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君と手にする明日は血の色

せめて翻訳機をください。

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 しばらく歩くと、町の様子が変わってきた。
 あばら家がなくなり、代わりに、暖かそうな赤いレンガ調が目立つようになった。
 俺が怖がった廃人たちの姿はなく、普通にヒトが歩いて生活している。

「ダォラアアアアア!」
「ヌゥウウアアアア!」

 そんな中、まるでこの町の活気を、全て一点に集中させたかのような場所があった。
 好奇心に突き動かされ、恐る恐る大きな建物に近づいてみると、それは道場だった。
 小窓から、中を覗き見る。

 戦っているのは、体はでかいが……青年ではない。2人の少年だった。
 多分、年齢的には中高生くらいだろう。お互いに木刀を持ち、ひたすらに打ち合いを続けている。
 凄まじい剣幕だ。


 ……まるで殺し合いだな……。
 いや、本当の殺し合いなんて、見たことないけどさ。

 2人は互いを睨みつけながら、防具も付けずに打ち合っている。
 体に木剣が当たる度に苦悶の表情を浮かべるが、それでも攻撃の手を緩めていない。
 ここまで本気なのも、異世界ならではなのだろう。

「俺のいた中学の剣道部じゃ、ラグビーとかで遊んで終わりだったけどな」

 道場の覗き見を続けていると、後ろから、トントンっと右肩を叩かれた。
 反射的に振り向くと、そこには綺麗な女性が立っていた。


「ぬるべり、ほうろんわか?」
 多分、そんな感じの発音だったと思う。

「ぬ、ぬるべり。ほうろ……?」
 思わず聞き返すと、女性はニッコリと笑って、俺の手をとって歩きだした。
「え? え?」

 戸惑いながらも女性の手を振り払うことなく、俺は美人のお姉さんに、ヒョコヒョコと連れられていく。
 案内された先は、一軒家だった。
 あばら家ではない。立派な木造建築だ。

 どうやら俺は、この家に招待されたらしい。
 なんだろう。
 この体の、前の持ち主の知り合いかな……?

 女性はダイニングへと俺を連れていき、イスに腰掛けるよう促す。
 誘われるがまま食卓につくと、女性はキッチンへと向かっていった。

 もしかして、何かを食べさせてくれるのかな?
 椅子の数や備蓄を見る限り、この女性は1人暮らしではないらしい。
 棚にはコップや皿が多く置かれている。多分、3人か4人家族だろう。
 っと、そんなことを考えている短い間に、良い匂いが俺の鼻をかすめた。


 そういえば、腹が減ってるんだった。……もしかして、ご馳走になれるのだろうか?
「ぬりぎちょ、ばんどろり」

 っていうか、異世界の言葉くらい分かるようにしれくれれば良いのに……。
 女性の言葉にどう返したら良いか分からず、俺はニコリと苦笑してその場をしのぐ。
「ばてぃおの」

 どうやら、本当にご馳走になれるようだ。料理ができたらしい。
 俺の笑顔に、女性もニッコリと笑顔を返してくれる。

 そして彼女は俺の前に、いくつもの料理を並べていった。
 全てを並べ終えると、女性は俺の対面に座った。
 料理の総数は、なんと10品。
 そのどれもが良い色合いで、かつ美味しそうだった。
 スプーンは1つしかなく、どうやら俺のためだけに作ってくれたらしい。

 こんなに貧しそうな村で、こんなに豪華な料理を振舞われるだなんて……この体の持ち主は、一体どんなことをしたんだろう。
 とも思うが、まあ、そんなことはどうでも良いとも思った。
 なにせ、もう腹ペコだ。
 かつての燃費の悪い体じゃなくとも、丸半日もの間、飲まず食わずで動き続きだ。
 もう限界だった。

「いただきます!」
 合掌して叫ぶとともに、まずはスープを頂こうとした瞬間、ソイツは唐突に現れた。
 と言っても、礼儀正しく正面玄関から静かに入ってきたのだが……。
 とにかく、その男は家に入ってくるなり、厳格な顔つきで、俺の顔、料理、そして次に、女の人を睨みつけた。
 そして野太く、低い声で、その巨漢は吠えた。
「るべりぼほんじこ、ぽんぽん!」


 女性を見れば、ガタガタと震えている。目はまばらに動き、明らかに動揺していた。
「あり、あり、ありびぃぉ……」
「せぐごろばっ! ぽんぽんぽんっ!」

 狼狽する女性に、一喝する男。
 大きな歩幅で食卓まで近づくと、男は料理を睨みつけた。

 俺、なんかマズイことしちゃったのかな? もしかして、浮気相手だと思われてる?
 色々な可能性に考えを巡らせていると、机に並べられている料理の総数が、10品から9品へと減った。
「え……?」
 間の抜けた声がでた。

 入ってきた男は何を思ったのか、乱暴に次々と料理を床に捨てていく。
 暖かいスープも、美味しそうなサラダも、香ばしい匂いを放つ肉も、全ての料理が床に落とされた。
 しかもその男は、その料理を足で踏ん付け、グリグリと踏みにじっていく。
「おい!」

 たまらず、俺は声を荒らげた。立ち上がり、男の服を掴む。
 何が原因か分かんないけど、食い物を粗末にすることは許さない!
 そう言おうとした矢先、俺が吠えるよりも先に、しかし男はわけの分からない行動にでた。

 なんと、土下座してきたのだ。
 男はその巨体を窮屈そうに丸めて、ヒタイを床にこすりつける。

「べりほろ、ふるるるぺりのろまっちょ、まっちょべりのろ」
 ――意味の通じない異世界語を、真に迫る物言いで喋りながら……。
 なんだか怖くなって女性を見れば、彼女も大粒の涙をボロボロと流しながら泣いていた。
 もう、なにがなんだか分からない。
 異世界って、ホント怖い。


―――――――――



 なんだか良く分からないまま、俺は逃げるようにして家をでた。
 家の中での記憶がほとんどない。
 なんだったんだアレは? なにが起こってたんだ?

 中学生までの記憶と知識しかない俺には、とうてい理解不能だ。


「良い。もういい。考えるのは止めだ! ここは異世界。なんでもできる、なんでも起こる」
 得意の思考放棄で気分を落ち着かせて、夢の中のアイツの言葉を思い出す。

『もしも家に帰りたければ、ゼニアから西に行くと良い』


 これなら分かる気がする。
 確か、太陽は西に沈むんだよな。……た……確か……。

 太陽を1時間も体育座りで眺めてみれば、どうやら右方向に沈んでいく最中だった。
 俺は確信を持てないまま、太陽を追って道を歩く。
 そもそも地球の常識が通じるのか?
 不安に思いながら、やがてゼニアを出て森に入り……、俺は太陽を追いかけながら、ひたすら歩いた。

「……お?」
 歩き始めて、体感で10分といったところか。俺は、岩で囲まれた洞窟を見つけた。
 たぶん、ここが夢の中のアイツが言っていた家なのだろう。
 寝床っぽい所がある。わかんないけど。
 いや、けど寝床あるし、多分そうだろう。
 よっしゃ、きっとここだ!


 良かった、間違ってなかったんだ……!
 俺は幸運に感謝しながら、洞窟の中へと入った。
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