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結束
しおりを挟むあぁ、つらい。この世に生きることがつらい。
どうして?なんで? なぜぼくはいじめられる?
ただそこにいるだけでキモいと言われ、キショいと
言われ、臭いと言われ… その他ありとあらゆる
この世に存在しうる限りの 暴言を吐かれ続けた
ような気がする。キモい&キショいと言われても、
いったいぼくにどうしろと言うのだ? それに、
ぼくは毎日毎日 ちゃんとお風呂に入っている。臭い
だなんて言われることはないはずだ。なぜそんな
ことを言われ続けるのか… 意味がわからない。
おそらく、暴言を言う奴らの方もまた、意味が
わかってないだろう。ただその場の気分や感情で
考えることをせずに、軽率な言動を行う。これじゃ
動物となんら変わらないじゃないか。考えに考えて
も、もう悪いことしか思えなくなった。この世の
全てが等しく辛い。ぼくは生きていてはダメ?
生を謳歌することさえ許されない? 辛さが脳と
精神を覆い尽くす。その中で、
『死』
この一文字が頭に浮かんできた。そうしろという
脳からのお達しか? なら、そうするとしよう。
死ねばきっと… 楽になれる。少なくとも、こんな
とても不幸だらけのこの世に生きてるよりかは
マシなはず。今日からぼくは自由になる、そして
自由になって、幸せを手に入れる。そう思い、
ぼくは目を閉じると、学校の屋上から飛び降りた。
ふと目を開けてみると、虹色の光が眩しく輝く。
その眩しさに再び目を閉じたのを最期に、
ぼくの意識は途絶えた。
あれ?ぼく、飛び降りたはずだよね?
意識があるぞ? もしかして、天国か地獄にでも
ついたのかな? そう思ってぼくは恐る恐る
目を開けた。するとそこに広がっていたのは、
真っ暗闇に星が無数に輝く空と、真っ暗な野原
だった。本当は緑か黄緑の野原なのだろうが、
あかりがないせいで真っ黒だと思わざるをえない。
天国か地獄かで言うと、限りなく地獄よりな
ところだが… ふと遠くを見ると、そこには
十二分に明るいネオンが煌く機械的で
所謂 サイバーパンクな未来都市があった。
天国か地獄以前に 随分とSFチックなものだが…
とりあえず、あそこの都市に行けば もしかしたら
人がいるのかもしれない。そう思い、ぼくは
走り出した。ある程度 走ったところで誰かに
声をかけられた。ぼくはそれに答えると、
そこにいたのは服を着たネズミのような顔を
した痩せ型の男と、服を着た齧歯類のような
顔をした肥満体の男だった。
「ちょちょ… ちょっと待ってください!
待ってください!話を聞いてください!」
「なんだお前、ヒューマノイドっぽいな…
どこの惑星のモンだ?」
「いったい誰だ? ここに何の用だよ」
「ぼくは和希。学校の屋上から飛び降りたん
だけど、どーゆーわけかこんな場所に…」
「屋上から飛び降りて… ワープでもしたのかな」
「いやいやそれよりもだ!お前、
まずどこの惑星出身だ?」
「え?惑星…? ぼくは地球の生まれですけど…」
「地球!?えっ、お前… じゃあどうやって
ここに入り込んだんだよ!?」
「まさかここのセキュリティのシステムに
変な細工でもしたんじゃねーだろなぁ?
もしそうならブッ殺したるぞ!!ぁあん!?」
「い、いやいや待ってください!ぼくも、何が
なんだかわからないんです…。助けてください!
お願いします、お願いです、ホントに…!」
ぼくは土下座をして懇願した。するとそれを見た
ネズミ男と齧歯類男は、顔を見合わせ こう言った。
「ん~、コイツ もしかしたら何も
知らねーんじゃねぇか?」
「確かに。とりあえず、俺の住処に連れてってみるか。
そこでここのこととかを、詳しく説明しよう」
「なんだかわからないけど、ありがとう…」
それから、ぼくの新たな生活が
始まったのはすぐだった。ぼくを
連れて行った齧歯類男… ゲシルさんの話に
よると、ここは 居場所のない宇宙各地の
エイリアン達が身を寄せ合って暮らしている
コミニュティだというのだ。リーダーの
鬼みたいな姿のエイリアンは ぼくの姿を
見て、地球人がここに来るのははじめてだ!
