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第六章 修羅夢語
第121話 神淵
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みんなで夕食を食べた後は軽く談笑して順番に風呂へ入り、ルクスリアは先に自分の家へ帰って行った。ミナモは片付けなどでリビングを離れた。詩織はというとリビングのソファに横になって眠っている。
「糸音さん、少しいいですか?」
二階へ上がって休もうとしていた糸音に風呂上がりのジータが声をかける。
「どうしたんだ?」
「一つ手合わせをお願いできますか」
「おいおい、手合わせって、、」
ジータの真剣な目を見ると糸音は断れなかった。
「あぁ、いいよ」
「ありがとうございます。では、訓練所で待ってます」
ジータは先に家を出た。
「明日があるんだ、無茶はするなよー」
ジータが家を出た後、ソファで寝ていた詩織が糸音に声をかけた。
「あぁ、行ってくる」
糸音は服を着て訓練所へと向かった。
(訓練所か、懐かしな)
糸音は治安維持局へと向かいながら、かつて訓練所でよく、椿とやり合っていたことを思い出す。
(そういえば椿とは何戦何勝だっけ)
そんな事を思っていたらいつのまにか治安維持局の訓練所まで来ていた。訓練所の中心にジータは静かに待っていた。糸音はゆっくりとジータのもとへと歩く。
「そういえば初めてだな、ジータと戦うのは」
「そうでしたね」
糸音は静かに針剣を構える。その行動にジータは少し驚く。
「理由は聞かないんですか?」
「あぁ、なんとなくわかるよ」
「ふっ、そうですか。ありがとうございます。では!」
ジータも剣を抜くと構える。お互いの間に静かな剣気が漂う。数秒後、ジータの姿が消えた。
(速いっ!)
次の瞬間、糸音の目前まで接近してきたジータは刀を振るう。ジータが振るう連撃を糸音は針剣で全て受け止める。
「さすがです!」
「余裕だね」
「なら、上げますよ!」
ジータの動きがさらに速くなる。
(力はさほど無いが、速さだけでいうなら凄まじいな、、なら)
糸音は隙を見てジータの刀に糸を絡めようとしたがジータはそれを見切り、後退する。
「今のを避けるのか、驚いたな」
「危なかったですよ。糸で手元が狂うところでした」
再び二人は睨み合い、そして小さな針を数本ジータへと投げるとその針はジータを避けてジータの足元の地面へと刺さる。その針には糸が張られていた。
(これは!)
次の瞬間、空中へと飛躍した糸音はジータへと無数の針を放つ。糸をつたって無数の針が無造作に真っ直ぐにジータへ向かう。ジータはその針を全て刀で祓う。
「やるな」
その隙に糸音はジータへと接近して針剣を振りかざす。ギリギリのところでジータはそれをかわして刀で応戦する。糸音は一瞬、動きを止めてジータの目の前で指を鳴らす。ジータは状態を逸らしてその音波を避けるとサマーソルトを糸音に入れるが糸音はこれを剣の腹で受けて、後ろへ後退する。再び二人は距離を取り互いを見合う。
「まさか異能まで使うなんて」
「全力でやらないと悪いだろ」
「ありがとうございます。あまり長引くと明日もありますので、次で終わりにします。全力です」
ジータはそう言うと刀を鞘にしまい静かに目を閉じる。
「抜刀術だな。どんなものが見れるか楽しみだ」
両者は動きを止める。静かな時間が数秒ほど流れる。糸音はジータの静かなる闘気を感じる。油断をすれば一瞬でやられると、糸音は感覚を研ぎ澄ませる。そしてジータが目を開いた瞬間、姿が消える。
(見えない!)
