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第七章 天使転輪
第185話 時間(ニ)
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「どうだ?」
「はい・・正直に申しますと持って後、半月でしょうか。戦いは避けた方がよろしいかと」
「そうか。なに戦いは最後にとっておこうと思っていたから丁度良かった」
僅かばかりの日が当たる、少し薄暗い部屋の椅子へ腰かけている男は自分の余命を専属の医者に伝えられた。動揺はしなかった。不思議なもので男は自身の死期は少しだけ感じていたのだ。だから、悲しみも口惜しさも何もなかった。
「それでは、失礼します。宗谷さん・・あなたに会えて良かったですよ。僕は・・」
「あぁ、もう会うことはないだろう。達者でな・・最後に・・お前は本物の医者だフレンメル」
「・・・ありがとうございます。では」
その医者、フレンメルは診察を終えると頭を深く下げ部屋を後にした。一人部屋に残された男はゆっくりと椅子の背もたれへと体を預ける。
そして、目を閉じた。男は一体何を思っていたのだろうか。生きながらえる方法か、残された時間についてか。男の頭を支配するのはそんな死期を伝えられた時に考えるようなものではなかった。男はただ、天へ思いに馳せていた。男にとってそれは死という意味ではなく、物理的な意味であった。
「時間など関係はない。私はただ向かうのみ」
宗谷にとってそれはただ純粋な興味本位であった。自分の知らぬ世界があるなら見てみたいと。それは子供が描く夢と何ら変わらない。あの日、彼と出会ってそれを知った日から変わらないたった一つの願望。
二
「時間ってなんのことだ?」
「詳しいことは言えんが、持病だよ・・まぁなに、私も人間だったということだ」
「死ぬのか?」
「あぁ、だからお前の勝ちだ。誇れ、お前は強い。私の想像を超えたのだ」
糸音は構えていた針剣を静かに腰の鞘へとしまった。
「はぁ・・そう言われても後味が悪いな。お前はそれでいいのか?」
「そうだな・・良くはないいが。自分の死期ぐらいはわかる、足掻くつもりもない。私の理想は儚く散った。ただ、それだけのことだ」
「そうか・・なら・・最後に教えてくれ。師匠は・・師匠は強かったか?」
宗谷は驚いた。この娘は、一体最後に何を聞いてくるかと思えば、自分と競い合った亡き友について聞かれたのだ。しかし不思議とそれは悪い気はしなかった。
「私が知る限り、人類最強は夕凪糸衛その人だ。そして、お前にはその素質がある・・せいぜい足掻いて見るといい・・ふっふっふ、私にとっての抑止力がお前達夕凪家なら、お前にとっての抑止力は一体何なのだろうな・・・・」
宗谷は静かに目を閉じ永遠の眠りについた。
「先輩・・」
ゆっくりと木陰から歩いてきた真宵が糸音の背中に呼びかける。
「終わったよ・・こいつは一体何だったんだろうな?」
脈絡もなく真宵に問いかける。
「わかりません。でも決して相いれない存在なのは間違いないでしょう」
糸音は真宵のそのセリフを真っ向から肯定できなかった。
本当にそうだったのか?・・・糸音の中にはモヤモヤだけが残った。しかし、今はそんなことを考える暇はない。糸音は頭を切り替えて宗谷へ背を向けた。
「!!」
次の瞬間、糸音は妙な脱力感に襲われ、膝をつく。
「先輩!大丈夫ですか・・」
糸音は小さく息を切らしながら頭を振り、ゆっくりと立ち上がる。
「あぁ、少し眩暈がしただけだ」
(とは言ったもの、やっぱり今の戦いでかなり疲労がでてるな・・)
「真宵。すまないが現状がどうなっているのか簡潔にでいいから教えてくれないか」
「はい・・では・・・・」
真宵は現状を重要な要点をまとめながら糸音に伝えた。
「なるほどな。宗谷の話がもし本当ならまずいな。姉さんや兄さん、それに遊さんやシャオさんまでとなると、私たちの戦力は絶望的だ。そして一番の危惧は、この戦いが終わった後の世界のバランスだ。早く術者をなんとかしないと取り返しがつかなくなる」
「えぇ。やっぱり先輩もそう思いますか」
「あぁ、言わずもがな。今まで隠れていた悪党どもが表へと現れるだろうな。それだけならまで何とかなる。だが、夜月家がこんな機会を指をくわえて見ているはずもないだろうな」
「あの男なら必ず何かするでしょうね。もしくはこの戦いに奴が噛んでいるという可能性もあります」
「なら、調べるは夜月か・・まずは誰が残っているかだ。まだ誰かいるかも知れないからひとまず島の中央へ行こう」
「わかりました」
二人は島の中央へ向かう、がしかし突如謎の閃光に包まれた。
「な、なんだ!」
「先輩!?」
二人の耳に偉そうな声が聞こえてくる。その声は神々しくも、まるで全てを見透かされ掌握されているかの様だった。