とは驚いてはいたけど、すぐに快くぼくを
受け入れてくれた。何やら変わった形の容器で、
熱した 火星人みたいなのを食べさせられた。
案の定、ぼくの舌には合わず クソまずかった。
しかし こんなクソまずいゲテモノでも、
ここにいる人たちは美味しいと食べている…。
そうしているうちに、このコミニュティを狙う
敵対組織との戦いにも駆り出されるようになった。
命の危険と隣り合わせの、安息なき日々。
もともとぼくの日常に安息はなかったが、
ここまで過激なモノではなく、最初はビビりに
ビビりまくって。必死に隅に隠れ、見つかりません
ようにと震えながら念じ続け、戦いが終わる時間を
待った。だが、元の世界… いや、もとの惑星に
帰る手段がわからない以上、ここでの生活に多少は
適応すべきと考えたぼくは、ある日の戦いではじめて
前線に出た。その結果、ぼくの放った一撃が見事
決め手となり、敵対組織の首領を倒すことに成功した。
どうやらその首領はかなりの大物だったらしく、
それを倒したぼくはものすごい勢いで称賛され、
たちまちコミニュティ内で大物扱いされた。
もともと初めての地球人ということもあって
コミニュティ内ではぼくに不信感を抱く
エイリアンもいた。が、この一件でそういった
不信の目はなくなったらしい。…アレは完全に
運がよかったとしかいいようがなかったのだが、
まぁ運も実力のうちって言うし、よしとしよう。
クソまずかったここ独特の料理も、舌がだいぶ
慣れてきたおかげで、美味いと感じるようにも
なってきた。特に、戦いを終えた後の料理は、
どんな料理よりも 死ぬほど美味く感じる。
わけもわからないまま来てしまった、この宇宙。
来た時は、とにかく不安でいっぱいだった。
こんなよくわからない場所で、自分は死ぬのかと
そんな不安でいっぱいだった。自殺をした人間の
クセして、今更 死ぬことに不安を抱くのかと
自分で自分の心にツッコミを入れる。思わず
乾いた笑みがこぼれた。だが、不思議なことに、
ここでの生活に時間が経つに連れ、毎日がとても
楽しくてしょうがない。やはり… 慣れというもの
なのか。いや、慣れとはちょっと違うような気がする。
学校に通っていた時 いじめにあい続け、それこそ
生きた心地がしなかった。辛く、苦しく、痛い…
それの連続だった。キモいとも言われ、臭いとも
言われ、死ねと言われたのは何回だろうか?
否、ここにはいろいろな容姿や匂いのエイリアンが
いる。それこそ多種多様な。世の中にはいろんな
容姿があると、ここにいると嫌でもわかる…。
そうである以上、特定の容姿を中傷する存在は
いない。臭いだって、エイリアンにはいろいろな
臭いがある。それこそ、いろいろな臭いが混ざって
何が何だかわからなくなるくらいに。
それに、日々 戦いの渦中にいる以上…
そんなことをしている余裕もない。
だから!ここでは 容姿も、臭いも、関係ない。
ここで一番大事なものは『結束』なのだ。
ここにいる者達は皆、居場所をなくした者達だ。
居場所をなくした者達同士、いたわり合い、
寄り添い合って、生きている。戦い中で同じ
志を持ち、それによって つながってもいる。
今、自分はその結束の中にいる。
それこそ、自分が地球人だということを
忘れかけるくらいに。地球人だなんて関係ない。
結束さえすれば、いたわり合えば、
寄り添い合えば、志を持ち合えば、
我々は、どんな生命体とだってつながれる…
かつての世界にい続けては、絶対に得られなかった
であろう この充実感。これを持っていることを
実感するたびに、ここにいることを嬉しく思い、
誇りにも感じた。もうぼくはここの一員だ。
ずっと、ここで暮らしていきたい…。
それが、今のぼくの願いでも合った。
「なぁ、和希。ひとつ聞いていいか?」
「なんですか、ゲシルさん」
窓から星空を眺めているとゲシルさんに
声をかけられる。ゲシルさんはどこか
もの哀しそうな顔をして、こう言った。
「ホントにいいのか?故郷に帰らなくて…」
「いいんですよ、ここがぼくの 今の故郷ですから!」
「…そうか」
「よし、じゃあもう寝るかぁ。明日も
期待してるぜ~!地球が生んだ最強センセ☆」
「もう!やめてくださいよ!
それじゃ、おやすみなさ~い」
ネズミ男ことチュチュタさんがそうからかってくる。
お調子者だけど、根はとても優しい。
ゲシルさんも荒っぽいけど、その分 とても
優しい男だ。こんなにも優しい方々に囲まれて、
ぼくは、とても幸せだった。
その幸せに感謝しながら、眠りについた。
「和希、お前… ホントに」
「それが、お前の選択だと言うのなら…」
「残念だが… たった今、息を引き取られた。
6月16日、18:00ちょうど、死亡確認…
何故 いじめなんてするんだ…!いじめした奴等め…
貴様らのやってることは殺人も同然だぁっ!!
こんな…!まだ若いというのに…!!」
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「…笑っている? …そうか。自殺することによって、
いじめの苦しみから、解放されたのかもしれない…。
もう、彼は 楽になれたのかな…?」
「せめて、天国では… 自殺なんてことを考えない
くらいに、幸せな生活を送れてることを願いましょう…」
「あぁ、そう信じるしかないさ…。我々はな」
異世界召喚ならぬ異星召喚。そのトリガーとなるのは
死。現実では 死っていうのは、そんなに軽いもの
ではないというのに。命というのは、そんなに軽い
ものではないというのに。まぁ、何が言いたいかと
言いますと… 結束は大事です。逆に、いじめは
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