天使ノ探求者

はなり

文字の大きさ
上 下
167 / 199
第七章 天使転輪

第166話 半天

しおりを挟む
六花は無惨にも転がっている白斗の四肢をしばらく眺めていた。ピクリとも動かない様子を見て死んだことを確認すると、六花は三叉槍を消して顔に手を当てて目を瞑り少し首を振る。
 
「はぁ、、なんだったんださっきのは」
 
六花は少し考えた後、目を開けて白斗に背を向ける。
 
「いや、考えるのはやめよう、、、戻るとしよう。ルミが心配だ」
 
六花はゆっくりと歩き去っていく。
 
(負けたのか?おれは)
 
白斗の目の前には真っ暗な闇が広がっていた。首を振ることも、手を動かすこともできず、歩くことも話すこともできない。
 
(情けねぇ、、ごめんな、、お前ら、、)
 
(本当に情けないな)
 
(ん?誰だ?)
 
今の白斗には聴覚がないはずなのにか聞こえてくるはずのない声が聞こえてくる。いや、直接白斗に語りかけてくる。
 
(朕か?朕はお前であり、朕である。ようやく声が届いたか。しかしあれだな、お前を幼子の時からずっと見てきたが本当に弱いな)
 
(チンチンチンチンうっせぇな)
 
(ふん、失礼なやつだ。まぁ、朕はずっとお前を見てきたからお前がそういうやつだとわかってはいるが実際に言葉を交わしてみると考え深いものがあるな。さて、早速本題だが、まだお前に死なれては困る。だから力を貸してやる)
 
(急に何言ってやがる。お前がどこの誰で俺のことを知っているような口ぶりで話すが、お前のことは俺は知らない。知らねぇやつに力を貸される義理はねぇよ)
 
(わからんやつだな。お前じゃ頼りないから手を貸してやると言ったんだ)
 
(ふん、ごめんだね。俺は誰の力も借りない。俺は負けたんだ。死んだ、それで終わりだ)
 
(お前が駄々をこねてもこねなくても、朕はお前に生きてもらわないと困る。だから、手を貸す。なぁに、いずれ返してくれればいい)
 
そう言われた次の瞬間、白斗の中に白斗の知らない力が流れ込んでくる。自分のものではない、その力に耐えきれずに白斗は苦しみ出す。
 
(て、てめぇ、、、なんだ!?これはぁ、、)
 
(お前は死んだんだ。その死を否定するんだ、いや反転と言ったらいいのかな?はこんなものではないがな。ひっくり返すにはそれなりの力が必要だからな。無理くりにでも限界を超えてもらう。なぁに、少し苦しいだけで死にはしないさ)
 
(くそが、、ああああ!!!ぐっ!)
 
次の瞬間、白斗の意識が飛んだ。
 
「!?」
 
白斗から歩き去ろうとした六花は背中に何かを感じて振り返る。

「なっ!?そんな、、」

そこには今し方バラバラに切り刻んだはずの白斗が手をだらっと下げて首を垂れて立っていた。
 
「ばかな!?何が起こっている!?」
 
「、、、、、」
 
六花の声に反応したのか白斗を顔を上げた。その目は真っ赤に染まり六花を見据えていた。
 
「うがあああああああああ!!!!!」
 
白斗は体を押さえて急に苦しみだした。そして、白斗の片方の背中から吸血鬼の象徴とも言える黒い漆黒の翼が出てきた。
 
「吸血鬼の力が暴走でも起こしたのか、、いや、しかしこれはそれだけではない気がするが、、」
 
「○○○○○○」
 
白斗はどこの言語かもわからない言葉を発する。次の瞬間、六花の腕が前触れもなく吹き飛んだ。
 
(!?)
 
六花はすぐに腕を再生させると後ろへと飛び、白斗から距離をとる。
 
(何をされたんだ?いや、肌で感じるこの感覚は吸血鬼のそれではない、、もっと別の何かか?)
 
「○○○○○○!!」

(来るか!?)
 
六花は白斗の正体のわからない攻撃に身構える。次の瞬間、六花の体に大きな穴が空いた。
 
「ガハッ!」
 
六花は膝をつくと穴が空いたところを押さえながら白斗を見据える。
 
「なる、ほどな、、」
 
六花は無駄にやられたわけではなかった。穴を空けられるその刹那、その攻撃方法を目視した。何故、ニ回目の攻撃で見えたのか。それは六花がではないかと過程したからだ。それは、たまたま偶然にと思ったからである。だから、が見えたのはを認識したからである。この二回の攻撃は速すぎて見えないではなく、そのの攻撃方法が視覚で認識できなかったのだ。六花のような長年生きてきた吸血鬼でなければ、この数秒で見切ることはできないのだろう。付け加えるのであれば運も良かったと言える。それに自分自身も吸血鬼という一怪物というのだから、目の前にいるモノが常識ではない存在であるということは理解しているのだ。そして、今目の前にいるのがその常識の中にあるもう一つの、、いや正確にはであると六花の脳は理解していた。白斗が攻撃の際に発した言葉を聞き、それに反応して、飛んでくるだと認識したから見えたのだ。しかし、今の六花では認識するだけで精一杯であったため避けるということができなかったのだ。