初手の動きは見えていた。しかしこの抜刀術ではジータの姿はおろか音や呼吸さえも何も聞こえない。まるで深淵なる静かさ。そして糸音は直感的にジータの刀が抜かれたことを感じると針剣を構え、静かに向かってくるその刃を受けとめる。その勢いで訓練所の壁まで吹っ飛ぶ。糸音がいた場所にはジータが刀を抜いた姿で立っていた。
「これが私の一番の抜刀術。神淵」
ジータは糸音が飛んでいった壁を見るとそこには針剣が落ちていた。
「なっ!?」
「終わり」
気づくと糸音はジータの後ろに指を鳴らす体制で立っていた。
「どうやったんですか!」
「最後の一瞬、ほんの数秒、ジータの刀を抜いた時に見えた刃の逆光でジータの位置がわかって咄嗟に針剣を地面に刺して上へ飛んだんだ」
「そんなことが、、はぁ、、やはり凄いですね。負けました」
「いや、ジータも凄いよ。成長したな」
「いえ、、、これで安心して椿姉さんを任せれそうです」
「あぁ」
「糸音さん、おそらくですが。今の私の技より椿姉さんの神鳴の方が速さもパワーもあるでしょう。それだけじゃありません、頭の回転もかなり速いです。私は油断や手加減をしたわけではありませんでしたが、一瞬でやられてしまいました。気をつけてください」
「あぁ、ありがとう。ところでもう一回風呂入らないとな」
「あー、そうですね。ご一緒してもいいですか?」
「いいよ」
二人は夜の訓練所を後にした。そして家に帰ると糸音はジータと一緒に風呂へ入った後、部屋でゆっくり眠った。
「糸音さん、少しいいですか?」
二階へ上がって休もうとしていた糸音に風呂上がりのジータが声をかける。
「どうしたんだ?」
「一つ手合わせをお願いできますか」
「おいおい、手合わせって、、」
ジータの真剣な目を見ると糸音は断れなかった。
「あぁ、いいよ」
「ありがとうございます。では、訓練所で待ってます」
ジータは先に家を出た。
「明日があるんだ、無茶はするなよー」
ジータが家を出た後、ソファで寝ていた詩織が糸音に声をかけた。
「あぁ、行ってくる」
糸音は服を着て訓練所へと向かった。
(訓練所か、懐かしな)
糸音は治安維持局へと向かいながら、かつて訓練所でよく、椿とやり合っていたことを思い出す。
(そういえば椿とは何戦何勝だっけ)
そんな事を思っていたらいつのまにか治安維持局の訓練所まで来ていた。訓練所の中心にジータは静かに待っていた。糸音はゆっくりとジータのもとへと歩く。
「そういえば初めてだな、ジータと戦うのは」
「そうでしたね」
糸音は静かに針剣を構える。その行動にジータは少し驚く。
「理由は聞かないんですか?」
「あぁ、なんとなくわかるよ」
「ふっ、そうですか。ありがとうございます。では!」
ジータも剣を抜くと構える。お互いの間に静かな剣気が漂う。数秒後、ジータの姿が消えた。
(速いっ!)
次の瞬間、糸音の目前まで接近してきたジータは刀を振るう。ジータが振るう連撃を糸音は針剣で全て受け止める。
「さすがです!」
「余裕だね」
「なら、上げますよ!」
ジータの動きがさらに速くなる。
(力はさほど無いが、速さだけでいうなら凄まじいな、、なら)
糸音は隙を見てジータの刀に糸を絡めようとしたがジータはそれを見切り、後退する。
「今のを避けるのか、驚いたな」
「危なかったですよ。糸で手元が狂うところでした」
再び二人は睨み合い、そして小さな針を数本ジータへと投げるとその針はジータを避けてジータの足元の地面へと刺さる。その針には糸が張られていた。
(これは!)
次の瞬間、空中へと飛躍した糸音はジータへと無数の針を放つ。糸をつたって無数の針が無造作に真っ直ぐにジータへ向かう。ジータはその針を全て刀で祓う。
「やるな」
その隙に糸音はジータへと接近して針剣を振りかざす。ギリギリのところでジータはそれをかわして刀で応戦する。糸音は一瞬、動きを止めてジータの目の前で指を鳴らす。ジータは状態を逸らしてその音波を避けるとサマーソルトを糸音に入れるが糸音はこれを剣の腹で受けて、後ろへ後退する。再び二人は距離を取り互いを見合う。
「まさか異能まで使うなんて」
「全力でやらないと悪いだろ」
「ありがとうございます。あまり長引くと明日もありますので、次で終わりにします。全力です」
ジータはそう言うと刀を鞘にしまい静かに目を閉じる。
「抜刀術だな。どんなものが見れるか楽しみだ」
両者は動きを止める。静かな時間が数秒ほど流れる。糸音はジータの静かなる闘気を感じる。油断をすれば一瞬でやられると、糸音は感覚を研ぎ澄ませる。そしてジータが目を開いた瞬間、姿が消える。
(見えない!)
初手の動きは見えていた。しかしこの抜刀術ではジータの姿はおろか音や呼吸さえも何も聞こえない。まるで深淵なる静かさ。そして糸音は直感的にジータの刀が抜かれたことを感じると針剣を構え、静かに向かってくるその刃を受けとめる。その勢いで訓練所の壁まで吹っ飛ぶ。糸音がいた場所にはジータが刀を抜いた姿で立っていた。
「これが私の一番の抜刀術。神淵」
ジータは糸音が飛んでいった壁を見るとそこには針剣が落ちていた。
「なっ!?」
「終わり」
気づくと糸音はジータの後ろに指を鳴らす体制で立っていた。
「どうやったんですか!」
「最後の一瞬、ほんの数秒、ジータの刀を抜いた時に見えた刃の逆光でジータの位置がわかって咄嗟に針剣を地面に刺して上へ飛んだんだ」
「そんなことが、、はぁ、、やはり凄いですね。負けました」
「いや、ジータも凄いよ。成長したな」
「いえ、、、これで安心して椿姉さんを任せれそうです」
「あぁ」
「糸音さん、おそらくですが。今の私の技より椿姉さんの神鳴の方が速さもパワーもあるでしょう。それだけじゃありません、頭の回転もかなり速いです。私は油断や手加減をしたわけではありませんでしたが、一瞬でやられてしまいました。気をつけてください」
「あぁ、ありがとう。ところでもう一回風呂入らないとな」
「あー、そうですね。ご一緒してもいいですか?」
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