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愛狩り
しおりを挟む「うぎゃあああああああーーーーーーっ!!!!」
深夜の都心部の公園に、突き刺さるような男女の
悲鳴が響く。その姿はまさに見るも無惨。何箇所も
刺されており、元の原型をとどめていない程度に
その全身は鮮血に染まりきっていた。女性の方は
その状態で死んでおり、男性の方は今まさに
何度も何度も、鮮血に染まりきった刀で刺され
続けていた。最初の一突きの時点で既に心臓を
貫通しており、男性の方ももう既に息はない。
「ハハハハハハ… どうだ、俺の刀の味はぁ…?」
狂気に満ちたセリフを言うのは、返り血を全身に
浴びて赤黒くなったローブを身に纏う 赤い鬼の
仮面を被った男。男は気が済んだのか、刀を鞘に
しまい、男女の遺体を見下ろしながら、こう呟いた。
「悪く思うな。恨むなら 愛なんてモンを持った
自分自身を恨むこったな。フハハハハハハハ…」
男は笑い声と共に ローブを翻し、
闇の中へと消えていった。
ある朝、とあるマンションでは慎ましい暮らしを営む
ふたりの兄弟の一日が始まる。平凡な会社員の兄、
鞍沼 隆聖と、これまた平凡な警察官の弟、鞍沼 紳司。
「おい早く起きろ、紳司。遅れても知らないぞ」
「急かすなよ兄ちゃん、今起きるって…」
紳司はベットから気怠げに起きながら、
大きなあくびをひとつして、居間へとやってきた。
「あの鬼男のことばっか考えてて、ねっむ…」
「まだソイツが捕まる見込みはないのかい?」
紳司は椅子に座り、テーブルに置いてあった
新聞を広げながら 隆聖の質問に答えた。
「あぁ、目撃者の証言や監視カメラの映像じゃ 鬼の
仮面を被った、ローブを着て、刀を持った男としか
つかめてないからね。おまけに手袋でもしてんのか、
指紋も検出されないし。全くやんなっちまうぜ…」
新聞をめくると、紳司は大々的に報じられた
今日の見出しに驚愕するのだった。
「ハッ!?またかよ、鬼男の犯行…
これでもう十件目だぜ…?」
彼が見た見出しはこう書かれていた。
都内の大学生の男女ふたり、深夜の公園で惨殺される
被害者の刺し傷はほぼ全身の、およそ数百箇所に
登り、最初の一突きが既に心臓を貫通しており、
その時点で被害者2人は即死だったとのこと。
あまりにも死体の状態が酷すぎるところを見る
限り、警察の調べでは、これまでに全く同じ手口
で9組の男女の死者を出した ローブを着て刀を
持ち、鬼の仮面を被った鬼男の犯行と見ている。
「畜生、昨日 俺、非番じゃなかったら
今度こそ捕まえられたってーのに…」
「しかし、10組も男女を殺しただなんて、
相当ヤバい凶悪犯だな。気をつけろよ?」
「大丈夫大丈夫。こんなカップルキラー、
俺の剣道でぶっ潰してやるって。っつーか、
俺よりもさ、兄ちゃんだってもう歳なんだから
そろそろ本気で嫁さんの心配でもしたら?
