カオスの遺子

浜口耕平

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第二部 自由国ダグラス

第百一話 クーデター前章 執政官

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 首都ナマルガマルの中央に位置し、町一番の面積と高さを誇り執政官が統括する国の行く末を決める大事な場所・コンクエスト。
 その最上階、建国者の間で執政官全員が集まって、ギールたちの脱走から連なる出来事が引き起こした重大事件の対処のために集まっていた。
 建国者の間は、中央にある大きな台座に水晶で包まれた建国の父であるダグラスのミイラが置かれ、その周りを囲むように半円形のテーブルが設置されて執政官が座るための五つの椅子が並べられていた。
 五つの椅子には、国家防衛戦線(国軍)及びデスサイズの総帥ニールウェル、行政庁総帥バウアー、法務執行機関総帥カブロフ、国家貿易管理委員会総帥イガ、国家財務管理局総帥エリーが頭が痛い思いで座っていた。
 執政官は世襲制であるため、現在の面々は五十を過ぎた老人が多く髪が白くなっている者もちらほらいた。
 「諸君、たった兵士が脱走したため起こったこれまでの事件は知っての通り、デスサイズの懸命な任務の末の結果は悲惨に終わった。忌々しいことだが、下の元老院はこの事件をやり玉に挙げて混血の兵士の大幅な削減及び、純血の兵士の拡大を我々に要求し、デスサイズの行動を著しく制限するよう迫ってきた。
  もはや、我々ダグラスの意思を継ぐ者の権力は地に落ち、大衆に媚びた卑しく小賢しい国賊が幅を利かせるようになってしまった……」
 執政官の長ニールウェルは現在の執政官の地位はあれど、元老院の言いなりになっている現在の状況を憂い、他の者たちも彼と同様の気持ちを抱いた。
 「国父であるダグラスの意思を理解しない者たちがこの国はおろか、他の国をも滅茶苦茶にするだろう。それよりも前に手を打たねば!」
 「カブロフよ、お前はどうすべきだと思う?」
 「俺は超法規的措置を取り元老院を根絶やしにすべきだと考えます」
 「ワシも同意します」、「私も彼の意見に従った方が良いと思います」とバウアーとエリーは、カブロフの意見に賛成の意向を述べたが、イガただ一人だけは渋い顔をしていた。
 「議長、私は彼らの意見には賛同しますが、今は時期が悪い。何の罪もなくあの者たちを捕らえ処刑するとなれば、市民からの大きな反発が予想されます」
 「だけど、早くしないと元老院は私たちをこのコンクエストから追放するでしょう。そうなってしまっては、三か国との軍事同盟の存続が危ぶまれ、カオスの遺子に対抗できなくなりますよ」
 「そうではありますが、こればかりは仕方がないでしょう。元々、元老院というものは二百年前のバサラ襲撃による国内の乱れから、町の有力者たちが集まってできた共同体です。まさに、市民の意思と言ってもいい」
 「だが、今はカオスの遺子との千年にわたる戦争の真っ只中、市民の個人の意思など聞いてられる暇はない。バサラは封じられたが、それ以外の遺子たちは今もなお健在だ」
 「それに比べ、我々は国内の市民と激しく対立している。市民の力がこれほどまでに強いとはな…… ワシらも年を取りすぎた、そろそろ次の代に引き継ごうか」
 口々に喋っている四人をニールウェルは一旦止めて、意見を簡単にまとめた。
 「要するに元老院の排除は決定事項というわけだな。時期は以前にもザラと少し話し合ったことがあるが、カオスの遺子が国に襲来した時に起こる混乱と共に消えてもらう。
  混乱から生まれた者たちは、再び混乱によって消える運命だ。諸君らも意義はないな?」
 元老院の始末から時期に至るまでまとめた案をみんなに納得してもらうよう尋ねると、四人は次々とニールウェルに賛同した。
 「分かった。それでは、次の懸案事項だが…… スヲウが自身の出生の秘密とデスサイズの存在を知ってしまったことに対する処罰についてだ」
 「それは議長が一か月の謹慎処分を下したじゃないですか、それ以上に罰する意味も懸案もないように思えますが……」
 「私も彼女と同じです。知ってしまっとはいえ…… ザラが仕留められなかったことで、もはや誰の手によってでも始末することができないでしょう」
 「そうそう、たとえ知ったところで奴に何ができるのですか? 市民を守ることを放棄して俺たちに歯向かうことなんてまず考えられないですよ」
 「スヲウが市民を見捨てるとは思わんな。プリシラなら話は別だが……」
 四人は以外にもスヲウが事実を知ってしまったとはいえ、始末に失敗した以上むやみに排除しない方が得策だと考えていた。
 その根底には国家の安全、つまりカオスの遺子を想定しての判断であった。
 『たとえ知ったとしても、敵は魔物であり、カオスの遺子である』という兵士の指針となっている考えが前提を放棄してスヲウが動く可能性は低い。
 「確かにそうだ。では、次に……」
 執政官たちによる会議は丸々一日を要することになったが、大方の方向性を決めることができた。

 それからさらに一か月後、謹慎が解かれたはずのスヲウは未だに自宅から出ようとせず、任務を行うことも七日に一回程度であった。
 髭は伸びきり髪もぼさぼさ、顔色もプリシラとあった時より悪くなっており、任務中ザラの後任の者たちから心配されることもあったが、その都度「何でもない、体調が悪いだけだ」などと言って一人になろうとした。
 そして、今日もスヲウはベッドから体を起こそうとしない。
 悪夢の影響と部下の混血たちを見ていると自責の念から懺悔の言葉をずっと口に出すことが常になっていた。
 「許してくれ…… 何もできない俺を許してくれ……」
 毛布を頭まで被り震えているスヲウの精神は崩壊寸前になっていた。
 今でも世界にある施設で混血を生まされ続けている女性がいるという事実はスヲウの優しい心を荒廃させるには十分だった。
 「ぐぅぅー」
 大きな音が腹からなるのが聞こえた。
 苦痛が絶え間なく襲いかかって来る時でも空腹の波は感情なくやって来る。
 飯だけは食べないと不安に押しつぶされそうになる危機感は少なからずあり、スヲウは寝室を後にして一階へと向かった。
 食べ残したパンをミルクに浸して口へと運ぶが、パンが喉を上手く通らずに戻してしまった。
 (はあ…… ダグラス最強の兵士もこのざまか…… 所詮俺もただの人の群れの中の一人なんだな……)
 一人感傷に浸っていると、玄関のドアを叩く音がした。
 スヲウはプリシラがやって来たのかと思ってドアを開けると、そこにはプリシラではなく面識のないユリウスが立っていた。
 「だ、誰だ?」
 「ユリウスだ。お前の元部下のギールとメローネは俺が保護している。少しお前と話がしたい。家へ上げてくれないか?」
 突拍子のないことを言うユリウスに、スヲウはデスサイズの刺客がやって来たのかと思い、攻撃態勢に入る。
 「あ、言っておくが、俺はデスサイズの使いじゃないぞ。ほんの少しでいい話を聞いてくれ」
 引き下がらないユリウスに押され、スヲウは仕方なく彼を家に招き入れて二人の話を聞くことにした。
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