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第七章 天使転輪
第182話 魔剣(三)
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「しかし、すごいな」
「何がすごいんだ?」
「こうしてずっと打ち合っているが、お前は一度もかすり傷一つ負わない」
「それって、お前が下手なだけじゃないのか」
「言うじゃないか。しかし、どうやら無意識に私はまだ手加減をしているようだ」
「手加減だと?」
「あぁ、自分でもわからないが、お前との戦いを楽しんでいるようだ」
「なんだか他人事みたいだな。しかし、楽しむか・・・正直、今の私に戦いを楽しむ余裕はないな」
「そうか。それは残念だ。たしかにそろそろきつくなってきたか」
宗谷の見立ては正しかった。糸音の動きが少しだけ僅かに鈍くなっていた。少しだらろうと宗谷はその隙を逃さなかった。
スパッ!
糸音の右足に一つの傷が刻まれた。
「ようやく、一太刀だな」
「ふん、この程度のかすり傷・・・」
次の瞬間、宗谷が放つ一太刀を避けようと右足を動かそうとした。だがしかし、右足は全く動かせなかった。
予想外の事態に糸音は体制を崩して倒れるようにして、宗谷の魔剣を針剣で受け止める。そして、そのまま剣の反動を使って宗谷から少し距離をとる。
「どうした?」
「何をした?」
「ふん、私自身は何もしてはいない。その足が恐怖したのだ」
「なんだと?」
「この魔剣は恐怖を体現させる呪いが付与されていてな。つまり簡単な話、斬られたお前の右足は斬られるという恐怖で逃げ腰になってしまったわけだ。それは意思ではどうにもできない、心の問題でも無い。言ってしまえばお前の右足がひとりでに恐怖で竦んでいるということだな」
糸音は再び右足を動かそうと試みるが全く動かせなかった。
「なるほど。これはヤバめだな」
「えらく落ち着いているな。まさか呪いを打ち破るつもりか?だとしたら無理だ、っと言いたいところだが、お前の場合やりかねないから油断はできんな」
(右足はどうやっても動きそうにないか。さて、どうしたものか。あの魔剣を破壊できれば勝機はあるが、まぁそう簡単にはできないか。でも、今の私にはそれしかない)
糸音はゆっくりと呼吸を整えて、精神を統一させると針剣を構えた。
「なんだ。攻略法でも見つかったか?」
「さぁ、どうだろうな」
糸音は余裕の表情を見せる。
「まぁいいだろう。そうやってしっかり構えておくんだな。簡単にやられてくれるなよ。戦いはこれからだからな」
宗谷は恐ろしく静かに、そして速く、糸音との間合いを詰めてきた。
(視界は良好!まだ見える!左か!)
カッ!!
糸音は魔剣の斬撃を防いだ。続く二撃目、三撃目、四撃目も防ぎ斬る。
「いいぞ!夕凪糸音!足掻け!足掻き続けろもっと!それでこそ殺しがいがある!」
片足が効かない糸音にとって斬撃の雨を容易に避けることなどできなかった。そのため糸音は針剣で受け止めることしかできずに防戦一方が続く。しかし、それも長くは持たず糸音は再び体制を崩してしまう。一瞬の隙で防御が遅れてしまい、糸音の左肩を魔剣の刃先が抉る。
「くっ!!」
かろじて針剣で受け止めたため切断まではされなかった。しかし、切り傷は切り傷、魔剣の呪いが糸音の左肩へと付与された。
「切断は免れたようだが、呪いで左腕はもう上がらないだろう」
宗谷は、たかが一撃入れたくらいでは驕りも油断もせず魔剣を振り続けてくる。
糸音は片腕で針剣を振るうが魔剣の追撃に間に合わず、再び体制を崩してしまう。
その隙を宗谷の魔剣が糸音の喉元を襲う。
カッ!!
しかし、糸音は紙一重で針剣を盾にその一撃を防ぐがその衝撃で後方へと飛ばされ倒れてしまう。
「あれを防ぐのか」
糸音はすぐに針剣を杖にして立ち上がったがその瞬間、糸音の視界がぼやけ始める。
(なんだ??あぁ、そうか)
さっき魔剣で斬られた左肩を見ると、血が止まらずに流れ続けていた。
(こりゃあ、本当にやばいかな。まぁ、仕方ないか・・・負けるのか・・本当にここで終わるのか・・結局守れない・・というか何を守るんだっけ?ダメだ・・視界もぼやけてくるし頭もまわらない・・)
糸音はふらついて地面に膝をついて針剣を杖にして倒れそうな体を支える。
「夕凪糸音、もう終わりか?まぁ、それならそれで構わないがな。ならばせめて苦しまないように一瞬で殺してやろう」
糸音のもとへと死神の足音が聞こえてくる。
(あぁ・・これが死)
糸音には恐怖はなかった。散々、殺しをしてきた自分が死を恐れるなんて死んだ者、命を奪ったものへの冒涜だと思っていた。
そして、覚悟を決めた糸音は静かに目を瞑った。
「潔い最後だ。これで私は抑止力を断ち切ることができる。感謝する夕凪糸音」
魔剣が振り下ろされる。
シュンッ!