「生き残ったのは貴様か・・女」
男は不敵に笑った。
「はい・・正直に申しますと持って後、半月でしょうか。戦いは避けた方がよろしいかと」
「そうか。なに戦いは最後にとっておこうと思っていたから丁度良かった」
僅かばかりの日が当たる、少し薄暗い部屋の椅子へ腰かけている男は自分の余命を専属の医者に伝えられた。動揺はしなかった。不思議なもので男は自身の死期は少しだけ感じていたのだ。だから、悲しみも口惜しさも何もなかった。
「それでは、失礼します。宗谷さん・・あなたに会えて良かったですよ。僕は・・」
「あぁ、もう会うことはないだろう。達者でな・・最後に・・お前は本物の医者だフレンメル」
「・・・ありがとうございます。では」
その医者、フレンメルは診察を終えると頭を深く下げ部屋を後にした。一人部屋に残された男はゆっくりと椅子の背もたれへと体を預ける。
そして、目を閉じた。男は一体何を思っていたのだろうか。生きながらえる方法か、残された時間についてか。男の頭を支配するのはそんな死期を伝えられた時に考えるようなものではなかった。男はただ、天へ思いに馳せていた。男にとってそれは死という意味ではなく、物理的な意味であった。
「時間など関係はない。私はただ向かうのみ」
宗谷にとってそれはただ純粋な興味本位であった。自分の知らぬ世界があるなら見てみたいと。それは子供が描く夢と何ら変わらない。あの日、彼と出会ってそれを知った日から変わらないたった一つの願望。
二
「時間ってなんのことだ?」
「詳しいことは言えんが、持病だよ・・まぁなに、私も人間だったということだ」
「死ぬのか?」
「あぁ、だからお前の勝ちだ。誇れ、お前は強い。私の想像を超えたのだ」
糸音は構えていた針剣を静かに腰の鞘へとしまった。
「はぁ・・そう言われても後味が悪いな。お前はそれでいいのか?」
「そうだな・・良くはないいが。自分の死期ぐらいはわかる、足掻くつもりもない。私の理想は儚く散った。ただ、それだけのことだ」
「そうか・・なら・・最後に教えてくれ。師匠は・・師匠は強かったか?」
宗谷は驚いた。この娘は、一体最後に何を聞いてくるかと思えば、自分と競い合った亡き友について聞かれたのだ。しかし不思議とそれは悪い気はしなかった。
「私が知る限り、人類最強は夕凪糸衛その人だ。そして、お前にはその素質がある・・せいぜい足掻いて見るといい・・ふっふっふ、私にとっての抑止力がお前達夕凪家なら、お前にとっての抑止力は一体何なのだろうな・・・・」
宗谷は静かに目を閉じ永遠の眠りについた。
「先輩・・」
ゆっくりと木陰から歩いてきた真宵が糸音の背中に呼びかける。
「終わったよ・・こいつは一体何だったんだろうな?」
脈絡もなく真宵に問いかける。
「わかりません。でも決して相いれない存在なのは間違いないでしょう」
糸音は真宵のそのセリフを真っ向から肯定できなかった。
本当にそうだったのか?・・・糸音の中にはモヤモヤだけが残った。しかし、今はそんなことを考える暇はない。糸音は頭を切り替えて宗谷へ背を向けた。
「!!」
次の瞬間、糸音は妙な脱力感に襲われ、膝をつく。
「先輩!大丈夫ですか・・」
糸音は小さく息を切らしながら頭を振り、ゆっくりと立ち上がる。
「あぁ、少し眩暈がしただけだ」
(とは言ったもの、やっぱり今の戦いでかなり疲労がでてるな・・)
「真宵。すまないが現状がどうなっているのか簡潔にでいいから教えてくれないか」
「はい・・では・・・・」
真宵は現状を重要な要点をまとめながら糸音に伝えた。
「なるほどな。宗谷の話がもし本当ならまずいな。姉さんや兄さん、それに遊さんやシャオさんまでとなると、私たちの戦力は絶望的だ。そして一番の危惧は、この戦いが終わった後の世界のバランスだ。早く術者をなんとかしないと取り返しがつかなくなる」
「えぇ。やっぱり先輩もそう思いますか」
「あぁ、言わずもがな。今まで隠れていた悪党どもが表へと現れるだろうな。それだけならまで何とかなる。だが、夜月家がこんな機会を指をくわえて見ているはずもないだろうな」
「あの男なら必ず何かするでしょうね。もしくはこの戦いに奴が噛んでいるという可能性もあります」
「なら、調べるは夜月か・・まずは誰が残っているかだ。まだ誰かいるかも知れないからひとまず島の中央へ行こう」
「わかりました」
二人は島の中央へ向かう、がしかし突如謎の閃光に包まれた。
「な、なんだ!」
「先輩!?」
二人の耳に偉そうな声が聞こえてくる。その声は神々しくも、まるで全てを見透かされ掌握されているかの様だった。
「生き残ったのは貴様か・・女」
男は不敵に笑った。
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