものだな」
「随分と親の様な目線で話しやがるな」
「そりゃぁそうだろ。貴様が生まれる前から貴様を見ていたんだからな」
生まれる前から・・・確かにその通りだった。擲槍は槍士の生まれる前から朝霜家にいる。しかし、実際どれくらいの期間居たのかは知らなかった。
「なぁ、あんたいつから朝霜家にいるんだ?」
「なんだ急に藪から棒に・・・そうか、誰も教えてくれなかったのか。愚かな小僧だ。俺もそうだがあの男もそんな話をしてこなかったのも悪いか。なら良い機会だ教えてやる、とは言ったものの俺も実際どのくらい前から居たのかは正確には覚えていないが、言うなれば朝霜家ができたころからか」
「はぁ?どういうことだ」
槍士はその言葉を聞いた瞬間に動きを止め後方へと退いた。擲槍は槍士へ追撃することなく話を続ける。
「聞き返すな、面倒くさい。まぁ、疑問に思うのも当然か。なにせ俺が朝霜家を朝霜家を作ったのだからな」
「冗談だろ?」
「いや、冗談ではなく真実だ。まぁ、正確には今の朝霜家を作り出したのが俺というわけだが」
槍士は朝霜家のこと、もとい自身の家のことを全く知らないということはなかったが、それでもその事実は衝撃だった。
「少し長話になるが。今、貴様が知っておいても損はないだろう・・・いや知るべきか自身のルーツを。それに満身創痍ぎみな貴様にとってはいい休憩となろう」
そうして、朝霜家の真実が語られる。
二
何度も言うようだが、これがいつのことだったか、正確にはわからん。もし、正確な年数を知りたければ、朝霜の家に文献くらいあるだろう。さて、まずはそうだな、俺とその当時の朝霜家の当主との出会いについて話そう。そいつは随分と面白いやつだった。俺とそいつは気が合ったから、色んな話をしたな。話上手で、愉快な奴だった。だから、どんな会話の内容だったとしても奴が語ればそこらの吟遊詩人よりかは面白い話になった。そして、そいつとの最初の出会いは、とある賭博場だったか。そこで何度か賭けをして遊んだが、一度も勝てなかったな。俺も遊びとは言え躍起になったものだ。随分と運の良い男だと思ったな。いや、単に賭け事の才があっただけか。まぁそれからなんやあって、その日から俺たちは馬が合い、二人でしばらくの間、旅をすることになった。色々な地を巡り、時に酒を飲み、語らい、熱くなっては喧嘩をして、寝て起きて旅をした。特にあてもない旅だった。そんな、共に旅をする者同士だったが俺たちは名乗らなかった。何故なら、どうせ旅はすぐ終わり、どうせすぐに忘れると思ってたからだ。それに俺はそこまでその男に興味が無かった。男もそれを知ってか知らずか名乗らず、そいつも名を聞いてこなかった。そんな互いの名も知らない同士の旅の道中、ある小さな村に行き着いた。そこでは丁度、野党共が村人を虐殺しているところだった。俺は別に人間が、他人がどうなろうとどうでもよかった。だから、俺はそのまま何も無かったかの様に、ある民家の軒下に腰を下ろした。もちろん、そんな俺の様子を見た野党は襲い掛かってはきたが、俺にとっては虫が飛んでいる程度のことだったので片手で払えば消え去った。しかし、そんな俺とは対照的にそいつはその村の光景を見て憤慨していた。俺は驚いた。なにせそいつが本気で怒った姿を見たことが無かったからな。もちろん酒の席で怒ることは見たことはあっても、血相を変えてまで怒った姿は見たことが無かった。俺は興味深いと思い様子を見ることにした。なにせ怒っている姿もそうだったが、戦う姿など一度も見たことがなかったからな。そうして、俺が呑気にそんなことを考えていると、いつの間にかそいつは野党共に囲まれていた。さて、どうするものかと見ていると、野党の一人が刀を抜いてそいつへと斬りかかった。そして次の瞬間、俺は目疑った。なんせ斬りかかった男の腕が一瞬にして上空へと飛んだんだ。