漆黒の短編集

文字の大きさ
上 下
6 / 8

天への悟り

しおりを挟む

悟り続けて、はや3年。
私・櫻井 景地郎は空を飛んだ。

この世の全てを悟った瞬間、
自然と肉体が宙に浮き出したのだ。
現在 私は坐禅を組みながら、空へと昇っている。

そう、アレは3年前のこと。
新卒で入った会社に定年まで勤務し続け、
私は定年退職を迎えた。普通の人間であれば、
第二の人生のスタートを迎え、
さぞかし希望に満ちているのだろう。
だが、私は仕事に情熱を燃やすタイプ… 今の時代には
時代遅れとしか言いようがない仕事一筋の
堅物だったのだ。当然ながら、恋愛なんて
したこともないし、彼女だといたこともない。
家族だっていない。父も母も今や天国。
趣味もなければ、あらゆる万物に興味がない。
無論、自分でもわかっている。自分のような
タイプは老後に地獄を見て、
凄惨な孤独死を迎えるのだと。

だからそうなるまいと、私はあらゆる趣味に
なり得るものをやろう… としたのだが、
仕事がとても忙しく、とてもそんないとまはなかった。

そして迎えた、定年退職後の日々。
今まで仕事を生活にしてきたような自分に、
今更 何か趣味になり得るものがやれるとは
思えなかった。その時、私はふとあることに気づく。

万物の全ては、空虚でしかないと。
つまり、この世の全てはくだらないということだ。
そうなると、今まで自分自身でもあった仕事でさえ、
くだらないことをしてきたのだとも思えてきた。
そう、自分自身はくだらない。

そのくだらないことが、空虚が寄り集まって、
この世界を形成している。…なぜ、もっとこんな
簡単なことに気がつかなかったのだろう。
コレこそ、まさしく世界の真理なのかもしれない。

そのことに気づいた私は、更なる悟りを、
更なる真理を得んと、坐禅を組み始めたのだ。
その間は、不思議と空腹すら忘れることができた。
寒さも暑さも、肉体が涼しくなったかのように
感じなくなった。そして、坐禅を組み始めて3年、
私はとうとう、空を飛んだのだ。
定年後、どうなるかあれほど不安だった心が、
まるで仏になったかのように清々しく輝いている。

私は今、人間を 万物を超えた存在となった。
天へと昇ったのは、その証拠なのだ…!



















「うわぁっ… ひどい有様ですねコレ」
「ここの家の、近隣住民から異臭がするとの
通報を受けて来てみたが、コレは… 
死後3年は経過していると見た」
「警部!近隣住民からの話によると、
この家の家主・櫻井 景地郎さんは、定年退職後 
ずっと この家に引きこもっていたらしくて…」
「…なら、孤独死で間違いないな。
何かやりたいことはなかったのだろうか…」





ココ最近になって増え始めたね。定年退職後に
やりたい事もなく、どんどん老い衰えていき、
終いには凄惨な死を迎えてしまう独居老人。
それを回避するためには、何かしらやりたい事を
見つけるべき… ですが、難しいでしょう。仕事ばかり
してきた高みから見れば、そういった万物が
くだらなく思えてしまうのは、必然ですから…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...