でなきゃ欲求不満のあまり、こんな狂った
やべーやつになっちまうかもだぜ?」
「ハッ、バカ言え。んじゃ、俺は先に
行くから戸締まりは頼んだ。いってきます」
「おう、いってら~っしゃい」
そう言って、隆聖は会社へと出社していった。
出社した会社で、彼はいつものように社会の
なにになるのかもわからない仕事をする。
たとえ社会のなにになるのかわからなくても、
仕事をするだけでも十分 社会の役に立っている。
そのモチベーションで彼は毎日の仕事を
こなしているのだ。そんな折、隆聖は自分と違い
まともに仕事もしていない 女性社員たちの
私語まみれの雑談を耳にするのだった。
「ねぇ聞いた聞いた? 鬼男にまた
カップル殺されたんだって」
「聞いた聞いた、そのうちウチらも
狙われそうで怖いよね~」
「アンタもう少しで付き合ってる彼氏と
結婚するんだって言ってたからね~」
「そ~ゆ~アンタだってそろそろ彼氏から
プロポーズされてもいいころなんじゃない?」
「でもその矢先に鬼男の この暗躍だもん。
ウチら殺されないか不安になるよ」
「大丈夫大丈夫、いざとなったらぁ、
あの鞍沼呼んで 盾にすりゃいいんだしw」
「え~、そりゃあの人 確かに嫁さんとか彼女
いなさそうな顔してるけどさ~ww」
「それでも自分らの命に変えられないしさ。
それに、あんな仕事ばっかりしてるよーなやつ、
いてもいなくてもほぼ同じでしょwww」
「確かにそーかもねーww 仕事以外に楽しみが
ない。みたいな? それもう社畜じゃんwww」
「え?アイツ社畜じゃないのwww」
会話の内容、そして本人の前で聞こえるように
言っているところ。こんなに腸が煮え繰り返る
ことはない。お前達が私を貶める資格などない。
仕事もせずにあぁやって雑談とソシャゲばっかり
でよくこの会社に入社できたものだ…!と 隆聖は
平静を装いながら、そう憤ったのだった。すると
そこへ部長が入ってきて、自分の席に座った。
女性社員2人も部長を見て、慌てて自分の
業務にかかり始めた。女性社員2人が業務で
退室すると、隆聖は部長に呼ばれた。そこで
隆聖はとんでもないことを言われるのだった。
「た~ら~いま~ん!!」
深夜、隆聖は酔い潰れた状態で帰ってきた。
「シンジきゅんはま~だ帰ってきてない
わっけ~? おにぃちゅわ~んは明日
小田原に行っちまうんだぜ~!?」
ベロンベロンな状態で自室のベットに寝転がる
隆聖が部長に言われたとんでもないこと。それは…
「鞍沼くん、キミには小田原の支社に行って
もらいたい。社員50人の小さなところだが、
そこの部長の椅子があいたので、ぜひキミをと
私が推薦したんだ。我が社としても大変 名誉な
栄転だ。頑張ればキミもそこの専務くらい
にはなれる。ハッハッハッハッハッハッ…」
「なぁにが大変 名誉な栄転だ!!
俺は会社のために一生懸命頑張ってきたのによ!
俺のどこがわりーんだ!!なんで俺が左遷
されなきゃならねぇんだ!!仕事をまともに
やってないあのクソアマ共を左遷すりゃあ
いいじゃねーかあのアタオカゴミクソ部長よぉ!!
それと、なぁにが専務くらいになれるだ畜生!!
お前じゃ支社長になれないって遠回しに
言ってるようなもんじゃねーかぁ!!!」
たまりにたまった愚痴をあらん限りに言い続ける
隆聖。酔い潰れたのはそのやり場のない怒りを
酒で紛らすために 何軒も呑んできたからなのだ。
ふと隆聖は目の前にある鍵付きの引き出しを見る。
「もしかしたら今日が最後かもなぁ…」
彼はそう呟くと、バックの中にしまってあった鍵を
取り出し、鍵を使い 引き出しを開けた。
その中に入っていたローブを身に纏い、
黒い軍手をつけ、赤い鬼の仮面をつける。
今この時 平凡な会社員、鞍沼 隆聖は
男女を狩る殺人鬼、鬼男へと変わったのだ。
自室の押し入れの中にあった刀、斬る度に指紋が
ついたが、斬る度に念入りに拭き取っていた。
「フッ… 今日は何人、やれっかな。
それと、日中 俺のことを笑ったあのクソアマ共、
もし見かけたらブッ殺してやるとするか…」
隆聖… 否、鬼男は外に出て、深夜の公園にて
ベンチに座りながら語らう男女を目撃。
刀を鞘から抜くと、鬼男は獲物を見つけたと
言わんばかりに 男女を突き刺そうとした。
男は気配に気づき、女を突き飛ばして
なんとかその一突きをかわすことに成功。
女は、そのはずみで街灯に頭をぶつけて気絶した。
「愛などという愚劣な感情を持つが故に人は
苦しむ。俺の刀の味が愛よりよっぽどいい味だ…」
鬼男はしりもちをついた男にそう言いながら、男を
刺そうとするが、男は立ち上がって銃を向けた。
「動くな!刀を捨てろ!この殺人鬼!!」
「何…?」
「俺達は警察のものだ。お前を捕まえるために、
一芝居打たせてもらったぜ。直に応援が
ここに来る。さぁ、大人しく投降しろ!」
銃を向ける男… 否、紳司。
それを見た鬼男は下を向いたかと
思ったら 不気味に笑い始めた。
「…なにがおかしい?」
「フッ… いや、俺も歳なのか… やきが回った
もんだと思ってな。まさか最後って時に…
弟と鉢合わせするなんて、な…」
そう言いながら鬼男は赤い鬼の仮面を外し、
鞍沼 隆聖の顔という名の正体を見せたのだった。
紳司は驚愕を隠せなかった。
「あぁぁ…!? に、兄ちゃん…!?
