漆黒の短編集

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頑張れ夢の与え人

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とても天気のいい日曜の朝、
自室のテレビの前に鎮座する男がいた。
その名は、『関﨑 竜太』 
違いの分かる男。趣味は食玩の改造と森林浴。

スマホのアラームが鳴り、時刻が9:30になったことを
知らせる。日曜日の9:30、それは 私が監督した
アニメ、『五等分のスウィーツガールズ』の
放映開始時間である。この番組を端的に説明すると、

異世界 スウィーツランドが悪の帝国に侵略された

そこに住むショートケーキ、アップルパイ、
モンブラン、フルーツケーキ、ショコラケーキを
模した5人の少女達は 国王の手引きで地球この世界へ転移

そして1人の少年と出会い、そこで5人は居候しながら
あと5人とも少年に惚れたので時々 奪い合いながら、
次は地球この世界を侵略しようとする悪の帝国と戦うという…

まぁ、バトル少女的な作品としても、ハーレム系作品と
しても、シンプルかつ王道な物語ストーリー。それが私なりの
この作品に対する評だ。ともあれ、去年の4月に
放送されてから、子供達や大人問わず上々の評判を
記録している。肝心の視聴率も決しては悪くはない。
そして、今まさに監督であるこの私も一視聴者として
この作品を楽しもうとしている。世のチビッコや
ファン達が番組を見るのと時同じく、優雅に1人、
自身の監督作品の鑑賞に浸る… コレもまた、
クリエイターならではの醍醐味… 実に面白い趣向
だろう?…と思う。そう思いながら 私は買って
もう10年以上が経ち、すっかり年季が入りまくった
テレビに近づき、電源スイッチを押した。すると
画面に表示されたのは、爽やかに走っている若者達
の姿だった。…駅伝??? 皆様のご存じの通り、
日曜の朝にはたまにこうして駅伝の大会を報じる
放送がある。普通、そーゆーのは秋くらいにやるもの
かと思っていたが、この時期にやるのは珍しい。何は
ともあれ、今日は放送休止日だとは… 迂闊だった。
ならば、潔く来週の放送を待とう。それから
翌週の日曜が来て、テレビに映っていたのは 中年の
選手が確かな腕付きでゴルフをする光景だった。
…ゴルフ??? まさか、2週連続で休止とは。
流石の私も少々驚いた。まぁ、世の中にはたまに
このようなこともある。おとなしく来週を待とう。
そしてまた翌週の日曜が来て、テレビに映っていた
のは もはや需要があるんだかないんだかわからない
モノを扱ったバラエティーだった。コレには流石の
私も焦りざるを得なかった。…どういうことだ?
3週連続で放送休止だなんて、いくらなんでも休み
過ぎだ。流石にコレは私は元より、世のチビッコ達や
ファン達も黙ってはいないだろう。とりあえず、監督
として状況を把握すべく、『五等分のスウィーツ
ガールズ』を放送しているテレビ夕日に連絡した。

「あの、もしもし テレビ夕日さんで
あっているでしょうか?」
「はい、そうですが」
「日曜朝 9:30からMy作品がやってないんですが…」
「マイ作品?」
「あぁっ いやいや、『五等分のスウィーツガールズ』
という番組のことでして…」
「あぁ、あの作品なら3月末に終了しました」
「あぁ!そうなんですか。道理でちっとも
放送しないわけで… ん? …って、え!?」

私はこの事実に人生一番かもしれないくらいの
衝撃を受けた。この事実を確かめるために、私は
『五等分のスウィーツガールズ』を制作している
会社、『創映』に行き、そこで創映所属の
『五等分のスウィーツガールズ』の女性チーフ
プロデューサー、『山部 穂美ほなみ』氏に話を伺った。
私に並ぶ、この作品の生みの親とも呼べる方だ。

「気づきましたか… 関﨑監督」
「気づきましたかって山部P!
知ってたんですか!? なら教えてよ!」
「すみません、なかなか言い出すタイミングが
なくて… 実はかねてより、[朝から女子が戦う
番組など野蛮!][年端もいかない少女達にハーレム
させるなど児童ポルノにつながるのではないか]
などと抗議を裏でされていて、創映上層部はこれを
受け、『五等分のスウィーツガールズ』の打ち切りを
決定したのです。しかし、あの作品を誰よりも
愛していた関﨑監督に この事実を伝えるには非常に
心苦しいものがあって… それ故、報告が遅れて
しまった次第です。もっと早くちゃんと
伝えていれば… 申し訳ございませんでした」

山部Pは深々と頭を下げた。

「いえ、いいんです。私の方こそ、皆様の
気持ちも知らず、申し訳ありませんでした…」

それから私は行きつけのバーでいつも頼む
ウィスキーをちびちび飲みながら、
やり場のない怒りに苛まれていた。

私は子供や大人問わず、みんなに夢を与えたくて
あの作品を創った。そのために創った番組が、
夢を捨て、ただ己の醜い勘定感情のみで動く大人達に
よって潰される。こんな理不尽は他にない…。
『五等分のスウィーツガールズ』の5人の少女達も
敵と戦っている。それに、負けたり、あるいは
戦いとは関係ない生活面で悔しがったりする描写も
ある。ならびに、敵の邪悪な野望… その気持ちが
今ならひしひしとわかるような気がした。アレは、
こんなにどうしようもないものだったのだな… と。

すると、ドアを乱暴気味に開けて誰かが入ってくる。
さっき話をしたばかりの山部Pだ。入ってきて
キンキン声で 開口一番、こう告げた。

「大変です監督!!」
「ん?山部P?」
「聞いてください、『五等分のスウィーツガールズ』
の復活が決まったんです!今し方、テレビ夕日側から
来週日曜朝9:30は『五等分のスウィーツガールズ』
を放送するというお達しが届いたんです!」
「な、何…!?本当ですか、山部P!」
「えぇ、間違いありません」
「ならばこうしちゃいられない!
早速 社に戻りましょう!」
「はい!」
「よ~~~~~し、頑張って創るぞ~!!」

こうして迎えた日曜の朝9:30、テレビに映っていた
のは、待ち望んでいた我が愛する作品、
『五等分のスウィーツガールズ』だったのだ。

「確かに、復活してる…!」

が、テレビの下にこう書いてあったのを
流石に私は見逃さなかった。

本日放送する番組のネタが尽きてしまったため、
五等分のスウィーツガールズ (再)をお送りいたします

「ねっ!復活してるでしょっ!」
「いや再放送かよォォォォォ!!」



突然ですが、読者様はどんなアニメが好きですか?
どんな作品に、夢をもらいましたか? けど実際は、
私たちはアニメじゃなくて、そのアニメを作る側に
夢をもらっていた…。大人になってそれに気づいた
今、今度はあなたが誰かに夢を与える側になるの
かもしれません。誰だって、夢を与える人になれる。


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