それだけではなく、そいつはいつの間にか刀を持っていた。しかも、その刀はよく見ると先ほど斬りかかった男の刀だった。まさかと思い、俺は飛んだ男の腕の先を見たがそこには刀は無かった。そうこうしているうちに、そいつは奪ったであろう刀を、片腕を無くし狼狽える野党へと突き刺す。すると、今まで取り囲んでいた野党共が血相を変え男に一斉に斬りかかった。そして、そいつはあろうことか、一人一人に対して持っていた武器を取り上げると凄まじい速さでそれらを突き返した。まさにあれは神技であったな。そして、そのまま野党共の心臓に突き刺さった武器を全て拾い上げると、その中にあった刀で、今だ村人を襲い続ける野党共を一人、また一人と背中から突き刺し殺していった。その異変に気付いた、おそらく野党共の頭が声を上げると、そいつを囲むようにして村中にいた野党共がざっと二十人ほど集結した。さすがの俺もこの数はまずいだろうと思い、腰を上げようとしたその瞬間、男は持っていた武器を宙へと放り投げた。俺もそうだが野党共も何をしているのかわからず呆気に取られていた。そして、そこからは一瞬の出来事だった。落ちてきた刀の一つを手に取った瞬間、目にも止まらぬ速さで投げ飛ばし、三人の野党共の首を刎ねたのだ。さらに、次に落ちてきた槍を足で蹴り、五人を串刺しに。そうして順番に落ちてくる武器を一つ一つ、まるで踊るように手に取り、足蹴にし、野党共へと放った。それは時間にして数秒だった。たった数秒で二十人ほどいた野党共は斬殺された。今でも忘れぬ出来事であった。俺はそこで本当の意味でそいつに興味が沸いた。だから俺は男へとゆっくりと駆け寄りそこで俺は初めてその男の名を聞いた。
「ん?俺か?俺は朝霜千士。元暗殺者だ」
槍士は蹴り技を連発しながら擲槍へと詰め寄る。
「チッ、偉そうにしやがってよぉ!」
「はっは、貴様は頑丈であり、柔軟であるが頭の方はあまり回っていないようだな。頭を使えばもっと機敏な動きになるはずだ。しかし、俺の知らんところでこうも成長するとは大したものだな」
「随分と親の様な目線で話しやがるな」
「そりゃぁそうだろ。貴様が生まれる前から貴様を見ていたんだからな」
生まれる前から・・・確かにその通りだった。擲槍は槍士の生まれる前から朝霜家にいる。しかし、実際どれくらいの期間居たのかは知らなかった。
「なぁ、あんたいつから朝霜家にいるんだ?」
「なんだ急に藪から棒に・・・そうか、誰も教えてくれなかったのか。愚かな小僧だ。俺もそうだがあの男もそんな話をしてこなかったのも悪いか。なら良い機会だ教えてやる、とは言ったものの俺も実際どのくらい前から居たのかは正確には覚えていないが、言うなれば朝霜家ができたころからか」
「はぁ?どういうことだ」
槍士はその言葉を聞いた瞬間に動きを止め後方へと退いた。擲槍は槍士へ追撃することなく話を続ける。
「聞き返すな、面倒くさい。まぁ、疑問に思うのも当然か。なにせ俺が朝霜家を朝霜家を作ったのだからな」
「冗談だろ?」
「いや、冗談ではなく真実だ。まぁ、正確には今の朝霜家を作り出したのが俺というわけだが」
槍士は朝霜家のこと、もとい自身の家のことを全く知らないということはなかったが、それでもその事実は衝撃だった。
「少し長話になるが。今、貴様が知っておいても損はないだろう・・・いや知るべきか自身のルーツを。それに満身創痍ぎみな貴様にとってはいい休憩となろう」
そうして、朝霜家の真実が語られる。
二