か」
 
そう言った六花の腹に空いてる穴はゆっくりと閉じていき綺麗に完治する。

「あああああああ!!!!!!!!」
 
白斗は急に叫び声を上げると空へと舞い上がった。そして、再び何かに蝕まれているのか、唸り声をあげて体を抱える。しばらく唸った後、もう片方の背中から白い翼が現れる。それは真っ白で神々しく輝いていて、その羽から落ちてくる数枚の羽を見て六花は目の前にいる怪物を確実に認識した。
 
「天使か」
 
 
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真夜中の白魔術師

福澤賢二郎
ライト文芸
元医大生の赤城拓哉は一人のチンピラに追われていた。 横浜のある交差点で揉めている際にチンピラは銃で胸を撃たれ、撃った男はニヤリと笑い去っていた。 拓哉は直ぐに救急車を呼び、付き添いで病院に行く。 だが、そこには当てに出来ない研修医しかいなかった。 このままではチンピラが死んでしまう。 拓哉は医者を名乗り手術する事を決意する。

神楽鈴の巫女

ゆずさくら
ライト文芸
ある日、知世のクラスに転校生がやってくる。その転校生は、知世が昨日見た夢に出てきた巫女そっくりだった。気が動転した知世は、直後のある出来事によって転校生と一緒に保健室に運ばれてしまう。転校生は、見かけはいたって普通の女子高校生だが、実は悪と戦う巫女戦士だったのだ……

奇跡のクマと勇者の話

西崎 仁
ライト文芸
「クマゴローはお守りなんだ」  エリート街道から転げ落ちた、人生のどん底で出逢ったのはひとりの少年。  職を失い、妻に見限られ、余命すら幾ばくもない男の未来に、希望の光は見えるのだろうか――

転生したら倉庫キャラ♀でした。

ともQ
ファンタジー
最高に楽しいオフ会をしよう。 ゲーム内いつものギルドメンバーとの会話中、そんな僕の一言からオフ会の開催が決定された。 どうしても気になってしまうのは中の人、出会う相手は男性?女性? ドキドキしながら迎えたオフ会の当日、そのささやかな夢は未曾有の大天災、隕石の落下により地球が消滅したため無念にも中止となる。 死んで目を覚ますと、僕はMMORPG "オンリー・テイル" の世界に転生していた。   「なんでメインキャラじゃなくて倉庫キャラなの?!」 鍛え上げたキャラクターとは《性別すらも正反対》完全な初期状態からのスタート。 加えて、オンリー・テイルでは不人気と名高い《ユニーク職》、パーティーには完全不向き最凶最悪ジョブ《触術師》であった。 ギルドメンバーも転生していることを祈り、倉庫に貯めまくったレアアイテムとお金、最強ゲーム知識をフルバーストしこの世界を旅することを決意する。 道中、同じプレイヤーの猫耳魔法少女を仲間に入れて冒険ライフ、その旅路はのちに《英雄の軌跡》と称される。 今、オフ会のリベンジを果たすため "オンリー・テイル" の攻略が始まった。

ヒーラーズデポジット

池田 蒼
ライト文芸
ギャンブルに明け暮れて生きてきてどん詰まりになった中年男性が藁にもすがる思いで訪れた、路地裏の不思議な店。そこで受けた審査をきっかけに出会った少女と不思議な力が男の運命を数奇なものに変えていく。複雑に絡み合う男の過去や裏組織の陰謀に予想されない結末が待ち構えているかもしれません。(ただいま絶賛リバイズ中です。そのうえで5月中に書き終えれるように頑張ります。)

雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

谷島修一
ライト文芸
雑司ヶ谷高校1年生の武田純也は、図書室で絡まれた2年生の上杉紗夜に無理やり歴史研究部に入部させられる。 部長の伊達恵梨香などと共に、その部の活動として、なし崩し的に日本100名城をすべて回る破目になってしまう。 水曜、土曜更新予定 ※この小説を読んでも歴史やお城に詳しくなれません(笑) ※数年前の取材の情報も含まれますので、お城などの施設の開・休館などの情報、交通経路および料金は正しくない場合があります。 (表紙&挿絵:長野アキラ 様) (写真:著者撮影)

黒猫と12人の王

病床の翁
ファンタジー
神々の戦い『聖邪戦争』により邪神が封印されてから200年後の世界。 一流の殺し屋の青年は、オーガとの戦いにより負傷してしまい、逃げ込んだ先に封印されていた化け猫の猫又の封印を解いた事で化け猫に取り憑かれてしまって・・・。 “王化“により無事にオーガを撃退し、盗賊として生きていく事に。 しかし、そこに妖狐まで現れて・・・。 そんな中、封印された邪神の復活を目論む者が現れる。 神々は自身の神徒に“王化“の能力を与えた。 その力をもって邪神復活の儀を阻止せよとの神託を受けた王達は邪神復活を阻止する為の冒険に出る。 これは神より加護を得た12人の王と、それに巻き込まれた1人の青年の物語である。

猫だけに吐く弱音 ~余命3か月を宣告された家族の軌跡~

瀬崎由美
ライト文芸
人間ドックの予約を勝手にドタキャンするような医者嫌いの父。頭痛と眩暈を訴えたので病院へ連れていけば、余命3か月の末期ガンの診断が。肺ガンからの脳腫瘍はすでに3センチにもなっていた。母の希望で本人への告知は無し、家族だけが本当の病名を知る闘病生活。父は猫の前でだけ弱音を吐いた。もうダメかもしれん、と。癌細胞に徐々に蝕まれていく父の身体と、少しずつ固まっていく家族の覚悟。   ★第6回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。

処理中です...