「・・・・・・」
それは一瞬だった。糸音は妙な浮遊感を覚えた。ぼやける視界の中ゆっくりと目を開けると夜月真宵が自分を抱えて森の中を飛んでいた。
「真宵!なにして・・」
「すいません。横やりを入れるつもりはなかったんです。どんなに怒られようと、嫌われようと、罵られようと構いません。先輩を今ここで、死なせてはならないと思ったんです」
「・・・・・・」
(また救われた・・・)
「何がすごいんだ?」
「こうしてずっと打ち合っているが、お前は一度もかすり傷一つ負わない」
「それって、お前が下手なだけじゃないのか」
「言うじゃないか。しかし、どうやら無意識に私はまだ手加減をしているようだ」
「手加減だと?」
「あぁ、自分でもわからないが、お前との戦いを楽しんでいるようだ」
「なんだか他人事みたいだな。しかし、楽しむか・・・正直、今の私に戦いを楽しむ余裕はないな」
「そうか。それは残念だ。たしかにそろそろきつくなってきたか」
宗谷の見立ては正しかった。糸音の動きが少しだけ僅かに鈍くなっていた。少しだらろうと宗谷はその隙を逃さなかった。
スパッ!
糸音の右足に一つの傷が刻まれた。
「ようやく、一太刀だな」
「ふん、この程度のかすり傷・・・」
次の瞬間、宗谷が放つ一太刀を避けようと右足を動かそうとした。だがしかし、右足は全く動かせなかった。
予想外の事態に糸音は体制を崩して倒れるようにして、宗谷の魔剣を針剣で受け止める。そして、そのまま剣の反動を使って宗谷から少し距離をとる。
「どうした?」
「何をした?」
「ふん、私自身は何もしてはいない。その足が恐怖したのだ」
「なんだと?」
「この魔剣は恐怖を体現させる呪いが付与されていてな。つまり簡単な話、斬られたお前の右足は斬られるという恐怖で逃げ腰になってしまったわけだ。それは意思ではどうにもできない、心の問題でも無い。言ってしまえばお前の右足がひとりでに恐怖で竦んでいるということだな」
糸音は再び右足を動かそうと試みるが全く動かせなかった。
「なるほど。これはヤバめだな」
「えらく落ち着いているな。まさか呪いを打ち破るつもりか?だとしたら無理だ、っと言いたいところだが、お前の場合やりかねないから油断はできんな」
(右足はどうやっても動きそうにないか。さて、どうしたものか。あの魔剣を破壊できれば勝機はあるが、まぁそう簡単にはできないか。でも、今の私にはそれしかない)
糸音はゆっくりと呼吸を整えて、精神を統一させると針剣を構えた。
「なんだ。攻略法でも見つかったか?」
「さぁ、どうだろうな」
糸音は余裕の表情を見せる。
「まぁいいだろう。そうやってしっかり構えておくんだな。簡単にやられてくれるなよ。戦いはこれからだからな」
宗谷は恐ろしく静かに、そして速く、糸音との間合いを詰めてきた。
(視界は良好!まだ見える!左か!)
カッ!!
糸音は魔剣の斬撃を防いだ。続く二撃目、三撃目、四撃目も防ぎ斬る。
「いいぞ!夕凪糸音!足掻け!足掻き続けろもっと!それでこそ殺しがいがある!」
片足が効かない糸音にとって斬撃の雨を容易に避けることなどできなかった。そのため糸音は針剣で受け止めることしかできずに防戦一方が続く。しかし、それも長くは持たず糸音は再び体制を崩してしまう。一瞬の隙で防御が遅れてしまい、糸音の左肩を魔剣の刃先が抉る。
「くっ!!」
かろじて針剣で受け止めたため切断まではされなかった。しかし、切り傷は切り傷、魔剣の呪いが糸音の左肩へと付与された。
「切断は免れたようだが、呪いで左腕はもう上がらないだろう」
宗谷は、たかが一撃入れたくらいでは驕りも油断もせず魔剣を振り続けてくる。
糸音は片腕で針剣を振るうが魔剣の追撃に間に合わず、再び体制を崩してしまう。
その隙を宗谷の魔剣が糸音の喉元を襲う。
カッ!!
しかし、糸音は紙一重で針剣を盾にその一撃を防ぐがその衝撃で後方へと飛ばされ倒れてしまう。
「あれを防ぐのか」
糸音はすぐに針剣を杖にして立ち上がったがその瞬間、糸音の視界がぼやけ始める。
(なんだ??あぁ、そうか)
さっき魔剣で斬られた左肩を見ると、血が止まらずに流れ続けていた。
(こりゃあ、本当にやばいかな。まぁ、仕方ないか・・・負けるのか・・本当にここで終わるのか・・結局守れない・・というか何を守るんだっけ?ダメだ・・視界もぼやけてくるし頭もまわらない・・)
糸音はふらついて地面に膝をついて針剣を杖にして倒れそうな体を支える。
「夕凪糸音、もう終わりか?まぁ、それならそれで構わないがな。ならばせめて苦しまないように一瞬で殺してやろう」
糸音のもとへと死神の足音が聞こえてくる。
(あぁ・・これが死)
糸音には恐怖はなかった。散々、殺しをしてきた自分が死を恐れるなんて死んだ者、命を奪ったものへの冒涜だと思っていた。
そして、覚悟を決めた糸音は静かに目を瞑った。
「潔い最後だ。これで私は抑止力を断ち切ることができる。感謝する夕凪糸音」
魔剣が振り下ろされる。
シュンッ!
「・・・・・・」
それは一瞬だった。糸音は妙な浮遊感を覚えた。ぼやける視界の中ゆっくりと目を開けると夜月真宵が自分を抱えて森の中を飛んでいた。
「真宵!なにして・・」
「すいません。横やりを入れるつもりはなかったんです。どんなに怒られようと、嫌われようと、罵られようと構いません。先輩を今ここで、死なせてはならないと思ったんです」
「・・・・・・」
(また救われた・・・)
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