何度も言うようだが、これがいつのことだったか、正確にはわからん。もし、正確な年数を知りたければ、朝霜の家に文献くらいあるだろう。さて、まずはそうだな、俺とその当時の朝霜家の当主との出会いについて話そう。そいつは随分と面白いやつだった。俺とそいつは気が合ったから、色んな話をしたな。話上手で、愉快な奴だった。だから、どんな会話の内容だったとしても奴が語ればそこらの吟遊詩人よりかは面白い話になった。そして、そいつとの最初の出会いは、とある賭博場だったか。そこで何度か賭けをして遊んだが、一度も勝てなかったな。俺も遊びとは言え躍起になったものだ。随分と運の良い男だと思ったな。いや、単に賭け事の才があっただけか。まぁそれからなんやあって、その日から俺たちは馬が合い、二人でしばらくの間、旅をすることになった。色々な地を巡り、時に酒を飲み、語らい、熱くなっては喧嘩をして、寝て起きて旅をした。特にあてもない旅だった。そんな、共に旅をする者同士だったが俺たちは名乗らなかった。何故なら、どうせ旅はすぐ終わり、どうせすぐに忘れると思ってたからだ。それに俺はそこまでその男に興味が無かった。男もそれを知ってか知らずか名乗らず、そいつも名を聞いてこなかった。そんな互いの名も知らない同士の旅の道中、ある小さな村に行き着いた。そこでは丁度、野党共が村人を虐殺しているところだった。俺は別に人間が、他人がどうなろうとどうでもよかった。だから、俺はそのまま何も無かったかの様に、ある民家の軒下に腰を下ろした。もちろん、そんな俺の様子を見た野党は襲い掛かってはきたが、俺にとっては虫が飛んでいる程度のことだったので片手で払えば消え去った。しかし、そんな俺とは対照的にそいつはその村の光景を見て憤慨していた。俺は驚いた。なにせそいつが本気で怒った姿を見たことが無かったからな。もちろん酒の席で怒ることは見たことはあっても、血相を変えてまで怒った姿は見たことが無かった。俺は興味深いと思い様子を見ることにした。なにせ怒っている姿もそうだったが、戦う姿など一度も見たことがなかったからな。そうして、俺が呑気にそんなことを考えていると、いつの間にかそいつは野党共に囲まれていた。さて、どうするものかと見ていると、野党の一人が刀を抜いてそいつへと斬りかかった。そして次の瞬間、俺は目疑った。なんせ斬りかかった男の腕が一瞬にして上空へと飛んだんだ。それだけではなく、そいつはいつの間にか刀を持っていた。しかも、その刀はよく見ると先ほど斬りかかった男の刀だった。まさかと思い、俺は飛んだ男の腕の先を見たがそこには刀は無かった。そうこうしているうちに、そいつは奪ったであろう刀を、片腕を無くし狼狽える野党へと突き刺す。すると、今まで取り囲んでいた野党共が血相を変え男に一斉に斬りかかった。そして、そいつはあろうことか、一人一人に対して持っていた武器を取り上げると凄まじい速さでそれらを突き返した。まさにあれは神技であったな。そして、そのまま野党共の心臓に突き刺さった武器を全て拾い上げると、その中にあった刀で、今だ村人を襲い続ける野党共を一人、また一人と背中から突き刺し殺していった。その異変に気付いた、おそらく野党共の頭が声を上げると、そいつを囲むようにして村中にいた野党共がざっと二十人ほど集結した。さすがの俺もこの数はまずいだろうと思い、腰を上げようとしたその瞬間、男は持っていた武器を宙へと放り投げた。俺もそうだが野党共も何をしているのかわからず呆気に取られていた。そして、そこからは一瞬の出来事だった。落ちてきた刀の一つを手に取った瞬間、目にも止まらぬ速さで投げ飛ばし、三人の野党共の首を刎ねたのだ。さらに、次に落ちてきた槍を足で蹴り、五人を串刺しに。そうして順番に落ちてくる武器を一つ一つ、まるで踊るように手に取り、足蹴にし、野党共へと放った。それは時間にして数秒だった。たった数秒で二十人ほどいた野党共は斬殺された。今でも忘れぬ出来事であった。俺はそこで本当の意味でそいつに興味が沸いた。だから俺は男へとゆっくりと駆け寄りそこで俺は初めてその男の名を聞いた。
「ん?俺か?俺は朝霜千士。元暗殺者だ」
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