…兄ちゃんが、鬼男だったのか…!?」
見つめ合う隆聖と紳司。殺人鬼と警察官。
平凡なはずが、いつのまにか真逆の道を
歩んでいたふたりの兄弟。
「なんでこんなことをしたかって? フッ、
理由は簡単さ。…自分の愛が感じられなくて、
それで他人の愛がムカついたのが始まりだ」
「自分の、愛が…? なに言ってんだよ兄ちゃん!
兄ちゃんは今まで俺のことを愛を持って育てて…」
「あぁそうさ。両親を早く喪った俺たちは、
ずっとふたりきりで暮らしてきた。幼いお前を、
俺はたったひとりの家族として、愛を持って
育てた。その結果、お前は今こうして警察として、
立派に育った。だが… 愛と言っても、それはお前へ
向ける愛だったから、俺自身は全く愛というもの
を感じられなかった。自分から愛を探そうとしても
周りからはのけ者扱いされて。お前は立派な
警察官、でも俺はただのヒラ。しかも会社でも
のけ者にされ続けて、30もとっくに過ぎて、
仕事以外に何の楽しみもない。なんのために
生きてるのかもわからなかった。そんな矢先に、
愛し合ってるカップルを見かけて… アイツらは
愛を持ってるのか、俺にはないものをアイツらが。
そう思うと、腸が煮え繰り返って、いてもたっても
いられなくなって、気づいたら衝動的に殺して
たのさ。人生というものは不公平だ!誰もが平等に
同じものを与えられるわけではない!しょーもない
嫉妬なのはわかってる!だがこれよりほか、
俺のこのどうしようもない気持ちを
冷ますほかはないじゃないか!!」
すっかり変わり果てた兄の心に紳司は涙を流した。
「バカだよ兄ちゃん… 俺はちゃんと兄ちゃんを
愛してたのに… 警察官になったのだって、立派な
職について、兄ちゃんに今まで育ててくれた
恩返しをしたいからだったのに… 本当に、
どうして気づかなかったんだよっ…!」
「気づいていたさ、お前が俺を愛していたのも。
お前が俺のために警察という道を選んだのも。
だが、それでももうどうにもならない。
俺はお前の言うとおり、確かにバカさ。
あのクソゴミハゲカス部長の言われるがままに、
転勤すんだからな。哀れな笑い話よ…」
隆聖は紳司の両肩を掴み、まるで
鬼気迫る勢いでこう頼み込んだ。
「だから今日で最後にしたいと思っていたのさ。
そしたらこともあろうにお前と鉢合わせした。
せめて豚箱に行くくらいなら、最後に、
お前の成長した姿を見せてほしい!!」
そういって隆聖は紳司の肩から手を離すと、
落ちていた剣くらいの長さの木の棒を紳司の方に
蹴った。隆聖も刀を捨て、剣くらいの長さの
木の棒を拾い 構えたのだった。
「これで剣道勝負だ。勝とうが負けようが、
俺は自首する。お前の俺への愛が本物か
どうか、こいつで見せてみろ!!」
「兄ちゃん…!」
紳司はなおも涙を流し続ける。しかし、泣きながら
覚悟を決めたのか、木の棒を拾い、構えた。
夜の公園で、兄弟同士の対決が始まる。
剣道の要領で木の棒を交わし続ける兄弟。
弟に己の持つ愛を全てを注いだ結果、
自分は愛されないと感じるようになり、
外道に走った兄、隆聖は怒りながら棒を振るう。
兄に愛され、今度はその分 兄に感謝という
名の愛を示そうとした結果、兄の哀しい事実を
知ってしまった弟・紳司は泣きながら棒を振るう。
学生時代は剣道部だった兄弟。実力差はほぼ互角
だったが、紳司の一瞬の隙をついた一撃で、隆聖の
木の棒は吹っ飛んだ。自らの敗北を悟った隆聖は
大人しく投降しようとした。次の瞬間である。
「兄ちゃん…!兄ちゃあぁぁぁぁぁん!!」
深夜の公園に突き刺さるような銃声が響き渡った。
愛。一言で表すにはかなり難しい意味ですよねぇ…
その中で特にメジャーなのといったら、家族が大事
と慈しみ合う心と、男女が想い合う心。この2つ
ですよね~。ですが、何事にも愛はあまり強すぎ
ない方がいいと思います。何故なら、愛が強いほど
負へ転じた時の感情もまた、強いのですからね…。
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